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暗黒騎士物語(なろう版)  作者: 根崎タケル
第4章 邪神の迷宮
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コカトリスの庭

◆黒髪の賢者チユキ


 ミノン平野の中心にその迷宮はある。

 この迷宮が何時できたのかはわからない。

 少なくともミノン平野に人間が住みつく前からこの迷宮はあるみたいだ。

 一説にはドワーフが作ったなんてのもある。自由戦士達の1人であるドワーフの話ではそうらしいが、この迷宮にはドワーフは住んでいない。

 どうやらドワーフの話でもはっきりとした事は伝わっていないようだ。

 しかし、この迷宮を作った者が何者かはわからないが、この迷宮の主が何者かはわかる。

 それは、牛頭人身の魔物ミノタウロスである。

 元々この地にはミノタウロスの王国があり、他の魔物が住みつく事はできなかった。

 そして、この迷宮はそのミノタウロスの都だったようである。

 だけど、そのミノタウロス達はなぜか皆、この迷宮に入ったままほとんど出て来なくなった。

 やがて住む者がいなくなったこの地は人間の物になった。

 豊かなミノン平野を手に入れた人間は繁栄するようになったそうだ。

 ただそれでも時々ミノタウロスが他の魔物を連れて這い出てくる事があるらしい。

 そして一番近いテセシアの街を襲い、人間を攫って連れて行くそうだ。

 当然テセシアの自由戦士は取り返そうと迷宮に入るが、助ける事は一度も出来なかったそうだ。

 だけど、迷宮に入った事で人々はある事に気付く。

 ミノン平野は元々豊かな土地である。

 特に中心にある迷宮には、大地の魔力が集まって結晶化するため、様々な希少な鉱石を取る事ができたのである。

 そのため、一攫千金を狙った人々が迷宮に入るようになった。

 もちろん、この迷宮には沢山の魔物がいるため当然危険である。それでも中に入る人は後を絶たない。

 この迷宮は人間に対して災厄を与えると同時に欲望を与える。

 私達は今からその迷宮に入ろうとしている。

 この迷宮は地下に広がっているらしく、どれくらいの規模なのかはわからない。

 だけどかなり巨大な迷宮のようである。

 すでに地表に出ている部分だけでもテセシアよりも大きい。


「ナオさん、あなたはどんな感じ?」


 私はナオに聞く。

 ナオは胸にネズミを抱えながら迷宮を見ている。

 ネズミを連れているのは預けられる所が見つからなかったからである。

 どこかで逃がしてあげるべきだと思うが、ナオはネズミを気に入っているためか手放そうとしない。

 まあ、いつか飽きるだろう。


「無理っすね……。全体に結界が張られているっす。何もわからないっす」

「そう……。私の魔法も駄目だわ」


 この迷宮の地表部分全体が魔法による結界が張られているため、ナオは中を感知する事ができない。

 また魔法の霧で覆われていて中も見えにくい。

 私も透視クレアボヤンスの魔法で中を見ようとしても駄目だった。

 だとすれば案内役に頼るしかない。

 横を見る。

 そこにはシズフェと彼女の仲間がいる。

 シズフェの仲間は5人。全員女性だ。男ばかりの自由戦士の中ではかなり珍しいと言える。

 黒い髪に褐色肌、背中に槍を背負った女戦士のケイナ。

 彼女はシズフェと同じように軽装備である。剥き出しの手足がとても健康的だ。

 おそらく腕力で正面から戦うタイプではなく、素早い動きで相手を翻弄する戦い方をするのだろう。足がすらりとして、いかにも素早そうだ。

 魔術師の格好をして童顔で一番背の低いのはマディアと言うらしい。格好からわかるとおり魔術師のようだけど、あまり強い魔力を感じない。

 しかし、この人間の世界では魔術を使える者は希少である。魔力が弱くても仲間に魔術師がいる方が良い。それにマディアという女の子は可愛いので、誰もが仲間にしたくなるだろう。

 そしてレーナ神殿に仕えるレイリアと言う司祭は使徒らしい。天使の声を聞いたと言っていたから、おそらくレーナではなく、レーナに仕える天使の誰かが彼女を使い魔にしたようだ。

