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暗黒騎士物語(なろう版)  作者: 根崎タケル
第1章 謎の暗黒騎士
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魔法の力

後から追加した話です。後から話を追加するのは良くないと思うのですが。

入れました。話の筋には影響がありません。

◆暗黒騎士となった青年クロキ


「ディハルト卿、それが飛翔の魔法でございます」


 部屋の中央でぷかぷか浮いている自分に対してルーガスは言う。

 レイジとの戦いの次の日の昼下がりの事である。自分は魔王城にある一室でルーガスの魔法講義を受けていた。

 レイジとの戦いの後、自分はモデスから多大な感謝をもらった。

 今の自分はナルゴルにおいて、モデスに次ぐ地位である。

 感謝してもらうのは良いが「心の友よ~」と言って抱き着いてくるのは勘弁してもらいたかった。

 報酬の件だが保留にしてもらった。もし帰るとしたら報酬をもらってもしかたがないからだ。

 モデスの話によれば召喚術では元の世界には戻れず、むしろ元の世界とは違う別の世界に行くか、時空の迷子になるらしい。そのため別途、帰還術と言うべき魔法が必要なのだそうだ。

 残念な事にモデスはそういった魔法に詳しくなく、自分を召喚するのもやっとだったそうだ。

 モデスは帰還する方法を調べてくれると約束した。

 エリオス側には帰還術があるのだろうか?

 自分は疑問に思う。

 モデスが言うにはその可能性は薄いとの事だ。

 その自信がどこから来るかわからないが、相当信頼できる情報なのだろう。

 もっともモデスが嘘をついているなら話は別だ。本当は帰還術は存在し、自分を帰らせないようにして、勇者と戦わせようとしているなどだ。

 だが、自分は嘘をついていないと思う。あまりにも回りくどすぎるし、なにより勇者と戦わせるならもっとうまい嘘があるだろう。

 それに、どうやらモデスは思っている事が態度に出てしまうタイプらしい。

 モーナと話をしている時のモデスのデレデレした態度を見てそう思う。

 モーナもまんざらではないのかふたりのバカップルぷりに正直イラッとするときがある。

 だとすれば彼らは何故、戦っているのだろうか?

 無理やりこの世界に連れてこられて、帰る方法もないのにだ。

 レイジは女神の色香に惑わされたからだと思うが、レイジを除く彼女達が戦っている理由がわからない。

 レイジ達の情報も欲しいと思った。

 ちなみにレイジが一命を取り留めたとの情報は昼前に聞いている。

 それを聞いて自分は安心した。レイジに殺されるとは思ったが殺すつもりはなかった。レイジは殺さなければならないほど悪とも思えない。

 一安心した自分はルーガスからナルゴルやこの世界や魔法の事について教えを受けている。

 何をするにしても情報は必要だ。

 この目の前にいる角が生えて耳がとんがった老人は、このナルゴルの宰相で最高の知恵者とのことだった。本来なら教師などはせずナルゴルの政務をしなければならないのだが、それを差し置いて自分の教師として付けてくれるあたり自分は厚遇されているようだ。

 そして今、魔法について教えを受けている。


「どうやら、飛翔の魔法は問題なく使えるようですな。しかし、注意しておいてください、飛翔の魔法を使っている間は別の魔法等を使えず無防備になります。弓兵の餌食にならぬよ……」


 自分は浮かびながら、人差し指から魔法で黒い小さな炎をだす。


「……うに気を付ける必要があるのですが、ディハルト卿には無用の心配でしたな」


 ルーガスがあきれたように言う。

 ルーガスの口ぶりから察すると同時に二つの魔法を使う事はかなり難しいらしい。


「勇者といい本当に異世界の人間は謎ですな。本来なら飛翔の魔法1つでも、人間ならば長い修行が必要なはずですのに……。勇者の仲間も同じように高位の魔法を使っておりましたので、ディハルト卿も同じなのでしょう」


