二人
ある週末のお昼前。今さっき目を覚ました俺は台所にいた。
今日は俺の家で勉強会を行うことになっているが、集合の時間までは約一時間程度ある。
だが、たった一人
既に俺の部屋には、座布団の上で無言のまま、御手本の様な綺麗な正座をしている者が居る。
どう考えても約束していた時間までは間がありすぎる。……が、客に対して何も出さないのも悪いと思った俺はコーヒーを淹れることにした。
部屋に戻り、自分の分を含めたコーヒー二つをテーブルに置き、片方を彼女の前に差し出す。
そしていつも通り、「無」の表情のまま俺にこう言う。
「……私、ブラック飲めない……」
俺は今、藤宮千秋と部屋で二人きりです。
× × ×
「それで? 何でこんな早く来たんだよ 」
「……皆で勉強会とか楽しみで、少し早く家出ちゃった」
「やめろよ。冗談だろ? 」
「……事実だけど? 」
藤宮の向かいに腰を下ろしながら聞くと、彼女は俺が持ってきた牛乳をコーヒーに足しながら答えた。
「だとしても、この時間に来ても誰も来てないのくらい分かってただろ。俺ら二人きりじゃねーか」
「家にいても暇だし、話し相手いた方が時間つぶれると思って……。迷惑だった? 」
藤宮は不安そうな顔をするが、そうではない。
出会って一ヶ月そこらの男子の部屋に一人で上がり込んだ事に抵抗は無いのか、遠回しに聞いたのだが上手く伝わらなかったようだ。
「……藤宮って案外天然か? 」
俺はまだ少し暑いコーヒーに息を吹きかけて軽く冷まし、啜りながら小さく尋ねる。
「……そんな、全然鈍くないよ」
藤宮は答えるとこう続けた。
「例えば、今こうやって二人きりで部屋にいて春也に私が襲われるかもでしょ? 」
予想外の言葉に思わずコーヒーを吹き出してしまった。
「だっ……は?! い、いや! べ、別にそんなん考えてねーから! 」
動揺した俺は自分でも驚くほど、何を言ってるのか解らないくらい噛みまくった。
すると、藤宮は赤面しながら口を開く。
「……焦んないで。それこそ冗談だよ」
そう小さく呟くと彼女は両手でマグカップを持ち、コーヒーを飲みながらそっぽを向いた。
「あー……だよな。わりぃ」
「いや、こちらこそ……」
なんか久々にビビったな…
ていうか、真顔でそんなこと言われても冗談とか分かりにくいだろ。
もっと口下手だと思っていた藤宮の予想外の言葉に、少しだけ彼女の印象が変わった。
しばらく二人とも沈黙していると、藤宮はマグカップをテーブルに置く。
「……意外と部屋とか綺麗に整理してあるんだね。男子の部屋ってもっと散らかってると思った」
藤宮は俺の部屋を見渡しながら言った。
「まぁ、いつもはもっと汚いんだけどな」
今日は部屋に人を入れるわけなので、俺は昨日のうちから掃除をしておいていたのだ。
……てか、整頓するほど物も置いてないんだけどね。
そして、また二人とも無言の状態が続く。
俺は変に格好をつけながら、たまに冷めかかってるコーヒーに口をつける。
『可愛い女子と部屋で二人』
健全な高校生男児なら誰もが羨むようなシチュエーション
その一人である俺も、緊張や興奮などの感情を必死に隠しながら、この状況を楽しんでいた