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暗黒騎士物語(なろう版)  作者: 根崎タケル
第6章 魔界の姫君
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アマゾネスの少女

◆黒髪の賢者チユキ


 ヴェロス王国は人間世界の最北の国家群で一番の大国だ。

 この周辺の王国のほとんどが貧しいのにも関わらず、このヴェロスだけは繁栄している。

 ヴェロスの2重の城壁は人間の街を守る城壁と農地と果樹園を守る。

 普通の国では、城壁は住居を守るのが精いっぱいで城壁外の農地を守る城壁を作る余裕は無い。

 そのため、魔物の多いこの世界では安心して農作業をする事は難しい。

 だけど、ヴェロスには農地を守る城壁があるので、他の国に比べて安心して農業をする事ができる。

 それが、この国を繁栄させているのだ。

 また特産品のヴェロスの果実酒は遠く聖レナリア共和国でも愛飲されている程に人気だ。それも、またヴェロスが繁栄している理由だろう。

 今私達はヴェロスの王宮に来ている。

 普通の一般人なら王様に会うのは難しいかもしれないが、レイジは女神レーナに選ばれた勇者である。

 そのため来訪を告げると、あっさりと面会を許可が下りた。

 私達は王宮の来客用の部屋に通される。

 備え付けられた長椅子には柔らかい羽毛が詰められていて、とてもふかふかだ。

 王宮に仕える侍女たちが飲み物を持って来てくれる。

 飲み物はヴェロスの果実水だ。

 少し甘酸っぱい果実水は喉越しが良く飲みやすい。

 私達はくつろぎながら王様を待つ。


「結局、ここに来るのに時間が掛かったね。チユキさん」


 長椅子に寝転んでいるリノがあくびをしながら私に言う。


「そうね。リノさん。本当に遅くなったわね」


 そう言いながらシロネを見る。

 シロネは遅くなった事に不満があるのか、不機嫌になっている。


「まさかゼンテア王国で騒動に巻き込まれるとは思わなかったっすからね~」


 ナオは意味ありげな視線をレイジに向ける。


「仕方が無いだろう。俺は勇者なんだ。困っている人がいたら助けないといけないだろう?」


 レイジが悪びれずに言う。


「レイジ君の場合は、困っている人じゃなくて、困っている美女でしょ」


 嫌味っぽく言う。

 私達はヴェロス王国に行く途中で立ち寄ったゼンテア王国の姫の頼みで、魔物退治をする事になってしまったのである。

 魔物は簡単に倒せたが美しい姫の頼みでゼンテア王国にしばらく滞在する事になった。

 私達は数日をゼンテア王国で過ごし、この国に来るのがさらに遅れてしまった。

 そのおかげでシロネは機嫌が悪くなってしまった。


「そうは言っても困っていたのは確かだったんだ。放ってはおけない」


 そう言ってフッっと笑う。

 全くこいつは……。私は額を押さえる。

 文句を言おうとした時だった。王の来訪を伝える声がする。

 返事をすると、扉が開かれ、この国の王であるエカラスが入って来る。

 前よりも太ったのではないだろうか?しかし、いかにも人の良さそうな所は変わっていない。

 そして後ろには王妃のコルフィナが付き従っている。

 この夫婦は前に来た時も仲が良さそうだった。

 それは今でも変わらないようだ。


「ようこそ、勇者様方。お久しぶりですな」

「お久しぶりです。勇者様方」


 エカラスとコルフィナが礼をする。


「お久しぶりです。エカラス王陛下」

「久しぶりです。コルフィナ王妃」


 私とレイジが礼をする。


「久しぶりです。黒髪の賢者殿。ところで勇者様達はどうしてここに? 何か御用が有って来たようですが?」


 エカラス達は客室に供えられた椅子に座ると私達に尋ねる。


「ああ、その事なのですが、実は……」


 御菓子の城の白銀の魔女の事を説明する。


「なんと!!それでは蒼の森の異変は、その魔女の仕業では?!!」


 私の説明を聞くとエカラスは驚き大声を出す。


「蒼の森の異変?」

「はい。実は最近、蒼の森で異変が起こっているようなのです」


 エカラスが説明してくれる。

 最初の事件が起こったのは2ヶ月前。

 蒼の森の奥地に住む魔物達が街道に出没するようになったのだ。

 最初は一時的なものだと思ったらしい。

 しかし、街道に現れる魔物数は増えるばかりで減る様子は無い。

 しかも、今まで見た事も無い蟲の魔物までも姿を見せるようになり、エカラス達は蒼の森で何かが起こっている事に感づいたのだ。

 一応王国に所属する野伏レンジャーが探索をしようとしたが、危険すぎて近づけ無かったらしい。

 野伏レンジャーは危険な森等で狩猟や薬草採取を行う、野外活動のエキスパートだ。

 彼らは魔物と戦う事を生業としているわけではないが、誰よりも森を熟知している。

 その野伏達が近づけないとなると、よほど森は危険な状態になっているようだ。


「それでは、どうしようも無いですね……」

「はい。しかしながら、何もしないでいる事も不安に思いましたので、自由戦士達を集めて、探索隊を作り森へ派遣しようと思っていた所だったのです」


