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暗黒騎士物語(なろう版)  作者: 根崎タケル
外伝ハーピークエスト
89/195

ハーピーに売られた少年

◆シズフェ


「我が名はケライア。偉大なる風の眷属である。我らが王子を連れ去ろうとする貴様達は何者だ?」


 ケライアと名乗るハーピーが私達を見降ろしながら言う。

 ハーピーは女面鳥身、つまりは顔から胸までが人間の女性で、翼と下半身が鷲である。

 非常に素早い魔物だ。そして、別名で「掠める者」とも呼ばれている。

 そのハーピーが目の前にいる。

 ハーピーがいるだろうとは思っていたが、実際に会うとどうして良いかわからなくなる。


「なぜ、何も答えない? むっ?」


 ケライアの視線がノヴィスへと向く。


「もしや、お前らも我らに王子を提供しに来たのか? しかし、駄目だ。その男は成長しすぎている。どうせ、連れて来るなら線の細い可愛い子を連れて来い」


 ケライアは首を振って答える。


「別に鳥女に好かれたいとは思わないが、何かムカつくな」


 否定されたノヴィスが不機嫌そうに言う。

 いくら好きじゃない相手とはいえ、拒否されたら嫌な感じがするのは仕方がない。


「確か、ハーピーの生態をまとめた本によると、ハーピーは本能で攫いやすい少年を好むらしいよ」


 マディが説明する。

 なるほど、確かに攫うなら重い大人よりも軽い少年の方が楽だ。

 ハーピーは本能的に、線の細い可愛い少年を好むのだろう。

 何てぜいたくな!!!!

 しかし、気になる事を言う。

 今、ハーピーはお前らもと言った。もしかして……。いや、やはりフィネアスは攫われたのではない。ハーピーに売られたのだ。

 では誰が売ったのか?そんなのはわかりきっている。


「ごめんなさい。ケライアさん。ちょっとした手違いで、連れて来る子を間違えたの、だから、今そこに、いる子を返してくれないかな? 後でもっと良い子を沢山連れて来るから」


