再会を喜んで。
◆魔王モデス
魔王城の1室で鍛冶の神ヘイボスと会う。
「無事にナットも帰って来たようだし良かったのう、モデス」
ヘイボスがエリオスから持って来た黄金酒を2つの杯に注ぐ。
黄金酒は黄金樹の黄金の果実から造られる果実酒だ。
作ったのはもちろん酒と料理の神であるネクトルである。
ヘイボスが注いでくれた黄金酒を一口飲むと濃厚な味が口に広がる。
「ああ、ヘイボスよ。これもディハルト卿の功績だ」
ディハルト卿は迷宮の中であってもラヴュリュスを追い詰めていたらしい。
ナットの話しでは勇者と共に戦わなくても勝っていたそうだ。
思ったとおりの結果に満足する。
ちなみにナットは魔王城で報告をした後家族の所に帰った。
今頃妻子に会っている頃だろう。
「しかし、勇者を助ける事になってしまったが良いのか?」
「構わぬよ。ナットが無事で有る方が大事だ。それにヘイボスの事もあるしな」
勇者を助けた事を責める声もある。
しかし、全て黙らせた。
ディハルト卿はナットを救うために最善を尽くしたように思う。
それを責めるべきではない。
「そうか……すまぬな。それに暗黒騎士にも礼を言わねばなるまい」
ディハルト卿の力によりあの迷宮はヘイボスの物となった。
あの迷宮にいたミノタウロス達は、ラヴュリュスがいなくなったので全員が迷宮から逃げ出したそうだ。
そして、迷宮はドワーフ達によって封印された。
これで中の魔物が外に出る事は無いだろう。
「ああ、ディハルト卿が戻ってきたら礼を言ってくれ。しばらく不在にするそうだがな」
ディハルト卿はクーナと一緒にしばらく留守にするらしい。
ナットから報告があった後でディハルト卿から何かあったらすぐに駆けつけると伝言の魔法で連絡があった。
律儀な男だと思う。
ディハルト卿が裏切るとはとうてい思えない。皆心配しすぎだ。
「それにしてもあのレーナが恋人を助けるために暗黒騎士と手を組むとは思わなかった」
ヘイボスの言う通り、ディハルト卿はナットを救うためにレーナと手を組んだらしい。
そしてレーナも恋人である光の勇者を助けるためなら敵であるディハルト卿とも手を組むようだ。
最初に聞いた時は耳を疑ったが、恋する女とはそういうものかもしれない。
「確かにな。なんでも、あの誇り高い女神が敵であるディハルト卿に頭を下げたらしいからな。女とはわからぬものだなヘイボス……」
「そうだな……」
ヘイボスがうんうんと首を縦に振る。
「しかし、それ以上に気になる事がある」
「蛇の女王ディアドナの事か?」
その言葉に頷く。
これは、ヘイボスが知らせてくれた情報だ。
あと1歩という所までラヴュリュスを追い詰めておきながら、ディアドナが来た事で逃がしてしまったらしい。
「そうだ。今まで身を潜めていたディアドナが急に姿を現した。それにどうやら中立だった神々を味方にしようとしているらしい。何を企んでいるのやら……」
ディアドナは母に代わり、ミナの血を引く神達を滅ぼすと公言している。
そのミナの血を引く神達の内にはモーナも含まれている。
だから、彼女はこのモデスの敵でもある。
ディアドナは再びエリオスと戦争をするつもりなのかもしれない。
「暗黒騎士が捕えた蜘蛛の女神が何か知っているのではないか?」
ヘイボスの言葉に首を振る。
「おそらくアトラナクアは何も知らぬよ……。大した事は教えられていないようだ」
アトラナクアは魔王城の1室で監禁中だ。その後どうするのかは考えていない。
アトラナクアの夫に知らせるべきか迷う。
彼女の夫は毒の尾を持つ砂漠の神だ。住居を変えていなければ砂漠の神殿にいるはずだ。
しかし、情報によればアトラナクアは今夫とは別居中のはずである。
知らせない方が良いのかもしれない。
「結局何もわからないままか……」
「そうだな……。本当に何を考えているのやら」
しかし考えても何もわからなかった。
