散髪と料理
「お前、その髪どーしたんだよ?!」
「どうもしないわよ。ただ髪のびたから切っただけでしょ?なに焦ってんの?」
驚く俺に夏希はそう言うが、あれほど長くしてきた髪の毛をそんな簡単に切っても良いものなのか?
しかし、見慣れない彼女の髪型を見ていると、新鮮すぎるのが逆に笑えてくる。
「そりゃ、今までずっと伸ばしてたからさ、少しビックリした……もしかして、お前しっ――― ……やっぱなんでもねぇわ」
お前失恋でもしたのか?
ギリギリその言葉を飲み込んだ。俺には、冗談でも言ってはいけない言葉である。
笑い話は、つい思考が鈍っていつも話す時のノリになってしまう。
夏希には、もっと言葉を選ばないといけないのに...
すると、夏希が口を開く。
「そんなことより、もう5時過ぎてるし夕御飯作るから、買い物袋かして!」
夏希はそう言うと、俺の手に持っているスーパーの袋をひょい、と奪った。
「は?いやいや、いーから待ってろよ。俺の方が料理できんのにお前にやらせる必要ねーよ」
そして、俺も夏希から袋を奪う。
「うっさい!ご馳走になるんだからこの位させてもらわないと。それに私だって上手くなってるわよ!」
からのまた、袋を奪われる。
何だコレ?
あーだ、こーだやっていること10分間
結局、夏希が作ることになった。
× × ×
「いやー、普通に美味かったな。お前いつの間に上達したんだよ」
「...なんか、春也に褒められてもあまり嬉しくないわね」
口ではそう言ってるものの、夏希の顔はにやけていた。
満更でもなさそうだ。
しかし、ここまで成長してるとはな生姜焼きのレベルは俺を越えてたな...
俺が洗い物を終えると、夏希はソファーから立ち上がって口を開いた。
「さてと、じゃあ私帰るね」
時計を見ると、すでに8時40分だった。
「おう、気を付けてなー」
「わかってるわよ!春也こそ戸締まりしっかりね」
「なんだよ、それ」
俺が笑いながら言うと、
「お邪魔しましたー」と自宅へと帰っていった。
その後、俺は入浴を済ませてから少し勉強をして、特にやることもなかったので早めに就寝した。
× × ×
「へぇ、転校生さんのうちって、お前の家の近所なのか」
「すごいね、春也。僕なんて藤宮さんに話しかけても無視されたよ」
翌日の昼休み、俺は友人二人と昼食をとりながら昨日の藤宮との帰り道の話をしていた。
「てことは、俺の家からも案外近いなー」
この金髪は、中学からの親友の、大門 翔琉。
容姿も良く、スポーツも出来て、勉強が得意ではない以外はかなりのスペックの持ち主だ。
「それより翔琉、お前の頭なんだよ校則ユルいからって金はねーだろ。」
俺がそう言うと、
「本当ビックリしたよ、夏休み開けたら翔琉が不良になってるんだもんね~」
すると、もう一人の友人、佐倉 健人が口を開いた。
ケントは高校からの友人で、おっとりとした優しい性格をしている。野球部に所属していて、一年生ながらレギュラーだ。
そして、背がとても高く、本人曰く今も成長しているらしいが、190センチメートルもある。
「不良じゃねぇよ!それよりさ、今週末の祭りどーする?」
「…あぁ祭りか、今年も夏希と行くかもな」
俺は毎年、祭りは夏希と行っていたので、そう答えた。
「そっか、山寺さんと行くのか。春也、仲良いしね。」
健人がそう言ったところで、昼休み終了の予鈴が鳴ったので翔琉は自教室に戻り、俺達も自分の席へ向かった。
× × ×
帰りのホームルームも終わり、鞄に荷物を詰め込んでいると、隣から声をかけられた。
「ねぇ、春也君…」
その方を向いてみると、声の主は藤宮だった。
「藤宮じゃん、どしたの?」
俺はさりげなく呼び捨てで呼んでみた。
「今日も、道案内お願いしていい? 」
……またですか?
心の中でそう呟いた