 私はとっさに嘘を言う。


「何? しかし、お前はこの子を連れて来た者と違うではないか」


 さすがにすんなりとは騙せないか。


「後でワルラスさんが説明するわ。私達は先にその子を受け取りに来たの」


 これでどうだ。

 私が言うとケライアが目を瞑る。

 そして、数秒の後、突然目を開く。


「駄目だ。お前から、かすかな敵意を感じる」


 しまった。敵意を感知されたか。

 ケライアが翼である両腕を広げる。


「みんな! 武器を構えて! 来るよ!!」


 私が叫ぶと全員武器を構える。

 突然ケライアの姿が消える。


「シズフェ!!!」


 ケイナ姉の叫び声。

 咄嗟に体を右に捻る。

 肩が痛い。

 私は右肩を見ると皮の肩当てが斬り裂かれ、そこから血が出ている。


「ううっ……」


 肩を押さえる。

 危なかった。以前の私なら首を掻き切られていただろう。


「大丈夫ですか? シズフェさん!!」


 そう言ってレイリアさんが治癒魔法をかけてくれる。


「ほう、避けたか。手始めに貴様の首を落してやろうと思ったのだがな」


 ケライアが空中を飛びながら嘲笑する。


「はあっ!!」


 ノーラさんが弓を放つ。

 しかし、ヒラリと躱される。


「ふん! そんな矢があたるか! これでも喰らえ!!」


 ケライアが翼を羽ばたかせる。


「みんな! 私の後ろに!!」


 次の瞬間、ケライアの翼から羽が矢のように飛んで来る。

 その羽矢フェザーアローは私の作り出した盾に阻まれる。


「ほう。やるな」


 ケライアの感心した声。

 その顔には余裕がある。何だか馬鹿にされている気分だ。


「おい、どうするシズフェ。ああも空を飛ばれていたら、俺の剣は届かねえ」


 ノヴィスの焦っている声。さすがのノヴィスも剣の届かない相手にはどうすることもできない。

 どうすると言われても、私だってどうすれば良いかわからない。


「貴様らのような、地べたを這うしかないメス共に空を舞う高貴な種族が負けるものか」


 ハーピーは高らかに笑う。


暗闇ダークネス!!」


 笑っている所をマディが魔法を放つ。


「なぬっ!!」


 ケライアの驚いた声。


「嘘?! 効いたの?」


 マディが驚く。

 そういえば今回の依頼で、マディの魔法が役に立ったのはこれが初めてかもしれない。

 ケライアはふらふらと飛びながら周囲を旋回する。


「くそが!! よくもやってくれたな!! 覚えていろ!!」


 さすがに目が見えない状態では戦えないだろう、この場から飛んで逃げる。


「やったよ!!私の魔法が役に立ったよ!!」


 本人もわかっている事だがマディの魔力は弱い。そのため、魔法が相手に効かない事が多い。

 だからこそ、うまくいって喜んでいるのだろう。不憫な子だ。


「やったじゃねえか! マディ!!」

「すごいですわ! マディアさん!!」

「やるじゃないか!!」

「さすがマディだ」

「えへへへへへへへ。本でハーピーは闇に対する耐性が弱いって書いてたけど、こんなにうまくいくとは思わなかったよ」


 ケイナ姉とレイリアさんとノーラさんとノヴィスに褒められてマディが喜ぶ。


「やったじゃないマディ。でも、みんなそろそろフィネアス君を助けてあげましょ。ハーピーが戻って来たらまずいわ」


 私の言葉でみんなが現実に戻るのだった。






「大丈夫ノヴィス?」


 頭上ではノヴィスがフィネアスを背中に括りつけながら縄を伝って降りて来ている。


「大丈夫だ、シズフェ。こいつ軽いから」


 ノヴィスは下にいる私を見てニッっと笑う。

 程なくして2人は降りてくる。


「大丈夫、フィネアス君?」


 フィネアスに駆け寄る。

 フィネアスは線の細い男の子で、顔立ちも女の子みたいである。


「はい、何とか。一応僕は大切にされていましたから……」


 ハーピーは捕えた少年を大切にする。

 しかし、ハーピーと人間では生活の環境が違いすぎるのだ。

 ハーピーの生活圏で人間が生活するのは厳しすぎる。

 その事はハーピーもわかっているらしく、なるべく山の麓に監禁したりする。

 しかし、それでも人間にとっては厳しいものになるだろう。

 ノヴィスのような頑健な体を持った者ならともかく、こんな線の細い女の子みたいな少年では耐えられないに違いない。

 現にフィネアスはかなりやつれている。

 彼が攫われてから1週間以上が経過している。着ている服もボロボロだ。

 体調も悪いみたいだ。急いでアルム王国に戻った方が良いだろう。


「ノヴィス、フィネアス君を抱えて。急いで戻るよ」

「ああ、わかった。ちょっと我慢しな」


 そう言ってノヴィスはフィネアスを抱える。


「すみません……」

「別に構わねえよ。今更文句は無い。ただし、お前は立派な戦士になれ。困っている人がいたら、それを守れる男にな」


 ノヴィスはニッっと笑ってフィネアスに笑いかける。

 基本的にノヴィスは気のいい男だ。

 ここまで来て今更文句は言わない。


「はい、わかりました。僕はあなたのような立派な戦士になります」


 フィネアスがはっきりと答える。ノヴィスの言葉に感動したようだ。

 しかし、フィネアスの頬が少し赤くなっている。

 何だか少し妖しい雰囲気だ。


「みんな行くよ」


 私達は急いで来た道を戻る。

 そして、夕方頃には巨人の遺跡へと戻って来る事ができた。


「みんな!!」


 巨人の遺跡を前にしてノーラさんが私達を止める。


「どうしたの? ノーラさん?」


 私はおそるおそるノーラさんに聞く。


「待ち伏せだ。例の奴らだろうな」


 その言葉に私達は全員目配せをする。


「みんな。武器を構えて」


 私が言うとみんなが武器を取る。


「あの、どうしたのですか?」


 ノヴィスの背中から降りた、フィネアスが不安そうな声を出す。


「多分、この先にワルラス達が待ち構えているの」

「!!」


 フィネアスが小さく悲鳴を出す。


「だ?! 団長がですか?!」

「そう。あなたをハーピーに売った人達」


 謎だった。

 なぜ、あんな人里に近い所にハーピーはフィネアスを捕えていたのだろう?

 なぜ、フィネアスを捕えていた所まで簡単に行けたのだろう?

