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#005.ダブルスライムと平和的討伐

「さて、着いたぞ。ここがウェティル森林だ。」


 聖陽さんの案内で到着したウェティル森林は、まるでジャングルのような森だった。


「こんなところにスライムがいるんですか?」

「ここから5分ほど歩いたところにラズル湖という湖があってな、ダブルスライムはその周囲を塒としているのだ。」

「湖周辺で暮らしてるんですね。」

「奴らは身体の98%が水だからな。水のある所から離れることはできんのだ。もっとも原始的で弱い魔物として有名で、素手でも勝てるだろう。動きも遅いから警戒する程の相手ではない。だが、奴らの唯一の攻撃手段である強酸の粘液は、もろに食らうとその剣すら溶かしてしまう。一撃で致命傷にもなりかねないから、注意するんだぞ。」

「なんでそんなに詳しいんですか?」

「これでも警備兵だからな。モンスターに対する知識は一応持っているさ。まあ、いずれにせよ私は忠告しかできないからな。」

「まあ、いざとなったら逃げますので、俺のことはお気になさらず。」

「くれぐれも気を付けるんだぞ。」


 聖陽さんはまだ少し心配そうな顔で俺に声をかけると、ウェンディットの方へ歩いて行った。俺は聖陽さんが見えなくなってから本を取り出し、


「付け替え。」


 スキル【常識理解】を【守護神召喚】に付け替えてリーファ様を呼び出した。


『お呼びですか、清森さん?』


 相変わらず幼女状態のリーファ様が出現。


「まだ幼女なんですね。」

『力の復活がちょっと遅れてるだけなので、心配はご無用ですよ。』

「ならいいですけど。まあ、それはそうと少しお聞きしたいことがあるんですが。」

『何でしょう?』

「今までにダブルスライムに挑んで死んだ冒険者っていますか?」


 俺がこう問いかけると、リーファ様は少し眉を寄せ、怪訝そうな表情になった。


『それを聞いてどうするつもりなんですか? 清森さんには期待できるかと思っていましたが……私の眼鏡違いだったんですかね?』

「何に期待していたかは知りませんが、俺の発言で不快にさせてしまったなら申し訳ありません。ただ、俺が死んだらリーファ様に迷惑がかかるんじゃないかと思いまして。」

『私に、ですか? 確かに清森さんが亡くなったら私は強力なスキルを与えなかった責任を取らされる上、上司に謝罪行脚をすることになりますけど……』

「やっぱり迷惑をかけてしまうじゃないですか。そういうのは嫌なので、一応聞いたんです。」


 俺の言葉に、リーファ様は慈愛の微笑みを取り戻した。


『やはり清森さんは『善い人』ですね。それならばいいんです。まあ、ダブルスライムは非常に弱い魔物なので、まず死ぬことはありません。でも、酸の液を浴びたら大変なことになりますね。定番の討伐方法は剣で真っ二つにしてから半分になった身体を両方踏み潰す、です。』

「うーん……残虐ですね。」

『さすが命を大切にする清森さん。じゃあ、私が守護してるってこともありますし、今回ので出張代も出ますので、サービスします!』


 リーファ様がそう言った途端、スキル本が激しく光を放った。スキルが記録されている所を見ると、そこには、


【テイム:ランクA】魔物を100体従えることができるスキル(NEW!)


 という記載が新たに増えていた。


『そのスキルを使えば魔物を殺さずに討伐依頼を達成できるかもです。本来なら無限に使役できるランクSSを差し上げたいんですけど、SSは課長クラス以上じゃないと授けられないんです。私はまだ係長ですし、今は弱体化してるのでAが精一杯で……』

「いえ、これでも十分すぎる程です。魔物と仲良くできるなら殺さずに済みますし。」

『そのお答え、清森さんらしいですね。ところで、それ以外にご質問は?』

「あ、今は大丈夫です。」

『そうですか。では、一応この紙にサインをお願いします。』


 リーファ様は出張証明書にサインを書かせると、帰還していった。俺はそれを見届けると、ラズル湖に向かって歩を進めた。



「きゅぷちゅあ!」


 ラズル湖のほとりで俺を待っていたのは、可愛らしい鳴き声を上げる軟体生物だった。有色透明で、体内に水色の丸いものが2つ浮かんでいる。ダブルスライムだな。


「んー……テイムってどうすればいいんだろう……」


 俺はそう考えながら、ダブルスライムに声をかける。


「落ち着いてくれないか?」

「きゅぷう!」

「どうどう、落ち着いて。」

「きゃぷぷぷぷぷ!」


 ダブルスライムは俺の声掛けに全く応じず、液を吐き出してきた。多分これが酸性の液体だろう。浴びる訳にはいかないので、俺はサイドステップで躱す。そして、


「んー、仕方ないな。ちょっと痛いかもしれないけど、我慢しろよ?」


 と言いながら、聖陽さんに貰った聖剣のレプリカでダブルスライムを叩いた。勿論鞘から抜かずに。すると……


【ダブルスライムのテイムに成功しました。残りテイム可能数99体】


 というリーファ様に似た、それでいてどこか機械的且つ単調な声が脳内に響いた。どうやら攻撃するとテイムできるようだ。


「よしよし、落ち着いて。」

「きゃぷぅ……」


 ダブルスライムは今度は俺の声を無視せず、俺の足にすり寄ってきた。可愛く見えなくもない。


「ダブルスライム、核が欲しいんだが貰えないか? 1個でいいんだ。」


 本音を言えば2個欲しいところだが、2個ともとったら多分このダブルスライムは死んでしまう。殺す訳にはいかない。命は大切に、だ。


「きゃぷう。」


 俺のお願いを受けたダブルスライムは体を震わせ始めた。すると、核が振動をはじめ、2つに分裂した。即ち、核の個数が4個になったのだ。ダブルスライムはそのうち2つの核を口と思しき部分から吐き出す。


「おお、お前賢いな。ありがとう、助かったよ。」


 俺はダブルスライムを撫でてやる。水が98%を占めているだけあって、その身体は冷たく柔らかい。


「きゃぷぷぅ!」


 ダブルスライムはくすぐったそうに身をよじると、また身体を震わせて核を分裂させ、吐き出してきた。それを続けて続けて10分間。俺の横には100個は下らない量のスライムの核の山が完成。にも関わらず、ダブルスライムは相変わらずピチャピチャと元気に跳ねている。生存の証拠だ。


「多いな……まあ、このくらいなら持って帰れるけど。」


 俺は青服の受付嬢がくれた革袋にスライムの核を放り込んでいく。空間魔法がかかっているというのは本当のようで、ダブルスライムが吐き出してくれた核は全て入りきった。


「これでクエスト達成ってことでいいのか? ズルしてるような気がしないでもないけど……まあいいや。正直に話そう。ダメだって言われたら、改めてくればいいんだし。」


 嘘を吐いてクエストを達成したことにはできない。これでもいいなら別に構わないんだが、こういう方法ではダメなのだったら、ズルをしたことになってしまう。


「ま、ここで考えていても答えは出ないし、取り敢えず帰ろう。じゃあ、元気でな。」

「きゃぷぷううううう~!」


 俺はダブルスライムに手を振りながらウェンディットへと歩き出した。ダブルスライムも、名残惜しそうに身体から触手を出し、俺に向けて振っていた。

所持可能スキル一覧

【スキル変化】毎日スキルが変化するスキル

【守護神召喚】守護神である女神リーファを召喚できるスキル

【常識理解】ソードマジックの一般常識が全て理解できるスキル

【テイム:ランクA】魔物を100体従えることができるスキル(NEW!)



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