病み上がりの登校
あーあ、今日は学食か……
そんなことを考えながら家のドアを閉めた。
遅く起きてしまったため今日は弁当を作っていない。だが、それは俺が寝坊した故の自業自得だ。
「全く、無駄な仕事増やすんじゃないわよ! 」
「実はそれが本職だったりなー」
「反省してんの? 」
「……まぁ、それなりに? 」
俺と夏希は、少し急いだ足取りで会話をしていた。
しかし、昨日の事もあり何気に恥ずかしい。
夏希は普段通り俺に接しているが、自分の方が不自然になっていないかと、つい不安になってしまう。
しばらく無言が続いたが、学校の近くになり、歩く速度が通常になったところで俺は口を開いた。
「なぁ、夏希……」
「なに? 」
夏希は俺の方を向かずに聞いてくる。
「泊まりで看病させて悪かったな。……あと、昨日のやつ、ごめん……」
「……別に、気にしてないわよ」
俺は、
「そうか……」
とだけ呟く。
多分、気にしてないわけではないのだろう。こいつなりに、なるべく気まずくならないように気遣ってくれたのだ。
夏希は俺に優しすぎる。そして俺は、彼女の優しさに甘えている。
この関係を変えなければ、また夏希を傷付けてしまうかもしれない。
いっそこいつのこと、好きになれたらいいのにな……
そんな要らないことを考えてしまった。余計に一緒にいるのが気まずくなってしまう。
「……わり。ちょっと先に行くわ」
俺はそう言って、駆け足で校舎へ向かった。
× × ×
「よう春也! 生きてたか」
いつも通り騒がしい教室に入ってすぐに、大門 翔琉に声をかけられた。
「クラス違うのに毎回よく来るなお前。暇人か? 」
「いや、教室にいると女子達が周りに寄ってきてさ……」
「……なにそれ? 嬉しいじゃん」
「他人事だと思いやがって」
「とても他人だろ? 」
そんな話しを翔琉としながら自分の席へと向かう。
「あっ! 吉田君だー。おはよー! 」
「春也、風邪治ったんだね」
その途中、藤宮の席に集っていたクラスメイトの永瀬と健人が、俺に気づき挨拶をしてきた。
「おー、おはよ」
俺もそれに返す。
藤宮も席についているのだが、こちらを見たまま口を開かなかったので、
「よう、藤宮」
と挨拶をした。
そして藤宮は、ようやく声を出した。
「……大丈夫だった? 」
「すげー熱出たわ。今は全然平気だけど」
「そう……。よかったね」
「まぁな。そーいえば、メール寄越してくれてありがとうな」
「……うん」
礼交じりの短い会話だったが、相変わらず藤宮は無表情だった。
ここ一ヶ月笑ったところ見てねぇな…
「ところで吉田君。夏希は? 」
「あー、後にいるからもうすぐ来るんじゃねぇの? 」
俺が永瀬の問いに答えると、朝のHR直前のチャイムが鳴る。
「じゃあ俺教室戻るわ。また後でな」
翔琉はそう言って教室から出ていった。それに続いて、健人と永瀬も自分の席へと向かう。
それらを眺めていると、教室に急いで入ってくる者達の人混みの中に、夏希の姿を見つけた。
藤宮もそれに気づいたようだ。
「…夏希遅かったね」
「あ、ちーちゃんおはよ」
夏希は藤宮に挨拶をすると、俺に先に行った理由も聞かずに席につく。
少しすると教室に一人の女性教師が入ってきた。
担任の、大竹先生だ。
教卓までたどり着くと、大竹先生が話し始める。
「―――ということで、二週間後は中間テストですから皆さんしっかり勉強しておいてください」
俺達には、高校での三度目の定期テストが迫っていた。