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暗黒騎士物語(なろう版)  作者: 根崎タケル
第5章 月光の女神
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黄金の夜明けをもたらす者

◆踊り子シェンナ


 私はノヴィスに肩を貸して地下水路を歩く。


「ちょっとノヴィス! そんなにシェンナさんにくっつく必要は無いんじゃない! もう少し離れなさい!!」


 後ろで警戒しながら歩くシズフェがノヴィスに文句を言う。

 ノヴィスは戦闘で消耗したために、まともに歩く事さえできなくなっていた。

 シズフェやその仲間もノヴィス程では無いが消耗している。兄のデキウスも消耗している上に誰か知らない男性を運んでいる。

 そのため、一番体力を残している私が彼に肩を貸す事にしたのだ。

 ノヴィスは確かにどさくさに紛れて胸を触ったりしている。しかし、彼が頑張ったおかげで兄さんは助かったと言える。

 だから、少しぐらいのお触りは許してあげよう。


「別に構わないわシズフェさん。彼が一番頑張ったらしいじゃない。消耗もしているようだし。これぐらい何とも無いわ」


 私はノヴィスを庇う。


「さすがシェンナさん優しいな~。それとも、もしかしてシズフェ。妬いてるのか?」


 ノヴィスが私に抱き着くようにもたれかかり、シズフェを見て笑う。


「はあ? そんな訳が無いでしょうが!!」


 微笑ましいやり取りだ。

 それから、どさくさに紛れてお尻を触るな。

 シズフェは女神レーナ様により聖別された戦乙女だ。とても綺麗な女の子なので演劇に興味があるならぜひともミダス団長に紹介したい。

 そして、態度を見る限り、ノヴィスはシズフェが好きみたいだ。妬いていると思って喜んでいる。

 だけど、どう考えても逆効果だ。妬かせたいと思うなら、私にべたべたすれば逆にシズフェは離れて行くだろう。

 もっともシズフェはノヴィスの事を何とも思っていないみたいだけど。

 声の調子から私の心配をしているだけのようだ。


「シェンナ。ノヴィス殿と彼を交換しようか? 彼の方が軽いからね」


 兄さんが肩を貸している男とノヴィスを交換しようと提案する。

 兄さんが肩を貸している男は誰か知らない。

 この男は起きているのに目が虚ろだ。ほとんど自分で歩く事もできない様子である。

 おそらく、心が壊れている。何者か知らないけど医と薬草の女神ファナケア様の神殿に連れて行った方が良いだろう。


「別に良いわよ兄さん。兄さんだってきついのに交換なんて出来ないわ。それに彼は有名な火の勇者様よ。むしろお近づきになれて光栄だわ」


 私は営業用の顔を作りノヴィスに向ける。

 筋肉質なノヴィスに比べて兄さんが肩を貸している男はすごく痩せている。運ぶならノヴィスよりも楽だろう。

 だけど、兄さんもノヴィス程では無いにしても消耗しているので交換はできない。


「おおシェンナさん! 俺もシェンナさんとお近づきになりたいです」


 にやけた顔をしながらノヴィスが嬉しそうにする。ちょろい。

 おそらく後ろのシズフェは呆れた顔をしているだろう。

 こりゃ駄目だなと結論する。


「ようやく戻った~」


 マディという魔術師の女の子が声を出す。私達は地下水路の入り口へと戻って来たのである。


「うん? 何か様子がおかしいぞ」


 ケイナと言う女戦士が地下水路から上がって言う。

 私達も後に続く。


「これは一体どういう事なのですか? 入る時は晴天だったのに!!」


 女性司祭のレイリアが空模様を見て驚く。

 私が地下水路に入る時は間違いなく晴天だった。なのに今は空が黒く曇り、風が吹き、雷光が見える。

