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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

まじ村長

村長は村一番の最強でした

作者: 華美

  わしは村長という役職につき、はや三十年。この村は平和のまま、わしは雑用係のような存在のまま過ごしてきた。


  「村長ぉー!おはようございます!」


  「おはよ、村長」


  「これ頼める?村長さん」


 じゃが、なかなかに良い仕事じゃ。村人からは尊敬され、頼られる毎日。平和だからこそ、執務仕事しかせずにすむのだから。村長とは何かと言われれば、わしはこう答える。


  「村のために尽くす者じゃ」


  「村長?どうしたんですか、急に」


  「もうボケた!?」


 若者はよいの。よく動き、働く。わしはもう年じゃからそんなには動けん。それに、まだボケとらん。


  「これこれ、これはこうじゃ」


 それにしても、何度も教えても畑のやり方がなっとらんな。柵もろくに建てられんのかい。お主らの方がボケとるぞ?


  「村長、差し込みすぎ」


 おぉ、地面に深く刺してしまったわい。まったく、いかんなわしも。これは魔物専用の柵にしよう。


  「村長の手際、マジヤバい」


 なんじゃ、マジヤバいとは。普通に柵を立てとるだけじゃろう。ほれ、さっさと仕事をせい。魔物に荒らされたらおしまいじゃろ。


  「なんかこの村だけ収穫量凄いらしいですよ」


  「村長じゃん」


 若者の言うことは略し過ぎてわからん。だが、ゴブリンごときには抜けられんぞ。ほれ、壊そうにも手間取っておる。


  「てかゴブリン!村長気づいてるでしょ!?どうにかしてください」


 ゴブリンごときになんじゃ。せわしない。ほれほれ、あっちへおいき。なんじゃ、歯向かうのか。仕方ないのぅ。ドゴッ


  「可哀想…村長えぐい」


  「わしがえぐいとはなんじゃ。バカモン!それに可哀想とはなんじゃ。ちゃんと忠告はしたぞい」


 とてもじゃあないが、乙女がそんな顔はしてはいけないと思うぞ?慎みを持たねば。それにエグいとは。老人とはそんなに差別されてるのじゃろうか。


  「村長がエグいんじゃなくて、村長のゴブリンに対しての仕打ちがエグいんですよ!」


 見るからに優男がエグいエグい言うんでないわ。それに説明しんでも多少はわかるわ!わしをどんだけ老人だと思っておる。今を生きとるんじゃから若者言葉くらい…。


  「村長って見た目でわかるよねー。マジ卍」


  「それは…わかりますけれど」


 なんじゃ、卍とは。見た目でわかるというのは理解出来たぞい。じゃが、卍とはいかに?


  「マジ卍」


  「なんじゃそれは」


 繰り返し言うが、分からぬ。それに手元が止まっておる。動かさねばのぅ。


  「卍、というのは、まじうけるー、まじうざいーを言い換えた時に使うものです」


  「マジ、という言葉に付け加えとるのか。にしてもわかりにくいの。わしは終わったから出掛けてくるぞ」


 村を半分囲うくらいには柵が立てられたの。ゴブリンくらいなら飛び越すことも出来んじゃろ。


  「うぇっ、早いというか、人じゃないんじゃね村長」


  「失礼だぞ?村長は人離れはしてるかもしれないが、人だ。…うん」


 人離れしとらんぞ。最近の若者が軟弱なんじゃ。……ふっ。


  「寒っ」


  「冷え込んできましたねー。今日のところはこれくらいで。村長もお身体に気をつけて散歩はやめてください」


 これくらいが寒いとは何事じゃ。それにわしはまだ元気じゃぞう?それに散歩はせねば体が鈍る。


  「わしは見回りに行ってくる。それならええじゃろ」


  「あー!村長ぉー」


 もう無視じゃ。老人扱いばっかりしてるんじゃもん。まだ六十歳だというのに。まぁよいわ。歩いておるうちに村の外側へ来てしまったの。三十年立て続けた柵が防壁のようになったの。国は遠いから文句を言いにここまで来ないことを祈るばかりじゃな。この防壁のような柵は、まだ村を半分囲うくらいしかない。じゃが、三十年前の被害を見たら、大分良くなったと言うべきじゃろ。


  「しかし、飛べる奴もおる」


 村長としての役割は村を守ることじゃ。村人には対処できぬことをやるのがわし。ただ最近、頼られすぎな気もするがの。…あれは、魔族か?