考えてもわからないので黙ったままヘイボスと共に黄金酒を飲みかわす。
「ところで話は変わるがモデスよ。ネクトルの奴が宝石の果実を欲しがっていたぞ」
ヘイボスが黄金酒を飲みながら言う。
「ネクトルが宝石の果実を?なるほど黄金酒はその報酬と言うわけか?」
「そう言う事らしいぞ」
ヘイボスが杯を片手に笑いながら言う。
宝石の果実はナルゴルにのみ存在する、宝石樹になる果実の事だ。
宝石の果実と言っても本物の宝石では無い。
宝石のように透き通った美しい実だからそう呼ばれている。
この宝石の実は滅多に実をつける事は無い代わりに、腐る事も無いので永久に保存が可能だ。
魔王城には過去に収穫した宝石の果実がいくつかある。
「わかった、良いだろう。魔王城に保管してある宝石の果実を持って行くが良い。それから女王鮭の燻製も持っていくと良いぞ」
「女王鮭の燻製?」
「ああ、そうだ。ディハルト卿が作った物でな。なかなかの美味だった。何より酒のつまみに合う」
「それはうまそうだな。ネクトルも喜ぶだろう」
「うむ。それから、くれぐれもファナケアに知られない様に気を付けろよと言っておいてくれ。ファナケアが知ればフェリアも知る事になる」
医と薬草の女神であるファナケアはネクトルの妻だ。
また、ファナケアは結婚と出産の女神フェリアの娘にして、知識と書物の女神トトナの姉でもある。
そして、女神フェリアはこのモデスを嫌っている。
ファナケア自身は大人しい女神だけど母親と密接に繋がっている。
宝石の果実や女王鮭の燻製を貰ったと知ったら母親に報告するだろう。
そうなれば、女神フェリアはネクトルを責めるに違いない。
そうなればネクトルが可哀そうだ。
「わかっておるよ。ネクトルはフェリアには頭が上がらないからな。いや、エリオスの男共は女神共に頭が上がらないと言うべきか」
ヘイボスは渋い顔をして言う。
「エリオスの男神達も大変だな……」
「全くだぞ」
そう言ってヘイボスと共に笑う。
さてオーディス達はこれからどうするのだろうか?
ディアドナはエリオスの神達を嫌っている。
おそらく、これからエリオスは大変な事になるかもしれない。
エリオスの方角を見ながらそう思った。
◆知恵と勝利の女神レーナ
「ただ今戻りました、レーナ様」
ファナケアの所に行っていた戦乙女隊の隊長のニーアが戻って来る。
エリオスに戻った私達は石になった戦乙女達をファナケアに預けた。
「ご苦労様です。ニーア?あの子達は治りそう?」
ファナケアは医と薬草の女神である。
彼女の力なら石になった戦乙女達を治癒する事ができるはずだ。
「はい。ファナケア様の話によるとレーナ様の盾のお陰で全員症状が軽いそうです。すぐにでも元に戻せるだろうとの事です」
ニーアが頭を下げて報告してくれる。
「そう、良かった。これで一安心ね」
私はゆったりとした椅子に腰かけて天を見上げる。
「あの……。レーナ様……」
ニーアが心配そうに私を見る。
「何ですか、ニーア?」
「あの……。お体の方はその……」
ニーアの視線が私のお腹に向いている。
私は自分のお腹を見る。
お腹は少し膨らんでいる。
まだ服でごまかせる。だけどこの先ごまかすのは難しいだろう。
「大丈夫よ、ニーア。でもこれから先出歩くのは無理ね」
「レーナ様。我々の事は大丈夫です。どうか、ご自身のお体を大切になさって下さい」
「ふふ、そうね。そうさせてもらうわ。後の事は任せるわねニーア」
「はい、レーナ様。後の事は我々にお任せ下さい。それでは私はこれで」
ニーアが頭を下げて部屋を出て行く。
ニーアの言う通り部屋で大人しくするしかないだろう。
だけど、蛇の女王ディアドナの動きが気になる。
しかし、この体では私にできる事はない。
ディアドナの事はオーディスに報告済みだ。
だから後の事はオーディスに任せよう。
もっともオーディスには何もできないだろう。
彼はエリオスを守る事で忙しい。
