一週間物語
このお話はフィクションです。実際の人物、場所、薬品名は関係ありません。
Weekend World
一日目(六日前)
それは、弟から始まった。
「しりとり」「りんご」「ごま」「マスカット」「トーモロコシ」「しょうゆ」「ゆどーふ」「フルーツ」「ツナ」「なつやすみのしゅくだい」「・・・・・・ぐ」
「さっさと終わらせなさいよ」
××××年、七月。
教師が夏休みを名目に長期休暇を取っている最中、私は弟と遊んでいた。
「そういうねーちゃんは?終わったの?」
「あんたと一緒にしないで」
「じゃあ教え」「駄目」
ひでー、と泣く振りをする弟。
だって宿題は「だって宿題は自分でやるものでしょ、って言うんでしょー」
「当たり」
やりたくねー、と弟。
私はもう少し言ってやった。
「でも早めに終わらせた方が」「後々楽になるよ、でしょ」
「分かってるなら何故やらぬ」
「だぁってぇ」
うぅむ、こうかはいまひとつのようだ。
私はどうしたら弟がやる気を出すか考えた。
数分後、ある名案を思いついた(その間弟は寝ていた)。
エサをぶら下げてみることにした。
押してダメなら引いてみろだ。なんか違う気がするけど。
「じゃあ宿題終わったら探検に行くのはどう?」「よしやろう」
こうかはばつぐんだった。即答とか笑うんですけど。
弟は早速とばかりに宿題を解き始めた。計画通り。
弟のその姿をニヤニヤと眺めたり分からない所を教えてあげたりすること数十分(特にすることもなかった)。
「二人ともー、おやつ食べたかったらおりてきなー」
「はーい」「分かったー」
義母が三時の時報を告げてきた。
「じゃあおやつ食べ終わったら探検しに行こうそうしよう」
「んー・・・・・・まぁいっか」
私たちはおやつを食べに一階におりていった。
おやつは手作りホットケーキと冷えた紅茶だった。
「やっぱり糖分は大事だよねー」
早速とばかりに弟はホットケーキを切らずにばくりと食べ始めた。
「こらがっつくな」「んーおいひー」
人の話を聞け。
「全く・・・・・・」
紅茶を啜りながらテレビの電源を点けると、ニュースをやっていた。
「・・・・・・察はこのビンを見かけたら決して触れずに一一〇番通報してほしいと話し・・・・・・」
「!おっ、うわっ」
思わず椅子ごと倒れてしまった。ついでに紅茶をこぼして服にかかった。
テレビに映っていたのは、なんの変哲もないただのビンだった。
それを見て驚いて倒れたんだろうけど、なんでそんなに驚いたのか謎だった。
一度も見た事ないはずなんだけどなぁ・・・・・・。
「大丈夫?ゴキブリでも出た?」
義母が心配して駆けつけてくれた。
しかし、義母はさりげなくやったんだろうけど、テレビのリモコンに手がいっていたことに私は気付いていた。
事実、私が起き上がった時には画面がバラエティ番組を映していた。。
それは、何を意味しているのか。
「あ、ううん平気」
なーんて、探偵風に推理して動揺を隠してみました。
でも、気のせいだといいなー、なんて。
少しは思ったりした。
「そう?ならいいけど」
弟の方を見ると、弟は物凄い形相でテレビを凝視していた。
とてもバラエティ番組を楽しんで見ているとは思えない程。
ほんの少しだけ、鳥肌が立った。
「あ、そーそー」
と思っていたら弟が笑顔で義母に話しかけた。
「ん、なにさ」
「おやつ食べ終わったら楓と遊びに行っていい?」
「どこへ?」
「んーと、図書館。自由研究で読書感想文書くから」
研究、という言葉に義母がピクっと反応した気がした。
神経質になってるなぁ。
「いいわよいってらっしゃい。でも暗くなる前に帰ってくるのよ」
「りょーかい」
こうして私たちは日没までに帰ってくる事を条件に外出する許可を得た。
「その前に服着替えたら?」