 おかしな天気だ。

 それに、人々が何か騒いでいる。


「みんな! あれを見ろ!!」


 エルフのノーラが指した方向を私達は見る。


「嘘……。何よあれ」


 私達がいる場所からはすごく遠いがはっきりと見える。

 北の空には多くの魔物が空を飛んでいるのだ。その光景はまさにこの世の終わりだ。

 だからだろう人々が騒いでいる。

 慌てふためいて走り回る者。

 泣きだす者。

 神に祈る者。

 剣を構えて城壁へと向かう者。

 人々の反応は様々だ。

 だけど、どんな事をしようと人間にどうにかできるような事態ではないような気がする。


「魔物が攻めて来たと言うのですか?」


 レイリアが怒りを込めた視線で空を見上げる。だけど、その顔は青ざめている。


「ちょっとやべえんじゃねえか、逃げねえと……」


 ケイナが震えながら言う。

 気持ちはわかる。これが一番現実的な考えだろう。


「ああ! でも見てあれ! レイジ様がいるわ!!」


 シズフェが指した方向には光り輝く誰かが空を飛んでいる。

 その光り輝く人は魔物からこの国を守るように対峙しているではないか。


「確かに、光の勇者殿ですね」


 兄さんの言う通りだ。あれは光の勇者だろう。前に一度会った事がある。

 この場所から遠い所を飛んでいるのになぜか姿がはっきりと見える。


「何かわからないけど、行ってみましょう!!」


 シズフェの言葉に全員が頷いた。





◆黒髪の賢者チユキ


「さすがチユキさん。簡単に抑え込んだね」


 サホコが飛びながら私に言う。

 下には私の魔法の呪縛で動けなくなったバドンがいる。

 巨大な長細い胴体の虫。それがバドンだ。

 このバドンは昔、アリアディア共和国を襲った邪神で音楽の神であるアルフォスによって倒された。

 しかし、バドンは魔術師タラボスの体を憑代にして復活し、再びこの国に害をなそうとしている。

 前に倒した時にその全てを消しておけば良かったのだが、今更言っても仕方が無い。今度はきちんと消してあげよう。

 再び目覚めたバドンは暴れようとしている。私が魔法で縛らなければ大変な事になっていただろう。

 バドンを見た人々がパニックを起こし逃げ惑っている。

 私は姿消しの魔法を使いバドンの姿を見えなくする。

 これで、これで魔力の弱い人にはバドンの存在がわからなくなる。周りにいる人達も落ち着くだろう。


「動けなくしたのは良いけど、これからどうしようかしら?今度こそ復活できないように完全に消してしまいたいわ。でも、街中で火力が強い魔法を使うわけにいかないし……」


 バドンはかなりの巨体だ。完全に消滅させようと思ったら周囲にも影響が出そうだ。


「広い所に運ぶしか無いかな?」

「そうねシロネさん。リノさん、海の方に運びたいのだけど、できそう?」


 私はリノに聞く。


「うん、何とかやってみる」


 リノが風の精霊を呼ぶとバドンは宙に浮かび上がる。もちろん暴れるが私の魔法の縛りはそんな事では解けない。

 アルフォス神は火力の高い魔法を使えなかったみたいだが、私とリノは使う事が可能だ。海に運んで消し炭にしてあげよう。


「チユキさん! 大変っす! あれを見るっす!!」


 ナオが北を指して言う。

 ナオが指した方向にはかなりの数の魔物が見える。

 その中には暗黒騎士の姿も見える。


「もしかしてクロキが来てるの?」


 シロネが魔物の群れを睨みながら言う。


「いや、シロネさんの彼氏はいないみたいっす」

「彼氏じゃないのだけど……」


 シロネがナオの言葉を小声で否定する。


「そういえば月光の女神はどこにいるのかな?いないみたいだけど」


 サホコの言う通りだ。そういえばバドンの祭壇にいなかった。どこにいるのだろう?


