睨めっことツンデレ
「じゃあ、藤宮さんの席はあそこね」
転校生の藤宮 千秋が自己紹介を終えると、担任は一番後ろの空いている席に指を差す。
その席は通路を挟んだ、俺の隣の席だった。
藤宮がその席に向かって歩いてくるのを、俺は頬に杖を立てて見ていた。
彼女が席に着くと、こちらを向いて軽く会釈をしてきた。
俺はそれに「よろしく」と返す。
その際に何気なく藤宮を眺めていると、こちらを向いた彼女と目が合った。
そこで俺は何を思ったのか、目を逸らさずに彼女の少しつり上がった、睫毛の長い綺麗な目を見つめていた。
――しかし、こう改めて見るととても整った顔立ちをしているな。
そんなことを考えていると藤宮のほうから目を逸らしてくれた。
その時、何にかはわからないが俺は、何故か少しだけ勝った気分になった。
× × ×
その後、転校生にはよくある質問攻めのイベントに、藤宮は苦戦していた。
きっと大勢の人に囲まれるのは苦手なのだろう。
しかしそれ以外は、特に目立つ出来事は無く放課後になった。
「春也、どうしたの? さっきから藤宮さんのことばっかり見て」
鞄を持って、立ち上がった時に夏希から声をかけられた。
「いやー、ちょっと気になってさ」
隣の席であそこまで喧しくされたら、そりゃ気になるだろうと思い、俺はそう言った。
すると、夏希は何を勘違いしたのか
「何、あんた藤宮さんに惚れちゃったの? やめとけば? 雰囲気だけ頑張ってイケメンにしようとクールぶってる春也じゃ釣り合わないわよ」
と俺を馬鹿にした様に言う。
そうですか。俺は周りからそんな風に見られているのか...。何か悲しいな。
すると、
「そうかなー? 私、吉田くんまぁまぁ格好いいと思うな。友達とかよく吉田くんの話してるよ?」
と夏希の横から、髪の毛の短な女子生徒が顔を出した。
夏希の友達。クラスメイトの、永瀬 渚だ。
「へぇ、マジで?俺ってそんなモテんの?」
「うん、割とね~。告白したりする子はいないだろうけど」
永瀬はそう言うと、視線を夏希の方へスライドさせた。
なるほどな、俺と夏希がよく一緒にいるからか。コイツのこと狙ってる男子もいるだろうしな。
すると、夏希が口を開いた。
「やめよ渚ちゃん、あまりそんなことばかり言うとコイツ調子のっちゃうよ」
いやいや、俺が調子に乗ったところでどーなるんだよ。
「またまた~、そんなこと言ってると吉田くん他の子に取られちゃうよ~?例えば、転校生ちゃんとかに」
「ちょっ、別に私と春也はそんなんじゃないって。ただ家隣なだけだから」
夏希は、「アンタも勘違いしないでよね」と、俺を睨んできた。
「も~、ツンデレなんだから~」などと永瀬が茶化していると、夏希が、「うるさい! もう帰るから!」と言い、教室のドアへと向かう。
すると、途中で足を止めて夏希がこちらを振り向いた。
何、どうした?と俺が聞くと夏希は口を開き
「……今日、親が帰り遅いから、アンタの家にご飯食べ行くから。……それだけ! また後で!」
と顔を赤らめて言うと、教室からいそいそと出ていった。
「さてと、俺も帰るわー。じゃあな永瀬」
「あ、待って。吉田くん、ちょっといい?」
俺が帰ろうとすると永瀬が引き留め、こっち来てと手招きをして来た。俺が永瀬に近付くと
「少し屈んで耳かして」と言われ、俺は彼女に耳を向けると永瀬は小さな声で
「夏希の気持ち気付いてるんでしょ?あの子なかなか素直になれないから、ちゃんと向き合ってあげてね」
と、そう呟く。
その言葉を聞いた瞬間、俺は少しだけ胸が痛んだ気がした…。
「それじゃ、私も帰るね」
永瀬はそう残すと俺に手を振り、教室から出ていった。
人が少なくなった教室に残された俺は、不意に隣の席を見る。
そこには、藤宮千秋の姿は、もう無かった。
2話目です!話が進まん!