道案内は近所付き合い
「ここへは、どうすれば着くのでしょうか?道を教えて下さい」
「……」
藤宮に道を聞かれた俺は、彼女を見つめながら少し黙ってしまった。
すると藤宮は、また俺に声をかけてくる。
「あの、同じクラスの人……ですよね?」
彼女は無表情で、そう言った。
「あ、あぁ、そーだけど。藤宮……さんだよね?俺のこと覚えてんの?」
「まぁ、あれだけ見つめ合っていたら顔くらい覚えますよ。今もでしたけど……何か私の顔に付いてます?」
藤宮の口から「見つめ合っていた」そんな言い回しが出てきて、少しドキッとしてしまう。
さらに、表情の薄い彼女に見られていると、何故だか余計恥ずかしくなってきた。
「いや、何でだろうな……」
つい、目を逸らしながら言ってしまった。
今回は俺の敗けだな...
「はぁ、そうですか。あの、それより……」
ん?あぁ、道聞かれてたんだった。すっかり忘れてたわ。
「そっか、道案内ね。とりあえずメモ貸してみ」
俺はそう言って藤宮からメモを受け取ると、藤宮と一緒に歩き出した。
歩きながらメモを見てみると、俺の家の近くに目的地はあった。
「えーと、藤宮……さん。この書いてある場所、俺の家から結構近いんだけど、なんかの用事?」
見たところ鞄も持っているし、帰宅はしてないのか。
「私の家が在るところです」
「え?すげぇ近所だな……てか、家までの道わからないの?方向音痴的な?」
「まぁ少しだけ……。見慣れた道なら迷わないんですけど、引っ越してきたばかりで……」
へぇ、近所で引っ越しがあったなんて気付かなかったな。
「それは大変だな。いつ引っ越してきたんだ?」
「一昨日この街に着いたんです。学校は近いのですぐ覚えましたが」
「ふーん。そっか」
しかしあれだな、この子は敬語で話してて疲れないのだろうか。
「てゆーか、藤宮さんタメ語でいいよ。疲れるだろ?」
俺がそう言うと、藤宮の雰囲気が少しだけ変わり、彼女は小さく溜め息をついた。
「ほんと? 正直大変だったの」
彼女はあらたまった言葉遣いを止めて、俺は少し安心した。
やはり気を使わせてみたいだ。
「あー、ごめんね。気が付かなくて。藤宮さん表情薄くてうまく分かんなかった」
「よく言われる。そのせいで私前の高校じゃ友達あまりいなかったの。まぁ、転校しちゃったから必要ないんだけど」
たしかに、このポーカーフェイスは近寄りがたい。だから皆も途中から話しかけるのやめてたのか
「あ、ついた..」
しばらく会話をしていると、藤宮宅に着いた。
そこで藤宮はこちらを向き、口を開く。
「....えと、ありがとう」
藤宮は俺にお礼を言い、ぺこっと頭を下げた。
「ん、どーいたしまして。...てゆーかさ、」
そこで俺はさっきから疑問に思ったことを、つい聞いてしまう。
「俺の名前、わかる?」
「......エンドウ、さん?」
藤宮は少しためてから、頭に??とハテナを浮かべながら、そう言った。
「やっぱ、知らなかったんだな...。 吉田 春也、俺の名前だよ。忘れんなよ?」
少しだけ遅い自己紹介を俺は済ませた。
「じゃあ、吉田 春也君これからよろしくね」
藤宮は微笑みながら言った。
いや、厳密にはきっと無表情で笑顔ではないのだろうが、俺には笑っているように感じる。
初めて、藤宮の気持ちが分かった気がして嬉しかった。
家の中に入ってく彼女を眺めてみる。
そして、
今一瞬だけ感じた感情を、胸の一番奥深くにしまった。
× × ×
「ただいま~」
誰もいない家に何故かいつも言ってしまう。
俺は、警察官をしている両親の仕事の都合で、高校に上がる直前から一人暮らしをしている。
……はずなのだが、
「...お帰りー」
....もう一度言う、俺は一人暮らしだ。
一瞬疑問もあったが、誰の声かは大体予想がついていた。
とりあえず、声のするリビングの方へ言ってみる。
すると、
「遅すぎ、春也!」
「は?!え?!どうしたんだよ、お前....」
そこには、あれほど長くしていた茶髪を肩ほどの高さまでバッサリ切った、
山寺 夏希が、ケータイをいじりながらソファーに座っていた。
俺が、驚きながら彼女を見ていると
「へへっ、切っちゃった!」
今度は本当の笑顔で、そう言われた。
今回は千秋とたくさん話せました!