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夏に降る雪  作者: 傘部蘭
9/15

9.現場不在証明

「あなたっ!」

 遅れて入ってきた結菜さんも浴槽に駆け寄る。僕と父さんはもう、竜太さんが息をしていないことを確認していたので、彼女達に場所を譲った。僕は凛と結菜さんのことを見ていることしかできなかった。そして次に重大なことに気づく。お風呂に1人でナイフを持って自殺する人はいないし、じいちゃんも階段で誰かに押されたと言っていた。この2つの事件は殺人だ。正確には殺人と殺人未遂なのだが。周りの人達を見回す。皆が皆犯人であるような、また、そんなこと信じられないような感覚に襲われた。隣では凛と結菜さんが絶叫している。後ろでは両家の人間が呆然としていた。もう3人死に、1人死にかけた。地獄だ。これが地獄じゃなければ、ぼくはもう思考を放棄しなければやっていけない。僕の頭は何故かそんなことを考えるのにぐるぐると回った。人は死体を立て続けに発見するとこんな境地に至るのだろうか。


 竜太さんの遺体を安置して皆は食堂に集まった。結菜さんは凛の隣に座り俯かながら、凛の肩を抱いていた。重い沈黙が流れた。今までの2つの死のは違う今回の事件は、明らかに犯人がいるのだ。しかもこの中に。誰もがそれを察知した結果の空気だろう。始めに口を開いたのは勝己さんだった。

「なあ、誰なんだ。隆達さんを突き落として、竜太までも手にかけた奴はよ。」

 重くて低い声だ。恐れと怒りが混ざったような。

「そんな話今しなくても。」

 隣に座る絵里香さんが、彼を諫める。

「お前だって分かるだろ。吊り橋は落ちて俺らは隔離されてるんだ。犯人は、竜太を殺した奴はこの中にいるんだよ。そんな奴がいる中でのうのうと生活しろっていうのかよ?ここはきっぱりと犯人を見つけるべきだ。俺らの安全と落ち着き、そして死んだ竜太と殺されかけた隆達さんのためにも。」

 彼の言葉には誰も答えなかった。皆一番端の席で泣いている凛と結菜さんを気遣っているのだろう。

「やりましょう。私もこのままじゃ気が済みません。」

 沈黙の中響いた美しい声は結菜さんだった。泣き声だがしっかり通る声だ。彼女の声を聞くと、勝己さんは頷き父さんを見て言った。

「それなら進行は、昔から頭の切れる研二さんにお願いできますか?今も1番落ち着いていらっしゃる。」

「ええ、構いませんよ。僕も完全に冷静になっているわけではないですが。」

 指名された父は机に手をつき立ち上がり椅子を移動させ、所謂誕生日席のポジションについた。

「ではまず、竜太さんと父が襲われた時皆さんがどこで何をしていたかを教えてください。俗に言うアリバイというやつです。」

 以前にもやったことがあるような口ぶりだった。僕はあることに気づき手を挙げた。

「どうした蓮。」

「提案なんだけど、この2つの事件だけじゃなくて前の拓也さんと寛太さんが亡くなった時のアリバイも一応聞いた方がいいと思う。」

「蓮くんは、あの2人も他殺だと思っているの?」

 少し呆れた声で、絵里香さんが僕に向かって言う。

「他殺と言い切れるわけではないので、今まで皆さんには言っていなかったのですが、かなりおかしな点がそれぞれの死にあるんです。」

 僕は、凛とともに捜査し、辿り着いた木炭の謎と、遺書と縄の謎を皆に話した。木炭の時は警察からの連絡について、父さんが、遺書については蒼介が確かだと言ってくれたので、皆僕のいうことに耳を貸してくれた。話を終えて凛の方を見るが彼女はまだ、俯いたままだった。父さんは了解して話を続けた。

