仲間達と乾杯(外伝エピローグ)
◆リジェナ
「これはリジェナ様。今日はどうされたのですか?それから後ろの方々は?」
家に入ると太ったトルマルキスさんが頭を下げる。
その顔を見ると溜息が出そうになる。
この男は問題を起こしてくれた。
「こちらの方は法の騎士であるデキウス様です。そして、その後ろにいるのは魔女狩人の方々ですよ、トルマルキスさん」
私が紹介すると、頭を下げているトルマルキスさんの体がビクンと震える。
「あっ……。あの、なぜ法の騎士と魔女狩人がここへ?」
トルマルキスさんが顔を上げながら言う。
その顔からは、大量の汗が流れ落ちている。
「何故だと? それは、お前自身が知っているのではないのか?」
魔女狩人の1人が前に出て来る。
魔女狩人達は全員が違う恰好をしている。中には普通の市民と変わらない者もいる。
理由は人間社会の影に潜む魔女に気付かれないためだ。
まあ、当たり前だろう。私は魔女狩人ですとわかりやすい恰好をすれば、魔女に逃げられてしまう。
「な、何の事だ?! 私は何も知らない!!」
トルマルキスさんは目に見えて狼狽して、後ろに下がる。
「魔女狩人の皆さん。この家の持ち主である私が許可します。家探しをしても良いですよ」
私がそう言うと、魔女狩人達は、ずかずかと家の中へと入って行く。
法の騎士は明確な証拠が無ければ強制捜査ができない。魔女狩人にはそもそも捜査権が無い。
しかし、どちらでもあっても、家の持ち主が認めたら捜査する事は可能である。
これで、この家の地下室にある、魔術師の研究所は発見されるだろう。
「待って下さい!!」
デキウス卿が叫ぶ。
目の前ではトルマルキスさんが殴られている。
「何ですかな? キリウスとかいう魔術師の話では、この男が有罪なのは確実。邪悪な魔術師を匿ったのだ。このような仕打ちは当然だろう?」
「確かに彼は罪を犯したかもしれない! しかし、アリアディア共和国では裁判をせずに、罰を与える事を認めていない! 君も神王オーディス様に仕える者ならば、定められし法を守りたまえ!!」
「ふん、それは健全な市民に対するもののはずだ。このような者に法を適用する必要があるとは思えないがね」
デキウス卿と魔女狩人が目の前で言い争う。
魔女狩人が来たのは失敗だった。
本当はデキウス卿だけを連れてくる予定だった。
しかし、どこから話を聞きつけたのかは知らないが勝手について来たのだ。
おそらく、魔女狩人と通じている者がオーディス神殿にいる。
そうシェンナさんが言っていた事は本当だったのだろう。
今後、注意しなければならない。
何故なら私も魔女狩人から見たら魔女である。
もっとも、世の中の人間が私をどう思おうがかまわない。
例え魔女と呼ばれようが、愛しい旦那様の使徒になれたのだから。
私は暗黒騎士である、旦那様を思い出す。
旦那様に会いたい。
旦那様の事を思い出すだけで体が熱くなる。
今度会いに行けないだろうか?そんな事を考える。
しかし、今は目の前の事を片付けなければいけないだろう。
目の前ではトルマルキスさんが豚のような悲鳴を上げていた。
◆シズフェ
「ありがとうございます! 戦乙女シズフェ様!!」
愛と美の女神であるイシュティア様の神殿の一室で、サルミュラさんが私に頭を下げる。
「いえ、フィネアス君が無事で良かったです」
私は手を振ってサルミュラさんに応える。
あの後、シェンナさんから事件の背景を聞いた。
デキウス様が捜査していた薬はハーピーの体液を原料にしているらしい。
薬を作っていたのは件の魔導師。
そして、その体液を得るためにワルラスはハーピーと取引をしていたようだ。
何て奴らだ。
「あの、報酬ですが、本当によろしかったのですか?」
サルミュラさんが申し訳なさそうに言う。
「ああ、報酬は別に良いですよ。サルミュラさんから受け取れません。貰いすぎになってしまいます」
実はリジェナさんから迷惑料として大金を貰ってしまったのだ。
何でも魔導師に薬を作らせていたのは、リジェナさんの部下だったらしく、迷惑料はその為である。
だから、サルミュラさんから報酬は受け取れない。貰いすぎになってしまう。
「それでは私はこれで、仲間達が待っていますから」
私は席を立つ。
後ろではサルミュラさんが、何度もお礼を言っている。
私はイシュティア様の神殿を後にすると近くの飲食店に入る。ここで仲間達が待っているはずだ。
ちなみに、ここは友人のジャスティが働いている店でもある。
「遅かったな、シズフェ。待ちくたびれたぜ」
先に来ていたノヴィスが待ちきれないとばかりに私に言う。
「ごめん、ごめん。それからサルミュラさんが貴方に、お礼を言っていたわよ。戦士団を紹介してくれて、ありがとうって」
「フィネアスの事か? いいって事よ。若い戦士を鍛えるのは、先輩戦士の務めだからな」
ノヴィスはニッっと笑う。
フィネアスはノヴィスの紹介する戦士団へと入団する事になった。
その戦士団は戦神トールズ様を信仰する戦士団で、厳しいが真っ当な戦士団らしい。
正直に言えば、華奢なフィネアス君がやっていけるとは思えない。悪いけど、直ぐに死んでしまいそうだと思う。
しかし、これはフィネアスの希望である。
何でもノヴィスみたいに、なりたいらしい。
彼が筋肉ムキムキの戦士になる姿は想像できない。
「みんな~。飲み物と料理を持って来たわよ」
給仕のジャスティ達が飲み物と料理を運んで来る。
「よっ! 待ってました!!」
ケイナ姉が料理を見て喜ぶ。
「さあ、シズちゃん。みんなが待っているよ」
マディの言葉で私は立ち上がる。
続けて仲間達も立つ。
そして、私は仲間達を見る。
ケイナ姉。
マディ。
レイリアさん。
ノーラさん。
そして、ノヴィス。
私は依頼が終わるたびにいつも思う。
ここにいる仲間達がいたから、ここまでやって来れた。
だから、祝杯を挙げる時は、いつも感謝している。
「さあみんな! 杯を高く掲げて! 依頼が成功した事を祝いましょう!!!」
私が言うと仲間達が杯を高く掲げる。
「乾杯!!」
私が言うと仲間達がそれに応える。
「「「「「乾杯!!!!!」」」」」
シナリオ終了。シズフェ達は経験点を得られます。
これで外伝は終了です。自由戦士を主人公にした話を書きたいと思って、外伝を作りました。
いかがだったでしょうか?
次は第6章。モデスの娘がいよいよ登場です。