 天使の使徒となった彼女は治癒魔法が使えるみたいだ。また、メイスと盾を持っている所から直接戦闘もできそうである。

 ただ使い魔である以上、彼女の行動を彼女の主が知る事ができる。私達の活動がレーナに知られる事になるだろう。

 顔や手足に刺青があるのはノーラというエルフだ。

 エルフは森から出て来て人間の仲間になる事がある。目的は大抵男性だ。

 特に美形な男性が好みで、中には眠らせて森に攫う者もいるそうだ。

 ただし、人間の仲間になるエルフはそんな事はしないみたいだ。だけど、子供ができると森に帰ってしまうと聞く。

 ただ、彼女は女性と組んでいる所を見ると男性目当てではないようだ。何のために森から出たのかはわからない。

 そして、顔に見える刺青は魔法の紋様で精霊との交信を遮断するためのものだ。なぜ彼女が魔法を封印されたのかはわからない。

 エルフの事は良く知らないが罰でも受けたのだろうか?まあ、でも気にしても仕方がない。

 以上がシズフェの仲間である。そして、彼女達がこの迷宮の案内役である。

 だけど、他にも同行者がいる。

 私は後ろを見る。

 そこには百名程の自由戦士達が控えていた。率いているのは地の勇者ゴーダンである。

 せめて、探索済みの所までは手伝わせて欲しいとスネフォルが自由戦士の精鋭を用意したのである。

 それならシズフェがガイドをしなくても良いように思われる。もっとも、レイジはシズフェに案内してもらいたいだろう。

 また、他にも火の勇者ノヴィスが付いて来た。彼はシズフェの知り合いらしい。

 赤毛で腕白な少年がそのまま大きくなったような感じの男性だ。まだ若いのに勇者と呼ばれている。なのだから、かなりの才能があるのだろう。

 そして、私の見立てでは彼はシズフェに気がありそうだ。健闘を祈りたい。

 以上が迷宮探索のメンバーだ。


「このまま入っても良いのかしら?」


 私はシズフェに聞く。

 地表部分は迷路にはなってはいないらしく、全て探索済みだそうだ。中央の巨大な建物に地下に降りる階段があり、そこまでいかなければならない。ただ、地表の多くの建物が壊されているため、まっすぐは進めないようだ。

 空から行けば早いのだが、この人数を連れて行くのは無理だ。私達だけ先行するわけにも行かないから、地表を歩いて行くことにする。

 また、今まで地表部分に人間が捕えられた形跡はないそうなので、今回もパシパエア王国の人は地下に連れ去られている可能性が高い。

 探索済みなら危険はないだろうけど一応聞く。


「それが賢者様。迷宮の地表の部分はコカトリス達の住処になっています。この魔物はなるべく避けなければなりません」


 シズフェの言葉に驚く。

 コカトリスは鶏の体に尾が蛇の尾になっている魔物だ。石化毒を吐き、石になった犠牲者を石のまま食べる。そのため、嘴は固く鋭い。

 コカトリスは普通の人間にはかなりの強敵である。正直に言ってシズフェ達では厳しいのではないだろうかと思う。どうやって迷宮に入るのだろう?


「コカトリスの住処に? 今までどうやって迷宮に入っていたの?」


 私は疑問を口にする。


「はい、コカトリスはあまり数が多くはありません。それに、見つからなければ特に危険ではないので遭遇したら逃げて迂回します」


 シズフェの言葉になる程と思う。

 コカトリスは危険だけど凶暴ではない。

 近づかなければ特に危険ではないそうだ。

 襲われても全力で逃げれば追ってはこないとシズフェは言う。

 またシズフェが言うには地表部分の探索もコカトリスに見付からないように進められたようである。


「他にはいないの?」

「基本、コカトリスだけです。ただ、あまり大勢で一度に入るとコカトリスを刺激してしまう怖れがあります」


 コカトリスがいるので危険な魔物は地表部分に住めないみたいだ。

 だけど、その分コカトリスをどうするか考えなくてはならないだろう。


「なるほど……。どうする、レイジ君? 一応、地表部分も捜索した方が良いと思うけど」


 私はレイジに聞く。


「そうだな、まあ普通に順番に突入だな。人数を分けて順次突入して地表部分を捜索する。そうすればコカトリスを刺激しなくてすむだろう。そして、中央の建物に集合だ。俺達が先陣を切っても良いけど、ここは君達に譲るよ。行ってくれるかい?」