「分かった。じゃあ、昨日の午後から今までの行動を覚えているだけでいいので皆さん開示して下さい。では、僕から。僕は昨日、スーパーへの買い出しを終えた後、昼食を皆さんととり、その後はロビーのソファで蓮とテレビを見ていました。天気が崩れる予報でBBQが心配という話を蓮としていたところ、後ろから咲に声をかけられ、そこからは男たち、蓮、蒼介、勝己さん竜太さんのBBQの準備をして、16時頃帰ってきた寛太さんもそれに加わり20分くらいだったかなやってたら終わって。まだ拓也さんが帰ってこなかったから一回解散して部屋にいたよ。そのあと17時にロビーで皆で集まった後はご存知の通り名代家へ。夜に吊り橋が落ちる音で起きて竜太さんを起こして下におり、見に行く。そのまま朝まで起きてみんなに報告して、朝食をとった。その後は咲達に言われて外の植木鉢や自転車を中に入れる作業を寛太さん、竜太さん、勝己さんとやって、10時頃それを終えると30分4人で風呂に入ってました。僕らの入浴中に母さんと幸子さんが乾燥機にかけてくれていた服を着て、部屋に戻り、12時20分頃竜太さんと昼食のためここに降り、その後皆さんと寛太さんの遺体を発見。彼をベッドに横たわらせ、皆と一緒に、ロビーで話しました。解散した後僕は吊り橋の様子が気になったので外に出て見に行きました。帰って来たところでロビーで蓮に遭遇して少し話した後1人でまた、風呂に入りました。風呂を出た後は竜太さんと部屋にいました。夕食後は竜太さんは部屋にはおらず22時まで1人で持って来ていた仕事を。22時になり蓮、蒼介、勝己さんとお風呂に入りました。多分22時45分には出たと思います。部屋に戻っても竜太さんはおらず仕事の続きをしていました。23時半頃に階段から父の声がしたので向かい、その後は皆さんと一緒にここに至ります。竜太さんと部屋にいたときは、竜太さんがなき今アリバイとは言えないでしょう。」

 改めて聞くと風呂に3回も入ったのか、とくだらないことを考えていると、父さんと最も会っていた僕が次に話すことになった。

「僕は昨日は、父さんとずっと一緒に行動しました。ただ、部屋に戻って寝ようとしても眠れなくて起きていたら日付を超えた頃に凛がドアをノックしてきて、一緒にロビーに降りて話してました。そのうち吊り橋が落ちた音で竜太さん父さん、咲さんが起きてきて、父さん達が2人で橋を見に行っている間は3人で待って僕らもそのまま夜を明かし朝食を取りました。その後は徹夜のせいで眠くて部屋でぐっすりと。12時25分に守に起こされて、下に降りました。その後死体を発見して、皆が集まった後、凛と一緒に倉庫に行って縄がないことを確認し、その後は家中縄がないことを確認して寛太さんの亡くなっていた空き部屋に入って、警察からの連絡に出て、部屋を出た後は寛太さんと蒼介の部屋に行って蒼介に少し質問してました。部屋を出て僕の部屋で少し2人で考えてから凛が1人で考えたいと言い出て行ったので僕も30分ほど部屋で考えた後に考えつかれて一階に向かいました。先程父が言っていた通りロビーで遭遇してその後は食堂でおばあちゃん、幸子さん、結菜さん、真希、佳奈と食堂で16時まで話して彼女達が食事の準備に取り掛かると僕は部屋で本を読んでいました。夕食後、凛の様子を見に彼女の部屋に行くと楽しそうに佳奈と話していたので帰って部屋に戻り22時まで本を読み、父さん達と一緒に風呂に入り、上がり、部屋で守と遊んでいました。彼が寝た後も部屋を暗くして携帯の明かりで本を読んでいました。その後は父さんと同じです。」

 次は凛の番になった。

「私は、蓮達と買い出しに出た後ご飯を食べてBBQの食材の下準備を女性陣でやっていました。15時頃に終わったあとは佳奈ちゃんと部屋で話して17時にロビーに行くとみんな集まっていたのでそこからは蓮と一緒です。今日は朝食を食べた後私も眠かったので部屋で寝ていました。一度起きて水を飲みに降りてきた時に咲さんと話して、部屋に戻る時に廊下で蒼介とすれ違いました。その後も寝て、起きたら12時30分を過ぎていて焦っているところに蓮が来て咲さんと蓮と一緒に寛太さんを探していたら遺体を発見。そこからは蓮と少し調べて、自分の部屋に戻り考えてました。16時30分頃に頭を冷やしたくて少し外にでて、戻ってきた後そのままお風呂に入って部屋に戻り夕食を迎えました。夕食は、佳奈ちゃんとずっと部屋で話してました。」

