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#001.異世界知識と女神の期待

「さて、どうするかね。」


 俺は呟いた。今の状況は右も左もわからない異世界の森の中。所持品はローブと女神様の贈り物の本、所持金はゼロ。うん、どう考えても今の職業は浮浪者だな。街に出てもチンピラにフルボッコにされて身包み剥がれるような気しかしない。


「そうだ、確かスキルが……」


 俺は本を再び開いて所持可能スキル一覧を見る。書いてあるのは【スキル変化】と【守護神召喚】。


「リーファ様はいつでも呼んでいいって言ってたし……使ってみるか。」


 俺は守護神召喚を試みることにした。


「んと……とりあえず念じてみよう。」


 守護神召喚を使う、と強く念じる。すると、俺の横の空間がぐにゃりと歪み……


『やはりお呼びになりましたか。』


 金髪の女の子が現れた。10歳くらいに見える。


「あれ? 失敗か?」


 俺がそう呟くと、現れた幼女は首をフルフルと横に振った。


『いえ、成功ですよ。清森さん。』

「俺の名前……ってことは、まさか!」

『ええ。私はあなたの守護神、女神リーファです。』


 そう言ってあどけない笑みを浮かべるリーファ様(幼女)。


「あの、何で幼女になってるんですか?」

『転生って思った以上に力を使うらしくて、幼女化しちゃったんです。数日すれば元に戻りますから、ご心配は無用ですよ。それより、何か御用ですか?』


 幼女状態のリーファ様に聞かれて、俺は目的を思い出した。


「あ、はい。まずはお礼を言わせてください。転生させてくださりありがとうございます。それと、こんな贈り物まで……ご厚情痛み入ります。」

『さすが清森さん。敬語を使いこなしますね。そこまで遜らなくてもいいのですよ。』

「そういう訳にはいきません。」

『そう仰るなら……それはそうと、召喚の理由はお礼だけではないですよね? 清森さんのような方がお礼の為だけに私を呼びつけたりはしないでしょうし。』

「あ、はい。この世界が具体的にどういう世界か全く分からないので、その辺とか他にも諸々説明して頂けませんか?」

『勿論いいですよ。』


 リーファ様は幼女顔に慈愛の微笑みを湛えるという非常に器用なことをすると話し始めた。


『この世界、ソードマジックは剣と魔法の異世界です。この世界の人々は魔力量に応じて様々な魔術が使えます。勿論清森さんも同じです。』

「成程。」

『それで、清森さんは特殊能力を持っていません。剣術技能も持っていません。魔術スキルもからっきしです。極々普通の一般人的な一般人です。逸般人的な一般人にはなれません。』

「それは興味がないですし、寧ろ目立ちたくないので、その方が好都合です。」

『まあ、そうでしょうね。因みに、この世界の人たちは基本的に友好的な人ばっかりです。ですが、清森さんはあまり歓迎されないかもしれないですね。異世界人にソードマジックの人はあまり慣れてませんから。』

「そうなんですか。」

『はい。そしてこの世界にはある特徴があります。それは、男性がモテる条件が戦闘力なんです。しかし、清森さんは強力なスキルを私から受け取らなかったので、モテモテハーレムを築くことはできません。』

「そういうのにも興味はないので問題ありません。」

『私としては生殖行為に励んでほしいんですけどね。』

「なんでですか?」

『ソードマジックは少子高齢化が進んでるんですよ。ですから私たち生命管理課の仕事が減ってるんです。そして私は係長なので、名ばかり管理職として給料はほとんど変わらないのに面倒臭い仕事が全部圧し掛かってきてまして、部長にも理不尽な理由で怒られたりとか……』

「あの、リーファ様。」


 俺はリーファ様の言葉の中のあるフレーズが気になったので、少し会話を遮る。


『何ですか? 清森さんのような方が私の会話を遮るなんて、余程のことですね?』

「いや、ちょっと気になっただけなんですけど、まさかリーファ様が俺にやたら強力なスキルを授けたがったのは、俺が転生後にモテモテハーレムを築いて生殖行為に励むことで少子高齢化を緩和し、それを上司に報告して給料を上げる為、とかではないですよね?」


 俺は恐る恐る聞いた。リーファ様が怒るかもしれないからだ。しかしリーファ様はニコニコと朗らかな笑みを浮かべたまま、


「察しが良いですね、清森さん。それだけじゃないですけど、それもあります。」


 と少しも悪びれる様子もなく答えた。


「それもあるんですか?」

『ええ。私だって昇進欲とか昇給欲とかない訳じゃないですし。名ばかり管理職を200年もやって、怒られ続ける毎日……こんな理不尽な生活からはさっさと抜け出したいです。せめて課長ぐらいになって、後輩たちに優しくして慕われるようになりたいんですけど……』


 リーファ様はハァーッと溜息を吐く。言ってるセリフはブラック企業の係長だが、外見は幼女なのでアンバランスこの上ない。


「でも、それだけが理由じゃないんですよね?」

『ええ。一番の理由は清森さんに期待したから、です。』

「俺に期待ですか?」

『ええ。清森さんは典型的な『善い人』です。幼女状態の私にもひたすら敬語ですし、他人を貶めたりしない。自分の力で生きるためにボーナスも最小限にとどめる。そんな清森さんに、私は期待してみたくなったんです。生命管理課で働き続けてますけど、清森さんのような方は見たことが無いんですよ。』

「俺の何に期待してるんですか?」

『そのうち分かります。時が来れば、そのうち。』


 そう言ってニコッと微笑むリーファ様。


『あっ、もうそろそろ時間ですね。守護神召喚スキルの効果が切れます。じゃあさようなら。また呼んでくださいね!』

「えっ、もうですか?」

『はい。因みにクールタイムは30分要ります。それと、街はいまの清森さんの立ち位置から見て左斜め前に17km行ったところになります。』


 リーファ様は言葉を紡ぎながらもどんどん姿を薄れさせ、完全にいなくなってしまった。


「結局、この世界についてあんまり分からなかったな。」


 俺は誰にともなくそう呟くと、左斜め前に向かって歩き出すのだった。


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