表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暗黒騎士物語(なろう版)  作者: 根崎タケル
第4章 邪神の迷宮
49/195

自由戦士の街

◆黒髪の賢者チユキ


「パシパエア王国が魔物の襲撃を受けただと?」


 レイジがクラススに聞く。

 朝にクラススの使いの者に呼ばれて、私とレイジは2人で将軍府に向かった。

 そこでアリアド同盟に属する1つの国が、魔物の襲撃を受けた事を聞かされた』。

 襲撃を受けたパシパエア王国は、アリアディアの北にあるミノン平野にある国だ。

 その国は昨日の夜中に襲撃を受けて、半数以上の市民が魔物によって連れ去られたらしい。


「はい、大変な事になりまして……」


 クラススは朝方にその事を知ったらしい。そして急いで私達に伝えたそうだ。


「ところでなぜ、私達だけなのですか? 他にも勇者はいるはずですが」


 私は疑問を口にする。

 部屋には私とレイジとクラスス、そしてパシパエア王国の姫のエウリアとその生存者である小人の5人しかいない。

 勇者は他にもいるはずだ。なぜ私達だけ呼んだのだろう。


「それはパシパエア王国の姫であるエウリア殿が、光の勇者殿を推薦したからですよ」


 クラススはそう言ってエウリアを見る。

 そこには肉付きの良い女性が1人いる。顔は穏やかでおっとりしている感じがする。そして胸はサホコと同じぐらいあり巨乳だ。だけどサホコよりも少しふっくらしている感じがする。これ以上太ればデブと呼ばれるかもしれない。

肉付きが良い女の子が好きな人にはたまらないだろう。

 このエウリアはクラススの親戚であるらしい。アリアディア共和国の有力者の家は他国の王族と同じ扱いを受けるみたいである。

 エウリアはパシパエア王国の姫で、たまたまアリアディア共和国に来ていた。だから、襲撃には会わなかったようだ。そして、彼女は昨日レイジに助けてもらったらしい。

 自分の国が大変な事になったせいか沈んだ顔をしている。


「それに、他の勇者の方々よりも光の勇者様方の方が頼りになると思いまして……。聞くところによれば聖女様は地の勇者殿を倒したと聞きました。それに他の方も水や風の勇者が倒せなかったマーマンやケンタウロスを倒したと報告を聞いています」


 そういえばサホコが突き飛ばした勇者が地の勇者だったような気がする。


「はい、ですからレイジ様達に来ていただいたのです」


 クラススがレイジに卑屈な笑みを浮かべて言う。

 確かに他の勇者が活躍したという話は聞かない。他にも何かの勇者や有名な自由戦士がいるらしいが役に立ったという話は聞かない。


「チユキ。取りあえず話しを聞こうぜ、エウリアの国が大変みたいだからな」


 レイジがエウリアの方を見て言う。エウリアの服は胸元が開いているため、谷間が良く見える。レイジの目がそこに行っているのを感じる。

 まったくこいつは……。


「はあ……。まあ取りあえず詳しい話を聞かせてもらえますか」


 私はため息をつくとあきらめて話しを聞く事にする。


「それではポロム殿、詳しい話しをしていただけますかな」


 クラススはこの部屋にいる小人を見る。

 卓の上には小人が座っている。彼がポロムである。

 ポロムはピュグマイオイ族という小人だ。

 ピュグマイオイ族はずんぐりした体形で成人しても身長が35cmぐらいにしかならない。

 そのため、彼は卓の上に座っている。

 彼らは特殊な風習を持ち鶴のような鳥を飼い、その鳥に騎乗して移動する。

 また彼らは基本的に定住する事は無く、渡り鳥のように季節ごとに各地を移住している。

 だけど例外もある。

 人間と親しいピュグマイオイ族の中には人間の国の城壁の塔に住み郵便事業を行っている者もいる。

 聖レナリア共和国の城壁の塔にもピュグマイオイが住み。人間から手紙を預かり近隣の各国へ届けている。

 このポロムというピュグマイオイもパシパエア王国の城壁の塔に住み郵便屋をやっていたらしい。


「あれは夜も更けそろそろ眠ろうかと考えているときでした……。突然兵士の悲鳴が聞こえてきたのは……。外を見るとゴブリンとオークの大群が国を取り囲んでいました。私と妻は大急ぎで鳥に乗りに脱出いたしました」


