聖女と悪魔
バッドエンドとも言える
ある日。
悪魔の湖に一人近づく者がおりました。
彼女は聖女。
教会において神の力を借り、人外の強敵をも討ち滅ぼせる存在でした。
聖女は湖のそばまで来ると言いました。
「悪魔よ!出て来い!」
聖女の声に応えるように、湖は青く輝き、中心からは黒い悪魔が姿を現しました。
出て来た悪魔は言い伝えられるように禍々しい黒い肌、蝙蝠の羽、そのまま武器になりそうなツノを持っていました。
悪魔は言いました。
「さあ、願いを言え」
悪魔の傲岸不遜な態度を見て、聖女は憤りを感じました。
そして聖女は言いました。
「死ね!!」
聖女はそう言うと同時に悪魔へ向かって攻撃します。
その手にはいつの間にか槍が握られていました。
槍は雷を基にしたと思われるギザギザした形をして、白い膜が覆っています。
悪魔はその槍を簡単に避けました。
そして、羽を使い、空を飛び、聖女の槍が届かない場所に陣取りました。
その間、悪魔は奇妙な鳴き声をあげています。
悪魔は言いました。
「我を殺すのが、汝の願いか?」
「・・・そうだ」
聖女は悪魔と話して良いか少しばかり迷いましたが、この程度であれば問題もないと思い、答えました。
この会話の中でも、悪魔は奇妙な鳴き声をあげています。
聖女にとって、それはとても耳障りでした。
今まで聖女の倒した悪魔にはこんな気持ちの悪くなる鳴き声をあげる者はいなかったからです。
にらみ合いが続く戦いの場で、聖女は攻撃を仕掛けました。
「主よ。悪魔を滅する力をお貸しください。神の雷撃」
その名の通り、神が聖女に力を貸したことで生まれる、神の力を持った電撃です。
電撃は聖女の持つ槍と同じような形をして、悪魔へと向かって行きました。
そして、悪魔は鳴き声をあげたまま––––––
–––––––電撃が落ちました。
聖女には何が起こったかわかりません。
聖女の信じる神の電撃が、簡単に落ちたのです。
悪魔は何もせず、ただただ奇妙な鳴き声をあげていただけ。
聖女にはその光景が信じられませんでした。
ですが、聖女も多くの悪魔を狩り、経験は十分にあると言えます。
だからこそ、この状況でも素早く立ち直れました。
その時、悪魔が突然鳴き声をやめ、言いました。
「汝の願いを叶えよう。そして魂を頂こう。さあ、我を殺せ」
そう言いながら、悪魔は近づいて来ました。
手を広げ、まるで自らの胸に飛び込んでこいとでも言うような感じで。
その格好はまるで隙だらけで、聖女の持つ槍で簡単に殺せるでしょう。
だからこそ、怪しいのです。
今まで戦っていた敵に、いきなり殺していいよと言われるなど、罠を疑わない者がいるはずはない。
だから、聖女は迷いました。
そして、決めたのです。
罠があっても問題ない力を持って、悪魔を殺そうと。
「私の命は、主の物である。私の命は、しゅのためだけに存在している。私の命を持って、主よ、力を」
聖女がそう祈れば、力が溢れました。聖女が感じたことのない、神の力。その強大さを、身を以て感じたのです。
必ず勝てると言う全能感を持って、聖女は悪魔を殺そうと向かって行きました。
「死ね!!悪魔!!」
聖女は絶対に勝てると言う自信のもと、笑顔で悪魔に槍を突き刺しました。
そしてその槍は–––––
––––––悪魔の心臓を破壊しました。
何匹も悪魔を狩った聖女だからこそわかる。その感覚。悪魔が死んだと言うその感覚で、勝利を確信しました。
そして聖女の笑みは、どんどん深くなっていきました。
「どんな罠だったか知らないが、私の勝ちだな。悪魔。これで私も、ふふふ、ふはははは、は、は・・・・・・」
聖女が声をあげて笑っていると、突如、体の力が抜けて行きました。
「な、に、が・・・」
聖女そう言いながら悪魔の方を向けば、悪魔は刺された槍を抜き、起き上がっているところでした。
(何故?)
その疑問を抱く前に、聖女は魂を取られました。
聖女の魂を手で掴んだ悪魔は、それを口に放り込んで飲み込み、言いました。
「せっかく、九十九個溜まっていたんだけどなぁ」
そう、言い終わる前に悪魔は手を振り、聖女の体を燃やしました。その炎は、悪魔と同じで真っ黒でした。
そして悪魔は湖へと戻って行きました。
後に残ったのは、少しの灰のみ。
〜おしまい〜