まだ三人
俺と藤宮は特に会話も無く、上手く時間を潰せずにいると、テーブルに置いてあった自分の携帯電話がバイブ音を鳴らした。
ケータイを確認すると、一件のメールが届いていた。
内容を見ると、俺はケータイをスボンのポケットにしまう。
「誰からだった? 」
藤宮が聞いてくる。
「……彼女が『別れよう』だってさ」
「……面倒な嘘つかないで。…夏希、何だって? 」
俺が答えると、藤宮は溜め息混じりに言う。
気付いてんなら聞くなよ…
メールは、藤宮の予想通り夏希からだった。
「いや、少し遅れるってさ」
「夏希、なんかあったの? 」
「永瀬と健人が電車で来るんだけど、俺の家知らないから駅まで迎えにいくんだと」
そーいえば、俺の家来たこと無いって言ってたな。それなら俺に聞けば良かったのに。
段取りの悪い奴らめ……いや、俺が教えなかったのも悪いか。
「……二人とも家遠いの? 」
メール内容を伝えると藤宮は問いてきた。
「あぁ。健人達は電車通学だよ。知らなかったのか? 」
「へぇ、そうなんだ。」
藤宮が知らないのも無理はないだろう。
何せ、健人も永瀬も野球部に所属しているので朝練がある。ゆえに、二人と登校時間が被ることはない。
ピンポーン
家のインターホンが鳴った。
もう誰が来たのかは予想がつく。
「……翔琉だな。ちょっと行ってくるわ」
藤宮にそう告げると、俺は部屋を出て玄関へと向かった。
× × ×
「たっだいま!」
予想通り玄関にいた翔琉は、訳の解らないことを言ってきた。
「何でだよ。馬鹿かお前」
「いやいや、中学ん時よく来てただろ? だから『ただいま』なんじゃねーか。お前こそ馬鹿か」
「……行くぞ」
呆れて溜め息をついた。
翔琉の意味不明な言葉に、少し苛つきを感じたが、ツッコミを入れても面倒になりそうなので何も返さず部屋へと向かう。
「お、藤宮ちゃん! ……と、あれ? 他のやつは? 」
「あぁ、かくかくしかじかでな……」
「成る程。ちゃんと教えろ春也」
部屋に入った翔琉の質問に適当に答える。
その時、俺と翔琉の馬鹿馬鹿しい会話を聞いたからなのか、藤宮が後ろを向いて吹き出していたことは秘密だ。
「夏希が駅まで二人を迎えにいくから遅れるんだって」
いつもの顔になった、藤宮が翔琉に答えた。
「あー、そーゆーことね。じゃあ、まだ三人だけど先に勉強始めてようぜ」
翔琉は、持っていた鞄を置いて藤宮の向かいのソファに座り、勉強道具をテーブルへ出した。
珍しいな翔琉が率先して勉強するなんて。
「どうしたんだよ。妙にやる気じゃん」
そう言いながら俺は翔琉のとなりに座る。
「いやね、今勉強教えてもらってる奴がいてさ、点数悪いと申し訳無いじゃん」
そこまで言うと、翔琉は、
「約束もしたしさ……」
そう続けた。
「お前なんかに勉強教える奴いたのか。どんな人だよ」
「んー、まぁあれだよ」
照れくさそうに少しだけ微笑むと、翔琉は言う。
「……俺の、好きな人だな」
「…なんだよ。お前も彼女いるのかよ」
「違うって、付き合ってねーんだよ。……一回フラれたし」
翔琉のその言葉を聞いて俺は黙る。
なにせクラスの女子に毎度のように集られてる翔琉がフラれたなど予想もしていなかった。
ていうか、藤宮さん。さっきから翔琉の話しに夢中で喋らないですね。
「…皆が来るまで、ちょっと話しでもするか」
それに気づいたのか、翔琉がノートを開きながら言った。
この一ヶ月の間にあった、翔琉とある女子生徒の話を
とても楽しそうに、彼は語っていた。
18話です!
長ったらしくて長々先に進めないのは辛いですが、頑張っていきます。
次回はちょっと書きたかった翔琉の恋愛についてです。