 ポロムは静かに夜にあった事を説明する。話によるとパシパエア王国を取り囲む程の大群だったようだ。

 1国を取り囲むぐらいなのだから相当な数だ。


「ゴブリンとオークの大群がですか……。一体どこから?」


 ミノン平野は魔物が少ない地域のはずだ。

 それだけの大群が一体どこから来たのだろう。


「賢者殿。オークはわかりませんが、ゴブリンがどこから来たのかは見当が付きます。調べによりますとパシパエア王国の農場でゴブリンの奴隷達が全て逃亡したようなのです。奴らがパシパエア王国を襲ったに違いありません」


 クラススが横から説明する。

 私は何とも言えない気持ちになる。

 パシパエア王国はアリアディアの北にある王国で、奴隷制の大規模の農地経営を行っていた。

 ちなみにゴブリンは、昼はあまり動けないので夜に農作業をさせるらしい。

 実をいえば、ゴブリンはあまり農作業は得意ではない。だけど、農業の単純作業ならば可能だ。首輪をつけ大量に奴隷のゴブリンを使えば安価な農作物ができる。

 それがこの地域の人々を豊かにしている。

 しかし、奴隷制農地経営ラティフンディウムにはあまり良い感情を持てない。

 だけど、それをやめさせたら人間の低所得者の生活が困る事になるだろう。

 そもそも力づくでやめさせても問題になってしまう。

 人間の生活を取るか、ゴブリンの人権を守るべきか。

 まったく、何でこんな事で悩まなければならないのだ?嫌になる。

 レイジだったら悩まないはずだ。可愛い女の子の生活が大事だ。ゴブリンの権利を守るとか考えない。まさに人類のための勇者である。


「なるほど、わかりました……。所で他の種族はいましたか?通常ではオークは群れを作ることはありません。指揮をしている者がいるはずです。それらしき者はいましたか?」


 私はポロムに聞く。

 指揮官がいないのはおかしい。

 ゴブリンとオークが集団で襲って来る事はある。実際にナルゴルで戦った事が有る。

 だけどその時は魔族が指揮を執っていた。

 上位のオークではないかもしれないが何者かが指揮を執っているはずだ。


「はい……魔物の中にミノタウロスがいました。そのミノタウロスが指揮を執っているみたいでした」

「ミノタウロスが?!」

「はい……」


 ポロムは頷く。

 ピュグマイオイ族は暗視の能力がある上に目が良いと聞く。だから見間違いではないだろう。

 この世界に来てからまだミノタウロスには会っていない。よって、どういう種族なのかわからない。


「ミノタウロスは時々迷宮から出て来ては周辺の国を襲います。ただ、これだけ大規模なのは初めてですが……」

「そうなのですか」


 襲われると言ってもその周辺のみで、アリアド同盟全体からしたら微々たる物で、あまり問題にはされなかったみたいである。

 だけど、1つの国を滅ぼす程の襲撃になると話は別だ。この事件はアリアド同盟全体の存亡の危機となりかねない。そうクラススは言う。


「それから、ポロム殿。あの事をチユキ殿に」


 クラススがポロムに言う。


「ああ、そうでしたな……」

「何か気になる事でもあったのですか?」

「はい、奴らは城壁を壊し一通り暴れた後、国の人間達を連れて出て行きました」

「後を付けたのですか?」

「はい、妻を他国へと救援要請に向かわせた後、奴らの動向を監視していたのですが……。どうやら奴らは迷宮へと向かったようなのです」

「迷宮ですか?」

「はい、迷宮です」


 クラススとポロムが言う。この地域は魔物が少ないが唯一魔物が大量にいる所がある。

 それがミノン平野の真ん中にある迷宮だ。

 迷宮にはミノタウロスが多数住み着いて、時々迷宮から魔物を率いて出て来ては人間を襲うらしい。

 ただ、襲撃と言っても小規模で今まで大した被害は無かったそうだ。

 そのため今回の大規模な襲撃は信じられないらしい。

 そしてパシパエア王国を襲ったミノタウロス達は人々を攫い迷宮へと戻った。


「もしかして、今回の一件はミノタウロスの仕業なのではないでしょうか?」


 私が言うとクラススが頷く。


「おそらくその通りかと……何故今回にかぎり、大規模な襲撃を行ったのかはわかりません。まあ、魔物のやる事ですから理由を考えても仕方が無いのでしょう。ただ……助けられないでしょうか?」


 クラススがレイジにお願いをする。

 パシパエア王国にはアリアディア市民権を持つ者もいた。市民を守る将軍と言う地位にいるクラススとしては何としても助けたいだろう。


「レイジ様、お願いです! 私の国の者達を助けてください!!」


 それまで黙っていたエウリアがレイジの所に行くと跪く。


「大丈夫だ、エウリア。必ずお前の国の連中は助け出す」


 レイジはエウリアの手を取り立ち上がらせる。


「ああ……レイジ様」


 エウリアが泣き崩れる。


「そういう訳だ、チユキ。ミノタウロスの迷宮に行こう」


 レイジが私を見て言う。

 私は頭がいたくなる。その迷宮がどんな物かわからないのに安請け合いして良いのだろうか?