 ルーガスが言うにはレイジ達も本来は長い修行をしなければ使えない高位の魔法をこの世界に現れてすぐに使えるようになったらしい。

 そして、自分もまた同じように高位の魔法が使えるらしい。なぜ使えるのかと聞かれても自分もわからない。

 自分は飛翔の魔法を使うのをやめ地面に降りる。


「そしてその黒炎です。それを使えるのはこの世界でも陛下とランフェルド卿だけだったはずなのですが、ディハルト卿は使える。しかし、興味深いですな。ディハルト卿は普通の魔力の炎は使う事ができないのに黒炎は使える……。本来なら逆のはずなのですよ」


 ルーガスは信じられないと言うように首を振る。


「しかし、自身の魔力で普通の火を使えないのでは、不便でしょうな。では今度は火の精霊を使役してみましょうか」


 ルーガスは考え込むように言うと何か呟く。するとルーガスの手に一冊の本が突然に現れる。


「今度は精霊魔法を使ってみましょうかの。これまでの魔法等とはまったく系統が違いますので注意してくだされ」


 少し前にルーガスに習った事を思いだす。

 魔法には大きく分けると2種類あるらしく、自分の魔力で魔法を使うか、自分ではない何かの力を借りて魔法を行うかである。飛翔の魔法は前者であり精霊魔法は後者であるらしい。

 精霊魔法は目に見えない精霊と魔法でコミュニケーションを取り自分の願い、または要求を聞いてもらう魔法だ。しかし、その精霊魔法を使える前提として魔法による意志疎通能力が高くなければならない。

 魔法による意志疎通能力とは一種のテレパシーのようなもので、本来言葉がわからない者同士が魔法の力で意志疎通する事を意味する。本来日本語がわからないモデスと会話ができたのはこの魔法による意志疎通能力を無意識のうちに使っていたかららしい。本当は言葉で会話していたのではなく、言葉を話すことを引き金に魔法を発動して会話をしていたのだ。

 この魔法による意志疎通は言葉を話せる知能を持つ者になら簡単なようだが、言葉を持たない精霊や魔獣等と意志疎通をするにはかなり高い能力が必要とされるらしく、高い魔力を持つ者でも魔法による意志疎通能力が高くないと精霊魔法は使えないとの事だ。