「私もクロキがいないなら興味はないわ。あれぐらいならレイジ君1人でも大丈夫だと思う」


 シロネが魔物の群れを見ながら言う。


「確かにそうね。レイジ君1人に任せてと大丈夫と思うけど……。でも市民に被害が出るかもしれな

い。私が行った方が良いかもしれないわね。ここは任せて良いかしら?」


 魔物が現れた事でアリアディア共和国中の市民達がパニックを起こしているのがわかる。

 魔物が襲って来なくても、混乱で被害が出そうだ。


「わかった、チユキさん。ここは私とリノちゃんでやるから、市民の人達を安心させてあげて」


 シロネとリノが頷く。

 そして、2人は宙に浮いたバドンをアリアド湾の方へと運んでいく。

 海の上なら周囲に被害を出さずに消す事ができるだろう。


「サホコさんは念のためにファナケア神殿に行ってくれるかしら?」


 私が言うとサホコは頷く。

 ファナケア神殿はこの世界における病院だ。治癒魔法が得意なサホコはそこに行ってもらおう。


「ナオさんは私と一緒に来てくれる?」

「わかったっす」


 私とナオはレイジの所に向かう。


「レイジ君、どういう状況なの」


 私はレイジの横に来て聞く。


「チユキにナオか? ウルバルドを追っていたら、横槍が入って来てな。そして、ちょっと休止している所だ」


 レイジは剣を相手に向けて言う。

 剣の先には暗黒騎士がいる。

 シロネの幼馴染の暗黒騎士ではない。

 兜を被っていないので顔が見える。ナルゴルで1度会った事ある。確かランフェルドとか言う奴だ。

 ランフェルドは雷竜の上に立ち、こちらを睨んでいる。


「何が目的なのかしら?」

「わからないな。でも、奴はやる気らしい。2人とも下がってくれ」

「相手の数は多いわよ。手伝わなくて良いの?」

「一騎打ちが望みのようだ。大丈夫だろう」


 レイジの言う通りだ。ランフェルドを残して後ろの魔物達は下がる。


「そうみたいね。ナオさん、下がりましょう。でも魔物がアリアディアに向かって来るなら動くわよ」

「ああ、その時は頼む」


 レイジの顔は余裕の表情だ。

 私も特に心配はしていない。レイジはあれから強くなった。

 私はレイジとシロネが剣の練習をしていた事を思い出す。

 努力をしなかった天才が努力をしているのだ。おそらくもう誰もレイジに敵わないだろう。

 だから、レイジの心配はしない。

 それよりも魔物がアリアディアに向かわないか心配だ。

 先に魔法で蹴散らそうかどうか迷うが結局下がる事にする。

 私とナオはレイジを残して、アリアディア共和国の一番外の城壁へと向かう。

 城壁の上を見るとそこにはクラスス将軍とその配下がいる。魔物が来た事で慌てて駆けつけたのだろう。

 そして、そこにはキョウカとカヤにリジェナも一緒にいるようだ。彼女達も騒動を聞いて駆けつけたのだろう。

 私とナオはそこに降りる。


「あの、チユキ殿。我が国は大丈夫なのでしょうか?」


 クラスス将軍が不安そうに聞く。


「大丈夫だと思います。あれぐらいならレイジ君は負けません。それに私達がついています。そうよね、キョウカさんにカヤさん?」


 私は2人を見る。


「ええ、もしもの時はわたくし達も動きますわ。そうですわねカヤ?」

「はい、お嬢様」


 キョウカが胸を張って言うとカヤが相槌を打つ。

 カヤはもちろん、キョウカも魔法が上達しているので頼りになるだろう。


「クラスス将軍! これはどういう状況なのですか?!!」


 私達がいる所に誰かが来る。デキウスだ。後ろにはシズフェ達もいる。それから踊り子の姿をした女性を連れている。

 確か彼女はシェンナさんではないだろうか?なぜ、ここに?