 レーナの時もそうだった。可愛い女の子が頼むとすぐこれだ。

 だがレイジが行く以上、サホコもリノもナオも行くだろう。だとしたら私も行くしかない。


「わかりました、クラスス殿。ですが、私達は迷宮の事が良くわかりません。ですから、迷宮に詳しい者を紹介してください」

「確かに、それもそうですな……。ではテセシアの街へ要請して迷宮に詳しい者を紹介いたしましょう」

「テセシアの街?」

「はい、テセシアの街です。迷宮の魔物に対処するために我がアリアディア共和国が作った自由戦士の街です」


 クラススが説明する。

 テセシアの街はアリアディア共和国の衛星都市であるらしく。迷宮の魔物に対処するために自由戦士を集めた街らしい。


「もちろん、他の勇者の方達や自由戦士達にもレイジ殿に協力するよう要請を出します。どうか、レイジ殿! パシパエア王国を……いやアリアド同盟を助けて下され!!」


 クラススがレイジに再び頭を下げる。

 私は何とも言えない気持ちでそれを眺めていた。




◆自由戦士の少女シズフェ


 アリアディア共和国までアトラナさんを護衛した後、私とケイナ姉はテセシアの街へと戻った。

 そして私とケイナ姉は他の仲間達と合流する。

 待ち合わせの食堂にはすでにみんなが集まっていた。


「そんな事が有ったのですか」

「そうなんですよ、レイリアさん。光の勇者様がすごい格好良くてもう!!」


 私は仲間であるレイリアさんに報告する。

 レイリアさんは女神レーナ様に仕える司祭だ。

 歳の頃は20歳後半。優しそうな女性だけど、戦いの女神様に仕えるだけあって魔物と戦う事もできる。魔物と戦う時のレイリアさんはかなり凄まじい。

 そして、20歳の頃に天使の声を聞いたレイリアさんは使徒となったらしく、治癒魔法をも使う事ができる。

 レイリアさんにはレーナ女神様に愛される勇者様の話しはぜひしておくべきだろう。

 その勇者様の話しを聞くレイリアさんはにこにこと笑っている。


「いいな、シズちゃん。私も行けばよかった」


 マディアが残念そうにする。


「仕方がないでしょ、マディ。あなたは魔術師協会に顔を出さなければならなかったのだから」


 1つ下の幼馴染であるマディアは同じ女の子なのでこういう話が好きだ。

 その彼女は魔術師であり、魔術師協会に所属している。

 彼女は闘技場の魔物が逃げ出した事件の事で魔術師協会の調査の手伝いを命じられた。そのため、護衛の仕事を受けられなかった。

 協会の仕事はお金にならないから断りたかったらしいが、マディのように下っ端の魔術師は協会の言う事に逆らう事はできない。

 その調査も結局何もわからなかったので意味が無かったとぼやいている。


「ああ、ありゃすごかったぜ! 顔も良かったが何よりも強い! 子供を産むならああいう男の種だな」

「ちょっと、ケイナ姉! 結婚もしてないのにそういう事は駄目だよ! ケイナ姉もフェリア様の信徒なんだから!!」


 私はケイナ姉を窘める。私とケイナ姉は神王オーディス様の妻である結婚の女神フェリア様の信徒だ。

 フェリア様の教えでは子供を作る行為は神聖な物であり、そういう事は気軽に言うべきではない。

 ケイナ姉は捨て子だった所を私のお父さんが拾い、私のお母さん母が勤めていたフェリア神殿に預けられて育てられた。

 ちなみにその時は私は生まれておらず、お父さんとお母さんも結婚していなかった。

 ケイナ姉の両親はどんな人かわからない。

 だけど、どうも父親がケンタウロスらしいのだ。

 そのためか、どうも性に対して大らかだ。下品な事を言っては司祭様にその事で怒られていたのを覚えている。

 しかし、ケンタウロスの血を引いているためか、普通の人間よりも強靭な肉体だ。ケイナ姉が自由戦士になったのは自然な事だったのかもしれない。

 このケイナ姉と私とマディは同じ国で育った。ただしその国はもうない。

 魔物の襲撃により城壁が半分以上壊され、生き残った人は散り散りになった。私は幼い頃に難民となり両親に連れられてこの国に来た。その時に魔術師であったマディの両親とマディ。神殿で働いていた私のお母さんを姉と慕うケイナ姉もまた一緒にこの国に来たのだった。