「大気にある火の精霊よ我が声を聞け!!」


 するとルーガスは人差し指を立てるとそこに火がともる。

 そのまま指を離す。指を離しても小さな火はそのまま空中に残っている。

 そしてルーガスはそのまま空中に火を灯していく。10個ぐらい灯した所でやめ再び呟くと火は消える。


「同じようにやってみてくだされ」


 自分はルーガスと同じように呟く。


「えーと……大気にある火の精霊よ我が声を聞け!!」


 人差し指を立てルーガスと同じように呟く。すると自分の人差し指から火が出ると突然指から離れ部屋を飛び回る。


「うわっつ!!」


 自分はあわてて避ける。火はそのまま部屋の中を暴れると壁にぶつかり消える。


「すみませんルーガス殿!!」


 自分はルーガスに頭を下げる。


「いやはや、部屋に魔法防御をかけてなければあぶない所でしたな。どうやら、精霊魔法はうまく使えないようですな」


 ルーガスは興味深そうに言う。

 その後、何度か火の精霊を操ろうとするが言う事を聞いてくれなかった。

 ルーガスが言うには火の精霊はうまく使えないが、水の精霊はうまく使えたりする人もいるらしいので他の精霊も試してみる。

 しかし、水の精霊や風の精霊を使おうとするが、部屋を水浸しにするか紙を散らかすだけで操る事はできなかった。

 一応水の精霊は覚えておくと便利らしいので下位精霊のウンディーネは少しは使えるように練習したがかなり疲れた。これでは上位精霊は呼び出す事さえ難しいだろう。

 自分の能力では言葉を話す事が出来ない精霊相手にはうまく意思疎通はできないみたいだった。

 レイジとの戦いのとき佐々木理乃が炎の上位精霊らしきものを使役していたのを思いだす。

 きっと彼女は魔法による意志疎通能力(コミュニケーション能力)が高いのだろう。

 それに精霊は無理でも、同じように言葉を話せない魔獣との意思疎通は試していない。今度試してみようと思う。


「今日はここまでにしましょう」


 ルーガスは本を閉じるとその本がルーガスの手から消える。


「あのルーガス殿……質問が」

「何でしょうかな?」

「ルーガス殿は先ほどから魔法を使う時に本を広げますが何か意味でも?」

「ああ、なるほど魔道書の事が気になったのですな」


 ルーガスは何かを呟くとその手に本が突然現れた。

 自分は頷く。


「ディハルト卿、実はこのルーガスめは本来なら精霊魔法は使えないのですよ」

「?」


 自分は首をかしげる。


「あの……先ほどルーガス殿は精霊魔法を使っていたようですが」


 自分は疑問を口にする。

 先ほどルーガスは精霊魔法を使いこなしていた。なぜ使えないなどと言うのだろうか?


「それはこの魔道書の力を借りていたからですな。この魔道書の火の精霊を使役する項目を開く事で本来なら使えない先ほどの精霊魔法も使えたのですよ」

「えっそれなら自分もその魔道書を使えば精霊魔法を使えるのでは?」


 正直そんな便利な道具があるならもっと早く言って欲しい。


「使ってみますかな」

「えっ良いのですか?!」


 ルーガスの言葉に頷き魔道書を借りる。

 さっそく開いて使おうとするが魔道書は何も反応しない。


「ルーガス殿の時は魔道書が光っていたような……」

「フォフォフォ、その魔道書は特別製でしてな、持ち主であるこの私にしか使えないのですよ」


 ルーガスは笑いながら言う。


「そうなのですか……。それは、ちょっと残念です」


 自分はしょんぼりして言う。

 ルーガスの話によると、ルーガスはあらゆる系統の魔道書を持っており本来なら使う事のできない治癒や精霊の魔法を使う事ができるそうだ。使える魔法の数だけならモデスを超えるらしい。

 そのルーガスが勇者との戦いに出なかったのは、違う系統の魔法を使うたびに魔道書を持ち替えねばならないのでその系統の魔法を使える者よりも時間がかかり、また魔道書を呼び出す時に魔力を消費するため普通にその魔法を使うよりも倍近い魔力を使うため、実戦向きではないからだそうだ。


「私としては黒炎を使えるディハルト卿が羨ましいですな。その黒い炎は魔道書の力を持ってしても使えませぬからな」


 ルーガスは残念そうに言う。

 そして、ルーガスは自分から本を返してもらうと何か呟く。するとルーガスの手から本が消える。


「その力も便利ですね。たしか離れた所にある物を呼び寄せたり、元に戻したりする魔法でしたか」

「ああ、物体移動の魔法のことですな。特殊な魔法の道具であれば意外と簡単に使えますよ。例えばディハルト卿の魔剣とかね」

「えっそうなのですか?」


 自分はモデスから与えられた魔剣の事を思いだす。言うまでもなくレイジを斬った剣の事だ。


「ためしにその剣を思い浮かべ呼び出してみて下さい」


 自分は手をかざし魔剣を思い浮かべる。

 来い!!

 数秒の後、自分の手に一振りの剣があった。


「やはり魔剣に持ち主と認められたようですな。こういった特殊な魔力を帯びた武器や鎧は主人の側に有ろうとします。呼び出すのも簡単なのですよ」


 自分は魔剣を見る。黒い剣身に赤い紋様が入っている魔剣は見る者に禍々しい印象をあたえるだろう。


「その魔剣は黒血の魔剣と言いましてな。その魔剣に斬られた者は黒き力を流し込まれ自身の魔力が徐々に蝕まれていきます。その魔剣で斬られた勇者は魔力を蝕まれ今頃瀕死の状態でありましょう」