力と戦いの神であるトールズがもう少し役に立ってくれたらなと思う。
しかし、力押ししかできないトールズではディアドナに勝てないだろう。
つまり、エリオスの神々ではディアドナを止める事はできない。
つまり打つ手なしだ。
レイジもいるが彼はあまりあてにできない。
「はあ……。もう考えてもしかたがないわね」
私はお腹を触る。
この子が早く生まれてくれれば良いのにと思う。
この子はきっとレイジを越える最強の勇者になるだろう。
何しろ私とクロキの子だ。弱いはずがない。
この子が生まれて大きくなればディアドナなど敵ではない。
「早く生まれなさい。私の可愛い勇者」
◆黒髪の賢者チユキ
「そう……。その白銀の魔女が彼を操っているのね」
私はシロネからヴェロス王国とアルゴア王国で起こった事を聞く。
「そうなの、チユキさん。白銀の魔女のせいでクロキがおかしくなっているみたい……。あの子がいるせいでクロキは魔王の味方をしているようなの」
シロネは沈んだ表情をして言う。
そんな魔女がいるとは知らなかった。
なんでもあの醜い魔王の娘らしい。きっとものすごいブサイクに違いない。
アリアディア共和国に戻って来た私達はクラスス将軍から表彰された。
迷宮に捕らわれた人達を助け出したレイジはアリアディア共和国の英雄となり、レイジはもちろんその仲間である私達はアリアディア名誉市民権を貰える事になった。
このアリアディア市民権があればアリアド同盟に属する国ならば、自由に出入りが可能になる。
そして、レイジは公式に勇者の称号を得た。
アリアディア共和国が認定した光の勇者レイジの名声は大陸の西側諸国にも鳴り響く事になる。
これからは大陸の西側で活動がしやすくなるだろう。
ただ気になるのは、魔術師協会のタラボス副会長の事である。
彼は今行方不明になっているそうだ。
どうも彼はアトラナと繋がっていたらしい。もしかすると逃げたのかもしれない。
おかげで魔術師協会からは何も報酬をもらえなかった。残念だ。
また、レイジは女王となったエウリアから夫となってパシパエア王国の王様になって欲しいと懇願された。
もちろんレイジは断った。レイジに王様になって欲しいという国は沢山ある。
それに王様になったらその国から動けなくなる。
だからレイジに王様になられると私達が困る。
エウリアの申し出を断り、将軍府を後にしたレイジと私達はアリアディア共和国のレーナ神殿へと戻り今後の事について話し合う。
議題はもちろんシロネの幼馴染のクロキの事だ。
「でもシロネさん、そのクロキさんだっけ? リジェナさんを助けたりするんだから、完全に操られてはいないんじゃないかな?」
リノの言う通りだ。
彼は完全には操られていないようだ。
彼が完全に操られていたならば私を助けてくれるはずがない。
それにリジェナを助けた所を見ると良い人なのだろう。
また記憶を操作されてもいないようだ。
だとしたら助ける方法もあるかもしれない。
「だと良いのだけど……」
「大丈夫っすよ、シロネさん。最初は敵として現れて、何故か途中でピンチの時は助けてくれるキャラは最終ダンジョン手前で仲間になってくれるって決まってるっす。だからきっとクロキさんは最後にはナオ達の仲間になってくれるっすよ。心配する事は無いっす」
ナオが訳の分からない慰め方をする。
「私はちょっと嫌だな……。だって彼はレイ君を傷つけたのだもの」
サホコが少し嫌そうに言う。
確かに彼のせいでレイジは死にかけた。サホコはそれが許せないのだろう。
「サホコさん! それはきっと白銀の魔女のせいなのっ! クロキは本当はそんな事をしたくないはずなの!!」
シロネが机を叩いて言う。
シロネはそう言うが彼がレイジを傷つけたのは間違いない。
確かにその事が引っかかる。
レイジは彼の事をどう思っているのだろう?
彼を仲間として迎え入れてくれるだろうか?