  『人間。ここは我らの地なり。三十年見過ごしてきたが、この防壁はなんだ。我らを阻んだつもりなのか?』


 はん、いちゃもんかの。見過ごしたと言うとるが、返り討ちにあっただけじゃよ。あんまりにも鬱陶しいから簡単には来られぬようにしただけじゃし。うじゃうじゃと来られたらのぅ。


  「知らぬわ。文句があるのならばわしの前に来んか」


  『人間の、老いた死にかけがよく喋るじゃあないか』


 プチッと来たぞ?なーにが死にかけの老人か!こっちから見ればお主ら魔族の方が死にかけ寸前じゃわ!


  「そんなにも言うならばわしを倒して見せよ、魔族よ。特訓してやるわ」


  『我を愚弄するか!ならば消し炭にしてやる!』


 なんとも語彙力の低い。定番とも言えるやられ役のようじゃの。もちろん容赦なく行かせてもらうがの。村に被害が出るのだけは許せんしな。


  『ふはは!飛べぬ人間にお似合いの末路を加えてやる!』


 ふむ?誰が飛べぬと?まぁ、わしの場合は飛ぶよりは跳ぶんじゃがなぁ?


  『んなっ馬鹿な!お前は人でないのか!?』


 わしは力を込めて飛び上がった。柵を壊してしもうたが、多少は大丈夫じゃろ。目の前にやたらと黒に染めたコウモリのような奴がおるのは、あれじゃな。


  「マジ卍じゃのー」


 咄嗟に魔法を撃ってこようとしとったわ。わしはそれを握り潰してそのまま爆破したわ。重力に従って魔族が落ちていったのだが、わしはそれを踏み場にする。


  『ぐはぁっ!』


 多分死なんじゃろ。丈夫さだけは取得じゃしな。口から泡が出とってもすぐ治るじゃろ。


  「村長ー、爆発音が…って何コレ?」


 娘が来おった。こんなとこ、危ないじゃろうに。これ、近づくでない。たとえ黒焦げでわからずともそれは魔族じゃぞ。


  「うーん、これってなに?」


  「魔族じゃぞ。生きとる」


 へー、と言いながらも娘も怖くなったのか下がっておるわ。わしから?


  「村長こわぁい」


  「何がこわーい、じゃ!ほれ、下がっておれ。それ投げるんでな」


 黒焦げの魔族を掴み、わしは投げる姿勢をとる。するとうめき声が聞こえた。じゃが、気のせいじゃろう。


  「村長…それは流石に可哀想っすよ」


 優男が来おった。お主はなんじゃ。以前の女房そっくりじゃないか。


  「僕なら大丈夫ですし、外にまで出してきます。何かあったら呼びますし。村長地獄耳ですから」


  「何気にディスってるよね」


 ディスってる…意味はわかるぞ。同じことを思っていたしの。遠慮がないの。


  「親しき仲にも礼儀あり、じゃぞ?」


  「村長…それはそうですが、やりすぎと言うこともありますので」


 何がやりすぎじゃ。こういう輩はしつこいんじゃよ?いくら対策をしても来るんじゃぞ?三十年続けているわしの身にもなってくれ。


  「村長なりのやり方だしぃ、私たちはそれに従うのみじゃん?」


  「まぁ、そうですけど。せめてもの救いとして、僕は見逃しますね」


 まぁ、戦意もないようじゃし大丈夫じゃろ。安心したような表情じゃし…。まぁ、若者の言うことにも一理あるのじゃな。


  「では」


 にしても優男よ。引きずってくのは酷いんじゃあないか?


  「村長に似たんだよ。皆、村長のこと見て育ってるからね」


 娘よ。お主の言うこともいいことあるな。そうじゃ、どんなに辛い時があろうとも、反対されようとも、わしには村人がおる。昔からの信頼がある。昔はやんちゃ坊主じゃったわしも、村長になって初めて幸せというものを掴むことができたしの。満足じゃ。


  「帰ろ、村長ー」


  「おぶってやろうか?」


  「死にそうだからいいですぅー」


  王都から随分離れた場所にその村はある。昔、魔族の領地と隣り合わせにあったその土地は、壊滅寸前だったという。だが、一人の男が村の一員となった時、壊滅寸前の村は救われた。数日にして防壁の一部ができ、男の活躍により、魔族は撤退を余儀なくされた。魔獣も恐れるその男は皆に望まれて、村長となったという。

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