 ルーガスは楽しそうに笑う。

 その言葉に自分の心がざわめく。


「あの……。勇者は一命を取り留めたと聞いたのですが……」

 少なくとも自分はそう聞いている、レイジが助かったと聞いて安心していたのだが……。


「今の所は聖女の力で命を繋いでいるようですな。しかし、それもいつまで持つやら」


 ルーガスはくっくと笑いながら言う

 レイジはルーガス達にとって敵だ、その敵が瀕死なのだから愉快なのだろう。

 しかし、自分はそうではなかった。

 自分がやっておいて言うのもなんだが、別にレイジを殺したいとか思った事は一度もなかった。

 あまり好きな相手ではないが、レイジは殺さねばならないほどの悪い奴ではない。嫌いだからと言って傷をつけて良いはずがない。

 正直に言って気になる。

 やはり、様子を見に行くべきだろうかと思う。

 本当はレイジの事だけでなく彼らの事が気になっていた。

 何よりシロネの様子も気になる。

 元の世界でシロネが行方不明になったとき気が気ではなかった。

 そのシロネがこの世界にいるのだ。どうしたって様子が気になる。

 自分はしばし考えると口を開く。


「あの……ルーガス殿。相談したい事があります」






◆魔王に謁見するクロキ


「なるほど、勇者の様子が気になると。わかりましたぞ、旅に必要な道具を用意させましょう」


 モデスが頷く。

 了解を得られた事に自分は胸をなでおろす。

 魔王城の謁見の間において自分はモデスに勇者の様子を見に行かせて欲しいと訴えた。

 最初は駄目と言われるかもと思ったが、モデスは快く承諾してくれた。もっとも、様子を見に行く理由を言っていないのでモデスは勇者にトドメを刺しに行くと思ったからかもしれないが。

 しかし、モデスの助けが得られてほっとした。何しろ自分はこの世界の事が何もわからない。助けがあるのとないとでは雲泥の差だろう。


「ルーガスよ、ディハルト卿に旅に必要な物を用意するのだ」


 モデスの呼び声にルーガスが前に出て来る。


「はい。昨日、相談を受けましたので用意はすでに済ませてあります。ディハルト卿は人間の領域の事を知らないでしょうから、案内役をお付けしましょう。ナットよ出ておいで」


 ルーガスの声にルーガスの足元から小動物が姿を見せる。

 紅い毛を持ったリスもしくはねずみのような動物だ。その小動物は自分の足元まで来る。


「初めましてディハルト様、火ねずみ族のナットと言うでヤンス」


 ナットと名乗ったねずみがぺこりと頭を挨拶をする。

 普通ならねずみがしゃべったー!!と言って驚く所だが、すでにありえない生物を沢山見ている。今更驚いたりしない。


「ディハルトです。初めましてナット」


 自分は挨拶を返す。

 自分が挨拶するとナットは驚いたような顔をする。もちろん、ねずみの顔なので本当は驚いていないかもしれないが。


「……いや、噂とはあてにならないでヤンスな。もっと恐ろしい方と聞いておりやしたでヤンス」


 ナットはそう言って両手を上げて首を振る。

 恐ろしい方と思われていたと言われ自分は苦笑する。

 どうやら、自分はモデスの配下から怖がられているらしい。

 モデスの配下は比較的に人間と姿が似ている魔族を除けば、化け物のような外見の者ばかりだ、そんな彼らから怖がられるというのはなんだかおかしな話だと思う。

 しかし、このまましばらくここで暮らさなければいけないなら、怖がられるのは良い事ではないように思う。

 元の世界でも目つきが怖いと言われ前髪を伸ばして目元を隠した事を思い出す。そのおかげで少しは優しい外見になったと思う。

 だが、この世界では別に外見が恐れられているわけではないようなので、別の手段が必要だ。

 ではどうするか?

