地平線の大地2
いつの間にか一年も時間が過ぎてた……。
天気は快晴。雲一つなく、青空の中で強く輝く太陽が彼らを照らしている。草原の向こうに地平線が見える。山などの障害物がなく、空と地面が真っ直ぐ繋がっている光景に二人は感動した。しかし、人間は慣れてしまう生き物で、珍しいと眺めていたそれも、時間が経つにつれて飽きてしまった。そうして、二人がぼうっと虚空を見つめるのにさほど時間はかからなかった。
辺りを観察していると、ここはなだらかな坂の多い所だと気づいた。ゆるやかな上り坂から、ゆっくりと下り坂にもなる。かと思えば右へ地面が傾くこともあった。そして、何度も上り下りを繰り返し、長い時をかけてやっと地平線が見えるようになる。ここに来た人達が町に戻れなかったのは、太陽を手がかりに戻ろうとしても、坂によってあらぬ方向へ移動してしまうからなのだろうと二人は思った。
迷いやすい場所だが、コンパスを持っている二人にとってはそれほど危険な場所ではない。ジルはバイクの速度を上げた。
太陽の光が鈍くなる時にテントを張り終えると、ジルは地図を広げ、アウラーと一緒に地図を見た。
「私たちは今どのあたりにいるの?」
「この地図は描かれてる範囲が広すぎるからだいたいの場所しかわからないけれど、たぶん僕たちはここにいる」
ジルが指差した所は、世界全部を載せた地図の中でも一際目立っていた。青や緑で色づけされた地図の中で、そこだけは真っ白に塗りつぶされていたからだ。
「色のない場所。つまりまだ誰も通ったことがない場所。それがここなんだ!」
ジルが興奮気味に言う。『未知』と『一番』、それらはジルの心の中を熱くさせるのには十分な要素だった。アウラーも同じく、目を輝かせて拳を握っていた。
再び地図を確認する。ジルはおそらく二人の現在地であろう場所から地図の右端までを指で距離を測った。
「もうここまで進んだんだ」
「この端のあたりが、ジルが住んでた村?」
「そう。ここから少しずつセンターに近づいていったんだ。もうこんなに遠い所まで来ちゃったんだね」
「それじゃあ私はどのあたりにいたの?」
「今までのペースを考えると、ここじゃないかな?」
「ここ?」
ジルが示した場所に、アウラーも指を差す。そしてアウラーも同じように、今指差した場所と現在地の距離を測った。
「それじゃあこれが私の進んだ距離ね」
「うん。こうして見ると、意外と長い時間を一緒に過ごしたんだなと思うよ」
「つい昨日のことみたいに感じる?」
「そうだね」
時間を忘れそうになるとジルは思った。二人で旅をすることがこんなに楽しいものだったのかと、ここで初めて感じた。アウラーもまた、外の世界の旅の出会いや発見を楽しんでいると、こんなに時間が経つのが早いのかと思った。そして、その喜びは、二人が共有することでさらに大きくなっているのだとも思っていた。
その後センターまでの残りの距離も確かめ、二人は眠りについた。
ジルははっと目を覚ました。珍しく寝覚めが悪いと思ったジルは、朝日を浴びるためにアウラーを起こす前に外に出た。
「えっ!?」
まだ夢を見ているのかと思ったジルは、目を擦ってもう一度辺りを見渡す。
何も見えない。
「アウラー、アウラー起きて!」
すぐさまテントに戻りアウラーを起こす。アウラーも寝覚めが悪いのか、なかなか起き上がろうとしない。
ようやく目覚めたアウラーも、外の景色を見た瞬間に驚愕した。
「何、これ」
「僕も何がなんだかわからないんだ」
「……真っ白」
周囲は、いつの間にか真っ白な霧で覆われていた。寝ている間に、霧は空の青ささえ確認できない濃さになっていた。とりあえずテントを片付け、出発の準備をする。
「大丈夫。こんな時のコンパスだ。これさえあればセンターの方向を差してくれる」
コンパスを取り出し、行き先を確認する。しかし、コンパスの針はセンターの方向を差し示すことなく右へ左へ揺れていた。しばらく静止していても、針は何かに惑わされたかのようにゆらゆら動き続けている。
「こんなの初めて見た。どこに行ったらいいかわからない!」
こうして戸惑っている間にも、霧は少しずつ濃くなっていく。二人が事態の対処に戸惑っている間に、気づけば遠くの地面も見えなくなってしまっていた。
「あの地図の色は、この霧のことだったのか!」