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夏に降る雪  作者: 傘部蘭
4/15

4.襲撃

ーーー2日目。朝。


 昨日、昼寝をしたせいか、少し早く目が覚めた。時計を見てもまだ6時だった。それでも外はすっかりと明るくなっていた。隣の布団では守がお腹を出して寝ている。僕はブランケットを彼のお腹にかけて起こさないように廊下に出た。静まり返っている廊下を歩き、階下に降り、ロビーのソファでぼんやりしようと向かうとそこには先客がいた。結菜さんだった。

「おはようございます。早いですね。」

僕が今の重複した2つの言葉を投げると彼女はこちらを向き少し微笑んで言った。

「早くに目が覚めちゃってね。少し散歩してたの。蓮くんは昨日のお昼寝のせいかしら。」

「そうみたいですね。」

僕は彼女の微笑みに見惚れながら言った。彼女はもう40後半だが未だに不思議な美しさを纏っている。凛にもどこか感じられるミステリアスな美しさだ。

「今年も凛と仲良くしてやってね。散歩してたら眠くなったから、少し休むわ。」

そう言って彼女は部屋に戻っていった。


 朝食の時間になって皆が重たい目蓋を擦りながら食事を済ますと、奥様方はお茶を楽しみ、勝己さんは守と令香、真希、佳奈を連れて沢に降りた。蒼介が部屋でゲームをすると言い引き籠ると、残りの竜太さん、拓也さん、寛太さん、父さん、凛、僕で今晩のBBQの買い出しに行くことになった。竜太さんと父さんが運転する2車に分かれて村のスーパーまで行き食材を調達した。唯一の女性メンバーである凛はより安く、より質のいい買い物を我々に指南していたので、忙しそうだった。帰り際、スーパーの駐車場で、

「俺と兄貴と寛太さんは、ちょっと墓地に用があるんだ、3人は研二さんの車で先帰っててくれ。」

と竜太さんが促した。どうやら、3人共通の知り合いの墓参りに行くらしい。

「すみません。僕ここから家までの道怪しいので同行させてもらっても良いですか?」

研二が申し訳なさそうに言う。僕も凛もここの地元に住んでいる訳ではないし買い出しにも初めて参加したので道は知らなかった。

「そう言うことなら構わないよ。後ろからついてきてくれ。」

そう言うと竜太さんはバンッとドアを閉め、他の2人もそれに続き竜太さんの車に乗り込んだ。

「これまでに、あの人達でお墓になんて行ってたっけ。」

父さんが運転する車内で凛が言う。確かに僕の記憶がある限りそのようなことはなかった。


 小さな墓地の前に車を止めると竜太さん達は車から出て

「そこのアイス屋ででも待ってて下さい。ちょっと行ってきます。」

と言いながら墓場の方へ向かった。

僕ら3人は言われた通り墓地の向かいのアイスクリーム屋でアイスを買い待つことにした。僕がチョコレート味、凛がメロン味、父さんはバニラ味だ。

コーンをかじり始めた頃、竜太さん達3人もこちらに来てアイスを買った。

「共通のご友人なんですか?」

父さんが竜太さんに聞く。

「あぁ、俺と兄貴が友達で、寛太さんが同僚だったんですよ。もう25年です。」

「そうだったんですか。毎年来ているのですが、3人が墓参りに行っている姿は見たことがなかったので。」

研二が食べ終わったアイスクリームの紙をたたみながら言った。

「25年って言うキリのいい数字だったので行こうという話になったんですよ。そろそろ行きますか。」

彼のその言葉をきっかけに僕らは車で鹿野家邸宅に戻った。時刻はすでに13時になっていて、遅めの昼食を終えると、拓也さんと寛太さんは散歩がてらに歩いてBBQの木炭を名代家に取りに行った。木炭は名代家が購入し、それをじいちゃんが持ってくるのを忘れたらしい。凛が食料の準備に行った後、僕と父さんはロビーのソファで点いているテレビを見ていた。天気予報によると今夜から雨が降り深夜には嵐になるらしい。

「BBQできるのかな。」

父さんが大袈裟に眉間にシワを寄せながら言う。

「BBQは夕方だからギリギリセーフを祈るしかないわね。」

後ろを見ると咲さんが立っていた、どうやら下準備にひと段落ついたらしい。

「さっ、今度は男の出番よ、お兄ちゃんと蓮くんも、BBQコンロとか準備よろしくね。」

そう言って彼女は二階に上がっていった。キッチンから他の女性陣もゾロゾロと出てきていた。

「よし蓮行くぞ。」

そう言って父さんは沢から帰ってきていた勝己さんや守、部屋にいた蒼介、竜太さんに協力を要請して、BBQ場の敷設に取り掛かった。1時間ほど経った後そこに、寛太さんが木炭を担いで戻ってきた。