「大変だな、フェリア信徒とやらは。エルフなら気にいった相手ならどんな奴とも子供を作るのだがな」


 エルフであるノーラが茶化すように言う。


「そりゃ、ノーラさん。エルフならそうでしょうけど、人間はそう簡単にはいかないよ」


 長身でどこか少年ぽいノーラさんはエルフだ。ただし、住んでいた森で罪を犯したらしく、罰として精霊と交信する力を封じられ追放された。

 何の罪を犯したのかは教えてくれない。だけど彼女はさっぱりした性格で悪い人に見えない。それに、あまり過去の事は詮索したくなかった。

 ノーラさんは精霊と話す事ができないが、それでもエルフであり人間よりもするどい感覚を持つ上に弓の達人だ。

 このテセシアに住むレンジャーでノーラさんに勝てる人はほとんどいないだろう。

 彼女とレイリアさんはこのテセシアで出会い仲間となった。

 戦士である私とケイナ姉。魔術師であるマディア。神官であるレイリアさん。レンジャーのノーラさん。

 この5人が今の所私達戦士団の構成員だ。他にも仲間がいたけど、色々と事情があって今はいない。


「ところでシズちゃん。例の物は貰ったの?」

「それはぬかりなく」


 マディの問いに私は懐から5枚の木札を取り出す。


「劇場の予約鑑賞札はちゃんともらって来たよ」


 おーっと全員が手を叩く。

 アトラナさんの夫はこの国の有数の大商人であり、様々な所に顔が効く。

 歌劇の劇団長とも知り合いらしく、鑑賞札を安く売ってもらった。

 そしてアトラナさんは同じ女性であるためか、私達に色々な仕事を回してくれる。今後とも長く付き合っていきたい。

 札は5日後に円形劇場に催される「アルフェリア」という劇のものだ。魔女にさらわれた王子様を助けに行くお姫様の物語である。

 主人公のアルフェリアは姫であると同時に騎士で、剣の達人でもある。

 そしてその役を演じるのは今話題の女優シェンナだ。彼女の凛々しさは同性であっても見惚れてしまう。

 この劇は若い女性に大人気である。

 そのためか鑑賞札はすぐに売り切れてしまう。それが人数分手に入ったのだ。アトラナ様様である。


「さて鑑賞札も手に入った事ですし、これからどうします」

「それなら公衆浴場にいかないか? みんなで汗を流すのも良いだろう」


 レイリアさんの言葉にノーラさんが提案する。

 ノーラさんは公衆浴場が好きだ。

 エルフ族は水の精霊を使って体を清潔にする事が出来るから、入浴の習慣がない。

 ノーラさんが言うにはお風呂だけはエルフよりも人間の方が上との事だ。

 ただ私はノーラさんが公衆浴場を好きなのは別の理由からだと思う。

 実はノーラさんは同性愛者である。いろいろな若い女性の裸を見たいだけかもしれない。

 だけど、公衆浴場に行くのは賛成だ。

 アリアディアの大浴場程ではないけど、このテセシアの街にも公衆浴場はある。

 女性の自由戦士にとって体の汚れをどうするのかは重要な問題だ。

 何しろ城壁の外に出たらお風呂はおろか、水浴びすら難しいのである。

 男性や一部の女性のように気にしない人もいるが、そこまで女は捨てられない。

 昨日テセシアに帰った時に自室で水浴びをしたけど、できればお湯につかりたい。

「待ちな!!」

 立ち上がった時だった。呼び止められる。

 そこには巨大な男が1人立っていた。

 この男の事は知っている。地の勇者ゴーダンと言う男だ。

 そしてこのテセシアの街で最強の男だ。

 また自由戦士協会の治安維持を担当している。

 しかし勇者と呼ばれてはいるが暴力的な男であまり近づきたくない相手である。


「あの……。なんでしょうか?」

「お前がシズフェリアだな?」


 ゴーダンが私を見て言う。


「はい、そうですが……」

「会長がお前をお呼びだ。ついて来い」


 私は仲間を見る。

 ゴーダンが言う会長というのは自由戦士協会の会長であるスネフォル氏の事だろう。

 なんで会長が私に用があるのだろう。


「あの……なんで会長が私に用があるのでしょう?」

「重要な依頼だ。来た方がお前のためだぜ」


