初め
桜を見上げる事が好きだ。
淡い色を花につけ、壮大な数で咲き誇り、見る人々を圧倒させる。心から綺麗だ、可憐だと思わせる。
強めの風が吹いたり、雨が降ったりしてしまうと、簡単に散ってしまう儚さも良い。
そのあとに出る、緑色が強い葉っぱを見るのも良い。
その頃には軽く汗ばみ易くなってきているが、何とも桜の木陰に居ると、過ごし安く感じる風が吹く気がするのだ。
ある日、持ち前の直剣と、仕入れた果実酒と、切り分けた果物を持ち、丁度満開な桜を見ようと向かおうとすると、儚く佇み、桜を見上げる少女がいた。何処と無く同年代のように見えた。
胸に手を当て、深く思いやるような眼差しで桜を見上げる姿に少し見入ってしまった。
目は澄んだ黒色で、遠目でも分かる艶の入った黒髪。髪は腰まで伸ばしていて、手足は頼りない位細く繊細に見え、軽装な服装に背中にかけられているものは、古い剣。
誰かがこの桜を知っててもおかしくないことは知っているつもりなので、邪魔をしないように近くに寄ると、軽く少女に会釈をし、少女が居る反対側の幹に寄りかかるように腰を下ろした。
ふう、と息を吐くと、果物を口に含み、入れ物から直接軽く酒を飲み込んだ。果実酒なだけあって、すんなりと喉を通っていく後に、甘い香りが漂った。
気づくと何故か傍らに少女が座って居て、こちらを覗いていた。
不思議そうに覗く顔が、かなりの趣がある顔つきで、息を飲んでいると、不意に口を開いた。
「あの、それ、お酒ですか?」
落ち着いた声だ。
「まあ、そうですけど」
話しかけられるとは思っていなく、素っ気なく返す。
「もらえ、無いですか?」
「はあ。口、つけちゃってますが、それでも良ければ」
「大丈夫です。ありがとうございます」
そう言って受け取った彼女は、小さく容器に口をつけ、少しずつ酒を飲んで、ある程度のところで止め、こちらに返して来た。
「もういいんです?」
「はい、ごめんなさい、貰ってしまって」
酒に弱いのか、もう軽く顔に朱が入っていて。 それがまた病的なほどに白い肌に良い色彩となって栄えていて。
「良かった、こんな私でも、守れた。守れて良かった...!」
そう言うと、事切れたかのように倒れて来た。
「はあ!?」
虚しく声が響き、どうすることもできなかった。
とりあえず、このままにしておくことはできないと、お世話になっている宿屋へと連れ帰った。
完全に気絶したように眠っている。よっぽど酒に弱いのだろう。
腰にかけた自分の剣はそのままに、軽い旅用の少ない荷物の傍らの酒を置き、担いだ少女の剣も酒の近くに立てかけた。
ベットへ寝かせ、寝顔を見たあと、自分は椅子で寝ようと腰かけた時。
「ううっあぁ!?」
突然少女が左腕を抑え、悶え始めた。 驚いて飛び起きる。
腕には痛々しい赤い紋様が浮かんでおり、どうもそれには見覚えがあった。
奴隷用の呪い。
奴隷、というものがある。国賊だったり、犯罪者だったりと多様な道を辿ったものがたどり着く終点みたいなものだ。だが、信じられなかった。
何故かは、それは先ほど彼女が呟いた。「守れて良かった」という言葉と真反対なことだからだ。
すると、宿屋の出入口で爆音が響いた。
何と無く察せられた、この少女の持ち主が来たのだ。
素早く直剣を抜き、扉を開ける。
勘に任せ直剣を縦にたてると、何かはあらぬ方向へと弾かれた。
「ほお、魔力弾を何の抵抗も無しに弾くか。普通は消滅させるか、わざと爆発させるのだがな。何故かは、わかるだろう?」
底冷えするような低い声。
「悪いが、あまりそういうのは得意じゃ無くてね」
剣を振るう。すると黒水晶のように底が見えない透き通った暗さを持つ刄身が露になる。
「これはこれは部が悪い、魔剣ですか」
相手の姿が見える。剣の簡素な外見から、安物だろうと高をくくっているようで、その顔は失笑が浮き出ている。
「そうだな」
剣を構える。自然に魔力が吸われ、刃が暗闇へと溶けた。
「ほお?」
男は顔を正し、両手に魔力を宿して、ゆったりとした動作でこちらへと撃ち込もうとした。
しかし、
「少し無駄が多いんじゃないか?」
その瞬間には、肉薄しながら振り下ろされた剣に腕は切り落とされ、胸の急所に剣を突き下ろされた、哀れな男の姿があった。
膝から崩れ落ち、床に仰向けになると、急に笑い始めた。
顔をしかめながらしゃがむと、こちらにぎこちなく向き直した。
「何故、私の邪魔をする... 私が死ねば、使役していた魔王が暴れだす...ぞ...」
言葉とは裏腹に、今にも吹き出しそうな顔だ
「笑えるな」
その言葉を冷笑で一蹴りする。
「何故可笑しい」
笑いから顔を怒りに変え、こちらを見上げて来た。
「なぜって、魔王は二人も存在しないからだ」
「なっ、まさか」
男の顔は、驚きに変わった。
「どういう想像をしたかは知らんが、奴隷の契約は切らせてもらう」
剣を振りかぶると、寝ている男の首へと降り下ろした。
男の絶叫と同時に、魔剣を媒体に奴隷所持の権利を吸う。
「これだから、ここの王族は嫌いなんだ」
言葉と同時に、権利が移った後に表示される、奴隷のステータスが見える。
言葉を失った。それには
役職・勇者(奴隷
と書かれていたからだ。
どうも今日は休めない。
はあ、と溜め息をつくと、有り金をすべてその場に置くと、部屋で寝かせた少女... ステータス名は『桜』の彼女を抱え、窓を割り空へと体を投げ出した。
魔力で足場を作り、強化した脚で一気に舞い上がる。
この町では結局休めないと考え、目指す先は長らく自分の家...魔王城だ。
叶わない願いだろう。感じで何ともわかってしまう。
それでも、先ほどまで痛みに耐えるように腕を抱えていた彼女が、今では大事そうにして、幸せそうな寝顔を見せているところを見ると、何とも言えない、暖かい気持ちになった。
顔に見惚れて、高い木にぶつかったのは全く関係無い話である。 話であるのだ。
書き溜めにようこそ、長続きするか知りません。
流れはある程度決めましたが、全くもって間に入れるお話が浮かんでません。
それでも良ければ、これからもよろしくお願いします。では




