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夏に降る雪  作者: 傘部蘭
2/15

2.紹介

 とある県の小さな村である、ここ葉室村には、2つの大きな邸宅が南と北に睨み合うような形で所在している。南の方が名代家、北が今僕らがいる鹿野家の邸宅だ。両家での集まりはお盆は鹿野家、正月は名代家で、というように決まっていた。


「みんなもう着いてるっぽいな。」

 門の前に止められた車を見て父が呟く。インターホンを鳴らさずに門を開け敷地に入るとこれぞ夏という感覚に襲われる。しかし、鹿野家邸宅の凄いところは、ここから15分程歩いて行かなければ建物を見ることができないのだ。涼しげな林の中を黙って2人で歩いていくと、吊り橋に直面する。かなり年季の入った吊り橋で、この橋を渡るのがここに来る唯一の嫌なポイントだ。しかし、この吊り橋以外鹿野家邸宅に行く手段はなく下には綺麗な沢が流れている。小さな頃はよくそこで水遊びをしたものだ。吊り橋を渡ってまた、林を抜けると大きな二階建ての洋風な建物が見えてきた。鹿野家邸宅だ。いつ見ても思わず「おぉ」と声を漏らしてしまう。同じ村にある名代家の邸宅も立派なものではあるがこちらに比べられると少し見劣りするだろう。だからこそ長期滞在になるお盆はこちらの広大な敷地を持つ鹿野家で行われるのだ。


「あら、蓮くん、いらっしゃい。」

「また大きくなったんじゃない?研二さんもいらっしゃい。」

 僕らが通ってきた小道とは違う散策路から歓迎の声が聞こえたので、そちらに顔を向けると、2人のおばあさんが立っていた。いや、おばあさんというと他人行儀だ。凛の祖母、つまりは鹿野家当主の妻である、鹿野幸子と、僕の祖母、同じく名代家当主の妻である名代房枝だ。2人は仲が良く、恐らく今も、今宵の晩餐の準備は若い者達に託して2人で散歩をしていたのだろう。ちなみに研二さんとは僕の父の名前のことだ。

「こんにちは、幸子さんには今年もお世話になります。」

 父が毎年同じ挨拶をして、僕も同じような挨拶を後に続ける。

「いいのよ、それに今年はひとつ下の世代が頑張ってくれるらしいから。みんな中にいるから早く上がりなさい。暑いでしょ。」

 そう言う幸子さんに背中を押される形で僕らは建物に入った。建物は一階は宴会場やキッチン、お風呂場、ロビーなどの共同スペースがあり、2階に寝室などの生活スペースがある。玄関を開けるとすぐそこにあるロビーには、大きなソファが二つ置いてあり、その上には2人の中年男性と、子供達がいた。

「蓮と、研二おじさんだー。」

 幸子さんが僕らの到着を知らせる前に、坊主頭の少年が叫ぶように言った。

「こら守、蓮くんは歳上のお兄さんなんだからちゃんと『さん』をつけなさい。ごめんね、蓮くん。いらっしゃい。研二くんも。」

 僕を呼び捨てにした、いや別に全く怒ってはいないのだか、坊主頭が12歳の守で、彼を注意したのがその父の寛太さんだ。彼は僕の父の妹である咲さんの夫で、姓は寛太さんの方の静野をとっているので、正確には静野家の人間と呼べる。

「いいんですよ、敬称を付けられるほど大人じゃないですから。」

「またまた、だいぶ大人になって男をあげたんじゃねーのか?研二さんに似てよ。」

 僕の言葉に被せるように返してきたのは、貫太さんの隣に座っている鹿野竜太、鹿野家の末っ子で凛の父親である。その凛は男子3人から離れたところで小さな女の子と話していた。小さい女の子は静野寛太の娘で守の妹の静野令香だ。

「凛、2人に部屋を案内してやれ。」

 竜太の指示に従って凛が立つ。

「研二さん、蓮こんにちは。二階いきましょ。今年の部屋の配置は私が考えたの。」

 僕らを連れながら凛はご機嫌そうに話している。

この邸宅での生活における部屋割りは毎年変えられていて部屋のメンバーや配置は当日にならないと分からない。二階に上がると左右に伸びる廊下があり、部屋が12個の部屋が6つずつ向かい合って設置されている。

