#006.報告と付き合い
「あ、カケル様。もうお帰りになったんですか?」
ウェンディットに戻り、冒険者ギルド【天翔けるペガサス】に入ると、丁度手空きだったらしい青服の子が声をかけてきた。
「あ、はい。」
「どうなさいましたか? クエスト棄却ですか? それともどこかお怪我をされましたか?」
青服の子は心配そうに聞いてくる。
「いえ。クエスト達成……と言えるかどうか分かりませんが、取り敢えず核を回収できたので、持ってきました。」
俺がこう告げると、青服の子はちょっとキョトンとした顔をした後、笑い始めた。
「あははは! カケル様ってユーモアもあるんですね! イケメンでユーモアもあるなんて最高です!」
「え? ユーモア?」
「だって、ダブルスライムはウェティル森林のラズル湖周辺に沢山棲息してますけど、そんな簡単にいっぱい核は集められませんよ! まだ依頼を受けてから1時間も経ってないのに、核を集めるなんて……うふふ、あはは!」
可憐な顔で笑っている青服の子。俺は合わせて愛想笑いをしつつ、カウンターにダブルスライムの核が入っている袋を置く。すると、それを見た彼女は笑うのをやめた。
「えっと、クエスト棄却ってことですか?」
「いや、だから核は集めてきたんですよ。中を見てみてください。」
青服の子は訝しげな顔で袋の中を覗く。そして、顔をサッと青ざめさせた。
「え……本当に集めて来ちゃったんですか? しかもこんなに?」
「ええ。」
「ダブルスライムをどうやってこんな短時間で? 見たところ100個以上ありますし、最低でも50体以上倒してますよね?」
興奮気味に聞いてきた青服の子に、俺は包み隠さず話す。勿論リーファ様に【テイム:ランクA】を授かったという点を除いてだが。
「えっと、つまりスライムを調教して、核を貰って来た、ってことですか?」
「まあ、そうです。」
「す、凄いですカケル様! テイムを使えるなんて……イケメンでユーモアもあってレアスキル持ってるなんて……凄すぎる……」
青服の子は何だかうっとりとした顔で呆けている。
「あの、ところでこれはクエスト達成ってことでいいんですか?」
「あ、はい。勿論です! あのクエストは討伐クエスト扱いですけど、趣旨は『ダブルスライムを倒す』ってことではなく、『核を集める』ことですから。でも、何で私に倒してないってことを仰ったんですか? それを言って、もしクエスト達成にならなかったらどうするつもりだったんですか?」
「ああ、その場合はやり直そうと思ってました。杞憂だったみたいですけど。」
「黙っていれば確実にクエスト達成だったのに……」
「それじゃズルと同じじゃないですか。ズルしてクエスト達成ってことになっても嬉しくないですし、罪悪感が残ります。それに、後でバレたらあなたやこのギルドに迷惑がかかるかもしれない。俺だけが困るなら構いませんけど、要らないリスクを他の人に背負わせたくはないんです。」
俺は本音を言う。すると、青服の子は目を瞬いた。
「……イケメンでユーモアがあってレアスキル持ちで正直で善い人なんて……本当に最高です……っと、では集計しますので、少々お待ちください。」
青服の子は袋の中からダブルスライムの核を取り出し、数え始めた。そして、5分後。
「えー、140個ありましたので、7回クエスト達成ですね。これにより、カケル様はノルマ達成となり、ランクがFに上昇しました。正式に冒険者として認定致します! ギルドカードをお貸し頂けますか?」
「あ、はい。」
俺がギルドカードを差し出すと、青服の子はそれを受け取り、青銅でできたカードと何枚かの貨幣を俺に渡した。
「こちら、認定冒険者の証となるブロンズカードです。これからは、レベルやランクが上がることによって、カードの素材もグレードアップしていきます。それと、こちらが達成報酬の14000ルアクです。」
「7回分の達成報酬を貰えるんですか?」
「ええ。繰り返し可能クエストは何度も一気に達成することができるので、クエスト達成回数を稼ぎたい人や、一気に収入が欲しい人は何日も泊まりこんで沢山集めてから持ってくることがあります。半日どころか1時間であんなに持って来たのはカケル様だけですけどね。あ、それと、私に対して敬語は必要ありません。申し遅れましたが、私はリア・アリアネーゼと申します。」
青服の子……リアちゃんはそう言って微笑む。笑顔が似合うな。
「これからも、御用の際は是非私にお申し付けください。カケル様なら特別サービスで、いつでも割りの良いクエストを紹介させて頂きますので。」
「あ、それは困った時だけでお願いします。自分の目や力を試したいので。」
「……かしこまりました。」
リアちゃんはちょっと不服そうな顔をしながらも頷いた。もしかしたら、冒険者に便宜を図ると給料が上がったりするのかもしれない。リーファ様ですら昇給欲とか昇進欲とかあるみたいだし、悪いことをしたかもしれないな。
「何かごめんね。」
「い、いえ。私が差し出がましい真似をしてしまっただけですので、カケル様はお気になさらないでください。」
「分かった。じゃあ気にしないことにするよ。ところで……」
「はい。何でしょう?」
「この後時間あるかな? 少し付き合って欲しいことがあるんだけど。」
「付き合って欲しいこと、ですか?」
「うん。」
俺が付き合って欲しい事というのは、食料品の補充だ。聖陽さんの家にはいつも必要最低限の食料品しかないようなので、今日の臨時収入の一部で食材を買おうと思っている。
「了解しました! 少々お待ちください!」
俺がその旨を伝えると、リアちゃんは大急ぎで奥に引っ込み、30秒も経たないうちに私服になって出てきた。
「お待たせしました、カケル様。」
「いや、全然待ってないんだけど。仕事は大丈夫なの?」
「有給休暇ならたっぷり余っているので、問題ありません!」
宣言するリアちゃん。本当に大丈夫なようだ。
「じゃあ、案内して貰えるかな?」
「はい! お任せください!」
リアちゃんは自信ありげに言うと、俺の手を引いて歩きだす。なんかエスコートされているような気分になりながら、俺はリアちゃんの誘導に従うのだった。




