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暗黒騎士物語(なろう版)  作者: 根崎タケル
第6章 魔界の姫君
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道化師

◆剣の乙女シロネ


 もうすぐ夜になる夕暮れのヴェロス王国の王宮前の大広場には篝火が焚かれ、広場を明るくしている。

 その広場には多くの人々が集まっている。

 集まった人達の多くは武装した戦士である。

 戦士達は広場の中央にいる私達を囲むように集まっている。

 目の前にいる女の子を見る。

 綺麗な赤毛をポニーテールにした活発そうな子だ。

 女の子の名はカリス。

 ビキニアーマーを着た、戦いの女神アマゾナを信仰する戦士である。

 片手用の戦斧を肩に担ぎ、不敵な笑みを浮かべている。

 私は彼女との勝負を受ける事になってしまった。

 最初は断ろうと思ったけど、どうしてもと頼まれて断れなかったのである。


「お嬢――――! 頑張れ――――!」

「応援しているぜ! カリスお嬢――――!!」

「カリスお嬢―――――!!」


 半裸のいかつい戦士達がカリスを応援する。

 おそらく彼女の父親である赤熊アルカスの配下の戦士だろう。

 傍から見ても力と戦いの神であるトールズの戦士である事がわかる。

 戦士達の応援にカリスが手を振るとさらに歓声が上がる。

 彼女は戦士達にかなり人気があるようだ。

 カリスは中々可愛い子だ。

 しかも、男性が喜びそうなビキニアーマーを着ている。

 実際にカリスを応援する男達の中には好色な視線を向ける者もいるようだ。

 だけど当の本人は気付いていないのか無邪気な笑みを浮かべている。


「シロネさ~ん。頑張って~」

「頑張るっすよ。シロネさん」

「頑張って~。シロネさ~ん」

「頑張れよ。シロネ」


 仲間達が私を応援する声が聞こえる。

 私は仲間達の方に手を振って応える。

 今の所、私を本気で応援してくれているのは仲間だけのようだ。

 一応他にも私を応援してくれている人はいるようだけど、それは賭けの対象としてだ。

 取り巻きの戦士達からどっちに賭けるかという声が聞こえる。

 私に賭けた戦士が私に勝ってくれるように応援しているのだ。

 賭けの対象として応援されても、はっきり言って嬉しくない。


「えへへへへ。勝負を受けてくれてありがと。初めてなんだ。同年代の女の子で戦士の子と会うのはさ」


 カリスは嬉しそうに語りかける。

 この世界では女性戦士の数は少ない。

 私は彼女を応援している戦士団を見る。

 見事に男ばかりだ。もしかすると彼女には同年代の女の子の友達がいないのかもしれない。

 少しだけ彼女が可哀そうに思えた。


「それじゃ! 行くよ―――!!」


 カリスが斧を構えると私に向かって来る。

 速い。

 あっという間に背中を取られる。

 カリスが斧の刃の付いていない方で私を殴ろうとするのを感じる。

 観客から「おーっ!!」と歓声が上がる。

 だけど、そんな簡単に勝負が決まるわけがない。

 私は少しだけ動く。


「えっ?」


 斧を振るったカリスの驚く声。

 当然だ。絶対に当たると思っていた一撃が空振りに終わったのだから。


「こなくそぉう!!」


 カリスはそのまま私の周りを素早く動くと、縦横無尽に斧を振るう。

 だけど、その全てを避ける。

 全ての攻撃を避けられたカリスが一旦私から離れる。


「すごいや、全く攻撃が当たらない」


 カリスが嬉しそうに言う。

 負けているのに何だか楽しそうだ。


「本気で来ても良いよ。受け止めてあげるから」


 私は腰を落すと剣を抜く構えをとる。本当なら剣を使わなくても勝つ自信がある。

 だけど、少しだけ本気を彼女に見せたくなったのだ。


「本当に? じゃあ本気で行くね」


 カリスが笑いながら言うと、彼女の肌の刺青が血のように動き出す。