 フィネアスが捕えられていた場所は人間の国から近すぎた。

 だが、攫われたのでは無く、同じに人間に売られたのなら話は別だ。

 むしろ、人間が来やすい場所である事に意味がある。

 おそらく、あの場所はハーピーと取引する場所だったのだ。


「隠れてないで、出てきな! お前らがいる事はわかっているぞ!!」


 ケイナ姉が巨人の遺跡に向かって叫ぶ。

 すると、武装した男達が14、5人程出て来る。

 その男達の中心に居る者を見る。

 間違いなくワルラスだ。その少し後ろには魔導師キリウスが立っている。

 船の中で見かけた、少年はいないようだ。


「ふん! バレちゃあ、仕方がねえな。まあ、エルフがいるのなら、ごまかせねえ。それにアトラナ様から貰った黒妖犬ブラックドッグを倒すとはな」


 やはり、あの黒妖犬ブラックドッグはワルラスの配下だった。

 おそらく、他の者がフィネアスを捕えている所に、行かないようにするための門番だったのだろう。

 あの場所に行くためには、巨人の遺跡で野営をするのが普通だ。


「やっぱり貴方が、フィネアス君をハーピーに売ったのね?」

「ああ、そうだぜ、戦乙女のお嬢ちゃん。それにしても、そんな何の値打ちもねえ餓鬼を助ける奴らがいるとはな、とんだ物好きがいたもんだ。こんな事なら、そいつの母親にハーピーに攫われたと言わずに、魔物に喰われたと言えば良かったぜ。そうすりゃ誰も探さねえ。俺もまだまだ甘いな」


 ワルラスがフィネアスを見ながら、にやにやと笑う。

 後ろを見るとフィネアスはワルラスの視線から逃げるように私達の背中に隠れる。

 それを見て、私の中から怒りが込み上げてくる。


「ちょっと待ちなさいよ! 同じ人間でありながら、同じ人間を売るなんて何を考えているの!!」


 そう言って、剣をワルラスに向ける。


「ふん! 人間を売るねえ? はん! それが、どうした! アリアディア共和国を見てみろ! 戦いもしねえ、ズルい奴らが良い暮らしをしてやがる! この世はな! ズルい奴が良い思いをするんだよ!!」


 ワルラスの目がギラギラしている。

 その目が訴えているのは怒りだ。

 その気持ちは、わからないでもない。

 魔物により国を失って、放浪して、自由都市テセシアへと流れ着いた。

 そして、アリアディア共和国を見たときに思ったのだ。

 こんなにも大きな国があるのかと、こんなにも豊かなに暮らす人々がいるのかと。

 だけど、同時に思った。

 ズルいと。

 私の生まれた国は豊かではない。いつも、魔物に脅かされていた。

 なのに、アリアディア共和国市民の人々は魔物に襲われもしないのに、立派な城壁の内側で暮らしている。

 あんな立派な城壁があれば、私の国だって亡ばなかったかもしれない。

 だから、ワルラスの気持ちも何となくわかる。


 だけど。


 私は後ろのフィネアスを見る。

 だからと言って同じ人間を売って良いはずがない。

 フィネアスは、私と境遇が少し似ている。

 同じように父親を亡くし、同じように自由戦士になった。

 私はケイナ姉がいたから運が良かった。

 自由戦士になったばかりの頃、ケイナ姉が助けてくれなければ、すぐに死んでいただろう。

 だけど、フィネアスは人に恵まれなかった。

 入った戦士団は最初からフィネアスを売る気だった。

 戦士になった以上は死を覚悟しなければならないのが原則だが、この場合は違うのではないだろうか?


「あなたの過去に何があったのか知らないわ! だけど、フィネアス君を魔物に売って良いはずがないわ!!」

「うるせえ! 小娘が利いたふうな口をきくな! こっちの方が数が多いんだ! おまえらやるぞ!!」


 ワルラス率いる新緑の戦士団が武器を取る。


「フィネアス、見てな。これから本物の戦士って奴を教えてやるよ」


 ノヴィスはニッっとフィネアスに笑いかけると、大剣を構える。

 その顔はとても不安そうだ。


「ノヴィスの言う通りよ。あんな奴らに私達が負けるものですか」


 騎士、兵士、自由戦士。これらは皆、戦士と呼ばれる。

 戦士は魔物から人々を守るために存在する。

 本来、守るべき人間を魔物に売る。こいつらは戦士では無い。ただの外道だ。

 そんな奴らに私達が負けるわけにはいかない。

 私達とワルラス達は武器を構え対峙する。


「シズちゃん……。導師様は強いよ」

「わかっている」


 件の魔導師はワルラス達からかなり離れた後ろにいる。

 戦う気がないのだろうか?


