#000.天国と転生
『……お目覚めですか? お目覚めですね?』
白一色の空間。そこで俺は目の前にいる謎の女性にいきなりこう声をかけられた。
「お目覚め? っていうか、ここはどこですか?」
『あら、いきなり質問ですか。まあ、問われたならばお答えしましょう。ここは神界。善い行いをした者の魂が最終的に行きつく場所です。あなたに分かりやすいようにお伝えするならば、天国ですね。』
「て、天国? ってことは、俺死んでるの?」
俺は思わずこう叫ぶ。
『ええ。覚えていらっしゃいませんか? あなたは道端で倒れていたお爺さんを見つけ、心臓が停止していると気付いた。慌てて携帯電話で救急車を呼び、近くの人に頼んでAED……自動体外式除細動器を探してもらい、気道確保をしてから心臓マッサージをし続けた。そして、AEDでそのお爺さんが蘇生し、何とかホッとしたところで救急車が到着。お爺さんに感謝されながら救急車に共に乗り込み、病院まで同行。お爺さんの容態が安定したので、安心して病院から出て、387m行ったところでトラックに撥ねられました。即死です。痛くなくてよかったですね。』
「……そのお爺さんを助けたくだり要ります? トラックに撥ねられたから即死しました、でもいいんじゃないですか?」
『一応必要です。で、続きです。あなたは小学生の頃から蟻を踏み潰している子を叱りつけたり、昆虫採集をしている子を諭して虫を逃がしてあげたり、命に対してとても誠実でした。その行いが評価され、あなたは天国に招かれました。』
「……その位普通ですよ。命を大切にすること、それは当たり前でしょう。」
俺は当然のように返す。命が大事なのは必然だろう。
『予想通りのお答えをしてくださいますね。安心しました。では、もしあなたは生き返れるなら生き返りたいですか?』
「まあ、そりゃもちろん。あのお爺さんも心配だし。」
『あー、お爺さんのお見舞いは無理です。あなたはもうあちらの世界で存在消滅しちゃってますので。』
「じゃあ生き返りっていうのは?」
『今流行りの異世界転生です♪』
満面の笑みで言う女性。
「ってことは、あなたは神なんですか?」
『ええ。一応、ですけど女神です。生命管理課の係長やってますよ。』
係長って……神の世界にも階級とかあるのか。
『まあ、転生お望みってことで、転生できます。それで、転生するにあたってボーナスがあるんですけど、どんなのが良いですか?』
「ボーナス?」
『はい。あなたの転生先は地球ではもうメジャーを通り越してテンプレとなりつつある剣と魔術の異世界、【ソードマジック】です。魔術はスキルが無くても使えるんですが、無能力で普通に生きるのはちょっと厳しいので、ボーナススキルをプレゼントします。』
「……そこしか転生先はないんですか?」
『残念ながら、そういうことになります。くじ引き結果ですから。でも、その代わりに好きなスキルでいいですよ。例えば、スキルを取得できる上限を無くすとか、近接戦闘だと誰もかなわなくなるとか。』
「うーん、そういうのは興味ないです。」
『じゃあ、剣術が凄く上手になるとか、魔力が無限で魔術が無尽蔵に打てるとか。』
「そういうのもいいです。」
『何かないですか? 何かあなたに差し上げないと、私も大変なことになるんですよ。減給くらいならまだしも、懲戒解雇で人間界転生とかは嫌なので……』
女神も大変だな。転生させてくれるみたいだし、迷惑はかけたくない。
「じゃあ、毎日スキルが変化するスキルって貰えますか?」
『毎日変化、ですか?』
「はい。毎日スキルが変化するスキルです。」
『別にないことはないですけど、それだと異世界最強になれませんよ?』
「最強とかは興味ないです。俺は平凡な日常生活が送れればそれでいいですから。」
『そのお答えも予想通りですね。まあ、じゃあそれでいきましょう。但し、いくつか制約付けます。それでもいいですか?』
「はい。」
『まず、あなたが転生する先は今より2歳若返った20歳の状態です。そして、森の中です。近くに本が置いてあるので、それを拾って1ページ目を開いてください。それが約束できるなら先程言っていたスキル変化スキルを差し上げます。』
「そのくらいならできます。」
『ではそうしましょう。でも、何でスキルが変化するスキルなんて欲しいんですか?』
「新鮮味が欲しいだけです。それと、臨機応変な力を身につけられるような気もしますし。」
『そういうことですか。安全志向ですね。分かりました。では、最後に。私の名はリーファです。あなたのお名前は?』
「俺の名前知らないで話してたんですか?」
『はい。私は凄く命を大切にする高潔な方が来る、としか知らなかったので。』
「……俺の名前は清森翔です。」
『かっこいい名前ですね。まあ、それはさておき、私リーファは今をもちましてあなたの守護神となりました。転生後、分からないことがありましたらいつでもお呼び下さい。』
にっこりと笑う女神リーファ様。思わずちょっとドキッとしたのは秘密だ。
「あ、はい。ありがとうございます。」
『では、ソードマジックにお送りいたします。前世で善い行いをしたあなたなら、ソードマジックでも清く生きられると信じております。行ってらっしゃいませ、清森翔さん。』
リーファ様のこの言葉を最後に、俺の意識は深い闇へと落ちていった。
「んん……」
次に目を覚ました時、俺は森の中に倒れていた。なぜか茶色いローブを着ている。そして近くには、分厚い本が。
「これがリーファ様の言っていた本か。」
俺はそう呟きつつ、近くにあった岩に腰掛けてその1ページ目を開く。そこにはこう書いてあった。
【この本には、あなたが入手したスキルが記録されていきます。一度あなたが入手したスキルはこの本に記録され、以後いつでも使用できます。但し、一度にあなたが所持できるスキルは2つです。そして、1つは【スキル変化】で埋まっていますので、実質1つです。1日何回でも変更できます。無駄なスキルに変化することがあるので、このくらいはないと生きていけません。私からの計らいです。大事に保管してください。守護神より。】
「……リーファ様からのプレゼントか。」
俺はそう解釈し、ページを捲る。真っ白だ、とそう思った時、そこに文字が浮かび上がった。
所持可能スキル一覧
【スキル変化】毎日スキルが変化するスキル(NEW!)
【守護神召喚】守護神である女神リーファを召喚できるスキル(NEW!)
「成程、こういうふうになるのか。これはありがたい。」
俺はこう呟いて立ち上がる。そして、俺のソードマジックでの人生が始まるのだった。
新連載の異世界ものです。面白かったらブクマ、評価いただけると嬉しいです!