game.3 混乱する気持ち
「今日のスタートは、葛木、黒沢、英、永井、夏目」
キャットウォークから女子の黄色い声が響く。あらかた3年の先輩たちに向けられたものだが、たまに俺や悠飛ファンもいる。キャプテンが手を挙げ声援に応えると、黄色い声はより一層大きくなった。俺もそちらに目をやると月南を探した。
「おーい、果苗くん。何探してんのかな? もしかしてお目当ての子がいるのかな?」
悠飛が後ろから俺の肩に腕を回すとズシッと体重をかけてきた。
「やめろ! 重いだろ! 試合始まる」
「あ! 月南ー!」
夏目が彼女に向かって大きく手を振っている。俺は目の端で彼女を捉えるとコートに整列した。相手は昨年度冬の大会で郡1位の広陵第一だ。スリーポイントを得意とするチームで、センター以外はさほど大きい印象はない。
「水瀬高校対広陵第一高校の練習試合を始めます。礼!」
「お願いしまーす」
俺はジャンプボールをするためにセンターサークルへ入る。ボールが頭上に上がった瞬間、相手が先に踏み込むのがわかった。俺は必死に飛び上がるとボールを触る。相手の指先がボールに触れる感覚があったが、キャプテンに向かって思いっきりはたいた。
キャプテンがボールを受けると、夏目と英先輩が走り出す。ディフェンスをかいくぐり2人にパスをつなぐ。あっとゆう間にシュートフォームに入る。が、相手のディフェンスがブロックした。英先輩が夏目のフォローに入るが、ワンパスでハーフコートまで運ばれてしまった。次のパスでシュートフォームに入るとスリーポイントを軽々打つ。キャプテンがチェックに入ったが時すでに遅し、ボールはきれいな弧を描きゴールに吸い込まれた。
その攻撃にかかった時間の短さに手も足も出なかった。
「永井! ぼやっとするな! こっからだ!」
キャプテンの声に全身の神経が張り詰めるのがわかった。俺たちは全国を目指すんだ! ここで負けていたらそんなの夢のまた夢だ。月南も見ているこの試合、負けるわけにいかないんだ!
全員の気持ちが前を向くのがわかった。そこからは一進一退を繰り返し、僅差で第4Qに。やばっ! 息が上がってきて苦しい。夏目と英先輩が制限エリア付近でボールをさばく。こうゆうときの夏目はかなり頼りになる。俺と黒沢先輩はウィングでスリーポイントを狙う。ディフェンスはきつくなる一方だったが、こちらも足は止まっていない。
「果苗っ!」
悠飛がポストでボールを待っている。今悠飛にボールを入れればうまくさばいてくれるに違いない。でもここからならスリーも狙えなくない。俺はシュートフォームに入り、手からボールが離れた瞬間、相手ディフェンスがボールに対して飛び出す! 指先がボールに触れ、軌道が変わるのがわかった。
「リバウンド!!」
「お疲れ、まぁそんな日もあるだろ」
体育館裏でうなだれる俺を見つけ悠飛が声をかけてきた。隣に座るとスポーツドリンクのペットボトルを差し出してきた。俺は無言でそれを受け取る。
「……悪かった。あのときはお前に任せるべきだった」
「気持ちわり! なーに言ってんだよ。俺がお前の立場でも打ってたよ。今回はたまたま相手のが一枚上手だっただけだろ?」
「……いや、俺あのときお前にボール渡しなくねぇって思って、自分で決めるって思って……だああああ!! わかんね!」
俺が混乱してるのをよそに悠飛は立ち上がり背伸びをして振り返った。
「それって月南が関係してんじゃない?」
「え? どうゆう……」
「ま、自分で考えな。だけど今日のこと反省してんなら今後部活に私情挟むのやめろよ」
ひらひらと手を振りながら悠飛は体育館に戻っていった。取り残された俺は今日の試合のこと、悠飛がいう月南のことを考えてみることにした。