 今度、「怖くないよ~、怖くないよ~」と言って踊ってみようか。

 とかそんなバカな事を考えていると、モデス達が訝しげな顔をする。


「あのディハルト卿……?」

「いえ、何でもありません。案内役を付けていただきありがとうございます」

「それでは、他の必要と思われる物を用意させましたのでご覧ください」


 ルーガスの部下達が持ってきた魔法の道具を一通り説明を受ける。

 この世界の地図。存在感を消すフード付の魔法のマント。魔法で戦士を作る石。転移の魔法を封じた石。人間の世界の通貨のかわりになるかもしれない宝石類等である。


「あと他に入用でしたら用意させますが?」

「いえこれだけ用意していただければ十分だと思います」


 自分は感謝の言葉を言う。実際はこの世界の事が何もわからないので、必要な物があっても気付けなかったりする。

「ディハルト卿よ、このナルゴルの外はエリオスの神々の領域。危険だと思ったら転移の石ですぐに引き返してくるのだぞ」


 モデスが言う。

 転移の魔法は転移したい場所を魔法で設定し、そこに移動する魔法である。転移の石はその魔法が使えない人でも一度だけ使える魔法の道具だ。


「ありがとうございます」


 自分はモデスに礼を言う。

 自分を心配してくれる人には礼儀をつくさなければならない。これはどの世界でも常識だろう。

 そして、自分は謁見の間を後にした。





◆暗黒騎士クロキ


「ここは?」


 転移の魔法で移動した先は暗く誰もいなかった。


「ここはアケロン山脈にある防衛拠点の1つでヤンス。本当なら常駐の騎士がいたでヤンスが勇者との戦いで戦死した者や負傷者が多く出たでヤンスから、この拠点まで騎士を配備する余裕がないでヤンス……」


 自分の肩に乗っているナットが説明してくれた。

 アケロン山脈はナルゴルと人の世界を分ける境界線である。

 この山には空からの侵入を防ぐために暗黒騎士団の飛竜乗り達が守っている。その防衛の拠点の1つらしい。

 旅支度を整えた自分は魔王の城から一気に魔法で移動してきたのがここだった。

 この山を下りれば人間の世界のはずである。


「おかしいでヤンスね、ここで山の麓まで送ってくれる飛竜乗りが待機してくれているはずでヤンスが……」


 本当は飛翔の魔法で降りた方が速いが、飛竜に興味があったので、せっかくだから飛竜で送ってもらうことにしたのである。

 石造りの建物の外からなにか音がする。

 外に出て見ると巨大な翼が生えたトカゲのような生物がいた。

 飛竜ワイバーンと呼ばれる魔物だ。その飛竜の背中には1人の暗黒騎士が乗っていた。

 その暗黒騎士は建物の近くに飛竜を降ろすと自分も飛竜の背から降りる。


「初めましてディハルト閣下! 騎士グネドと申します!」


 暗黒騎士は兜を取り自分に礼をする。

 人間の年齢で言う所10代後半から20歳前半ぐらいの魔族の青年である。

 ルーガスから魔族の事は聞いている。

 魔族は、このナルゴルにおける最上位の種族だ。外見は褐色の肌の人間と同じだが頭に二本の角が生えているのが特徴だ。彼らは魔法に優れていてまた肉体的にも人間をはるかに凌駕している。

 ただ弱点を言えば数が非常に少なく、ナルゴルの最多の種族であるオーク族の20分の1以下しかいない点だろう。

 だが、それでも魔族の戦士で構成された暗黒騎士団はナルゴル最強との事だ。

 その暗黒騎士グネドは緊張しているのだろうか顔がこわばっている。


「初めましてグネド卿。そんなにかしこまらないでください」


 正直、閣下なとと呼ばれると何だか背中がかゆくなる。自分はそんなにえらい人間ではない。見た目通りの年齢なら自分とそんなに変わらないはずだ、もっと気楽に話して欲しい。

 しかし、グネド卿が少し震えているのに気付く。

 もしかして怯えているのだろうか?