 レイジはゴーダン達を見て言う。


「はい、任せておいてください! 行くぞ野郎ども!!」


 ゴーダン率いる自由戦士達はそう言うと人数を分けて突入していく。

 ゴーダン達が突入すると次にシズフェ達とノヴィスが突入する。


「あなただったらコカトリスを殲滅する事ができると思うのだけど。どうして率先して行かなかったの?」


 私はレイジの横で小声で聞く。


「それは面倒くさい。それに何かありそうな気がする。だから奴らに先にいってもらった」


 レイジは笑いながら言う。


「もう……。ゴーダン達はカナリアなの?まあ良いけど……」


 私達が危険な目に会うよりかはましだろう。それに私も何かありそうな気がする。

 そして、私達もまた迷宮へと向かう。


「うわ――!!」


 入ったとたんに自由戦士達の大きな悲鳴が聞こえる。

 案の定何かあるみたいだった。





◆自由戦士の少女シズフェ


「シズフェ、大丈夫か!!」

「こっちは大丈夫だよ、ケイナ姉! それにしてもなんでこんなにゴブリンがいるのよ!!」


 私は叫ぶ。

 地表にいるのはコカトリスだけのはずだ。だけど迷宮の地表部分に突入した私達はゴブリンの集団に襲われた。

 周りでは他の自由戦士達がゴブリンと戦っている。迷宮の地表部分は魔法の霧に覆われているため、視界が悪く奇襲を受けてしまった。

 そう言えば、レイジ様がこの迷宮に入る理由は、ゴブリンに攫われたパシパエア王国の人々の救出だったはずだ。

 だとすれば、このゴブリンは農場から逃げた奴隷のゴブリンなのかもしれない。

 私は襲って来たゴブリンを斬り裂く。


「マディ! 大丈夫!!」

「うん、シズちゃんなんとか」


 マディを守りながら戦わなければならない。彼女は直接戦闘ができないから乱戦になると危険だ。

 ケイナ姉が一番後ろを進み、私達を後ろから襲って来る者がいないか警戒してくれる。

 ケイナ姉の素早さはテセシアで1番だ。広い場所で戦えばほとんど人がケイナ姉には敵わない。

 ケイナ姉は槍を振り回しゴブリンを蹴散らす。

 そしてマディは閃光の魔法でゴブリンの視界を奪い。私達を助ける。


「ゴブリンは殲滅ですわ!!」


 レイリアさんがメイスでゴブリン達を叩き潰しながら進む。


「あいかわらず飛ばしているな、レイリアさん……」


 レイリアさんは女神レーナ様に仕える司祭なだけあって魔物が大っ嫌いだ。

 過去に魔物に襲われて魔物が嫌いになり、魔物を殲滅したいと心から願ったら天使様が答えてくれたそうだ。

 治癒魔法が使えるのだから後衛になってくれた方が本当は良いのだろう。だけど彼女は前に出る。

 その彼女をサポートするのはノーラさんだ。彼女は弓と小剣を巧みに使い、ゴブリンを倒していく。

 この2人は私達と出会う前から組んでいたらしい。息がぴったりあっている。

 2人の活躍でゴブリンを掻き分け進んでいく。

 だけど、この2人以上に活躍している人がいる。それはノヴィスだ。

 火の勇者と呼ばれるだけあってノヴィスは強い。火の魔法と剣を使い次々とゴブリンを倒していく。


「すごい、ノヴィ君。前よりも強くなっているみたい」


 マディがノヴィスを見て呟く。

 確かにすごい。前よりも強くなっているのではないだろうか?

