#002.門番と転生者
「辺境都市ウェンディット、か。」
数時間後、街についた俺はそこにあったでかい門に刻まれている文字を見て、そう呟いた。
「マジで辺境だったのか……でもこの門結構でかいし、それなりに繁栄してるんだろうな。」
俺はぶつぶつ言いながらも門を通ろうとする。すると、門兵らしきフルプレートの人に止められた。
「ちょっと待ちたまえ。」
「はい。何ですか?」
「君、見かけない顔だが出身はどこだい?」
「東京都墨田区……じゃなくて、ええと……」
俺はつい日本のことを口走ってしまい、慌てて誤魔化そうとする。しかし、その門兵は微笑むと、
「やはり、君も転生者なのだね。」
と言ってきた。
「え? 君も、ってまさか……」
「ああ。私の名前は寺尾聖陽。君と同じく、地球からの転生者だ。」
「あなたも転生者?」
「そうだ。ついでに出身も君と同じ、東京都墨田区だよ。」
何ということだ。まさか転生者に合うとは……
「久々に転生者に会ったことだし、少し話したいところだが、ここでは人目が気になる。今日は少し早上がりさせて貰うから、私の家に来ないか? 無論、君が嫌でなければ、だが。」
「べ、別に構いませんけど……」
「なら付いて来てくれ。」
聖陽さんは別のフルプレートの人に今日は早上がりする、と告げると、すぐに歩き始めた。俺は慌てて後を追った。
「成程、それで君は転生したという訳か。」
「はい。」
聖陽さんの家のリビングで、俺は転生することになった経緯を話していた。
「聖陽さんは何で転生したんですか?」
「ああ、私はトラックに轢かれた、とかじゃない。急に起きた地震で倒れてきた自動販売機に押し潰されたんだ。ほとんど即死だから痛くは無かった。」
「転生の理由は?」
「私を転生させた女神イフィクスによると、どうやら私が押し潰されたことで、あの自動販売機の横を歩いていたアリ173匹が助かったらしい。そして、それだけの善いことをした報いには、ボーナススキルを付けて転生させてあげよう、と言っていたな。」
「ん? イフィクス? リーファ様じゃないんですか?」
「リーファ? 誰だそれは。」
どうやら俺が聖陽さんを転生させたイフィクスという女神を知らないのと同じように、聖陽さんもリーファ様を知らないらしい。
「リーファ様はこの方です。」
俺は守護神召喚スキルを使ってリーファ様を呼び出す。
『あら、清森さん。また御用ですか?』
まだリーファ様は幼女状態だった。さっきの召喚から数時間しか経っていないし、当然か。
「あー、まあ、用っていうか、ちょっと紹介したい人がいまして。聖陽さん、この方が俺を転生させてくださった女神のリーファ様です。」
俺はリーファ様を紹介したが、聖陽さんは放心状態だった。
「あれ? 聖陽さん?」
「ん……ハッ! すまない、ちょっと驚きすぎてな。初めまして、だな。女神リーファ様。」
『初めましてですか。まあ、お会いするのは初めてですね。寺尾聖陽さん。』
「私の名前を知っているのか?」
『ええ。今年新入社した生命管理課の新卒神たちの間で話題になってますよ。アリ173匹を自らの命を賭して助けた素晴らしい男性だって。』
「私は避け損ねただけなんだが……」
『生命にとっては過程より結果が大切ですから。』
リーファ様はニコニコと無邪気な笑みを浮かべている。
『それはそうと、清森さん。私を呼んだのは紹介する為だけですか?』
「あ、いえ。それだけじゃないです。リーファ様はイフィクスっていう女神を知っていますか?」
『イフィクスですか? イフィクスなら親友ですよ。今日も仕事が終わったら2柱で連れ立ってカラオケに行きます。イフィクスも仕事できるんですよ。私と同期で、仕事上はライバルでもあります。イフィクスに何か問題でも?』
「いえ。聖陽さんを転生させたのが女神イフィクスだって聞いたので、知り合いなのかな、って思いまして。」
『そういうことですか。』
リーファ様はずっとニコニコしている。何か可愛いな。女神だけど。
『それでお話は終わりですか?』
「あ、あと1つだけ。俺のスキルが変化するタイミングって、いつですか?」
『日付が変わる瞬間です。12時00分00秒に変化します。説明とかは本に出ますよ。』