レイジが彼を受け入れなければ、例え彼を救い出しても彼は私達と一緒にいるのは難しいかもしれない。
「落ち着いて、シロネさん……。それにサホコさんもレイジ君を思う気持ちはわかるけどちょっと言い過ぎよ。彼は操られているのだから」
「確かに……。ごめんなさい、シロネさん」
「ううん、いいよ。クロキがレイジ君を傷つけたのは事実だもの」
2人が頭を下げる。
サホコは普段は温厚だけどレイジの事になると性格が少し変わる。
シロネも幼馴染の彼の事になると少し性格が変わるようだ。
「はあ、それにしてもまさか、魔王に娘がいるなんて知らなかったわ。魔王の事を調べる必要があるわね」
なんでも白銀の魔女は魔王の娘らしい。
魔王に娘がいるという情報はなかった。そもそも妃がいる事も知らない。
「魔王の娘か、あんまり想像したくないな……」
レイジが嫌そうな顔をする。
魔王の姿は魔法の映像で一度見た事がある。
ものすごいブサイクだった。
その魔王の娘もブサイクなのだろうか?
少なくともレイジはブサイクだと思っているみたいだ。
確かにあの醜い魔王から綺麗な女の子が生まれるとは思えない。
シロネによるとすごく嫌な子だったらしい。
だからきっと醜いのだろう。
「ところでシロネさん気になったっすけど。良いっすか?」
「どうしたの、ナオちゃん」
「白銀の魔女も気になるっすけど、あの牛の邪神を助けに来た奴らは何者っすか?あのでかい鳥に乗っていた奴の1人は前にロクスの地下で会った事があるっすよ」
ナオが珍しく険しい顔をして言う。
私とナオはルフ鳥に乗っていた仮面の男に酷い目に会わされた事がある。
「私もそれは気になるわね……。彼らは何者なの? そもそも邪神ラヴュリュスは魔王の仲間じゃないの?」
私もシロネに聞く。
この世界の魔物は魔王が支配しているはずだ。だとしたら魔物を操る邪神は魔王の配下のはずだ。
「えっと……。私も良くわからないけど……。でも確か邪神は魔王の仲間じゃ無いはずだよ。邪神ラヴュリュスは昔魔王と争って迷宮に逃げたってレーナが言っていたもの」
シロネの言葉に驚く。
「それは本当なの、シロネさん!?」
私はシロネに詰め寄る。
「私はそう聞いたけど……。それがどうしたの、チユキさん?」
シロネは自分が言った事の重大さに気が付いて無いようだ。
「魔王の仲間ではない邪神や魔物がいるなんて初耳よ! これは重要な情報だわ!!」
私が説明するとシロネが驚く。
ようやく気付いたようだ。
私が聞いた伝承によると、この世界を作ったのは始祖神オルギスと聖母神ミナだ。
始祖神オルギスと聖母神ミナは協力して光り輝く美しい世界を作った。
だけどどこからともなく魔王モデスが現れて世界を支配しようとした。
オルギスとミナは魔王と戦い破れて死んでしまった。
魔王は世界を闇に包み、自分の眷属である魔物達を世界に放った。
オルギスとミナの子供達はオーディスを中心に集まり魔王と戦った。
オーディス達は何とか魔王に勝利して世界の半分を取り戻す事に成功した。
世界を半分取り戻した事により1日の半分だけ世界は光に照らされる事になった。
こうして世界は昼と夜に分かれる事になったのである。
魔王は敗れたけど、まだ生きていてナルゴルの地で逆襲の時を狙っている。
オーディス達は何とか勝利したけど犠牲が大きくて追撃をする事ができなかった。
こうして膠着状態が続いている。
これが世界の状況のはずだ。
私達はそんな世界に完全な光を取り戻すために呼ばれたはずだ。
この伝承のどこにも魔王に従わない邪神達は出て来ない。
しかも魔王と敵対しているなんて初耳だ。
つまり、オーディス率いるエリオスの神々と魔王以外の第3勢力があるという事ではないか。
「面倒くさい事になったな……」
レイジが嫌そうな顔をする。
確かに面倒くさい。
エリオスの神々とナルゴルの魔王の争いだけだと思っていたのがそうではなかった。
「そうね。色々と調べなきゃいけない事があるわね。それにレーナからも色々と話を聞かなきゃいけなわね……」
レーナには色々と教えてもらわなければいけないだろう。
この世界の神話の事は実はレーナに教えてもらったものではない。
私が本で調べたものだ。
もっと詳しい話をレーナから聞きたい。
「そうだな、レーナには色々と聞かなければいけないな」
私がレーナの名を出すとレイジがにやけた顔をして言う。
それを見て胸が苦しくなる。
まさかレイジが女神であるレーナからも愛されるとは思わなかった。
レイジは美形だ。本当に容姿だけは良い。
整った顔立ちにすっと通った鼻。切れ長の目に明るい髪。
すらりとした背丈でルックスも良い。
またレイジは頭も良く、そして何よりも強い。
これで私だけを見てくれれば言う事無しだ。
だけどそんな事があるわけが無い。
レイジのような美男子はいろんな女の子から好かれる。
だから私だけを見てくれると言う期待はあまりできない。
でもどこか期待をしているからこそ、私は彼の側にいるのだろう。
本当に淡い小さな期待だ。
しかし、レイジの側にレーナが現れた。
レーナの登場により私の淡い期待は完全に壊された。
あんな美人がいたら私だけを見てくれるどころか、1番にだってなれないだろう。
なんであんな綺麗な女神がいるのだろう?