「あ、そうだった」
しかし勿論私たちは図書館に行く予定はなかった。
「さぁ探検だ!」
「行くあてあるの?」
弟は歩きながらショルダーバッグから双眼鏡を取り出し、首にぶら下げた。
「山の方」
「じゃあ・・・・・・あの山か」
曰くなんてないただの地元の山を指差す。
「そうそれ」
「てっきりちゃんと図書館で勉強するのかと思った」
「んなわけ」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
・・・・・・そろそろかな。
そう漠然と思い、さっきの事を話してみることにした。
「ねぇ」「あのさぁ」
うん被った。
まぁ私たちにはよくあることだ。なんたって双子ですもの。
「「お先にどうぞ」」
いやだから。
弟から話し始めた。
「おやつのホットケーキおいしかったねーって言いたかっただけ。いやーやっぱりホットケーキさいこー。ホットケーキは正義だ」
逆に悪なおやつなんてあるのか?と疑問に思った。
「うんそれは良い事なんだけど本題は?」
「んー何のことー?」
「惚けるな」
頭を小突いた。
「参ったなー、やっぱりねーちゃんには隠し事なんて不可能だな」
「私だってあなたに隠し事は出来ないわよ」
「「双子だから」」
くすくす、と笑い合う私たち。
「でもこれだけ仲が良いのに何であの人気が付かないんだろーねー」
「さぁ。そんな事別にどうでもいいんじゃない?それとももうとっくに気づいてるか」
「あぁ、知ってて引き取ったみたいな?でもあの人よく言ってるじゃん。『あんた達双子みたい』って」
「どうだか。で、話を戻して」
「戻された。あれ、なんの話だっけ」
「惚けるな」
二回目。
「でも本題っていうからねーちゃんも気付いてるでしょ」
「さぁー」
「惚けんなや」
お返しとばかりにチョップされた。
「それはともかく、あなたが嘘をつくなんて」
「どこで嘘ついたかなぁ」
弟は滅多なことがない限り嘘はつかない。つまり・・・・・・っておいこら。
「弟くんを嘘つかないキャラにしたかったのに」
「あ、ごめんじゃあさっきの発言忘れて。忘れたねでは続きをどーぞ」
・・・・・・そういう事じゃないんだけど。
「なぜ嘘をついたのか白状しなさい」
「ははーべっぴん女警察様ー」
「そんな褒めてもなんも出んぞ。出るのは貴様の罪だけだー」
「あ、ちょ、くすぐりは、いう、言うから、やめ」
やっと吐く気になった。ここまで長い。
「正直に言ったら止められそうな場所だったから」
「ふーん・・・・・・それは楽しみにしとくとして。大本命も言いなさい」
「・・・・・・あの人なんでわざわざチャンネル変えたんだろうって話」
「・・・・・・やっぱり」
やっぱり、弟も気付いてた。
「たまたま・・・・・・っていうのも有り得ないだろうし」
「うん、がっつりリモコンに手行ってたし」
「いっそあの人に聞いてみれば?」
弟がトンデモ発言放ちやがった。
「いやそれはちょっと」
「なんで?」
「だって、ねー・・・・・・。あの人、謎多いじゃん。それに」
「それに?」
「何か怖いし」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
弟は人の心境には敏感だ。やっぱり、何かあるのかも。
「いや別にあの人の事は疑わないけども」
「嘘おっしゃい」
「ふへ」
今度は私が気になった事を言う番だった。
「それにしても、アレ」
「うん」
「「あのビン」」
「なんっか見たことあるんだよなぁ」
「それは私も思った」
「あれ見た瞬間ねーちゃんビックリしすぎて転んだもんね」
「やめてよあれ地味に痛かったんだから」
「ゆーて見てこれなんかすっごい手のひら爪の跡めっちゃすごいもん赤いよ」