「付け替えはどうすれば?」
『本に出ているスキル名に触って【付け替え】と言えば付け替えられます。』
「そうですか、分かりました。ありがとうございます。」
『いえいえ、守護神として当然です。また困ったことがあったらお呼び出しください。深夜とかなら特別出勤手当が出ますし、ボーナスも増えるので、本当にいつでもいいですよ♪』
最後に給料あげて欲しいと暗にお願いするような一言を呟き、リーファ様は天界へと帰った。
「という訳で、俺を転生させてくれたのはあの女神リーファ様です。」
「ふむ……あの幼女がか。イフィクスはもっと大人びた女性だったが、本当に親友なのだろうか?」
「あ、リーファ様は俺の転生に力を使いすぎてしまって、一時的に幼女化しちゃってるんです。天国であった時は、綺麗な女性でした。」
「そういうことか。」
聖陽さんは納得したようだ。
「ところで。」
「はい。」
「私が一方的に話してばかりで、よく考えたら君の名前を聞いていなかったな。教えて貰えるか?」
「はい。俺の名前は清森翔です。」
「翔君というのか。手に職は?」
「日本にいた頃はただのスポーツインストラクターでした。今は無職です。」
「定住しているのか?」
「いえ。今日転生したばかりなので。」
「そうか、ならば、うちに泊まっていかないか?」
聖陽さんは俺にそう言った。
「え? 良いんですか?」
「ああ。金などは請求しないから、安心していい。実を言うと、話し相手が欲しくてな。」
「話し相手、ですか?」
「私は友人がいないんだ。1年前にも転生者に会ったんだが、彼は3日もすると他の街へ行ってしまってな。それ以来、私はずっと1人なのだ。」
「そういうことなら、お言葉に甘えて。」
俺は聖陽さんの申し出に甘えて、泊めて貰うことにした。
「そうか! ありがたい。」
「いえ、お礼を言うのはこちらの方ですよ。」
「いや、このままでは私は孤独に耐えかねて自殺していたかもしれないのだからな。私の命を伸ばしてくれたのは君なのだよ、翔!」
俺の肩を掴んで鼻息荒く言う聖陽さん。熱血漢っぽいな。
「あ、それと、そう言えばなのだが……」
「何ですか?」
「私はイフィクスからボーナススキルとして【格闘術:ランクS】を貰ったのだが、翔は何を?」
「ああ、俺は【スキル変化】です。毎日スキルが変化するスキルですよ。」
「毎日スキルが変化する? なぜそんなものを?」
「臨機応変な対応力を身につける為です。拾った命ですし。」
俺はあっけらかんと言う。聖陽さんはそんな俺を見て溜息を吐いた。
「翔、君は欲がないのだな。」
「俺は普通に生きていければそれでいいんですよ。」
「しかし、職が無ければ生きていけないだろう。戦闘系のスキルが無いのでは私のように門兵になる訳にもいかんだろうし、商人になるには信用がいる。冒険者くらいしか……」
「ああ、じゃあ冒険者になります。」
「ま、待て、翔! 今のは一例だ。そもそも戦闘系ではないスキルしか持たない君が冒険者になって、何ができる? もしも強力なモンスターに襲われたら……」
「逃げます。」
「……50m何秒で走れる?」
「5秒97です。」
「速いな。流石元スポーツインストラクター。だが、それで生きていけると思っているのか?」
「無理だったら俺はその程度の奴だったってことですよ。それに、変化したスキルが戦闘系になるかもしれませんし、一度戦闘系を得ればある程度の護身は出来るようになると思うので、心配は要りません。」
俺は明るくそう言う。すると、聖陽さんは深く嘆息し、
「君がそう言うなら止めはしないが、1つ条件を付けさせて貰おう。いいかな?」
と言ってきた。
「はい、何ですか?」
「実は私はお節介なんだよ。君が自宅を得るまでは、ここに泊まること。どうだ?」
「……良いんですか、本当に?」
「行っただろう、私は話し相手が欲しかったのだし、お節介なんだ。そして何より、せっかく久々に会った転生者を放ったらかすというのは寝覚めが悪いだろう?」
ニヤッと笑う聖陽さん。俺は素直に感謝し、冒険者になる代わり、家を持てるだけの資産を得るまでは聖陽さんの家に泊めて貰うことになった。
面白かったらブクマ、評価お願いします!