妻の様子がおかしい(ショートショート)
ふと思い立って思いついた話を書いていこうと思います。
初めての投稿ですが、よかったら眺めてやってください。
今日は妻の様子がおかしい。
長年連れ添い、信頼している妻であったが、浮気をしているのではないだろうか。
見知らぬ誰かと出かけた話を、早朝から楽しそうに話す妻をみていると、憤りを覚えるよりも悲しさが先にくる。
私には、そうかそうかとうなずくことしかできない。
最近はやりの熟年離婚というものであろうか、まさか我が身に降りかかるとは想像さえしていなかった。
今日は毎週欠かさずに散歩をしている日曜日なので、物は試しと興信所に寄って、妻の素行調査を依頼してみる。
まるで、テレビドラマや小説のようで、少しだけワクワクしている自分がいる。
興信所の良し悪しなんぞさっぱりわからないので、家から一番近い興信所に依頼を出すことにする。
興信所の人は、物知り顔でうんうんとただ聞き流しているだけのようで、少々イライラしたが、妻の素行に疑わしいところはないらしい。
調査もしないでなぜわかるのかと驚く私に、興信所の人は、妻と同じ社会人サークルに入っていると告げる。
普段から妻は、私と出かけたりしたことを楽し気に話しているという。
名乗ったらああ!と喜ばれたほどだ。
腑に落ちない思いを抱えて帰路につく。
やはり、妻の様子はおかしい。
浮気をしていたとしても、間違えてその話を私にするような人ではなかった。
長年連れ添い、苦楽を共にした妻であったが、呆けてしまっているのかもしれない。
見知らぬ誰かの話を懐かしそうに話している。
もし妻が痴呆であるならば、早い段階で治療をしたほうがいい。
早く治療をするのとしないのとでは、予後が全然違うのだとテレビが言っていた覚えがある。
昼ご飯を食べながら、今日はなんだか様子がおかしいから、病院に行った方がいいと、こんな話を私にする人ではなかっただろう、と話題を振る。
妻は悲し気な表情を浮かべながら、私も一緒についてきてほしいと訴える。
もしかしたら薄々と自覚をしていたのかもしれない。
病院に着き。痴呆の検査を受ける。夫婦で受けるものらしい。
結果が出るのを待っている間も、見知らぬ誰かの話を続ける妻の手を握り続ける。
妻はどうなってしまったのだろうか。どうなってしまうのだろうか。
検査の結果、痴呆症だった。
妻が話す見知らぬ誰かの話は、私との思い出だったらしい。
昨日は久しぶりに一緒にでかけたらしい。
私はどうやらおかしいらしい。
家に帰り、妻に今日のことを何度も謝る。
治療をすれば、きっとよくなる。
よくなったら、今度は見知らぬ誰かとではなく、私とどこかへ行こうと笑ってくれた。
私は痴呆症らしい。
それでも、妻に何事もないことがわかり、安心して今日を眠れる。
明日からは、病気のためにも、今までよりもたくさん話そうと言ってくれた。
少しだけ明日からの生活が楽しみになる。
今日は朝から妻の様子がおかしい。
見知らぬ誰かの話を、早朝から寂しそうに話している。