 私はなるほどと頷く。何もしないわけではないようだ。


「なるほど……。それで、街で自由戦士を多く見かけたのですね」


 実は王宮に来るまでに以前に比べて自由戦士の数が多く見かけた。

 ヴェロス王国にも自由戦士はいるだろうが、あれほどの数はいないだろう。

 おそらく、高額な報酬に釣られて、この国に来た自由戦士達に違いない。

 言い方は悪いが自由戦士はこの世界における傭兵だ。

 自国の市民である騎士や兵士に比べて危険な仕事をさせやすい。

 それに今の所、この国の存亡に関わる程の被害は出ていない以上、騎士団は動かしにくい。

 だから、自由戦士を向かわせるのだろう。

 エカラスは良い人間かもしれないが、自国の市民の為ならば冷酷な判断をするのかもしれない。


「はい。私共は10日程前から自由戦士達を集めています。名簿には既に約三千人の方々が登録してくれているのですよ」


 エカラスが嬉しそうに言う。

 横で聞いていたリノとナオがほへ~と驚きの声を出している。

 この世界において三千というのはかなりの大軍だ。

 聖レナリア共和国やアリアディア共和国ならともかく、この貧しい国の多い地域では、これほどの人数を集める事は難しいだろう。


「かなりの大軍ですね……。さすがはヴェロス王国といったところですね」

「いえ、これだけの人数を集める事ができたのは、他の国の王族の方々の協力があったからです。蒼の森に隣接しているのは我が国だけではありませんから……」


 どうやらエカラスは戦士募集の告知を他国に依頼したみたいだ。

 他国も蒼の森で異変は他人事ではない。

 だから、エカラスに協力したみたいである。


「そうですか、他の国も異変に気付いているのですね」


 私の言葉にエカラスは頷く。


「これだけの戦士が集まり、また勇者殿も来てくれたのですから、きっとすぐに問題は解決するでしょう」


 そう言うとエカラスは楽しそうに笑う。


「ああ、任せてくれ」


 レイジが何時もの余裕なセリフを吐く。

 しかし、私にはいつものような余裕を感じられない。

 おそらく自信がないのだろう。こんなレイジは初めて見る。


「おお、さすが勇者殿だ。頼もしい」


 エカラスはレイジの様子に気付かないのか楽しそうに言う。


「そうですわ。あなた。勇者様に自由戦士の方々を紹介されてはいかがでしょう?」


 それまで黙っていたコルフィナが提案する。


「そうだな。おーい、確か赤熊殿が宮殿に来ていたはずだ。呼んで来てくれないか」


 エカラスが部屋の外に控えている従者に誰かを呼んでこさせる。

 しばらくして、扉が開かれ1人の男と1人の女性が入って来る。

 男はいかにも戦士と言う風体の大男だ。

 半裸の体に熊の毛皮を被っている。

 おそらく、戦いの神トールズを信仰する獣戦士なのだろう。剥き出しの上半身には赤い刺青が描かれている。

 戦いの神トールズの信徒は鎧を身に付けずに戦う。

 ナオが言うにはトールズの戦士をゲームのクラスで例えるなら、バーバリアンかバーサーカーだそうだ。

 そして、後ろにいる女性はトールズの娘である女神アマゾナを信仰する女戦士だろう。

 なぜそう思ったかというと彼女はビキニアーマーを身に付けていたからだ。

 アマゾナの信者は宗教上の理由からビキニアーマーを着る。そのため、その信徒はわかりやすい。


「紹介します。彼は赤熊の戦士団の団長アルカス殿。そして、そのご息女のカリス殿です」


 エカラスが2人を紹介する。


「俺はアルカス! 仲間からは赤熊と呼ばれている! 光の勇者の噂は聞いてる! あんたに会えて光栄だ!! がはははははははは!!!」


 大男である赤熊は豪快に笑う。


「赤熊殿はこの近辺で高名な戦士です。赤熊殿には戦士団のまとめ役をお願いしているのですよ」

「そんなに褒めねえでくれ王様。さすがに光の勇者には負けるぜ」


 赤熊は照れ臭そうに言う。

 でかい図体の割に繊細な神経をしているのかもしれない。

 私は赤熊の娘であるカリスを見る。

 父親に似ず、なかなか、可愛い子だ。

 年齢は私達とリノやナオと同じぐらいに見える。

 しかし、腕に見えるいくつもの傷は、彼女が既に戦士としての経歴を積んでいる事を物語っている。

 少し癖のある赤毛を後ろにまとめていて、すらりとした伸びやかな肢体はとても素早そうである。

 だけど、少し胸のボリュームが足りないように思う。腕を除きビキニアーマーだけを身に付けているので可哀そうな事になっている。

 カリスはじっとシロネの方を見て少し笑っている。

 その笑みには少し含みがあるように感じる?

 私が疑問に思っていると突然カリスが前に出て来る。


「ねえ、あんたが剣の乙女なんだろ? あたしと手合せしてくれない?」


 カリスはシロネを指差して言い放つ。

 突然の事に私達は言葉が出ないのだった。


カリスとの戦闘まで書こうと思いましたが、長くなりそうなので次回に持ち越しです。

アマゾナの信徒のイメージは赤ソニアだったりします。

折角ビキニアーマーの設定を作ったのだから、それを着たキャラを出そうと思い作りました。



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