game9 魔の坂道ダッシュ
「夏季大会の対戦表がきたので、今から配布します」
午後練の中休みで「マネージャー」に就任した月南が早速仕事をしていた。わらわらと集まった部員たちに対戦表を手渡していく。
「果苗、ほらもらってきてやったぞ」
そう言って悠飛が一枚の紙を手渡す。
「お、おぅ」
一旦月南のことは頭の片隅に追いやり、対戦表をマジマジと見入る。
第1試合、水瀬 対 広陵第一!!
願ってもない、リベンジマッチだ。メラメラと闘志が湧き上がるのがわかった。
「わかってると思うが、これからの一戦一戦は一つも落とせない。俺たちにとってはラストチャンスだ」
キャプテンがそう声をかけると一瞬にして空気が変わるのがわかった。みんなも口々に「最後ならやるしかないだろ!」「まずは一勝取りに行くぞ!」と一気に戦闘態勢になる。
俺は悠飛と目を合わせると自然とお互いがうなづいた。
「で、これが合宿の日程表ね。その熱意があればこなせる日程になってるよ」
キャプテンの隣で、副キャプテンの黒沢がいつもの有無を言わせぬ笑顔でプリントをちらつかせる。うげっ! これはいよいよ本当にやばいやつだなと腹をくくる。ほかの部員の顔もどんどんとひきつっていった。
「先輩たちはこの夏で本当に最後なんだし、俺らはやるしかないっしょ」
とひょうひょうと言ってのけたのは翔だった。いつもちゃらちゃらしている翔の言葉に部員は妙に納得していった。再び活気が戻ると練習再開となった。
「だーーー! ヤバイ!! 足がパンパンでもう一歩もうごかねーーー!!」
最後のダッシュを終えた3年の滝本先輩が俺の隣で転がっている。確かにあのハードな練習のあとにこの坂道ダッシュ10本は死ぬ。俺もあと1本を残し、ももやアキレス腱、膝が悲鳴をあげているのがわかる。
「夏目、永井、用意はいいか?」
キャプテンが声をかける。俺は悠飛を意識しつつ、姿勢を低くくする。
「よーい、スタート!!」
掛け声と同時に一歩大きく足を出す。重い足を振り上げ、振り上げ長い坂を登っていく。隣で悠飛の荒い息遣いが聞こえる。抜きつ抜かれつあと十数m。だんだんと頭の中が真っ白になり、周りの音も聞こえなくなってきた。これはついにやばい感じか!?
「夏目くん、永井くん、ラストー!」
声のする方を見ると、顔を真っ赤にして叫ぶ月南の姿があった。…これはやばいな。
最後の力を振り絞り足を運ぶ。一歩また一歩と。そして最後の一歩を運び終えると帰りのランニングも放棄してその場に倒れこんだ。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
固く目をつぶり、苦痛に耐える。
「永井くん、大丈夫?」
ゆっくりと目を開くと、覗き込む月南の顔が…一瞬目が合ったが恥ずかしさのあまり顔をそらしてしまった。すると月南がタオルを差し出す。こんな顔見られたくないという一心でタオルをつかむと顔をおおった。
「…ありがとう」
普通に振る舞おうとしてるのにどうしても月南を意識してしまう。今まで月南とどうやって話をしていたのか、顔を合わせていたのかさえ思い出せないくらいに心臓が大きな音を立てて俺をあおってくる。