「野郎共やれ!!」


 新緑の戦士団中で5人の男が弓を構えて、矢を放つ。


「そんな矢が効くものですか!!!」


 私はレーナ様の加護で盾を作る。

 矢は当然、盾に阻まれて落ちる。

 次の矢を構える前に私達は距離をつめる。


「くそ! 次の矢を!!」


 ワルラスが叫ぶ。もちろん、そんな暇を与える訳が無い。

 ノーラさんが速射で弓を構えようとしている人を狙い撃つ。

 そして、足の速いケイナ姉が相手に突っ込み、次に大剣を構えたノヴィスがワルラスの仲間を薙ぎ払う。

 2人の活躍により、瞬く間に半分が倒される。

 弱い。

 動きから、戦士としての鍛錬をほとんど積んでいないのがわかる。

 それどころか、中には酒を飲んでいるではないかと思われる者もいる。

 こいつらは戦いを舐めているとしか思えない。

 おそらく、魔物と戦わず、ズルい事ばかりしていたのだろう。だから、いざという時に戦う事ができないのだ。

 これなら、真剣に戦おうとしていたゴブリンの方が強い。


「くそ! 魔術師の旦那! 助けてくれ!!」


 ワルラスと残った者達が魔導師の所へと逃げる。


「団長、私は戦いを好まないのだがね。しかし、まあ仕方が無いか。出て来い」


 魔導師が言うと後ろら巨大なローブを被った何かが出て来る。

 巨大なローブが床の下へ落ちる。中から出てきたのは全身を甲冑で固めた大男。


「これは、我が師タラボスが作った最強の不死者アンデッド戦士だ。そして、この鎧には陽光を完全に遮断する効果がある。君達に勝てるかな?」


 魔導師が笑う。


「さあ、目の前の奴らを殺せ!!」


 甲冑の戦士が剣を振るう。


「あっ?」


 甲冑の不死者アンデッドの前にいたワルラスの首が落ちる。


「しまった。そういえば団長達が目の前にいたか……。この戦士はまだ開発中で融通が利かず、命令の変更ができない。不運だと思って諦めてくれ」


 魔導師の声は少しもすまないそうではない。

 まるで、ワルラス達の命など何とも思っていないみたいだ。

 甲冑の不死者アンデッドが目の前にいたワルラスの仲間を殺していく。

 その動きはとても早い。


「助けて!!」


 ケイナ姉とノヴィスに吹っ飛ばされたワルラスの仲間が私達に助けを求める。


「どうしますか? シズフェさん?」


 レイリアさんが困った顔で私に聞く。


「仕方がないわね。でも、後でしかるべき場所に突きだすからね!!」


 私達は甲冑の不死者アンデッドと対峙する。


「ガアアアアアアア!!!」


 甲冑の不死者アンデッドが剣を掲げて突っ込んで来る。


「こなくそ!!!」


 ノヴィスが大剣を構え向かうつ。

 ガキン。と剣と剣がぶつかる音がする。

 両者の力は互角。

 互いに押し合っている。


「馬鹿な! 最強の不死者アンデッドを止めただと!!」


 魔導師の驚く声。

 その驚愕した顔を見ていると、よほど甲冑の不死者アンデッドの力に自信があったのだろう。


「ノヴィスがこんな木偶人形に負けるわけないわ! 頑張ってノヴィス!!」


 私はノヴィスを応援する。


「シズフェに言われちゃ頑張らないわけにはいかねえな! 俺がこいつを倒す! みんなはあのクソッたれ魔導師を倒してくれ!!」


 背中越しにノヴィスが笑っているのがわかる。

 ノヴィスと甲冑の不死者アンデッドの一騎打ち。

 剣と剣がぶつかり合う。

 一見互角に見える。だけど、私はノヴィスの勝利を確信している。

 だから私達は魔導師に迫る。


「くっ! 悪霊ラルヴァよ! 我が呼び声に集え!!」


 時刻はもう夕方だ。影が濃い場所なら悪霊を呼びだす事ができる。


「死霊魔術! みんな意識を強く持って!!」


 マディが叫ぶ。


「狂い死ぬが良い! 悪霊群体レギオン!!!」