私もそれなりに容姿には自信があるがレーナには敵わない。
そのレーナから愛していると言われたレイジはとても上機嫌だった。
爆発してしまえと思う。
すごくいらいらする。
私は冷たい瞳でレイジを見る。
レイジは私の視線に気付かずに涼しい顔をしている。
まったく人の気も知らないで。
「でもその前にクラスス将軍が祝賀会を開いてくれるみたいよ。せっかくだから、それに出席してから行きましょう」
私は少し怒りを込めて言う。
迷宮に捕らわれていた人達を救った事でクラスス将軍がアリアディア共和国主催の祝賀会を開いてくれるみたいだ。
「祝賀会っすか、良いっすね。ずっと迷宮の中で貧しい食事だったから美味しい物が食べたいっす」
ナオが涎を垂らして言う。
「そうだよ! ずっと閉じ込められていたんだもの。息抜きがしたいよ!!
リノが強い口調で言う。
「それもそうだな。息抜きも必要だな」
レイジもリノの意見に賛同する。
祝賀会には綺麗な女の子も来るだろう。
その事を考えているのだろうか顔が笑っている。
「祝賀会か……。頑張ってくれたクロキがいないのに……」
シロネが暗い顔をして言う。
確かにそうだ一番賞賛されるのは彼だろう。
なのに彼はいない。
「そうね。実際に迷宮に捕らわれていた人達を助けたのは彼だものね。レイジ君や私では無くて。本当に賞賛されるべきは彼よね」
私は横目でレイジを見て言う。
レイジの顔が目に見えて不機嫌になる。
レイジも彼が来なかったら危なかったのを理解しているのか言い返してこない。
私はそれを見て少しだけ気分が晴れる。
ロクス王国での事もそうだけど、彼にはお礼を言わなければいけない。
私を助けてくれた彼の行動には彼の意志が感じられた。
シロネと同じように私も彼を救いたいと思う。
レイジやサホコは嫌がるかもしれないが彼は私達の仲間になるべきだ。
彼は今頃何をしているのだろうか?
