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暇つぶし掌編 ~車モノ~

作者: 朝久野愁

 20XX年。午前2時、首都高速道路環状線。

 老朽化により各地方への高速道路としての使用を禁じられたその場所で、今宵も鋼鉄の走狗達が雄たけびを上げる。

「くそっ!? 何なんだあのオンボロ!?」

 つぎはぎだらけの荒れた路面など、どうってことはない。そう言わんばかりに右へ左へと折れ曲がった道路を走る白いボディのGT-R R35。そのドライバーシートに座る男が声を上げた。

 走ることに関していえば、日本車の中で屈指の性能を誇るGT-R。日産の最新技術により、これでもかと搭載された電子制御装置やパドルシフト、大衆車など話にならないほどのパワーを持つエンジン。まさにフラッグシップの名にふさわしい性能を持った車、その最新型がGT-R R35だ。

 今この首都高速環状線、通称『C1』でこれより速い車は、少なくとも同世代のモノか、あるいはこれよりもさらに新しいマシンでしかありえない。それが、ここを走る『走り屋』達の常識だった。

 だが、今その常識は覆されていた。男が乗るR35の前を行き、その前照灯に照らされてリアサイドの”R”バッチを輝かせているのは、海を思わせる鮮やかな蒼をその身にまとった『GT-R R34』。R35よりも古いモデルなのだから。

 己の常識を目の前でひっくり返され、冷静さを失ったR35の男は霞が関トンネルの出口を1km/hでも速く抜けようと、目一杯アクセルを踏み込む。その先は、今二台が走っているC1内回りコース唯一のロングストレート『赤坂ストレート』だった。

 R35のエンジンが唸り、あっという間に先行するR34との距離が縮まる。その光景は消して不思議なものではない。寧ろ、最新型が型落ちのマシンに追いつくなど必然だ。

 だが赤坂ストレートの手前、ややきつめの左ブラインドコーナーに飛び込んだ時、男は自分の失敗に気づいた。

 オーバースピード。R35のヘビィなボディとそのスピードにタイヤが耐えられず、マシンが外側へと膨らんでいく。

 男は慌ててステアリングを限界まで左に回し、ブレーキを踏むが間に合わない。その時には既に右フロントがガードレールに叩きつけられるまで一秒を切っていた。


 背後から響く衝突音などどこ吹く風といわんばかりに、蒼いR34はそのまま加速を続ける。車内のデジタルスピードメーターの数字ははみるみると大きいものとなり、やがてストレートエンド手前で280km/hを記録した。

「うーん……やっぱまだ追いかけられるとプレッシャーでうまく走れないなあ……」

 爆音を響かせるR34の車内でさらりとした黒髪をポニーテールにした女が呟く。

「まあ、また今度トライしてみようかな。赤坂ストレート、300km/h」

 数量限定のスイーツにリベンジしようかな、位の軽い口調で彼女は車を減速させ手近な出口からその姿を消した。

 まさか自分が『とんでもないこと』をしでかしているとも知らずに。

 その晩、一瞬にして首都高に一つの噂が広まった。

――伝説が蘇った――

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