 だとしたらショックだ。


「いっいえ! 閣下はこのナルゴルの陛下に次ぐ地位におられますから!!」


 正直に言って緊張しているのか、恐れられているのかはわからない。

 しかし、気楽に話してもらうのは無理のようだ。


「これよりかっ閣下を山の麓までおっお送りするであります!!」


 グネドはそう言うと飛竜の背に乗り、後ろの席に乗るように促す。


「よろしくお願いしますグネド卿……」

「りょ了解であります!!」


 自分が乗るとグネドは飛竜を飛ばす。

 飛竜が翼をはためかせると風を感じる。

 その感覚におおっと声が出る。

 中々良い感覚だ。

 飛竜が空を飛ぶとアッと言う間に防衛拠点が小さくなる。

 空を飛ぶ感覚はすごく良かった。自分用の飛竜が欲しいなと思う。

 しかし、ある程度来た所で急に高度が下がる。


「どうしたんですかグネド卿?」


 せっかくの空も低空飛行では台無しだ。


「こっここから先は監視が厳しいので低空で飛びます!!」


 監視とは何の事だろう。


「ディハルト様。このあたりはすでにエリオスの聖騎士団の奴らの監視地域でヤンス。高く飛ぶと目を付けられるでヤンス」


 服のポケットに入っているナットが説明してくれる。

 ナットの説明ではエリオスの聖騎士とは神王オーディスに忠誠を誓った人間の英雄と天使族で構成された精鋭部隊との事だ。そしてエリオスとナルゴルは敵対関係にあるので当然、聖騎士達は暗黒騎士達を敵視している。

 その聖騎士達は暗黒騎士団がレイジ達によって壊滅状態になってから、たびたび領空侵犯を繰り返しているらしい。そのため彼らに見つからないように低空で飛ばなければならないらしい。

 グネドはたどたどしく飛竜を操る。それは側から見ても危うかった。


「どうやらグネド卿は飛竜乗りになってから日が浅いみたいでヤンスね……」


 暗黒騎士団は現在人手不足。熟練の飛竜乗りも少なくグネドは飛竜乗りになって間もないようだ。


「しかし、このように下手な飛び方をしているとこのあたりのゴブリン達から狙われるかもしれないでヤンス……」

「えっゴブリンからなんで?」


 ルーガスから魔法の講義を受ける時に魔物の事はある程度教わっている。ゴブリンとは身長が平均で140センチメートル程の緑色の体をした醜い魔物の事である。ルーガスの講義では彼らの頭は鉄より固く、音楽が苦手との事だ。

 だがゴブリンは魔物と呼ばれる以上は魔王であるモデスの配下ではないのだろうか。

 自分が疑問を口にすると


「このあたりのゴブリンは陛下の支配下に入ってないでヤンス」


 ナットの話によると、モデスは魔物の支配者と呼ばれる事もあるそうだが、人が住まず、魔物が数多く生息するナルゴルを支配しているからそう呼ばれるだけで、ナルゴルの外の魔物達は別にモデスの支配下にあるわけではなく、モデスの命令など聞いたりしないらしい。

 このあたりのゴブリン達もモデスの言う事を聞いたりなどしない。むしろモデスの言う事を聞く魔物の方が少ないそうだ。

 正直に言って魔王の肩書きに偽りありだ。

 モデスには世界中の魔物を支配する力があるが、モデスには支配欲があまりないらしくナルゴルから人間の世界へ攻めたりなどしないらしい。

 もっともナルゴルの外の魔物が人間を襲うと、人々はモデスが襲わせていると思っているらしいが、実際の所はまったく違うようだ。

 つまり、ナルゴルから出てしまうとモデスの支配圏外なので、問題が起こった時は自力で解決するしかない。

 自分は腰の魔剣をさわる、呼び出すのに時間がかかるので帯剣している。道中魔物を相手に剣を抜く可能性もあるかもしれなかった。

 そんな事を考えている時だった、突然下から矢が飛んでくる。


「ゴ、ゴブリンでヤンス!!」


 ナットが慌てた声を出す。

 見ると緑色の背の低い人間みたいな者達が矢でこちらを狙っている。

 飛竜は矢を射かけられた事で興奮して暴れ出す。

 慌てて自分は飛竜にしがみつく。


「落ち着け!!落ち着くんだ!!!」


 グネドが飛竜を落ち着かせようとするがうまくいかない。

 グネドは矢を避けるため飛竜を急速に上昇させる。


「うおっ!!」


 思わず声がでる。

 急速に上昇したので矢が届かなくなる。


「落ち着け!!落ち着け!!」


 矢から逃れた事で何とか飛竜は落ち着く。


「これで一安心みたいだね……」

 