ほらほら見てみて、と弟が言ってきいや顔に押し付けるな逆に見えん。
「知らんがな」
と話している内に弟の言っていた山の麓に着いた。
この時点で汗がダラダラ流れていた。
あぁ、やっぱり探検に行こうなんて言い出すんじゃなかった。クーラーで外の気温の事考えてなかった。
とほんのり後悔していると、弟が山を登り始めていた。
「こっちこっち」
「あーい今行くー・・・・・・」
「で、どこまで行くのさ」
「もうすぐ・・・・・・この辺かな」
辿り着いたのは、山の中腹・・・・・・で合ってるのかな。
この辺って言ったって、周りは木に覆われてほぼ何も見えないけど。木の枝や葉っぱが良い感じに日陰になってくれて涼しいのは有り難いことこの上ないのだけど。
そういえば探検だったな。この何処が探検?自由研究・・・・・・は弟眼中にないだろうし。
となると、面白い何かを見つけたって事だけど・・・・・・。
果たして。
「面白いものなんだなぁ実は」
急に顔を近づけるな。
「近い。暑い。離れて」
「別にいいじゃん減るもんなんて酸素ぐらいだし」
「熱気が増えるのよ」
「知ってる」
「ならするんじゃな」「とりあえずこれ見て」
爽快にスルーしやがった。
弟から手渡されたのは、何の変哲もないただの双眼鏡だった。
「てけててーん、そーがんきょー」
「・・・・・・どこ見ればいいの?」
「そこの・・・・・・えーとー・・・・・・下の方」
弟が双眼鏡を持って位置を固定してくれた。
すると、見えたのは
「何よあれ」
「面白かろう?」
何やら物騒な建物が見えた。
「ここからしか見えない超絶穴場スポット」
意味重複してるような・・・・・・。
「気にしない気にしない」
「どうやってこんな場所見つけたのよ」
「風の噂」
「友達か」
「当たり」
にひひと笑う弟。
しかし、あの研究施設っぽい建物。
なーんか、変な気分。懐かしいような、好きなような、嫌いなような。
弟もそれを感じているらしく、うずうずしている。
「というわけで」「どういうわけよ。行かないわよ」
「えー、どうしても?」
「行かない」
「絶対?」
「行かない」
「本当に?」
「行かない」
「じゃあお先」
「なっ」
ズザザザーッと坂を滑り降りちゃったよこの人。
一切の不安もなさそうな清々しさ。
これで私が行くとでも思っているのか。
「・・・・・・それはないってー」
行くに決まってるから、下りたんだろうし。
仕方なく(と言いつつぶっちゃけ行きたかった)、弟の後をついて行くことにした。
「私から離れないで」
「あ、ねーちゃんも来たんだ」
「白々しい」
「ひゃははははは」
弟はすごく楽しそうに笑った。
私も苦笑した。
弟に危険だなんて言っても聞かないだろうし。
でも、これだけは聞いてほしい。
「あ、目の前に木が」
「いーや大丈ぶぎゃ」
・・・・・・だから言ったのに。
「よっと」
私たちは、でこぼこした岩場を抜けて、フェンスのそばに来た。
フェンスの上には有刺鉄線が張り巡らされていた。
「よくこんな所に建物なんて建てたわねー」
「秘密の匂いがぷんぷんするぜ」
早速行こうとする弟に私は待ったをかけた。
「行く前にルールを決めましょう」
「ん?なんの?」
「その一」
ぴっと人差し指を立てる。
「私と一緒に行動する事」
「はーい」
「その二」
次は中指。
「私の指示に従う事」
「うーい」
「その三」
今度は薬指。
「この事はあの人には言わない事」
「もーい」
「ちゃんと聞いてるの?」
「聞いてるよー。でもなんでその三があるの?」
「なんとなく」
「リーダーのねーちゃんがそんなだとなー」そんなだとどうだというんだ。
しかも私はいつの間にかリーダーになっていた。
・・・・・・それはまぁ別にいいんだけど。
「その四」
