きっかけ×2
夏希に好意を抱かれてるのに気付いたのは、中学二年生の夏の事だ。
中学一年生時の俺は、今とは違って周りには出来るだけ明るく接したり、気を遣ったりしていた。
その甲斐あって、俺には友達が増えて、多分だがクラスの中心的存在だった……と思う。
その為か、たまにクラスで仲の良い女子から告白されたりしたが、俺は一度も彼女を作らなかった。
中学二年になると、それは無くなった。
理由は、夏希と一緒にいる時が増え、付き合ってる噂が立ったからだった。
恋愛に全く興味が無いわけではなかったが、その頃の俺は友達と遊んでいたかったので、告白など好意を寄せられることは正直迷惑だった。今思えばなんて贅沢な話だろう……。
そこで俺は、夏希と一緒にいれば付き合っていると勘違いされて、皆が諦めてくれるのではと思い、登下校や学校の休憩時間など、なるべく夏希と一緒にいた。
しかし、それも中学生の考え。たかが知れていた。
夏希と付き合ってる噂がガセだと皆が気付くのは早かった。
そして、
「私、吉田のこと好きなの。夏希と付き合ってないならさ、私と付き合およ」
二年の夏、クラスメイトの女子から告白された。
「返事は今度でいいからさー。じゃね~」
そんな、一方的な告白だった。
しばらくすると、出所は告白してきた彼女だろう。自クラスや隣のクラスなどでは「告白された噂」から「付き合ってる噂」まで盛られた噂が広がっていたのだ。
それはもちろん夏希の耳にも入っていたようだが、俺は告白を断り、皆にも勘違いを説明すると噂はすぐに無くなった。
しかし、ある日の帰り道。
いつも通り夏希と一緒に帰っていた。だが、この日の夏希は少し変だった。
いつもなら、会話をしながら俺に嫌味のひとつでも言ってくるのだが、やけに大人しく静かで俺と少し距離を取りながら歩いている。
夏希の家の前に着くと、彼女は口を開きこう言った。
「私じゃ、春也の役に立てなくて……ほんとに、ごめんね」
それだけ言うと、夏希は自宅の中へ入っていった。
何も言えなかった。
夏希は、俺が女子達を避けるための道具のように、彼女を使っていたことに気が付いていたのだ。
そして、それに文句も言わずに付き合ってくれていたのは、
夏希が俺のことを好きだから。
今まで、彼女から薄々感じていたものは、確信へと変わった。
それと同時に、そこまで自分を想っていた彼女を利用していた事に気付いた俺は、激しい罪悪感と自己嫌悪に襲われた。
放心状態で動けなかった俺の耳に聴こえるのは、夏の五月蝿い、蝉達の声だけ。翌日からは夏休みだった。
その年の夏休みは、一度も夏希に会わなかった。
× × ×
下校中に夕飯の買い物をして、スーパーからの帰り道。
永瀬に言われた言葉のせいで、少し嫌な昔話を思い出してしまった。
今では夏希とも話せるし、もう大丈夫だろう....あれ?
そんなことを考えていると、前方にうちの高校の制服を着た女子生徒がいた。
なにやらメモの様な紙を片手に、きょろきょろしている。
俺の通る道だが面倒事が嫌いな俺は、構わずスルーしようとした。
だがbutしかし、
「あの……」
あらら、後ろから声をかけられてしまった...
無視するのもあれだしな、しょうがないか。
「はい、なんでしょう?....って、あれ?」
俺は体ごと振り向いてみると、少し見知った顔がそこにあった。
綺麗な長い黒髪に白い肌。キリッとした瞳。 一度にらめっこしたあの子だ。
そして、メモ用紙を俺に見せながら...
「ここへは、どうすれば着くのでしょうか?道を教えて下さい」
転校生、藤宮 千秋は迷子らしいです。
やっと二人のヒロインとの会話出来ました!