#004.冒険者ギルドと職種選択
「おはようございます、聖陽さん。」
「ああ、おはよう、翔。もう起きていたのか?」
翌朝、午前4時。起きてきた聖陽さんに俺は腿上げをしながら挨拶をした。
「今日はちょっと寝坊してしまいました。1つもは2時間半睡眠なんですけど、今日は3時間半も寝てしまって。まあ、こっちの道は分からないので朝の10kmランニングはどのみちできないんですけど。」
「……流石元スポーツインストラクター。健康的だな、睡眠時間以外は。」
「俺は2時間寝ればそれで十分なんですけど。」
「エジソンより短いぞ、それは。超ショートスリーパーなのか?」
「10歳の頃に体質変わりまして、それからずっと2時間で十分なんです。あ、それと色々勝手に借りて朝食作っておきました。」
俺が腿上げを終え、腹筋をしながら言ったこの言葉に、聖陽さんは驚いたように目を見開いた。
「3時半に起きて、朝食を作って、筋トレをしながら私が起きるのを待っていたのか?」
「はい。大根と白菜があったので、浅漬けにしました。それと鮭があったので焼いてほぐしてフレークにしました。骨は骨煎餅にしておきましたので、門兵の仕事の際に携帯してください。それと、豆腐と若布と大根の味噌汁、ほうれん草のお浸しも作りました。あと、ご飯もそろそろ炊きあがります。」
「……わざわざ冒険者などという危険な職につかずとも、料理人で生きていけるのではないか? レストランの店長や寿司屋の大将に紹介することだってできるんだぞ?」
「いえ、それは大丈夫です。聖陽さんには色々お世話になってますし、これからもしばらく厄介になりますから。」
俺は背筋の体勢に移行しながら微笑む。
「もう少しで終わるので、待っていて貰えますか?」
「まだやるのか?」
「あとは背筋100回と、片手腕立て伏せ左右50回ずつ、体幹5分だけです。」
「毎朝それだけやっているのか?」
「いえ。普段はそれに加え10kmランニングとか、握力トレーニングとかもしてます。それ用の器械が無いので今日はできませんが。」
俺は高速で背筋を終わらせると、腕立て伏せと体幹も終わらせ、丁度炊き上がったご飯をよそった。
「こんな食事を摂るのは久しぶりだ。特に鮭フレーク。」
「和食は世界無形文化遺産ですからね。冷めないうちにいただきましょう。」
俺たちは手を合わせると、朝食を食べ始めた。
「翔、確認するが本当に冒険者になるということでいいのか?」
朝食を食べ終わり、皿も洗い終わり、一息ついていると聖陽さんが心配そうに聞いてきた。
「ええ、問題ありません。俺は冒険者になります。」
「死の危険が常につきまとうが?」
「覚悟はできています。元々拾った命のようなものですし。」
「随分と軽い反応だな……冒険者、という職業について何か知っていることはあるのか?」
「ええ、一応、こっちの世界で常識とされるようなことなら全て知っています。」
俺のこの言葉に、聖陽さんは目を見開いた。
「昨日転生したんだよな? 昨日の今日でなぜ常識を知っているんだ?」
「ああ、スキル変化で得たスキルが【常識理解】だったんです。スキルの恩恵ですね。」
「スキル変化でそれが得られるとは……予想以上に役に立ちそうなスキルだな。」
「これにしてよかったですよ。」
俺は本音を言う。
「まあ、常識を理解しているなら問題ない。私は今日は遅番だから冒険者ギルドに案内できるが、もう行くか?」
「あ、じゃあお願いします。早い方が良いので。」
「では行こう。ああ、それと冒険者になるには一応ではあるが何かしら武器を持っている必要がある。これを佩いておいてくれ。」
聖陽さんは鞘に入った剣を俺に手渡した。
「【聖剣エンジェルジュエルソード】のレプリカだ。私が昔使っていたもので、本物には劣るが斬れ味抜群だから、これを使えばいい。」
「頂いていいんですか?」
「勿論だ。私はお節介だからな!」
聖陽さんはにっこりと笑った。
「さあ、ここが冒険者ギルドだ。受け付けは右の青服のギルド員がお勧めだぞ。真ん中の赤服は低ランク冒険者を見下す傾向があるし、左の緑服は金にがめついからな。その点、右はイケメン好きなだけだ。接客態度は丁寧だし、仕事もできる。」
「ありがとうございます。じゃあ右のギルド員にしますね。」
俺は聖陽さんに礼を言うと、カウンターの一番右にいる青服の子に話しかける。
「あの、すみません。」
「あ、は、はい。ようこそ、冒険者ギルド【天翔けるペガサス】へ。が、頑張りますよ!」
青服の子は何か緊張しているようだ。頬も赤い。人見知りなのだろうか?