 獣の霊感だ。

 アマゾナの戦士もトールズの戦士と同じように獣の霊感を得る事ができる。

 カリスはかなり若く見えるのに、既に獣の霊感を得ているとは思わなかった。

 カリスの瞳が猫科の動物のように変化する。

 おそらく、彼女が得たのは豹の霊感なのだろう。

 熊や狼程の力は無いが、素早く、しなやかになる。

 獣の霊感は使い続けると暴走して狂戦士バーサーカーとなる危険性がある。

 だけど、暴走する前に終わらせるつもりだ。


「はあああああああああ!!」


 豹の霊感を得た彼女が動く、先程の動きの3倍は速い。

 カリスは縦横無尽に広場を走り回る。

 観客から驚きの声が上がる。

 この世界の普通の人なら、この動きを見切る事はできないだろう。

 だけど、私になら見切る事も可能だ。

 カリスの斧が私に迫る。

 私は少し体を横に動かすと、彼女の動きに合わせて抜剣する。

 そして、交差する私達。

 カリスの手から離れた斧が、交差した私達の間に落ちる音がする。

 その次の瞬間カリスが倒れた気配を感じる。

 観客から大きな声が上がる。

 戦いは私の勝利で終わったのだった。






◆赤熊の戦士団の団員レムス


 赤熊の戦士団が逗留している館の一室に僕ら2人はいる。

 部屋は広く、寝台が1つ置かれている。

 王様がカリスのために用意してくれた部屋だ。

 カリスはこの部屋を与えられてとても喜んでいる。

 まるで、前に僕が読んだお伽話のお姫様になったようだと言っていた。

 僕達は普段は野外で生活している。

 そのため、こんな立派な寝場所は無い。だから、それに比べたら、お姫様と言っても過言ではないだろう。

 僕は寝台に腰かけてカリスの傍らにいる。


「大丈夫? カリス?」


 僕は先程まで寝ていたカリスに声を掛ける。

 カリスは剣の乙女との戦いに負けて倒れてしまった。

 あの強いカリスが全く敵わなかった事に衝撃を受ける。

 カリスは強い。

 大人の男の戦士にだって負けはしない。

 同じ戦士団でカリスよりも強いのは団長ぐらいだ。

 僕と同じ歳なのに既に一流の戦士としての扱いを受けている。

 まあ、この場合は僕がひ弱すぎるのだろう。


「大丈夫! 大丈夫! レムスは心配性だな~」


 カリスが心配ないと状態を起こすと僕に手を振る。

 実際にカリスの体の状態を見たけど、特に外傷は無かった。

 おそらく剣の乙女は手加減をしてくれたのだろう。


「それなら、良いのだけど……」


 大丈夫だとわかっていてもカリスを心配せずにはいられない。


「ふっ、ふ~ん」


 そんな僕の様子をカリスは楽しそうに眺める。


「な?なんだい? カリス? 僕の顔に何かついてる?」

「別に~。それにしても強かったな。あたしと同じ女の子であんなに強い子がいるなんて思わなかったよ。レムスの言うとおり世界は広いね」


 カリスは負けたのにあまり悔しくなさそうだ。

 きっと、自分よりも強い女の子がいる事が嬉しいのだろう。

 僕もカリスよりも強い女の子がいるなんて思わなかった。

 カリスは初めて出会った時からすごく強かった。

 初めて会った時の事を思い出す。

 カリスと出会ったのは3年前。

 魔物に国を滅ぼされ逃げてさまよっている所をカリスに拾われた。

 つまり、カリスは僕の命の恩人なのである。

 僕はそれ以来、赤熊の戦士団の一員として働いている。


「そうだね。世界は広いね」


 僕とカリスは笑い合う。


「そう言えば、みんなはどうしたの?」


 カリスは周りを見て言う。


「ああ、それなら、みんなお酒を飲みに行ったよ。ここにいる間は王様が全ての食事を用意してくれるからね」

「そうなんだ。レムスは行かないの?」

「僕は留守番。下っ端だからね」


 ひ弱な僕は戦士団で一番下っ端だ。

 主に戦士団の雑用ばかりさせられている。

 戦士団では強い者が偉い。戦えない弱い奴は下に置かれる。


