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自分の想い


河原に来ると案の定、多くの人で賑わっていた。

俺達は人の波を掻き分けながら、やっとやっと進む。


「うっわ歩きづらーい。凄い人だね....。ちーちゃん大丈夫?」

「...うん、なんとか」

藤宮は何かと歩き難そうだった。

背低いから人混みに埋まる感じになってるな


「はぐれても悪いしな。...藤宮、俺のシャツの裾でも掴んでろよ」


こんなところで迷子にでもなられたら困るし、若干方向音痴な藤宮なら尚更だ


だが藤宮は、

「ううん。平気」

「あー、そっ..か...」

あれ?なんか呆気なく拒否られたな...


断られたことに少しショックを受けていると、夏希にシャツの袖を掴まれた。


「....どうした?」

「えっと、別に。....私は、はぐれたりしたくないから」

俺が聞くと少し俯きながら、夏希はそう言った。


「そうか...」

俺は短く返し、人の間を縫うように抜けていった。



× × ×



「あー、やっと着いたな」


やっと人混みを抜けると、夏希は俺のシャツの袖をぱっと放す。


「...ありがと、春也」

「おう。藤宮も大丈夫だったか?」

後ろからついてきていた、藤宮に声をかける。


「...ちょっと、足疲れたけど大丈夫」

「そっか、あんま無理すんなよ」


ここから人が少なく歩きやすい並木の近くを通って、ベンチへ向かうことになる。


「なんで祭りとか花火とかって、こんな疲れるのに来ちゃうんだろうねー」

「そう言われると、大した理由もないかも...」

二人は歩きながら、そんな会話をし始めた。


「他人はどうかわかんねけど、取り敢えず俺は、皆が行くものだから自分も行くっていう感じがするんだよな」

「あー、常識になってるって訳ね。わからなくもない」

俺がそう答えると、夏希も少し共感したみたいだ。


「まぁ友達とかと一緒にいて、雰囲気とかで気分も上がって楽しいっていうのが一番合ってそうなんだけどな」


ここにいる大概の人は、屋台や花火などへの興味もあるが一人で来ようとは思わないのだろう。


やはり祭り等は複数で来て、思いで作りの一環となるのが普通の考えなんだろうな


「あっ!ねぇねぇ空いてるベンチあったよ!」

少し考え事をしていると、夏希がベンチを見つけたようだ。


「お前ら先に座ってろよ。俺そこの自販機で飲み物買ってくるわ。何か飲みたいのあるか?」


喉も乾いたので俺がそう聞くと、

「じゃあ私、お茶飲みたい...」

「んーと、紅茶ね私。無かったら任せるわ」


「おー、わかったわー」

俺はそう言い、ベンチの近くにある自販機へ向かった。



「...えー、と」

藤宮がお茶で、夏希が紅茶...

案外品揃えがいいな。どっちも有りやがる


すると、自販機に金を入れたその瞬間、間もなく花火が打ち上げられるとアナウンスが流れた。


俺は急いで、自分の分と注文されたペットボトル飲料を三本買い、ベンチにいる二人のもとへと行く。



× × ×



ベンチへ戻ると、二人は座りながら何か話しているようだったが周りが喧しく、二人の声は上手く聞き取れなかった。


「おまちー。買ってきたぞ」

声をかけると二人とも俺に気付いて、会話を止めた。

夏希が俺の方を向く。

「あっ、春也サンキューね」


俺は、夏希と藤宮にペットボトルを渡してベンチに腰を掛けた。


「なんか、今日奢って貰ってばかりでごめんね...」

「いんや、別に気にしてないよ」

藤宮に謝られ、俺はそう答えた。


「確かに女子に物を買ってあげるのは、気分を悪くすることでもないから。まぁ、男相手なら俺が奢らせてるところだったけど」


冗談に近い、そんな言葉を呟いた。


すると、藤宮が口を開いた。

「...私、ついこの間引っ越してきたばかりだけど、今この三人でいるのちょっと心地良い...」


真面目な会話の雰囲気で察し、俺と夏希は沈黙してしまう。

その言葉は、きっと藤宮の本音だと思った


だが、それも "多分" の話だ。


人が口にしているすべての言葉が、心から言っているとは限らないのだ。本人すら気付かずに建前を言ってしまうこともあるのかもしれない。

今俺の隣にいる夏希や、その隣の藤宮の感情でさえ確信を持って「本音」か「嘘」なのか答えることは難しい。


気持ちを知りたい


そう思いながらも、俺自身も嘘をついていて、自分の考えすら曖昧になってしまって、いつも逃げてしまう


でも...それでもいつか覚悟を決めて、彼女に自分の気持ちを伝えよう



夜空に放たれた、一発目の大きな花火


三人、無言でそれを眺めながら、

俺は決心をした。









やっと一章が終わりました。

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