 ノヴィスの戦いぶりを見て思う。

 小さい頃からノヴィスはすごかった。

 剣の才能も有る上に魔法の才能もあるのだ。

 ノヴィスは、私のお父さんから剣を習い、魔法はマディアの父親の教えを受けた。

 私もノヴィスと共にお父さんの指導を受けた。だけど私には才能がなかった。

 何しろ私には腕力がないのだ。いくら鍛えても筋肉がつかず、本物の剣を振る事ができない。

 お父さんが魔物による怪我で亡くなり、魔法の剣を受け継がなければ自由戦士になろうとは思わなかっただろう。

 私が自由戦士になったのは生活のためだ。

 再婚した母が一緒に暮らさないかと誘ってくれたが断った。

 義父は良い人みたいだけど、私の父親はたった1人で充分だ。

 自由戦士になった私は、お父さんと共に自由戦士をしていたケイナ姉の仲間にしてもらった。

 その時、既にノヴィスは自由戦士になっていて、ケイナ姉と共に依頼をこなしていた。

 魔法戦士は珍しかったからノヴィスはすぐに有名になった。

 その後マディアが仲間になり、たまたま一緒に仕事をしたレイリアさんとノーラさんが仲間になった。

 レイリアさんとノーラさんが仲間になる頃にはノヴィスは火の勇者と呼ばれるようになっていた。

 そして、個別に依頼を受けるようになって、だんだんと私達とは別に行動をするようになった。

 久しぶりに会ったノヴィスはさらに強くなっていた。才能の差に嫉妬しそうになる。


「どうした、シズフェ? 惚れ直したか?」


 私が見ている事に気付いたのかノヴィスがにっと笑う。


「はあ? 何言ってんの、バカ!!」


 いつ私がこいつに惚れたのだろう。周りは火の勇者と呼んでいるけど、私から見たら悪がきだ。

 小さい頃、何度意地悪をされただろう。今でも私に結構意地悪だったりする。

 まったく、ノヴィスはいつまでたっても子供だ。レイジ様を見習って欲しい。

 レイジ様はとても優しく紳士的だった。

 昨晩の事を思い出す。

 本当はもっとレイジ様とお話しがしたかった。

 だけど、賢者様達の目が厳しくてあまりお話しができなかった。それに、パシパエア王国のお姫様がレイジ様を訪ねて来たので、私はすぐに帰る事になってしまった。

 だから、レイジ様とはほとんど話しをする事はできなかった。

 もともと贅沢だったのだ、あんな素敵な男性と仲良くなれるはずがない。

 そもそもあんなに綺麗な人が周りにいるのだから私なんかまともに相手にしてくれないだろう。

 私達は進んでいく。

 ゴブリンぐらいなら私達でも何とかなる。問題は、進んでいる途中で砕けたゴブリンの石像がいくつも落ちている事だ。

 間違いなくコカトリスの仕業である。

 魔獣コカトリスは私達では勝つことは難しい。遭遇しなければ良いがそうはいかないだろう。石像の数が多い。絶対近くにいる。


「コケ――――――――!!」


 突然大きな鳴き声がする。

 そして、一緒に来た自由戦士達の悲鳴が聞こえる。


「やばい! コカトリスだ、逃げろ!!」


 ケイナ姉が叫ぶ。

 遠くからコカトリスらしき巨体が見える。

 コカトリスは暴れまくり、灰色の霧を吐いている。コカトリスが吐いているのは石化毒に違いない。あの霧に触れると石になってしまう。

 過去に遠くからコカトリスを見た事があるが、ここまで興奮しているのを見るのは初めてだ。

 急に沢山のゴブリンが入って来た事で気が立っているのかもしれない。

 コカトリスは真っ直ぐにこちらに来る。当然私達も逃げる。


「きゃあ!!」

「マディ!!」


 しかし、マディが転ぶ。


「くそ!!」


 ノヴィスが戻りコカトリスに立ちはだかる。

 その間にマディを起こす。

 コカトリスは私の2倍はある。


「はあっ!!」


 ノヴィスが剣を振るい。マディに行かないようにする。

 ケイナ姉が槍を振り回しでコカトリスを追い払おうとする。

 ノーラさんが弓でコカトリスの頭をねらう。


「みんな下がって!!」


 私は大声を出す。

 そのときコカトリスが大きく口を開ける。

 そしてコカトリスの口から灰色の霧が吐き出される。

 石化毒である。あの霧を浴びれば体が石のように固くなってしまう。


火壁ファイヤーウォール!!」

 ノヴィスが魔法で火の壁を作り石化毒を打ち消す。

 石化毒は火の壁により消されて行く。


「へっ、どうだ!!」


 ノヴィスが笑う。


「駄目っ!!ノヴィス、逃げて!!」


 私は叫ぶが間に合わない。

 コカトリスが火の壁を無視して突っ込んで来る。

 コカトリスは火に耐性がある。火の魔法を得意とするノヴィスとは相性が悪いはずだ。

 そして羽毛は固く攻撃が効きにくい。だから剣で傷つける事は難しい。

 コカトリスの弱点は水だ。この魔獣は水に濡れるのを極端に嫌がる。だから雨の降る日は安全だったりする。


「くっ!!」


 コカトリスの体当たりによりノヴィスが跳ね飛ばされる。


「大丈夫、ノヴィス?」


 私はノヴィスに駆け寄る。

 コカトリスがこちらにくる。


「よくもノヴィスを!!」


 ケイナ姉が槍を構え前に出る。


暗闇ダークネス!!」