最後に小指を立てる。
「今日は帰りましょう」
すると弟はしかめっ面をした。
「えーなんでー?闘いはこれからなのにぃ」あんたは誰と闘うつもりだよ。
「探検するなら色々と準備しなきゃ。それに、時間は多い方が沢山探索できるじゃない?」
ほら見て、と太陽の方を指差す。
太陽は後一、二時間で視界から消失しそうになっていた。
「あーうーなーるほーどねー」
弟は納得したのかしてないのか分からないけど帰ることには一先ず賛成の意を示した。
「じゃー帰ろー」
そして私たちが帰路につこうと振り返った時だった。
私はフェンスのそばに何かが落ちている事に気付いた。
それは、何かの液体が入ったビンだった。
テレビで見たものと同じ形状をしていたのですぐに分かった。
それをドキドキしながら手に取ってみた。
持ってみると、意外と小さい事が分かった。
しかしこれといって特徴のない外見をしていた。
そうしてビンをいじっていると、弟が立ち止まって振り返った。
「ねーちゃんそれなに?」
私は瞬間的にビンを後ろ手に隠して言った。
「い、いやーなんでもないわよ?」
出来ることなら口笛でも吹いて誤魔化したかったが、残念ながら私には口笛を吹くというスキルが備わっていなかった。
なので(関係ないと思うけど)、
「んー、質問が悪かったかな。ねーちゃん、そのビンなに?」
即バレた。
あちゃー、遅かったー。
「バレバレだしすごいキョドってたし。何より、隠し事は出来ないんじゃなかったっけ?」
「・・・・・・はー、そうね。あなたの言う通り。」
弟にビンを手渡した。
「・・・・・・これってさー、まさかあの、」
「そうよ」
弟は少しビンの側面を見ていたが、やがてこう言った。
「ねーちゃん、これなんて読むの?」
「どれ?」
「これ」
そう言って弟が指差してきたのは、ビンの側面に貼ってあるシールだった。
二枚貼ってあって、一つは取扱説明書のようだった。
そしてもう一つには、『Weekend』とだけ書かれていた。
「ウィークエンド・・・・・・?」
「とは?」
「・・・・・・週末?」
「って言うとー、土日?」
「そう、だけど・・・・・・」
なにこれ。週末ってどういう事だ。
「どういう意味?」
お手上げ、とばかりに弟は私にビンを返した。
「それは私も知りたい」
「なんだ、ねーちゃんでも知らないのか」
やれやれ、というふうに手を上げて首を振る弟。
「なんだとはなんだ。じゃあ聞くけど、これなんだと思う?憶測でもいいから言ってみてよ」
「うーん・・・・・・薬?」
「あるあるな発想出ました」
「失礼な。ねーちゃんは?」
「・・・・・・実はただの水」
「流石血を分けた姉だけあるな」
「あんたよりはましよ」
「とにかく、とりあえず帰ろーよ」
「・・・・・・そうね」
そして私たちは今度こそ、帰路についた。
「ただいまー」「ただいま」
「おかえりー。どうだった?」
「うん、楽しかった!」
「何か良い本見つけた?」
「うーんと・・・・・・」
ちらっ、と私を見る弟。何故そこで私を見る。分かってるけど。
助け船を出せって事でしょ。はいはい。
「私もおと・・・・・・蒼も良い本がありすぎて迷ってる内にタイムアップ」
アブネー口が滑りかけたゼ。
「全部借りれば良かったじゃない。そしたら全部読めるのに」
セーフ。気付いていないようだ。
「そんな事したら宿題終わんないって」
あはは、と場が和む。
「あんたら平和でいいわねー。さて、夕飯の準備するかー。あんたらもちゃんと手洗いなよー。汚れてるだろうから」
「!」
思わず義母の方を向いたが、義母は既に背中を向けていて表情を窺う事は出来なかった。
「うん分かったー」「・・・・・・」
弟は快く返事をしたが、私には出来なかった。