 彼女が終えると勝己さんが話した出した。

「俺は守達と沢に行って帰ってきて昼食を食べた後また沢に行ったんだ15時頃にBBQの準備を手伝おうと家に戻るとちょうど始めていて参加したよ。その準備が終わると、僕は部屋にいた。17時に皆とロビーに集まってその後は知っている通り。今日の朝食を終えた後は研二さんと同じく手伝いをして風呂に入ったあと、部屋にいたよ。寛太を見つけてロビーに集まった後は疲れてしまって部屋で寝てた。夕食後も、部屋にいて22時に4人で風呂に入った。その後も部屋にいたよ。」

 蒼介もそれに続いた。

「僕は部屋でゲームしてた。昼食を食べたあとも。その後研二さんに呼ばれて外でBBQの用意をして終わったらまた、部屋でゲーム。17時にロビーに皆集まってたから僕もそこに行った後は皆と同じで名代家に行った研二さん達を待ってロビーにいたよ。その後徹夜でゲーム、朝飯の後隆達さんに将棋に誘われて隆達さんの部屋で一戦。10時くらいまでかな。その時におじいちゃんも観戦してたよ。そんで部屋に戻る時に凛ちゃんにすれ違って、また、部屋ゲーム。昼食に降りて寛太さんの死体を発見した後も僕は皆とロビーにはおりずにそのまま、部屋に戻った。少しぼーっとしてからゲームしてたら蓮くん達が来て質問された。その後もずっと夕食まで部屋にいたよ。夕食後も、22時に風呂に入る以外はゲームだったよ。寛太さんがいないからずっと部屋にいた僕はアリバイはほとんどないね。」

 思ったより部屋でゲームの割合が高い。男繋がりで善治さんが次に話した。

「儂は昨日の昼食のあとに隆達と散歩に行っていたよ。途中で守と令香を連れた咲さんに会った。その後16時に部屋に戻り絵を描いていたよ。絵と言っても鉛筆で思ったものを書くだけの日課だがな。17時にBBQはまだかと思いロビーに。そこからは寝るまでロビーに皆と。今朝の朝食後は隆達の部屋で蒼介の将棋を見て部屋に戻り本を、寛太を見つけてからはロビーに集まった後隆達と儂の部屋で話し18時から風呂に入りそのまま夕食へ。夕食後はずっと部屋で絵を描いていたよ。21時過ぎには、風呂から上がってきた幸子が帰ってきてたな。」

 続いてほとんど同じ動きをしていた幸子さんとばあちゃん。

「私達は昼食にあとBBQの食材の下準備をして、終わった後は食堂で2人でお茶してたの。17時にロビーから皆の声がしてそちらに向かったわ。そこからは皆さんと同じ。今日の朝ごはんの後は片付けした後、また、食堂で2人で箸が落ちたことについて話してたのよ。その後はそれぞれの部屋に入って。昼食の準備に降りて12時30分を迎え寛太を見つけロビーに降りて皆さんと話した後上には上がらず食堂で結菜さん、絵里香さん、佳奈、真希と話していたわ。途中で蓮くんも来たけど。16時に夕飯の準備を蓮くん以外で初めて夕食を食べた後は、お風呂に入って部屋にそれぞれの戻ったわ。」

 幸子さんがばあちゃんの分も言うとばあちゃんは間違い無いと頷いた。次は咲さん。

「私は女性陣でBBQの食材下準備をした後お兄ちゃんに外の準備を頼んで沢から帰ってきた守と令香を連れて外を散歩していました。17時前に家に着いて一回部屋に戻り置いていた携帯をとってロビーに行きました。その後は皆さんと。今日の朝食後は片付けした後守と令香と私の部屋にいました。その後主人を見つけ、ロビーで話した後、守と令香と、私の部屋で心を落ち着かせるために話していました。夕食に向かい、食べ終わった後は片付けをして、守と令香と絵里香さんでお風呂に入ってその後は守を部屋に帰して、令香を連れて絵里香さんと食堂に。結菜さんと真希ちゃんが話していたから参加させてもらったわ。話し終えて令香と真希ちゃんと自分の部屋に行って少し話してたら階段から声が。」

 凛の肩に添えていた手を膝の上に戻し結菜さん話始める。

「私は昨日はBBQ下準備が終わると部屋に戻り、1人で携帯を見ていました。17時からは皆さんと一緒です。今日の朝食後は私も片付けをした後自分の部屋にいました。令香ちゃんはいませんでした。昼食の準備をして、寛太さんの死体を見つけた後はロビーで皆さんと話してそのまま食堂でお義母さん達と話していました。そのまま夕食の準備をして、夕食後頭痛がしたので少し部屋で休み1時間ほどで起きスッキリしたのでまだ、片付けが残っていないかキッチンに向かったところ片付けがちょうど終わった頃でキッチンから出てきた真希ちゃんに呼び止められて食堂でお話ししていました。途中で絵里香さんと咲さんも参加して。話し終えたら自分の部屋に戻りました。」