「階段側の列が左側からおじいちゃん・おばあちゃんペア部屋、勝己さんぼっち部屋、研二さん・お父さん部屋、階段挟んで、お母さん・令香ちゃん部屋、蓮・守くん部屋、空き部屋。反対側が、隆達さん・房枝さん部屋、私と佳奈ちゃん部屋、絵里香さんぼっち部屋、目の前の倉庫を飛ばして、寛太さん・蒼介部屋、咲さん・真希ちゃん部屋、空き部屋。」

 説明する人が一気に出てきたので簡単に済まそう。おじいちゃん・おばあちゃんとは鹿野家当主夫婦の鹿野善治さんと先程出会った幸子さんで、勝己さんは鹿野家の長男で、その奥さんが絵里香さん、2人の子供が年長順に佳奈、真希、蒼介だ。お母さんすなわち、結菜さんは竜太さんの奥さんで、凛は2人の一人っ子になる。隆達さん・房枝さんは、僕の祖父祖母で名代家当主の夫婦だ。

「拓也さんは?」

父が聞くと凛は首を振りながら答えた。

「いつも通り離れに1人よ。」

拓也さんとは、鹿野家次男で両家唯一の独身で善治さんと房枝さん以外で唯一普段からこの鹿野家邸宅に住んでいる。

「じゃあ、蓮、守のことちゃんと見てやるんだぞ。」

 父はそう言って階段のすぐ隣の自分の部屋に入った。


 僕が、あの坊主頭と過ごす夏休みを怠く思いながら部屋に向かうと、凛も後ろから当たり前のようについてきた。

「京香さんのお墓行ってきたの?」

京香さんとは5年前に他界した僕の母のことだ。

「何でわかったの?」

 いつもは、母の墓参りはこの両家の集まりの途中に抜け出して行くか、帰りに寄っていたので、来る途中にいったのは初めてのことだったし、到着時間も遅れないように出発を少し早めていたのだ。

「Tシャツの背中、汗で白く染みになってるよ。汗で濡れているのは、門からここまでの歩いた間だろうけど、白く染みてるのは時間が経った奴だよね?家からエアコンの効いた車に乗って来てたらそんな染みが出来るほど汗かく機会ないでしょ。それに靴に茶色い土がついてる。固まり具合から結構最近。普段コンクリートジャングルに住んでいる蓮の靴に土が付くのは珍しいでしょ、もう高校2年生なんだし。門からの林の小道は砂利が敷かれてるから土はつかないから、考えられるのは今日土のつくような暑い場所に寄ってきたパターン。京香さんのお墓に行った時お気に入りの靴で行ったら汚れちゃったの覚えてるんだ。だからそう思ったの。」

 たかが、墓参りを当てただけでよくそこまでドヤ顔できるなと思いながらも、細かいことに気づく観察力と一々論理立てる所は尊敬しなくもない。

部屋に入ると、既に守の荷物とおもちゃが手前のベッドに散乱してある。それを横目に僕が床に荷物を置くと、凛は守の荷物の置いてない方のベッドに座る。僕が荷物を開くのを後にして椅子に座ると彼女が口を開いた。

「佳奈ちゃんと同じ部屋なったことなかったんだよね。」

「それで凛が部屋割り作ったの?」

凛は悪戯っぽい笑を浮かべた。

「そう、佳奈ちゃんのキャンパスライフの話を聞きたくて。なんか部屋割りに文句ある?」

僕はおもちゃの散乱したベッドを見た。

「いや、別にないけど。」

まさか守が嫌だなんて大人気ないことは言わない。

その言葉に満足したように凛は立ち上がった。

「じゃ、私下降りてるから整理できたら、来てね。」

 

 彼女が出ていったあと僕は荷物を開いて整理し、少しベッドに横になった。部屋の窓からは林が見えその奥に葉室村、さらにその奥に名代家邸宅が見えた。立ち上がって窓を開けて左下を見ると離れが見えた。拓也さんの顔を思い浮かべながら、窓を閉めまた横になると今度は眠ってしまった。




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