「あの人すごい言葉責め・・・・・・もとい質問攻めしてきたー」
ご飯やお風呂を済ませてから自室に戻ると、弟がベッドに突っ伏していた。「疲れたー」とか言ってる。
因みにベッドは二段ベッドで、勿論私が上だ。どうでもいいけど。
対する私は勉強机に収納してあった椅子に腰掛けていた。
はーっ、と溜め息をつくと、弟に「どしたん?」と尋ねられた。
「多分だけどもうバレてるよ」
溜め息をついたのはそれが原因だった。
「えっ、山の事?マジで?」
ガバッと起き上がる弟。
「マジで」
「はっや。なんで?」
「靴が汚れてたからとか、質問に上手く答えられなかったからとか、かな。そういう観察眼鋭いから。」
「うっはーさいやくだー」
再びベッドに倒れる弟。因みにさいあく。
「でもどうせ明日も行くんでしょう?」
「行きたいけどさー」
足をじたばた弟。
「行きたいけど?」
「明日は止められるかも・・・・・・」
「心配性だなー。大丈夫だって。何であの人が止めるのよ。理由がないじゃん」
今の所は。
「んーまぁ確かにそーだけどー・・・・・・」
「とりあえずもう寝なよ。どうせ明日はっちゃけるんだから」
「そうだねー、そうする」
うーっ、と体を張る弟。
「ねーちゃんは?」
「まだ寝ない」
「なんで?」
「ちょっと調べ物」
「ああ、ビンか」
「そ」
「じゃーおあふいー・・・・・・」
「おやすみ」
そう言って弟は部屋の電気を消した。
それと同時に私は勉強机に放置されていたスタンドライトの電源を入れた。
そして文明の利器であるパーソナルコンピューター、略してパソコンを起動させた。
「うぃーん」
あー・・・・・・深夜テンションになるにはまだ早い気がするぜぇお嬢ちゃん。
まぁ、やりますか。
机にビンを置いて、「じゅんびかんりょー」
早速、ブラウザを開いてウェブサイトに例の文字を打った。
「『Weekend』っと」
・・・・・・やっぱり週末じゃねぇか。何なんだ。
私は更に候補を絞る為に、文字を入力した。
「『Weekend 液体』・・・・・・」
一番上に出てきたサイトをダブルクリック。
そこは沢山ある掲示板の内の一つだった。
そこにはビンのことについての書き込みが沢山書かれていた。
「××××年七月××日××時××分××秒 匿名希望
オレの地域にもあった
××××年七月××日××時××分××秒 匿名希望
わたしの住んでる地域にもあったよー」
色々な場所で見つかっているらしかった。
という事はつまりこのビンは各地で製造されているって事でいいのかな。
更に下にスクロールしてみる。
「××××年七月××日××時××分××秒 匿名希望
なんだろうなこれ
××××年七月××日××時××分××秒 匿名希望
毒とか、薬物の類?
××××年七月××日××時××分××秒 匿名希望
犯罪の匂い
××××年七月××日××時××分××秒 匿名希望
誰かこれ飲んだ奴いる?
××××年七月××日××時××分××秒 匿名希望
いるわけねーだろこんな謎液体
××××年七月××日××時××分××秒 匿名希望
あ、私飲みました
××××年七月××日××時××分××秒 匿名希望
いたし
××××年七月××日××時××分××秒 匿名希望
ボクもー
××××年七月××日××時××分××秒 匿名希望
自殺志願者疑惑
××××年七月××日××時××分××秒 匿名希望
味とか匂いとかは?
××××年七月××日××時××分××秒 匿名希望
聞くなしwww
××××年七月××日××時××分××秒 匿名希望
だって気になるじゃんか
××××年七月××日××時××分××秒 匿名希望
無味無臭でした
××××年七月××日××時××分××秒 匿名希望
こっちも
××××年七月××日××時××分××秒 匿名希望
いつ飲んだ?