 震えながらもしっかりとした声で話した。最後に名前の上がった絵里香さんが話す。

「私も昨日は結菜さんと同じ動きね。BBQ下準備が終わって部屋に戻ったわ。1人部屋だから証人はいないけど。その後17時からも同じ。朝食後の片付けを終えて私も部屋に、寛太さんの死体を見つけた後も結菜さんと一緒に食堂にいて料理して夕食。その後は片付けて咲さんとお風呂に入って食堂に。話し終えたら私も部屋に戻りました。」


 全員が話し終えた。父さんは聴きながら取っていたメモを眺めて黙り込む。誰の証言にも矛盾がないことを確認すると話し出した。

「まず、記憶に新しく最も大胆な竜太さんの事件。1番の謎は何故食後に入浴した彼がもう一度入ったのか。僕らが22時に入った時には彼自身は勿論彼の荷物もなかった。彼が一度目に入浴してから彼を見た人は?」

 父さんの質問への回答は全員NOだった。

「食後、食堂で話していた皆さんは、食堂にいる間ずっと一緒でしたか?」

「私が5分くらいトイレで席を外しましたけどそれ以外は。」

 結菜さんが言うと、父さんは頷いた。

「研二さん、竜太は浴槽の中で殺されていたんだだったら女には難しくないか?あの風呂場は更衣室から入るドアを開けるとガラガラって音立てるだろ。その音を聞いたら誰だろうと思って振り返るだろそこに女が立っていたら竜太だって不審に思う。男なら体かタオルに隠してナイフを持てばいいけどな。更衣室で殺されていたんなら話は別だが。」

 勝己さんの言葉に絵里香さんが食いついた。

「更衣室にいたって、女が入ったら不審がられるでしょ。竜太さんがどこを向いて着替えているかなんて分からないし。気付かれたら女は即アウトよ。」

「いや、あいつには入浴後のルーティンがある。風呂から出たら腰にタオルを巻き扇風機の風を浴びながら椅子に座りイヤホンから大音量を流して目を閉じて集中するっていう超無防備ルーティンだ。まあ、今考えるとそのルーティンを女が知る由もないか。どちらにせよ浴槽で殺された今回は女には無理だ。」

 女性陣が容疑者から外れた。再び父さんが口を開く。

「父さんの方も、一緒に部屋で話していた凛と佳奈、咲と真希、善治さんと幸子さんは、アリバイがあると言えるな。蓮は守が先に寝ちゃったんだろ?」

 父さんが顔をこちらに向ける。

「うん。」

 僕も立派な容疑者だ。

「寛太さんが他殺だとしたら、将棋を見て部屋に戻った後は幸子さんと一緒だった善治さん。善治さんと一緒になるまで母さんといた幸子さん。2人でロビーのテレビを見ていた真希と佳奈。守と令香と一緒にいた咲。この5人にはアリバイがある。他の人は1人か一緒に居た人が今は死んでいるもしくは気絶中かでアリバイはない。」

 やはりこちらもあまり容疑者を絞らない。

「拓也さんの事件は木炭の問題を無視すると、湯沸かし器のメールと、幸子さんへのメールが16時15分だからそこまで拓也さんは生きていたんだろう。そうすると、俺たち男性陣は15時から16時20分ごろまで外でBBQの準備をしていて、17時には全員顔を出していたから不可能だ。16時20分から17時までの40分間じゃ片道歩いて35分。車で25分で行って殺して25分で帰って来るのは不可能だ。」

 今度は男性陣が容疑者から外れた。

「全然割り出せないわね。」

 絵里香さんが欠伸をかく。それもそうだ時間はもう0時30分を過ぎていた。

「ここからは明日にしますか。」

 父さんの提案に皆頷きお開きとなった。

「皆さんくれぐれも周囲に気をつけて。」

 僕と父さんはじいちゃんの様子に異変がないことを結菜さんと確認しに行き廊下で解散した。

 僕が廊下を歩いていると後ろから服を引っ張られた。凛だった。


「ちょっと部屋に来てくれる?」

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