「レムスが下っ端か……。レムスは字が読めて、頭が良くて、団の役に立っているのに……。やっぱり納得いかない。今度オヤジに言ってみるよ」


 カリスが真剣なまなざしで僕を見る。

 戦士団で字が読めるのは僕だけだ。

 それなりに裕福な家に生まれた僕には読み書きを学ぶ機会があった。

 だから、僕は赤熊の戦士団の書記のような事もしている。

 もっとも評価されているとはいえない。

 それがカリスには不満なようだ。

 ちなみに、字を読める者は他にもいたけど待遇が悪くて団を抜けてしまったりする。


「いや、いいよ。カリス。僕は今の立場に満足している」


 僕はカリスを止める。

 そんな事をすれば戦士達が反発するだろう。カリスの立場を考えればやめるべきだ。


「そう、レムスがそう言うなら……」


 それでも、カリスは不満そうだ。

 何とか機嫌を良くしてもらいたい。


「そうだ。昨日、この国で売っていた本を手に入れたんだ。すごく面白そうだからカリスにも聞かせてあげるよ」

「ホントに?! じゃあ聞かせてよ」


 カリスの瞳がキラキラと輝く。

 戦う事しか教えられなかったカリスにとって僕の本で得た話はとても面白いらしい。

 カリスは自分の知らない世界が有る事をとても知りたがる。

 まるで、子供みたいだ。

 本の内容を教えているうちに僕達はとても仲良くなった。

 カリスが僕の隣に座る。

 露出の多い格好をしているので肌が腕に当たってドキドキしてしまう。

 僕のそんな様子を気にせず、カリスは僕の話を今か今かと待ちわびる。

 そんなカリスを僕は愛おしく見つめるのだった。




◆黒髪の賢者チユキ


 夜になり闇の帳がヴェロス王国を覆う。

 ヴェロスの王宮前の広場では篝火が焚かれ、出店がならんでいる。

 まるで、ちょっとしたお祭りだ。

 王宮のバルコニーの下から見える広場では戦士達が馬鹿騒ぎしているのが見える。

 治安を維持するために巡回している騎士や兵士達はとても大変だろう。

 王であるエカラスは護衛を連れて戦士達の様子を見に行っている。そのため、ここにはいない。ご苦労な事だ。

 ちなみに私達はそのまま王宮に残り歓待を受けている。

 豪華な食事とお酒が振る舞われ、綺麗な踊り子が私達の目を楽しませる。

 吟遊詩人が歌い、勇者を讃える歌を響かせる。

 私達はゆっくりと食事とお酒を楽しむ事にする。


「お疲れ様。シロネさん」


 私はカリスとの戦いを終えたシロネに労いの声をかける。


「確かにチユキさん。ちょっと疲れたかも。怪我をさせないように気を付けなくちゃいけなかったから」


 シロネは果実酒を飲みながら私に言う。

 そう言えばシロネは手加減をするのが苦手だったような気がする。

 カリスは今頃大丈夫だろうか?


「ねえ、あの子、大丈夫かな?」


 私と同じ事を考えたのかリノが心配そうな声を出す。


「確かにそうっすね~。もしかして今頃死んでいるかもしれないっすよ」

「ちょ! ちょっと! みんな! ちゃんと手加減したってば! 大丈夫に決まっているよ!!」


 シロネが慌てて抗議の声を出す。

 するとリノとナオが笑い出す。

 私も少し笑う。シロネの慌てる様子が面白かったからだ。


「リノもナオもあんまりシロネをからかうなよ。シロネが可哀そうだろ」


 レイジは給仕の綺麗な女性から果実酒を受け取ると2人を窘める。


「本当にそうだよ! レイジさん! もっと言ってあげて!!」


 シロネがふくれて言う。


「あの女の子なら大丈夫に決まっている。俺はシロネの腕を信じているからな」

「レイジ君……」


 シロネがレイジの言葉に感動する。

 全くこいつは口がうまい。

 私は用意された軽食を箸で摘まむ。

 摘まんだのは白身魚のフリッターだ。

 揚げたてのコロモがサクサクして美味しい。

 突然、外から歓声が上がる。

 外を見ると、広場の中央で道化師達の一団が曲芸をしている。

 エカラスが呼んだのだろうか?