 マディアが暗闇の魔法でコカトリスの視界を塞ぐ。これでしばらくは安全だ。また石化毒も1回吐いたら次に吐くまで時間がかかるはずである。この間に逃げなければ。


「はっ!!」


 ノーラさんが弓でこちら向かわないように援護してくれる。

 私とレイリアさんはその間にノヴィスの所にかけよる。


「すまない、へまをした」


 ノヴィスが弱弱しく言う。右足が白く固くなっている。

 どうやら体当たりされた時に石化毒に触れたみたいだ。


「レイリアさん、解毒を!!」


 だけどレイリアさんは首を振る。


「私の治癒魔法では無理です……。担いで逃げるしかありません」

「わかった!!」


 私はレイリアさんとノヴィスを起こそうとする。


「何をしている! 俺を置いて早く逃げろ!!」

「馬鹿っ! 置いて行けるわけないでしょ!!」


 コカトリスはマディの魔法で方向を見失っている。だけど、マディの魔法は長続きしない。急いで逃げないと。


「クエ―――――!!」


 コカトリスが暴れるとコカトリスを覆っていた暗闇が晴れる。

 そして、コカトリスは私達を見付け向かって来る。

 駄目だ間に合わない。

 そう思ったときだった。


「はっ!!」


 誰かが私達の頭上を越えてコカトリスに向かって剣を振るう。

 首を失ったコカトリスはそのまま倒れ動けなくなる。


「大丈夫かい、シズフェ?」

「レイジ様!!」


 飛び込んできたのはレイジ様だった。レイジ様は私を見て爽やかに笑う。


「すごい、コカトリスが一撃だなんて……。この方が光の勇者様」


 マディアが呟く。

 私も首を失ったコカトリスの死体を見て凄いと思う。

 そして、レイジ様が来た方向から賢者様達が来る。


「大丈夫? 怪我をしているみたいだけど」


 倒れているノヴィスを見て聖女様が来てくれる。

 そしてノヴィスの石化した足に触る。触った所が小さく光る。


「えっ? 治った」


 ノヴィスの足が元通りになる。


「まさかこんな事になってるなんてね……。これは先が思いやられるわね」


 賢者様が呟く。


「申し訳ありません!!」


 私はレイジ様達に頭を下げる。


「ねえ、あなた急にどうしたの?」


 リノ様が聞いてくる。


「いえ、地表部分はコカトリスだけだと言ってしまいまして……その……」

「ああ、その事……。それはあなたのせいじゃないわ。通常とは違う事が起こったのだから。それにゴブリンがここに大量に入った時点で私も予想してしかるべきだったわ」


 賢者様が許してくれる。


「そうそう、シズフェちゃんは気にしなくても良いよ。まあ他に罠はないみたいだし、後は俺達がやるよ」


 そう言ってレイジ様達は先に進む。

 私達はそれを見送るしかなかった。


「なんだありゃ……すごすぎるだろ、あれ」


 ノヴィスが呟く。

 レイジ様の動きは凄かった。いくら魔法の武器を持っていてもあんな動きはできない。

 そして、コカトリスはかなり強い魔獣だ。それを一撃で倒したのだ。ノヴィスでなくてもすごいと思うだろう。

 世の中上には上がいる事を思い知らされる。


「強いな……。それに連れている女性もすごい美人だな」


 ノーラさんが呟く。確かにレイジ様ばかり見ていたけど、改めて思い返すと皆すごい美人だ。

 ノヴィスなんか足を治してくれた聖女様に見惚れていた。


「確かにすごい美人よね……」


 私も呟く。あれじゃ私が入る余地はない。


「ホントすごいむ……美人だな」


 ノヴィスが横で呟く。あなた今、胸と言おうとしなかった?

 そこで気付く、ノヴィスが私の胸元を見ている事に。


「ちょっと、誰と比べているのよ!?」


 まったく、誰と比べているのだろう。私が聖女様に敵うわけがない。

 そもそも聖女様に対して何を考えてやがる。


「いや、別に……もうちょっとあったらなと思ってな」


 ノヴィスが笑いながら失礼な事を言う。殴ってやろうか。


「おいおい、ノヴィス。それならお前が大きくしてやりゃ良いだろ?」


 ケイナ姉が私とノヴィスの後ろから抱き着いて言う。


「ちょっ、ケイナ姉!!」


 私がケイナ姉に抗議する。

 レイジ様ならともかくこいつに大きくしてもらいたいと思わない。


「良し、わかった。俺にまかせとけ」


 そう言って両手を上げて何かを揉むようなしぐさをする。


「何を考えてるのよ! あんたは――!!」


 私はノヴィスを叩く。

 それを見て仲間達が笑う。

 レイジ様達が通った後なので、もう周りに魔物はいない。

 私達はレイジ様の後を追った。




◆黒髪の賢者チユキ


「どうだった、ナオさん?」


 一通り地表部分を見て来たナオに聞く。


「地表部分に人の気配はなかったっすよ」


 しかし、ナオは首を振る。

 地表には多くの建物がある。ミノタウロスがこの地を支配していた時は、かなり『の』都だったのだろう。

 だけど今は廃墟である。多くの建物が壊され、ゴブリン以外の人型の種族がいる気配はないそうだ。

 やはり、連れ去られた人は地下にいるみたいだ。さてどうするか?