「あれ、拓也さん一緒じゃなかったんですか?」

父さんが聞くと寛太さんは肩をすぼめて、

「それが一緒に帰ってたんだけど、途中で財布を名代家に落として来たって言うから、一緒に戻ろうとしたんだけど『そろそろ、準備ができて始まるだろうから、拓也さんの持っている分だけでも先に持っていってくれ。』って言って、俺が貸した鍵をポケットに入れて走って戻っていったよ。名代家に行く途中にこの林の中を道を外れて獣道を散策していて、かなり時間が経っていたから俺もその方がいいかと思って。」

この鹿野家から名代家は村の両端にあると言っても歩いて片道20分程しかかからない門からの小径を入れて35分だ。彼らが出発したのが13時30分程で、今が16時なのでかなり散策をしていたのだろう。というよりかは、迷っていたのだろう。鹿野家の林の獣道は非常に複雑で、小さな頃一度だけ1人で入った時は完全に迷子になってしまい泣いて座り込んでいた。その時は父さんと凛に見つけ出された。かなり奥に入っていたのにどうしてあの2人が僕の居場所が分かったのかは未だによく分からない。


 20分後、準備が完全に完了の状態になり、拓也さん待ちとなった。僕らは拓也さんが帰るまで解散して各自の行動に移った。

「遅いわね。まだ見つからないのかしら財布。」

僕らと同じ説明を受けた絵里香さんが呟く。誰も先に始めるという発想は無さそうだ。誰かが言ったとしてもじいちゃんや善治さんが許さないだろう。昔からBBQは全員揃って開始というルールがあるらしい。

 17時になっても帰って来ないので、皆が集まりだし、どうするか相談していた中で急に携帯を見ていた咲さんが口を開いた。

「ちょっと待って。16時15分に湯沸かしポット使用のメール通達が来てる。」

「それって親父の家のか?」

父さんが聞くと咲さんは黙ってうなづいた。「湯沸かしポット使用のメール通達」とは、使用者がポットでお湯を沸かして注ぐと、使用前に設定した人の元にメールが届くというもので、遠くに住んでいる高齢な親戚の様子が湯沸かしポットの使用状況で分かるという孤独死防止用の便利グッズだ。じいちゃんとばあちゃんは夫婦共々生きているので孤独死回避の意味はないのだが、咲さんが正月に自慢げに説明しながら設置していたのを思い出した。

「見つけて一息ついたのか、探し途中で一息ついたのか。もうそのメールが来てから45分立つところを見るとまだ見つかってないのかね。」

竜太さんがいう。

「でもそれちょっとおかしくない?長い間探しすぎでしょ。拓也さんだって自分が来ないと始まらないの分かっているだろうし。」

絵里香さんが不満そうに言う。皆どこかそう思っていたのか、次々に同意の声が上がった。

「俺が見て来ますよ。人が多い方が良い、車に乗せられる4人、蓮手伝え。後は最後に拓也さんを見た寛太さん同行願えますか?」

父さんが聞くと

「勿論です。」

と寛太さんは快諾した。

「後1人は、、、」

「私行きます。」

凛が手を挙げていた。

「よし、行こう。」

僕らが玄関を出ると、雨が降り出していた。

「どうやら、連れて帰ってきても、BBQはでき無さそうだな。」

そう呟きながら、傘をさして4人は林の小道を進んだ。残った人達は庭に出したBBQの準備を片付けているのだろう。後方からテキパキと指示を出す声が聞こえる。車に乗ると、雨がさらに強くなった。

「嵐、本当に来そうですね。」

寛太さんが窓の外を見ながら呟く。ハンドルを握る父さんの顔は少し強張っていた。ちょうど隣に座る凛と同じように。名代家の前に着くと父さんは的確に指示を飛ばした。

「凛と蓮は常に一緒に行動しろ。寛太さんは、木炭のあったところをお願いします。財布をまだ探しているとすれば昼間通った場所を探しているはずですから。俺はポットのある食卓、蓮達はそれ以外を手当たり次第で探せ。」

 

 僕らは、彼の指示に従い手前の部屋から見ていった。父さんは走って奥の食卓へ行った。彼は思ったより早く見つかった。

「皆、来てくれ。」

食卓から父の低い声が聞こえてきた。僕らが食卓に駆け寄ると父さんは

「蓮と凛は見ない方がいいかも知れない。」

と言ったが、既に遅かった。僕らは目撃した。


鹿野拓也は死んでいた。






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