◆竜女リジェナ
「それではリジェナさん。よろしくおねがいしますね」
カヤ様が私に言う。
「あの、本当に私に出来るのでしょうか?」
「大丈夫ですよ、トルマルキスがあなたを補助します」
「よろしくお願いしますね、リジェナ様」
隣にいる太った男が揉み手をしながら私に頭を下げる。
私達がいるこの屋敷は元々は彼の物であった。
だけどこのトルマルキスの妻であるアトラナは邪神であり、勇者を騙していた。
もっとも、彼自身は普通の人間みたいで、ただ邪神に利用されていただけみたいだ。
実際アトラナが何をしているのか知らなかったらしい。
けど、そんな事で許すカヤ様ではない。
彼は全財産を奪われ、彼の商会もキョウカ様の物となった。
キョウカ様の物となったこの屋敷は、今ではミドー商会のアリアディア支部である。
そしてつい先程カヤ様からミドー商会のアリアディア支部の長になって欲しいと頼まれた所だ。
「それに聖レナリア共和国から人を呼びます。私が教育した子ですから安心ですよ、リジェナさん」
カヤ様はそう言うが私は首を振る。
「あの……。やっぱり私には無理です。商売なんてやった事がないんです!!」
そもそもなんで私なんかに任せるのだろう?もっと良い人がいるはずだ。
「大丈夫ですよ、リジェナさん。あなたはクロキさんから認められた人ですもの。彼が認めた人なら間違いないですわ」
キョウカ様が私を見て微笑む。
キョウカ様はどうやら旦那様を高く評価しているらしい。
旦那様を高く評価する人が増える事は良い事だ。
そしてその言葉で説得を諦める。
旦那様の名前を出されたら断れないではないか。
「あなたが適任なのですよ、リジェナさん。リザードマンを使ったキシュ河の河川運輸。他の運航業者よりも有利に商売ができるに違いありません。きっと莫大な利益を得るでしょう」
そう言うカヤ様はカヤ様で違う思惑があるみたいだ。
2人の視線が私を捕える。
出来れば逃げ出したい。
「これも試練なのでしょうか、旦那様……」
私は天井を見上げて旦那様を思い浮かべた。
◆暗黒騎士クロキ
中央山脈に差し掛かる所でクーナと合流する。
「クロキ!!」
クーナは自分を見ると抱き着いて来る。
自分を見るクーナの瞳が潤んでいる。
久しぶりに見るクーナは前よりも綺麗になったような気がする。
こんな可愛い子が抱き着いてくれる。
元の世界ではありえなかった事だ。
感動のあまり涙が出て来る。
やったね自分!!
「うう……。ごめんね、クーナ。さみしい思いをさせて……。それにグロリアスも」
自分はグロリアスの首を撫でる。
首を撫でるとグロリアスは甘えた声を出す。
「本当にさみしかった……クロキ。一緒に帰ろう……」
しかし、自分はその言葉に首を振る。
「ねえ、クーナ。折角だからアリアディア共和国に遊びに行かないか?」
「アリアディア共和国?」
クーナは首を傾げる。
「うん、アリアディア共和国。クーナと一緒に回ってみたいんだ」
レーナと一緒に見て回ったから下調べはすんでいる。
それに歌劇を見るのも良いかもしれない。
「クーナはクロキと一緒ならどこにでも行くぞ」
クーナが微笑む。それは天使の笑みだ。
この笑顔だけでご飯三杯はいける。
もちろんどんぶりでだ。
「にゅふふふふふふ」
思わず変な笑い声が出てしまう。
しかも涎までも出て来る。
「どうした、クロキ?」
クーナが不思議そうに自分を見る。
「いや何でもないよ。それじゃ行こうか」
手で涎を拭いて無理やり平常心を取り戻す。
自分達はグロリアスに乗って飛ぶ。
向かう先はナルゴルとは反対方向のアリアディア共和国。
時刻はもう夜である。
白銀に輝く月が夜空を照らしている。
月は太陽と違い全ての生きる者を優しく照らす。
そんな月夜の中を竜のグロリアスに乗って飛ぶ。
アリアディア共和国に向かって。
これでようやく第4章の終わりです。
正月の休みの間にこれまで書いた小説の見直しをするつもりが全くできませんでした・゜・(ノД`;)・゜
正月は正月でやる事があるため何もできず。4日から仕事でした。
ようやく連休に入ったので小説の続きが書けます。
取りあえずこれからの予定として、小説の見直し。これまでに出した魔物の図鑑。あとこの小説の宗教と文化について書きたいと思います。
かなり予定していたペースから遅れています。
いつなったら綺麗で清純な女神が邪悪な暗黒騎士に攫われて、それを正義の光の勇者が助けに行くというエピソードを書けるのかわかりません。
また暗黒騎士の正体は勇者の父親というネタを書けるのかわからなかったりします。
しかし、レイジの次の勇者を無理して作ったのですから何とかやりたいと思います。
第5章は4章がダンジョンアドベンチャーだったので今度はシティアドベンチャーです。
つまり、アリアディア編はまだまだ続きます。
都市の中で次々に起こる失踪事件。その解決を依頼されたレイジとチユキ達。その前に白銀の魔女が現れます。
何とか速く続きを書きたいと思いますm(_ _m)ペコリ