「わ~。何だか楽しそう」


 リノがバルコニーから身を乗り出して道化師達を見る。


「へえ、中々良い動きをするじゃないか」


 レイジが道化師の動きを褒める。

 道化師達は飛び跳ねて、空中で何度も宙返りをする。あんな動きは常人には不可能だ。

 かなり訓練を積んだに違い無い。


「あれ? 何か出てきたっすよ?」


 ナオが指差すと観客を掻き分けて剣を持った白い衣装を着た道化と黒い衣装を着た道化が出て来る。

 すると、もっとも派手な衣装を着た道化師が高らかに歌い出す。

 その声は良く響き、ここまで良く聞こえる。


「黒い嵐と共に悪魔の軍勢来たる~♪率いる者は気高き暗黒騎士~♪」


 すると黒い衣装を着た道化が踊り出す。

 おそらく、あの道化は暗黒騎士に扮しているのだろう。


「光の勇者が挑むれど~♪強い暗黒騎士には敵わない~♪」


 白い衣装を着た道化が、黒い衣装を着た道化に叩きのめされ始める。

 白い道化は滑稽な様子で黒い道化から逃げ出し始める。

 その姿の面白さに観客達が笑い出す。


「ちょっと!! これ!!」


 道化師の即興劇を見ていたシロネがその劇の内容に大声を出す。

 そうだ、道化師達の劇はレイジを馬鹿にしたものだ。


「光の勇者は気高き暗黒騎士に追いかけられて逃げ惑う~♪」


 派手な衣装を着た道化師が楽しそうに歌う。

 その派手な衣装の道化師を中心に黒い道化が白い道化を追いかける。

 白い道化は情けない姿で泣く動作を交えて逃げ惑う。


「何よあれ! レイジさんを馬鹿にしているじゃない!!」


 リノが怒ったように叫ぶ。


「落ち着いてくれみんな! それにしても何者だ一体?!」


 レイジはバルコニーから飛び道化師の元へと向かう。私達も慌てて追いかける。

 広場に降りると観客達が驚き道を空けてくれる。

 私達を確認すると道化師達は劇をやめてこちらを見る。


「これはこれは、光の勇者様。初めてお会いするね~。僕は道化のザンド。即興で作った劇はどうだったかな~」


 一番派手な衣装を着た道化師が私達に一礼する。


「なかなか面白い劇じゃないか?で?どういうつもりだ?」


 レイジが笑いながら聞く。

 顔は笑っているが、これは相当怒っている。


「決まっているじゃないか~。君を馬鹿にしてるんだよ~」


 ザンドと名乗った道化がそう言うとレイジが剣を抜く。

 その動きは一瞬だった。ザンドの首がぽとりと落ちる。

 それを見た観客から悲鳴が上がる。


「ちょっと!!レイジ君!!いきなり殺す事は無いんじゃない!!」


 これでは情報が聞き出せない。


「酷いなぁ~。いきなり首を飛ばすなんて~」


 しかし、道化は何事も無かったかのように首を拾うとそのまま元の位置に戻す。

 そういえば血が吹き出していなかった。生物ではないのかもしれない。


「今気が付いたっす! ずっと監視していたのはお前っすね! その気持ち悪い感じは忘れないっす!!」


 ナオがザンドを指差す。

 どうやら、ここ最近私達を監視していたのはこいつだったようだ。

 それが、ようやく私達の前に姿を現した。


「そうだよ~。君達が中々こないからね~。クーナ様はとてもお怒りだよ~。きゃははははははは」


 何が可笑しいのかザンドは狂ったように笑い出す。


「クーナ……。ふうん、貴方。あの子の使いなの?」


 シロネが前に出て剣を抜く。

 眼には見えないが怒りのオーラが吹き出しているようだ。


「くくくく、そうだよ~。クーナ様は僕の女神様なのさ~。ハアハアハア~。クーナ様ぁ~」


 首は楽しそうに空を舞う。息遣いが気持ち悪い。


「チユキさん。すごく気持ち悪いよ」


 リノが私の背中に隠れる。


「ええ、私も同じ気持ちよ」


 私は道化のザンドを見る。こんな気持ち悪い奴を配下にしているなんて、やはり白銀の魔女は邪悪に違い無い。


「クーナ。あの時にあった銀髪の子の事だな。その美女が俺を待っているなんて光栄だ。すぐに行くと伝えてくれ」


 レイジが不敵な笑みを浮かべる。この状況を楽しんでいるようにも見える。


「もちろんだよ~。御菓子を用意して待ってるよ~。でも、もしこれ以上遅くなったら、この国の人間はこうなっちゃうかもね~。きゃはははははは」


 そう言うとザンドとその配下の道化達が空へと浮かび上がる。

 浮かび上がった道化達は膨れ上がる。

 今にもはじけそうな状況に下にいた観客達が逃げ出す。

 すると道化達の体がクラッカーのようにはじける。

 中から出てきたのは沢山のリボン。

 どうやら道化達は全て生き物では無かったようだ。


「はやく来てね~。待っているよ~。きゃははははははははははは」


 何も無い空中にザンドの声が鳴り響く。

 私達はその状況に茫然とするしかなかった。


メリークリスマス。

本当はイブの夜に投稿するつもりがうまくいきませんでした(_TдT)


次回は来年になるかもしれません……。

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