「これはデキウス卿。魔物が攻めて来たのです。ですが、光の勇者殿が対応してくれていますので、心配は無いとの事です。そうですね、チユキ殿?」


 クラススはこちらを見る。


「はい、大丈夫でしょう。彼もいない事ですしね」

「彼?」


 そう言ったのはシズフェだ。

 私は口を滑らせた事に気付く。


「彼とは前にレイジ様に勝った暗黒騎士の事です。その暗黒騎士以外の相手ならレイジ様の敵ではないでしょう」


 カヤが代わりに応えてくれる。


「そんな奴がいるのですか?」


 シズフェが心配そうに言う。


「はい、既に会っているはずですよ、貴方がたは」

「えっ?」


 シズフェ達全員が変な顔をする。


「チユキさん! 始まるっすよ!!」


 ナオが突然声を出す。

 レイジと雷竜から降りたランフェルドが距離を縮めて戦いを始める。

 空中で光の剣と雷の剣がぶつかると強烈な衝撃波が襲ってくる。


「ちょっと! 本当に大丈夫なのでしょうか?!!!」


 クラススが衝撃波によろめきながら言う。他の人達もよろめいている。

 この城壁の上で平然としているのは私の他にナオとキョウカとカヤとリジェナぐらいだ。


「チユキ殿! 市民が騒いでいます! 何とかならないでしょうか?!!」


 デキウスが城壁の下を見ながら言う。こんな状況でも市民の事を考えているのはさすがだ。

 私も下を見る。衝撃波がアリアディア全体に伝わっているのだろう。市民達がパニックを起こしている。


「仕方がありません。何とかしましょう」


 私はレイジ達の戦いを魔法の映像でアリアディア共和国中の人達が見えるようにする。

 レイジとランフェルドの戦いは凄まじい。だけど、明らかにレイジが押している。

 その顔には余裕があり、明らかに遊んでいる。

 これを見せれば落ち着くだろう。


「落ち着きなさい!アリアディア共和国の市民達よ!!」


 そして、私は魔法で声を響かせる。これでアリアディア中に聞こえるはずだ。


「今! 魔族がこの地に攻めて来ていますが心配はいりません! 必ず光の勇者が打ち倒します!!」


 私が大声で言うと市民の騒ぐ声が鎮まる。

 城壁の上のクラススの配下達が歓声を上げる。


「そうよ、レイジ様が負けるはずが無いわ! だってレイジ様は黄金の夜明けをもたらす者だもの!」


 シズフェが叫ぶ。


 黄金の夜明けをもたらす者。


 それは人々の間で語られる救世主の事である。

 遥かな昔、この世には魔物が存在せず人々はエリオスの神々と共に明るく楽しく暮らしていた。それが過去にあった光り輝く人類の黄金時代である。

 しかし、魔王モデスがこの地上を自分の物にするために世界中に魔物を放った。

 その結果、人々は魔物を怖れ、城壁作り、その中で暮らすようになった。

 それが、今の闇夜の時代だ。

「黄金の夜明けをもたらす者」とは闇夜ダークナイトを斬り裂いて、再び人類に黄金時代をもたらす救世主の事である。

 魔王を倒し、この世界から魔物を消す者がやがて現れる。そう、人々は信じているのだ。

 シズフェはレイジを黄金の夜明けをもたらす者と信じているみたいである。

 正直、性格はどうかと思うが。

 しかし、あんなのでも一応人類の希望なのだろう。

 シズフェのレイジ像に疑問があるが、ついでだから便乗させてもらおうと思う。


