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湖の悪魔  作者: ビリオン
1/4

とある村の少女

おそらくハッピーエンド

 ある日の事。

 湖近くの村の少女が、湖へとやって来ました。

 ワンピースのような服を着た。幼く、可愛らしい少女です。


 少女は言いました。


「悪魔さん、悪魔さん、お願いします。私のお願いを叶えてください」


 少女が湖に願うと、湖は黄金に光り輝き、湖の中心から悪魔が現れました。

 悪魔は真っ黒で、ゴツゴツとした角を生やし、背中には大きな蝙蝠の羽を持っていました。

 それはとても恐ろしい姿で、少女は一瞬、動けなくなってしまいました。


「さあ、願いを言え」


 悪魔は、傲慢という言葉がふさわしく感じる仕草でそう言いました。


 もし、自分の方が偉いと思っていれば、悪魔の態度に不満を持ったでしょう。

 ですが、少女は小さな村の一農家の娘。しかも、悪魔に願いを叶えてほしいのです。


 なので少女は傲慢な悪魔の態度を当然と思い、願いを口にしました。


「悪魔さん、お願いします。村に雨を降らせてください」


「ふむ。どれ程だ?」


 少女の願いに対し、悪魔は問いました。


 ですが、少女は答えられませんでした。

 幼い少女には、雨をどれくらい降らしてもらえれば良いかなどわからないのです。

 当然、少なすぎれば困ります。ですが、多すぎれば氾濫や洪水が起こってしまいます。幼い少女にも、それくらいは分かりました。


 少女は考えました。

 少女の人生で、最も考えました。


 悪魔は待ちました。

 いつまでも考える少女を、ジッと見つめながら待ちました。


 そして、少女は口を動かしました。




「みんなが、みんなが幸せになれるくらい。降らしてください」


 考えても、考えても、答えは出ませんでした。水の正確な量など、少女は分かりません。

 だから少女は、雨が降ってどうなりたいかを考えました。


 少女の言葉に対して、悪魔は言いました。


「そうか」


 それだけでした。


「だが、願いを叶えれば魂をもらうぞ」


 悪魔は少女を脅すかのように、低い声で言いました。

 ですが、少女は悪魔を恐れませんでした。


「はい」


 間髪を容れずに、少女は答えました。


 ですが、少女はすぐに俯き、言いました。


「でも、今すぐ魂を取るのは、その、やめてほしいです」


「そうか。では、死後に魂をもらおう」


 少女のワガママとも言える言葉に、悪魔はすぐに約束しました。

 少女は初めて、花が咲いたような笑顔を見せました。


 そして悪魔は、少女に向かって呪文を唱えました。

 それは、少女には理解できない言葉で、いえ、言葉とすら認識できない、悪魔たちの言葉で唱えられていました。


 呪文が唱え終わると、悪魔は言いました。


「さて、雨を降らせるか」


 悪魔はまた、呪文を唱えました。

 その呪文は、その前の呪文とはまるで違ったのですが、少女にはどちらも同じに聞こえました。


 悪魔がしばらく呪文を唱えると、少女の村と逆の方向から、真っ黒く、大きい雨雲が普通では考えられない速さで、村の方向に向かっていました。


 そして、雨が降りました。

 少女は喜びました。

 恐ろしい悪魔の目の前だというのに、少女はそんなことも頭になく、立ち上がってはしゃぎました。


「では、死後に魂をもらう。この約束。忘れるでないぞ」


 悪魔は、恐ろしいほど低い声でそう言いました。

 そして悪魔は、湖へと消えて行きました。


 少女は悪魔の声で我に帰りましたが、少女が振り向いた時、悪魔は消える直前でした。

 少女は最後に、言いました。


「ありがとう。悪魔さん」


 その笑顔を悪魔が見ていたら、ずっと記憶に残ったでしょう。少女の笑顔は、それほどきれいでした。

 悪魔が消える直前。その笑顔を見たか、それは、悪魔のみが知るのです。






 少女はその後すぐに村へと戻りました。


 そして少女は、雨が降って豊かになった村で、同じ村の少年と恋に落ちました。


 二人は何人もの子を成し、幸せになりました。


 そして少女は、数十年後に老婆となり、子や孫に囲まれ、幸せそうに逝きました。


 悪魔に魂を取られると知っているのに、とても、とても、幸せそうに眠りましたとさ。


 〜おしまい〜

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