 すでに半数の自由戦士が脱落してしまった。

 ゴブリンだけならこんなに被害は出ないだろう。

 だけど、急にゴブリンが大量に来た事でコカトリスが興奮して暴れていた。

 コカトリス達はゴブリンを追い払うべく、地表部分にいるゴブリンを攻撃していた。私達はそんな状態の時に迷宮に来た。そのため、これほどの被害が出た。

 探索もナオが1人で行うはめになったので、彼らはただの足手まといだった。地下では役に立ってもらいたい。

 石化した自由戦士はサホコの魔法で治癒している。

 そして私達は地表部分の中心にある巨大な建物の中にいる。

 目の前には地下へと続く階段がある。ここから地下に行けるみたいだ。


「ナオさん、戻って来て早々悪いのだけど。ここを多くの人が通ったかわかる?」


 私が言うとナオが床を見る。


「間違いないっす。少し前に多くの人がここを通ったみたいっすね。パシパエアの人達は地下に連れ去られたと見て間違いないっす」

「そう……それじゃ中に入りましょうか。シズフェさん、地下もコカトリスみたいな危険な魔物はいるの?」


 私はシズフェに聞く。


「いえ、賢者様……。地下1階にはそれほど危険な魔物はいません。巨大蝙蝠や巨大なネズミ、そして弱いアンデットが出るくらいです」


 シズフェはおずおずと答える。


「そう。そう言えば、地下からは迷路になっているって聞いたのだけど、地図はあるのかしら?」

「はい」


 私が聞くとシズフェは用意していた地図を背負い鞄から取り出し渡してくれる。

 地図の数は4枚。地下1階から4階まで行き方を示している。ちなみに5階以下はわからないそうだ。

 この地図は自由戦士協会が発行したものであるらしい。

 なんでも未踏の場所を探索して報告した者には報償が与えられるそうだ。こうして地図を随時更新しているみたいである。


「ところどころ空白が有るみたいだけど、どういう事かしら?」

「そこには危険な罠がありまして……。中が具体的にどうなっているのかわからないのです」

「なるほど」


 私は考える。私達ならその罠を突破できるのではないだろうか?その方が早く下の階に行けそうだ。


「ちなみにどんな罠があるか判明しているの?」

「はい。まず最初ですが、この大きな空白部分には大量の虫がでます」

「虫が?」

「はい、中に入った者が体の半分を食べられた状態で何と抜け出したそうです。その後すぐに死にましたが、間際に中の様子をある程度伝えたそうです」


 そう言ってその虫がどんな物だったのかを教えてくれる。自由戦士協会が公表しているらしく、自由戦士ならば皆知っているようだ。

 シズフェが言うには、虫はかなり気持ち悪い形状のようである。

 私はサホコ、ナオ、リノを見る。皆腕をクロスさせている。私も同じ気持ちだ。

 そして私はレイジを見る。


「迂回をしましよう、レイジ君。シズフェさん、案内をお願いするわ」




◆死神ザルキシス


「どうやら来たようだぞ、ラヴュリュス」

「そのようだな、ザルキシス」


 そう言うとラヴュリュスは笑う。

 13階層の玉座の間にはこのザルキシスとラヴュリュスしかいない。


「後は5階層まで誘導すれば完璧だ。あの檻に閉じ込めればもう抜け出せまい」


 普通に進む者は5階層から先には進めなくなる。そして、5階層は牢獄である。侵入して来た者を閉じ込める仕組みになっている。

 特別な方法を使わなければ6階層以下には行くことができない。最初の階層でそれに気付かなければ、永遠に13階層にはたどり着けない。


「くくくく。待ってろよ、レーナ。必ず手に入れてやるぞ」


 ラヴュリュスが涎を垂らしながら笑った。

 


コカトリス。ファンタジーを書くなら絶対出そうと思っていたモンスターだったりします。

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