 呼びだされた半透明の悪霊ラルヴァが一つに集まり、青白く光る玉となる。

 こいつらは肉体では無く、精神を直接攻撃してくる。

 もし、抵抗できなければ、狂い死んでしまうだろう。


「オオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」


 悪霊群体レギオンの狂気の叫び。

 私達は意識を強く持つ。

 負けるものか!!私は女神レーナ様に祈る。

 心が張り裂けそうになりながらも、私は悪霊群体レギオンを斬り裂く。

 魔法の剣の攻撃で悪霊群体レギオンは霧散していく。


「魔導師は?!」


 悪霊群体レギオンが消えてレイリアさんが叫ぶ。

 見ると魔導師の姿が見えない。


「追うか? シズフェ?」


 ケイナ姉が自慢の脚を触りながら言う。


「駄目よ、ケイナ姉。深追いは危険だわ」


 私は首を振る。悔しいが無理はできない。今日はここで野営だ。


「大丈夫だ、シズフェ。あの魔導師は彼女が捕えるだろう」

「えっ?」


 ノーラさんが遠くを見ながら言う。意味がわからなかった。


「おりゃああああああ!!」


 叫び声がしたので後ろを見る。

 そこには甲冑の不死者アンデッドを斬り捨てるノヴィスがいた。

 どうやら勝ったようだ。

 私達はノヴィスの所に行く。


「すごい。これが本物の戦士」


 フィネアスが感動したように目を潤ませて、そう呟くのだった。





◆魔術師キリウス


 まさか、こんな事になるとは思わなかった。

 まさか、彼女達がこんなに強いとは思わなかったのである。

 急いで逃げなければならない。

 私は来た道を戻る。

 かなり、疲れる。

 だけど、急いで戻らなければ、夜になる。

 行きは不死者の戦士に運ばせたから楽だった。

 だが、今は自分の足で走らなければならない。


「くそ! 偉大なる魔術師である私がなぜこんな目に!!」


 歯ぎしりする。

 偉大なるサリアの魔導師である私が、なぜこんな事になるのだ。


「止りなさい」


 突然、後ろから声が聞こえた時だった。足に激痛が走る。


「なっ?」


 叫び、訳がわからないまま。倒れる。

 足が痛い。何かで斬られたようだ。


「魔術師キリウスさん……だったかしら?」


 後ろから私の名を呼ばれる。

 顔を何とか後ろに向けると、夕日に照らされた女が1人立っていた。

 その女の手に持つのは曲刀。


「なっ? 何だ?お前は?」

「私はシェンナ。もっとも、覚えてもらう必要はないけどね。ずっと後を付けていたのに気付かなかった?」


 シェンナと名乗った女はそう言いながら曲刀をしまう。


「もし、シズフェさん達が危なくなったら加勢するつもりだったけど、必要なかったわね。それにしても、すっごく、足が遅いのね。ゆっくり追いかけたけど簡単に追いつけちゃったわ」


 シェンナは馬鹿にしたような顔で私を見る。

 この女は私達の戦いを見ていたようだ。


「私をどうするつもりだ」

「もちろん、しかるべき人達に付き出すわ。魔女狩人とかね。覚悟しなさい」


 その言葉を聞いて震える。

 魔女狩人は悪魔や邪神と契約した者を狩る者達だ。

 彼らの追及は容赦がなく、拷問の果てに死んでしまうらしい。

 なぜ、私がそんな目に会わねばならないのだろう。何と不条理なのだ。

 そして、前方から姿を現す人間でない者達。

 リザードマンと呼ばれる魔物だ。


「さあ、お願いね、リザードマンさん。その人を運んでね」


 事務的な声。

 その声に私は震えるしかなかった。


外伝だから、なるべくさらっと終わらせようと思いましたが、もう少し戦闘シーンを細かく書いても良かったかもしれません。

次回は外伝エピローグです。

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