game6 月南と果苗
俺は部活が終わると早々に荷物をまとめて校門へ急いだ。体育館から校舎前を過ぎ、校門までの長い坂を駆け下りる。すると校門を出ようとする月南の後ろ姿が見えた。
「月南!」
息を切らしながら背中に呼びかけるもどうやらイヤホンをしているらしく俺の声は届いていないようだった。まもなく月南に追いつくと正面に回り込み足を止める。
「永井くん?」
月南はイヤホンを外し立ち止まる。俺は息を整えると日本選抜の話を月南に問い詰めた。
「バレちゃったかぁ!」
努めて明るく振る舞う月南は俺の横をすり抜けると歩きながら話し始めた。俺も月南の後を追って少し後ろを歩いた。
「まぁ、いろいろあってさ。親の事情とかさ、子どもの私にはどうしようもないこと」
そういうと月南はうつむき黙ってしまった。月南を見ると肩が小刻みに震えている。まさか!? 泣いてるのか? 後ろからじゃ月南の様子はよくわからなかった。思い切って月南の肩をつかむ。
「ごめん! 俺そういうの気つかえなくて……」
「……ぷくくく」
は? ……笑ってる?
「……なんで笑って……」
一通り腹を抱えて笑い終えた月南は、涙をぬぐいながら顔を上げる。
「ごめんごめん、相変わらず永井君はまじめだなっと思ってさ」
状況が呑み込めずにいる俺を見ると少し申し訳なさそうに月南は今の話が冗談だとつげる。今の俺の顔、めちゃくちゃ複雑な顔してんだろうな。
「親の事情ってのは半分ほんと」
どうやらイギリスに渡ってから数年後、母親の仕事の都合で月南と母親だけ日本に帰ってきていたのだという。長期の休みを利用して何度かイギリスには訪問しているようだった。俺はてっきりずっとイギリスにいるものだと思っていたのに、帰国してバスケをしていたこと、選抜メンバーに選ばれていたこと、ケガでバスケができなくなっていたこと……。いろいろな情報で混乱して月南になんと声をかけていいのかわからなかった。
「……と、よかったな」
て、俺何言ってんだ! 何がよかっただ! ケガでバスケできなくなって、こんな田舎の高校に転向してきて……月南からしたらいいことなんてひとつもないのに。やってしまった。訂正しようと口を開きかける。
「永井君だけだよ。そんな風に言ってくれるの」
「いや、その……」
「周りのみんなはいつも腫物を扱うみたいに私に気をつかって……いつしか私の前では誰もバスケのこと話さなくなってた。その雰囲気をつくったのはきっと私なんだけど、どうしてもそれが受け入れられなくてちょっとだけ学校いけなくなっちゃって」
「……うん」
「そんなとき昔の……永井君や夏目君とバスケしてた頃の写真見つけて。またみんなに会いたくて、お母さんに無理言ってこの高校に転校してきたの」
なんかむちゃくちゃな話だけど月南らしいと俺は思った。つらいとき俺らのことを思い出して前向きな気持ちになってくれたのかと思うと少し胸が躍った。俺の脳内では、永井君や夏目君の「夏目君」部分を都合よく消去しリピートさせていた。
「だから、明日からまたみんなとバスケできるって思うとわくわくしてるんだ。微力だけどバスケ部のために頑張りたいからよろしくね!」
そう明るく笑う月南と小5の月南の笑顔が重なり不思議な感覚になる。月南が急に転校してしまったあの日、小5の俺はどうしようもない気持ちでいっぱいになった。今目の前には高校2年生の月南がいて、また一緒にバスケをしようと言っている。俺は夢でも見ているかのと錯覚してしまうほどに。
「こちらこそ!」
だから俺は、そう言って昔のクセで月南を抱きしめた。そこには俺よりもはるかに小さく華奢な女子高生がいた。