「アリアディアの市民よ! 光の勇者は負けません! 光の勇者は女神レーナ様に選ばれた黄金の夜明けをもたらす者です! ですから安心して下さい!!」


 私が魔法を使い言うとアリアディア中から歓声が聞こえる。

「光の勇者」と「黄金の夜明けをもたらす者」がアリアディア中で連呼される。

 まあ、これで大丈夫だろう。後はレイジが負けなければ問題は起こらない。

 戦いは激しくなっているが、私は気楽にそれを眺める。


「ちゃんと勝ちなさいよ。貴方は人類の希望なのだから」





◆デイモン王ウルバルド


「ウルバルド様! 我々は一体どうすれば?!!」


 側近が叫ぶ。


「そんな事、私がわかるわけないだろう!!」


 側近に怒鳴り返す。

 目の前ではランフェルドと光の勇者が戦っている。

 戦況は明らかにランフェルドが押されている。加勢をすべきかもしれない。

 しかし、私が加勢をしたところでどうにかなるとも思えない。

 ランフェルドは最強のデイモンだ。私や他の四天王が束になっても敵わない。

 その力は神族に匹敵する。

 そのランフェルドが光の勇者によって遊ばれている。

 ランフェルドの配下達が不安そうに戦いを見ている。

 ランフェルドはかなりの数をナルゴルから連れて来ていたようだ。

 迷宮から異変を感じてランフェルドの配下は全てこの地に来ている。だが、いくら数が多くても光の勇者に勝てるとは思えない。

 ランフェルドが戦っている間に撤退すべきだろう。

 しかし、他の者ならともかくランフェルドを見捨てて逃げるわけにはいかなかった。

 争う事もあり、いけ好かない奴だがランフェルドはナルゴルにとって必要な存在だ。

 魔王様のためを思えばランフェルドを置いて逃げる事などできない。


「くそ! どうすれば良い?!!」




◆戦乙女シズフェ


 戦いの衝撃波が私達を襲う。


「おいシズフェ! ここは危ねえ! 早く離れよう!!」


 ケイナ姉が体を伏せながら私に向かって叫ぶ。


「大丈夫よケイナ姉! レイジ様がいるわ! ここは大丈夫よ!!」


 私はレイジ様の戦いぶりを見ながら言う。


「私も大丈夫だと思う。光の勇者様が戦っているのは有名なデイモンロードだよ。私達が苦戦したレッサーデイモンの何百倍も強いはず。そんなのと戦って圧倒しているなんて……。何てすごいの」


 マディが驚いた表情で言う。

 デイモンロードの背後には私達が苦戦したレッサーデイモンが沢山いる。

 そのレッサーデイモン達はレイジ様に怯えているように見える。


「すげえな。やっぱ敵わねえか……」


 シェンナさんに肩を貸してもらっているノヴィスが溜息を吐く。

 ノヴィスは世界一強い男を目指していた。だからレイジ様に対して対抗意識を持っている事を私は知っている。

 だけど、それがいかに身の程知らずかわかったようだ。


「さすがは女神様が愛された御方です。きっと勝利してアリアディアを救って下さるでしょう」


 レイリアさんが感嘆の声を上げる。


「そうよ! レイジ様は黄金の夜明けをもたらす者だもの! デイモンロードはもちろん魔物も魔王だって全部倒しちゃうんだから! 頑張れレイジ様!!」


 私は声を張り上げる。

 間違いなくレイジ様は黄金の夜明けをもたらす者だ。

 魔王が世界に魔物を放ってから、一体どれだけの人が被害に会ったのだろう?

