天空の守り人
そろそろ敵が仕掛けてくるタイミングではないか。そう考えた山口は、一人古ぼけたバンカーに身を滑り込ませた。
無線機からは、偵察に出たアルファー隊から敵数が少ないことが報告された。
今回の報酬は、1発21キロトン級の核爆弾だと敵にも周知されているはず。しかしそれは我々の誇るような航空戦力が無ければ、運用も難しい。それこそ、B2やB52といった巨人機でなければ運ぶことさえままならないだろう。爆弾はものすごく重いのだ。手に入れても我々以外使えない。敵がそれほど手数を裂かないのも頷ける。
「……」
少し考えてから山口は滑走路を眺めた。
遠くから偵察隊を下ろし帰投するヒューイの羽音がする。
戻ってくるのが少し早いような気がした。
「やられた」
偵察隊を下ろし、空荷で基地に帰ってくるはずだったUH-1ヒューイから、迷彩服の男たちが10人余り下りて来た。危険を感じた山口はM1911を抜く。
7発+1発の45ACP。日本人の手には少し大きめの半自動拳銃である。一発が重い弾を使うため装弾数は少ないが防弾チョッキに対してもダメージを与える。
敵が1人こちらに近づいてきた。
随分と思い切ったことをしたものだ。敵は、すでに主力がお宝を目指して飛び立った後だと考えたらしい。
B52だけがこれ見よがしに置かれていることに疑問も持たず突っ込んで来たのだ。奪えると思ったに違いない。
M4A1カービンで武装していた。
カービンで武装した男は、山口に目が合うと焦った様子で銃を構えた。あまりに焦っていたのでスリングがチェストリグに絡まり、わたわたとみっともないほどにまごついた。
仕方がない。こんなに近くに敵がいるとは思わなかったのだろう。距離は5mとなかった。
山口は敵の眉間に大体の狙いを定めてM1911を撃った。
乾いた銃声と共に、敵はカービンを抱えたまま地面に転がった。
山口は用心深く、そのあと胸に二発ぶち込んで死体をバンカーに引きずり込む。銃声に気が付いた敵から猛烈な応射があった。
山口は無線機を取り、先ほど飛び立ったばかりの小林を呼び出した。
「荒鷲より、サンダーボルト!敵が滑走路に展開してやがる!ヒューイはデコイだ!ガトリングで斉射してくれ!」
「了解」
護衛のため先発していた小林が、F22ラプターの甲高いF119-PW-100エンジンを吹かして舞い戻った。速度マッハ2で滑走路上空を一度パン。
全身がビリビリと震える爆音で地上にいるものすべてが動きを止めた。
なんとかなりそうと思った瞬間、敵のUH-1がホバリングを始め機体側面を向けた。そこにはドアガンとしてM60が取り付けられていた。
そんなものであのラプターが落とせるものか。
もうすでにすべてが遅かった。
ヒューイにできることはこの場から逃げることだけだった。それさえも無駄なあがきに過ぎないのだが。
ラプターの主武装であるM61バルカンがブーンという間抜けな音を残して白煙を吐いた。
滑走路のアスファルトが一瞬にして砕け散り、大小さまざまな破片となって飛散する。
UH-1は応戦する間もなく、その鋼鉄の嵐に巻き込まれた。
毎分4000発もの徹甲弾がエンジンブロックをハチの巣に変えてしまった。
その近くにはローターがあった。そしてすぐ近くにはコックピットがあった。
ジェラルミンと、要所に貼り付けられたケブラー繊維だけはボロ雑巾のようにして残ったが、搭乗者は影すら残らなかった。