 安心するとグネドが慌てた声を出す。


「ああっ! 見つかりました!」


 グネドが指す方向を見ると、そこには翼が生えた人間が急速に迫って来ていた。その数は10。

 その翼が生えた人間は黄金の鎧を着て手には弓を持ちこちらに向けていた。


「ありゃ天使族の聖騎士でヤンス! グネド卿逃げるでヤンス!」


 天使族はエリオスに住む翼が生えた人間の外見をした種族だ。

 翼を持つ種族である天使族は飛翔の魔法で空を飛ぶわけではないので、飛びながら魔法を使いまた剣も使う事ができる。

 普通は飛翔の魔法を使いながら戦う事ができないので、飛竜か天馬等の空を飛ぶ生物に乗らなければ彼らにかなわないだろう。

 一応グネドも飛竜に乗っているが、たった一騎でしかもグネドは飛竜に乗って間もない。このまま戦えば撃ち落とされるだろう。

 ナットが言うまでもなくグネドは飛竜を旋回させようとするがうまくいかない。

 しかたがないと思い自分は飛翔の魔法を唱える


「閣下!?」

「グネド卿はそのまま飛竜を制御していなさい。後は自分がなんとかします」


 そう言うとそのまま天使達に向かっていく。

 天使達が自分に矢を放ってくる。

 その矢はとても遅く見えた。


「はっ!!」


 自分は抜剣し矢を叩き落とす。


「馬鹿な!!」


 天使達の叫び声。


「黒炎よ!!」


 自分は空を飛びながら空中に巨大な黒い炎の塊を出す。


獄炎ヘルフレイム!!」


 黒い炎の塊が広がっていき天使達に向かっていく。

 当てるつもりはない。ただの威嚇だ。

 だが、効果は絶大で相手が慌てふためくのがわかる。


「あの黒い炎はランフェルドだ、逃げろ!!」


 マントのフードをかぶっていたため顔がわからなかったのかランフェルドと勘違いして天使達は逃げていく。

 自分はそのままグネドの飛竜まで戻るとそのまま後ろにすわる。


「すごい……」


 グネドの呟きが聞こえる。


「グネド卿、天使は追い払いました。このまま飛んでください」


 自分はグネドに笑いかける。


「りょ了解いたしまた!!」


 グネドは噛みながら自分に礼をとり飛竜を飛ばす。

 飛竜が高く飛び風を斬る。

 気持ちいいなと思った。

 飛翔の魔法で飛ぶと魔法にある程度集中しなければならず、景色を楽しめない。空を飛ぶなら何かの背に乗るのが良いだろう。

 もし、帰ってきたら自分用の飛竜が欲しいなと思った。

 やがて、アケロン山脈の端の方までたどり着く。


「ありがとうございますグネド卿」


 飛竜から地面に降ろしてもらった自分はグネドに礼を言う。


「恐縮であります!!」


 グネドは最初から最後まで緊張したままだった。

 だが、一番最初にあったときより、少しだけ態度が和らいだようにも感じる。


「自分はここまでですが道中の無事をお祈りしております!!」

「ありがとうグネド卿」


 グネドはそう言うと飛竜を飛ばす。

 さて、ここからは歩きであった。

 ナットの話ではレイジ達は聖レナリア共和国というところにいるらしい。

 転移の魔法で行けたら早いが、あらかじめ設定した所にしか移動できないため、ナルゴルの外に設定できるわけがなく当然使えない。

 聖レナリア共和国までは少し距離があるがこの世界での自分はどうも超人化しているらしく前の世界よりも速く移動できる。そんなに時間はかからないだろう。


「それじゃあ行こうかナット」


 自分は人間の世界へ一歩ふみだした。




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「……でヤンス」が付くだけで、何故が漂う小者感。
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