 その中には私のお父さんだって含まれている。

 魔王は絶対に許せない存在だ。

 だから、レイジ様には頑張って欲しい。

 もう、魔物によって泣く人が出ないようにして欲しい。

 そう思い私はアリアディア中の人達と同じようにレイジ様を応援する。


「頑張れ! 光の勇者様! 黄金の夜明けをもたらす者よ!!!」




◆最強のデイモン王ランフェルド


 空中を飛ぶ私と勇者の剣が交差する。

 剣がぶつかると衝撃波が空を震わせる。


「ランフェルド様!!」


 後ろで配下である暗黒騎士が心配そうに私の名を叫ぶのが聞こえる。

 しかし、それに応える余裕が無い。

 光の勇者の剣は鋭く、重い。

 以前よりも強くなっている。その事を実感させられる。

 この私もディハルトに剣を習い強くなったはずだ。しかし、勇者はさらに強くなっているようだ。

 勇者の顔を見る。余裕の表情をしている。

 おそらく本気を出していない。

 勇者が本気だったらすでに私は死んでいるだろう。

 勇者の戦い方はまるで自分の強さを確かめているかのようだ。

 私はちょうど良い練習相手にすぎないのだろう。

 歯ぎしりをする。とても悔しかった。

 私は魔王陛下をお守りする誇り高き暗黒騎士団の団長だ。

 その私が全く敵わない。

 これでは何のために頭を下げたのかわからない。

 強くなりたかった。

 だから、恥を忍んでディハルトに剣を学びに行ったのだ。

 必死になって剣を学ぼうと努力した。誇りを取り戻すために。


「くそが!!!」


 雷鳴の剣を振るう。

 しかし、勇者はその剣を簡単に受け流すとそのまま私に斬りつける。

 私は何とか防ぐが態勢を崩される。

 勇者の剣は閣下の剣と似ていた。

 この男も私と同じように強くなろうとしているのかもしれない。

 うかつだった。歯噛みする。

 ただ部下を危険にさらしてしまった。

 勇者が横に剣を振る。

 態勢を崩した私は防ぐことができず雷鳴の剣を持った右腕が斬り落とされる。


「ぐっ!!!」


 小さく呻くと、私は距離を取る。


「なかなか良い剣じゃないか。貰っておこう」


 勇者が宙へ飛ばされた雷鳴の剣を掴み取る。

 その剣は勇者を倒すために苦労して手に入れた物だ。それを勇者に奪われるとは。

 悔しいがどうにもならない。


「ランフェルド様!!」


 配下の暗黒騎士達が飛竜に乗って私の前に出る。


「馬鹿者! なぜ逃げない! お前達の敵う相手では無い!!」

「ランフェルド様を置いて逃げる事などできません!!」


 暗黒騎士達が剣を抜く。

 来たのは暗黒騎士だけではない。他の者達全員が私の前に立ち勇者に立ち向かおうとしている。


「この馬鹿共が……」


 このままでは全員は殺されるだろう。


「待ちたまえ君達!!」


 出てきたのはウルバルドだ。


「ここは私が後に残る。だから暗黒騎士達はランフェルド卿を連れて逃げたまえ」

「ウルバルド卿……」

「こうなったのは私の責任だ。ランフェルド卿。卿は自身の立場を考えるべきだ。卿は私よりも魔王陛下にとって必要な者。だから私が残り勇者の相手をする」


 ウルバルドの体は震えている。自分では敵わない事がわかっているのだ。


「ウルバルド卿。卿では勇者に敵わない。死ぬのは私だけで良い。他の者を連れて逃げてくれ」


 勇者と再戦すると言う馬鹿な事を考えていた報いだ。

 勝つつもりでいたが、何という様だ。

 配下を巻き添えにはできない。

 私は気力を振り絞る。

 かなり消耗している。しかし、他の者が逃げる時間を稼がねば。


「何を言っているのかわからないが、お前達を逃がすと思っているのか?」


 勇者の呆れた声。


「勝手に攻めて来て、ただで済むと思っているわけではないだろう?それに魔王のせいでどれだけの人間が苦しんでいると思っている?どう考えても、お前達を逃がす理由は無いのだけどな」


 勇者から強大な力が発せられる。

 すると勇者の周りに複数の光弾が現れる。


「まあ良いや。剣の練習相手になってくれたお礼に一気に行かせてもらおう」


 勇者が少し笑うと剣を向ける。


「来るぞ! 全員防御壁を張れ!!」


 ウルバルドの声に全員が私を守るように魔法の防御壁を作る。

 しかし、勇者の光弾を防ぐには魔力が足りないように思う。


「全員逃げろ!!!」


 私は叫ぶが間に合わない。

 千列の光弾が私達に向かって飛んでくる。

 もう終わりだと思った時だった。


「何?」


 勇者の驚く声。

 千列の光弾があらぬ方向に飛んでいく。

 私達は全員無事だ。

 振り返り後ろを見る。

 見ると遥か後方に嵐の中を巨大な漆黒の竜が飛んでいるのがわかる。

 その竜の上にいるのは1名の暗黒騎士と白銀の髪の娘。

 その暗黒騎士は右手を掲げている。

 千列の光弾はその右手に全て吸い込まれたようだ。

 竜が吠え、暗黒騎士を乗せて飛んで来る。

 巨大な暗黒騎士から感じる怒りの波動。

 その上半身から稲妻を含んだ黒い炎が噴き出している。

 それはまさに黒い嵐の到来であった。


長かった話しも後2話で終わりです。最後はエピローグなので、実質次が最後です。

次回はレイジとクロキの一騎打ち。


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