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夏に降る雪  作者: 傘部蘭
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1.訪問

 1.訪問


 もう、ここに母を訪ねてきたのも5回目になった。あのニュースも、あの災害も気がつくと"過去"の出来事になるように母の死も僕の中では過去のこととなっていた。あの日は今日とは真逆で、雪が降り積もり身体の芯から冷えるような寒い日だった。そのせいか、彼女の亡骸に触れても少し温かく感じたのを覚えている。

 隣で手を合わせている父はジリジリと照る日差しを後頭部に受けながら地蔵のように固まっていた。「何を考えているのだろうか。」という疑問も3年目くらいにはどうでも良くなって僕はいつも彼が顔をあげるのを、彼の背中を見ながら待っていた。

「レン、そろそろ、行こうか。」

 父がゆっくりと顔を上げながらいう言葉に、僕はどこか安心している。ここに来ると、僕はいつも何か恐怖を感じる。父のこの言葉はその恐怖から僕を解放する魔法の言葉だった。


 墓地から少し離れたところに止めてある車に乗ると、30分前には冷房で冷え切っていた車内が既に高温になっていた。

「今年は、ばあちゃんじゃなくて、サキ達が飯作って待ってるらしいぞ。あいつは、昔から料理だけは出来たからな。」

 父がぶつぶつ言ってるのに、適当に相槌を打ちながら僕はこれから顔を合わせる親戚達を頭に浮かべていた。

「凛も来るらしいぞ。」

 ニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべながら父はご機嫌そうにハンドルを持っている。別に凛が来なかった年はない。ただこの50代のオヤジは僕が同い年の凛に想いを寄せていると思っているのだ。


 勘が良すぎる読者は、僕が親戚に好意を持っていると思っているだろうから、ここら辺で説明しておこう。僕と父が今向かっている親戚の集まりは2つの家の合同で行う。我らが、名代家と、凛が所属する鹿野家だ。両家は古くから同じ地域で暮らしており、深い交友があったらしく、こうしてお盆や正月を両家の大勢で過ごすのも伝統らしい。細かい成員の紹介は後回しにしよう。つまり僕と凛の間には血縁関係は無い。それに、僕は確かに両家の同年代の人たちの中で特に凛と仲が良いが、それは凛に恋焦がれているからではない。

 鹿野凛は名探偵だからだ。


 アブラゼミの喧しい歓迎を受けながら僕らは鹿野家の邸宅に到着した。夏という名の劇が始まった。







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