××××年七月××日××時××分××秒 匿名希望
昨日の夜中です
××××年七月××日××時××分××秒 匿名希望
昨日の朝牛乳代わりに
××××年七月××日××時××分××秒 匿名希望
て事は致死毒説は却下」
・・・・・・ふーん。
なかなか平和に盛り上がってる。
この騒動っていつから始まったんだろう。
そう思い、もっと下にスクロールする。
意外と長いな。
十数秒かかり、ようやく一番下に辿り着いた。
こう書いてあった。
「××××年七月××日××時××分××秒 匿名希望
これ何だと思う?」
一昨日の書き込みだった。という事は・・・・・・少なくともそれより前にこれが作ら「あれぇ、まだ寝てないの?」
「!」
思わずお尻が浮き上がる程驚いた。
義母が後ろから声を掛けただけだった。
「ん、これ何?」
義母はビンを掴んで言った。
「あ、あぁこれねー図書館に行ったついでに館長に許可貰って借りてきたの。自由研究に使いたいって言って」
我ながら咄嗟につく嘘にしてはなかなかだなーとか自画自賛してる場合じゃない。
「ふーん、これがねぇ・・・・・・」
義母は何やら考え込んでいたが、やがてこう言った。
「でもこれは没収」
「え、」
「館長が良いって言ってくれたのは別に良いんだけど、これは危険な物だから」
「・・・・・・どんな?」
ちょっとだけ揺さぶりをかけてみようと思った。果たして、義母はどんな危険な事を言うのか。
「即死系の薬品よ。飲んでも駄目、触れても駄目、気化しても駄目。しかも臭いし」
蓋開けたら大変、と義母は付け足した。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「とにかくもう寝なさい。こんな夜更かししたら身体に毒よ」
「・・・・・・分かった」
パソコンをシャットダウンし、スタンドライトの照明を消す。
部屋の中は、カーテンから漏れる月明かりで淡く照らされていた。
「おやすみ、ぐっすり寝るんだよ」
「・・・・・・おやすみなさい」
義母が部屋から出て行くのを見届けてから、深く息を吐いた。
「・・・・・・びっくりしたぁ」
本日二度目である。
今もまだ心臓がバクバク鳴っていた。
・・・・・・まさかずっと見られてたわけじゃないよね。
しかも。
「あの人、嘘ついてた」
いやまぁ人の事言えないけど。
サイトには無味無臭、しかも飲んだのは昨日とあった。
しかしあの人は、飲んでも触れても気化しても死ぬと言っていた。そして臭いとも。
飲んだ人が複数人いる以上(その人達が皆嘘を言っているので無い限り)あの人よりもそっちの方がまだ信用しても良いと思う。
となるとやっぱりあの人が嘘をついている事になる。
「うーん、だとすると・・・・・・」
何故、あの人は嘘をついたのか。
嘘をつく意味、理由、目的。
あの薬の関係者?
まっさかー。
・・・・・・でも、そんな風に笑い飛ばせる程材料が揃っていない。
そういえば、あの人が何処で働いているのか知らない。
・・・・・・思考が鈍くなってきた。
そろそろ寝るか。
明日、弟に報告しよー。
働かなくなりつつある頭でそう決めて、私は目を閉じた。
昔々、ある所に、とても設備がいい研究所がありました。
その研究所は、リーダーがすごく優しく、所内の人達がとても穏やかで、とても良い雰囲気の職場でした。
そのおかげもあってか、ある有名な会社とも仲が良く、アイデアを交換し合う程でした。
ある日、会社側から提案されたアイデアの一つが世界中で人気となり、とても儲かりました。
所内の人達はとても喜びました。
ただ一人を除いて。
数ヶ月後、リーダーが唐突に姿を消してしまいました。
リーダーは、一枚の手紙を残していました。
その手紙には、リーダー自身が推薦した人を次のリーダーにする事、その人に全ての研究と 資金の権限を譲る事、と言うような事が書かれていました。
その人は、後に世界を脅かす存在になりました。
続くかは不明。