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夏に降る雪  作者: 傘部蘭
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5.嵐

 見た限り椅子に縄でぐるぐる巻きに固定され包丁でぐさりというところだろう。思わず死体から目を背け、凛の方を見ると顔を真っ青にしていたが、その目はしっかりと死体を捉えていた。父さんが、本当に死んでいることを確認し警察に連絡をした。

「うちに忍び込んだ泥棒のバッティングしたんだろうか。」

 警察が来るまで父さんはしかめっ面をしながら言っていた。確かに僕らが見て回った部屋も食卓のある部屋も引き出しなどが開けてあり荒らされている。そんなことを冷静に考えようとするがすぐに先程見た死体が脳裏に浮かびそれを消そうとするので一杯だった。凛はいつの間にか震える手で僕のTシャツの裾を掴んでいた。警察が到着した。

「どうも、〇〇県警の松戸です。」

 その後事情を説明すると、30分後くらいに

「どうやら、物取りの犯行っぽいですね。財布を探していた鹿野拓也さんと犯人がばったり遭遇。すぐに逃げるか口封じするかしようとした犯人はあることを思い付きました。二階の部屋にある金庫を見つけたものの番号が分からなかった犯人は、鹿野拓也さんを名代家の人だと勘違いして金庫の番号を聞き出そうとし、鹿野拓也さんを脅した。しかし鹿野拓也さんが暴れるので一度椅子に拘束し尋問するも拓也さんがその番号を知る訳も無く、その後、犯人は拓也さんを殺害というところでしょう。明日鹿野家と名代家の皆さんにお話を聞きに行きますのでよろしくお伝えください。」

 そう言って僕らを解放した。帰りの車の中は誰も喋らず屋根に叩きつける雨の音が響いている。林の小道の中でも僕らは沈黙で、家に戻ると父さんと貫太さんが皆に事情を説明した。守と令香は咲さんが連れて聞かせないようにしているので姿はないがそのほかは全員話を静かに聞いていた。途中幸子さんが泣き崩れそれを善治さんが支えていた。事情を説明し終えると、その日はそれでお開きになった。部屋に戻る途中、佳奈が僕と凛のところに来た。

「こんな時にいうことじゃないかも知れないけど、おばあちゃんが昼間探していた携帯見つかったの。ロビーのソファに挟まっていて、その携帯に16時15分くらいに『財布見つかったから今から帰る。』って拓也さんからのメールが来てたらしいの。だからそれもあっておばあちゃん、、、。」

 どうやら、幸子さんは携帯をなくして女性陣でキッチンにいた時に騒いでいたそうだ。16時15分と言えば、湯沸かしポットが使用された時間だ。財布を見つけ、お茶で一息つきながらメールを送り出発するところで犯人に出会したのだろうか。

 各々が部屋に戻り、僕も部屋に戻ると守がベットに横になりながら質問してきた。

「拓也さん何で帰って来ないの?」

 そのトーンから何かを察していることがわかった。言葉に詰まる。結菜さんは令香に何と説明しているのだろうか。

「何か用事があるらしいよ。」

 僕は逃げた。おそらく逃げられていないだろうが。彼はもう何も聞いてこなかった。小さい体ながら色々僕にも気を遣っているのだろう。少しして隣のベットから寝息が聞こえた。沢遊びで疲れていたのだろう。僕は脳裏にちらつく映像を払拭出来ず眠れなかった。僕が眠れずにいて日付を変えた頃に、部屋のドアを叩く音がした。恐る恐る開けてみると凛だった。

「ちょっと、いいかな?眠れなくて。」

「僕も」

 どうやら凛も同じ様子らしい。2人で一階に降りてロビーの明かりをつけテレビをつけた。適当にチャンネルを回し結局テレビショッピングに落ち着いた。コードレス掃除機の紹介をしていた。

「おばあちゃん、ここに座ることなんてあったのかな。」

 凛が呟いた。

「え?」

「ずっとそばにいた訳じゃないけど、おばあちゃんがこのソファに座るところを見たことないの。少なくとも私の記憶があるまでは。」

 確かに幸子さんは僕らが来ている期間いつも、奥のキッチンか、食堂、自分の部屋にいることが多い。ホストである幸子さんが客向けのロビーのソファに座ることは少ないのだ。

「もし座ってなかったら、どうしてソファに幸子さんの携帯があるのさ?」

「誰かが盗んでいたとかは?」

「何のために?」

 僕は凛が何を言いたいのか分からなかった。

「分からない。けど今回の事件なんかおかしい。」

 僕は初めて凛に苛立ちを覚えていた。拓也さんが死んで間もないのに、探偵気取りかとまで疑った。

「確かに偶然が重なった事件だったけど、おかしいところなんてある?」

 苛立ちを隠しながら聞くと、彼女は静かにうなづいた。

「まず、あの縄。ただの泥棒が縄なんて持ってるのかな。食卓においてあったのは流石にないだろうし、拓也さんが暴れ出して咄嗟に拘束したなら縄は元々準備しておかないと。それに、湯沸かしポットも、拓也さんは気配りができない人じゃなかったのに、私を待たせているとわかっていながら、お茶なんか飲むかな。喉が乾いたなら水道捻って水を飲むか、冷蔵庫の中のすぐに飲めるものを飲むでしょ。」

「縄はそこら辺に置いてあったかもしれない、あそこは古臭いものが結構置いてあったから。湯沸かしポットは自分がまだ名代家にいることをメールで伝えるためとか。」

 凛は少し考えら振りをしてすぐに否定した。

「あの縄で1人の男の人を抑えたんだ。中々に丈夫なものだろうから、そんなに古いものじゃないよ。見た感じも。湯沸かしポットに関してはもっとありえない。まずそんな手の込んだことをする必要がないし、幸子さんにメールも送っているんだよ。その上に湯沸かしポットってのは、、、」

 彼女は僕に反論することで自分の考えに確信持ったらしい。

「じゃあ凛は犯人は物取りじゃないと思っているの?」

「分からない、今はまだ。」

 彼女はそういうと何も話さなかった。正確には僕が話す番なのだが、僕には何も話すことがなかった。テレビショッピングでは、フライパンの紹介に移っていた。その後1時間ほどそこで2人でじっとしていたが、その間二言以上会話が続くことは無かった。


 1時30分ごろ、いきなりドーンと大きな音がした。その後に起こされたのか、もともと寝れていなかったのか父さん、竜太さん、咲さんが降りてきた。

「何の音だ。」

 竜太さんが聞くが誰も答えられるわけがない。

「吊り橋の方からじゃ無かった?」

 咲さんが怯えながら言う。

「まさか、、、見に行きますか?」

 父さんが言う。

「そうだな。この嵐と暗闇の中だ俺と研二さんだけで行く。君達はここで待っていてくれ。」

 竜太さんがそう言い父さんと共にドアを開けた。外は凄い音を立てて雨が降っていた。まさしく嵐という言葉がぴったりだ。2人が出て行ってから3人で45分ほど待っているとドアが開いた。2人のびしょ濡れの男が立っていた。父さんが言う。


「橋が落ちている。」

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