「冒険者登録をしたいんだけど。」
「冒険者登録、ですか。では、こちらの書類に記入をお願いします。」
青服の子は羊皮紙と羽ペンを俺に渡してきた。羊皮紙に書いてあるのは日本語でも英語でもドイツ語でもフランス語でも中国語でもロシア語でもないのだが、なぜか読むことができた。恐らく【常識理解】の恩恵だろう。名前、年齢、性別などと書いてある羊皮紙に俺はサラサラと事項を書き込み、一番下の欄で手を止めた。【希望職】と書いてある。
「あの、この希望職っていうのは……」
「あ、はい。希望職はその名の通りあなたが希望する職業ですね。最初は戦士、魔術師、射手の3つの中から1つを選んで頂くことになります。お客様は剣を佩いていらっしゃいますし、戦士がお勧めです。」
「戦士、か……」
「あ、勿論レベルが上がって規定レベルに到達した場合は上級転職が可能です。剣士になったり拳闘士になったり重戦士になったり。それと、転職はいつでも可能ですよ。」
「そうなんだ、じゃあ……」
俺は希望職の欄に【戦士】と書き込んだ。
「はい、承りました。キヨモリ・カケル様ですね。では、こちらがギルドカードとなります。」
青服の子はにっこりと笑うと、俺に木製のカードを渡してきた。文字が刻まれている。
【キヨモリ・カケル】
ジョブ:戦士
レベル:1
ランク:G
「カケル様のクエスト達成率により、ランクが上がり、より高難度のクエストの受注などが可能となります。また、ランクGでは正式に冒険者になったわけではなく、仮免許期間ということになっていますので、1週間以内に1つクエストを達成して頂くことになります。」
「お勧めのクエストとかありますか?」
「お勧めですか? ……本当はあんまり教えちゃいけないんですけど、カケル様はイケメンですし、今回初クエストですから特別にお教えします。他の人には内緒ですよ?」
青服の子は奥から羊皮紙を1枚持って来た。そこには青いインクで、
【討伐クエスト:ダブルスライム討伐】
討伐地:ウェティル森林
挑戦権:戦士系職の冒険者
報酬:2000ルアク
成功条件:ウェティル森林に生息するダブルスライムを10体討伐する
繰り返し:可能
と書かれていた。
「とっても簡単なクエストです。ただ、ダブルスライムは普通のスライムよりちょっと強くて、強酸性の粘液を飛ばす攻撃をしてくるので、注意してください。」
「討伐した証明っていうのは……」
「討伐証明部位をお持ち帰りいただけば分かります。ダブルスライムは体内にある2つの核が討伐証明部位です。2つないと1体倒したことの証明にならないので、ちゃんと2つ持って帰って来てください。20個以上でも大丈夫ですので、この袋に入れてきてください。」
「この袋に、ですか?」
「はい。空間魔法がかかっていて、総重量10tまでならいくらでも入るようになっています。では、健闘を祈っております、カケル様。」
青服の子は俺に袋を渡すと、ギルドから送り出す。
「翔、何を受注した?」
「ダブルスライムの討伐です。」
「ダブルスライムというと、ウェティル森林のだな。案内しようか?」
「あ、大丈夫です。道は分かるので。そこまで俺に付き合わなくても……」
「ならばこう言おう。私は案内をしたい。」
「……お願いできますか?」
「勿論だとも! さあ、こっちだ!」
聖陽さんは嬉々として歩き出した。そんな聖陽さんの後を、俺は苦笑しながら追うのだった。
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