 ゴーダンは脅すように言う。

 この街を支配する自由戦士協会の指図には逆らう事は難しい。

 そんな事をすれば私達はこのテセシアを追われ路頭に迷うだろう。だから行くしかない。


「みんな、ちょっと行ってくるね……」


 仲間が心配そうに見ている。

 私は立ち上がりゴーダンの後をついて行く。

 会長が一体何の用だろう?

 私達は数少ない女性だけの戦士団である。自由戦士の依頼の中には男性には頼みにくい仕事もあったりする。例えば婦人の護衛などだ。そのためかそれなりに需要がある。

 だけど、このテセシアで最強と呼ばれる地の勇者を使いに出すと言うのはわからない。

 私程度なら、協会に属する下っ端で良いはずだ。

 一体何があるのだろう?私は不安に思った。





◆黒髪の賢者チユキ


 自由都市テセシア。

 このテセシアはアリアディア共和国の衛星都市である。この街が作られた目的はミノン平野の真ん中にある邪神の迷宮に対処するためである。

 迷宮からは凶悪な魔物が這い出る事がある。その討伐の為に自由戦士を集めたのがこの街の集まりだ。

 騎士や兵士を配置しないのは、その方が効率的だと判断されたためのようだ。

 そのため、この街の男性のほとんどが自由戦士である。これはかなり珍しいと言える。

 また、このテセシアの街は住人のほとんどがアリアディア共和国の市民権を持っていない。これもまた他の衛星都市には有りえない事だ。

 これはテセシアは自由戦士を集めるために、アリアディア共和国の市民権を持たない者でも自由に住む事や出入りを認めているためである。

 普通、自由都市と言えば国家からの自由と言う意味である。

 しかしテセシアが自由都市と呼ばれるのは自由戦士の街であり、自由に出入りできて自由に住む事ができるからである。

 だけど自由に出入りする事ができるためか、このテセシアは非常に治安が悪い。

 実際自由戦士とは名乗っているが、ただのヤクザのような人が多数この街に住んでいるみたいである。

 実は私はこのテセシアは迷宮に対処するために作られたのではなく、豊かなアリアド同盟に来た難民を収容するために作られたのではないかと推測している。

 そう考えると色々と辻褄が合う所があるからだ。

 何しろこのテセシアの政治は自由戦士で構成される自由戦士協会によって行われている。

 治安維持も自由戦士協会が行っている。アリアディアから騎士達が派遣されるという事はない。

 アリアディア共和国の衛星都市であるにも関わらず、政府の機関が治安維持を行わない。それではアリアディア共和国政府はまともにこのテセシアを治める気がないみたいである。

 そもそも、自由戦士協会自体が魔術師協会のように互助を目的に作られたのではなく、アリアディア共和国政府が自由戦士を統制するために国策で作った組織である。

 金は出すから後は自分達で勝手に自由にやってね、それから他に迷惑をかけないでね。というのが見え透いている。

 そういう意味からもテセシアは自由都市といえるだろう。

 そして今、私達は自由戦士協会の本部いる。


「こちらが自由戦士のシズフェリアでございます。光の勇者様」


 自由戦士協会の会長であるスネフォルが横にいる女の子を紹介する。


「シズフェリアです、光の勇者様。またお会いできて嬉しく思います」


 そう言ってシズフェリアと名乗った女の子は胸に手を置き頭を下げる。

 シズフェリアには前に会った事がある。確かオークに襲われていたはずだ。

 シズフェリアは私達の案内役としてここに来ている。

 本当は最初にクラススの要請で自由戦士協会の会長であるスネフォルが紹介したのは彼女の後ろにいるゴーダンだったりする。

 彼はこの街で最強の自由戦士であるらしい。そして、迷宮に何度も入った事が有るらしいのでガイドとしては問題はない。

 だけど、彼は先日にサホコに不届きな事をしようとした前科がある。

 その事でレイジは怒ってチェンジを要求した。その時にできれば可愛い女の子のガイドを要求したのである。

 自由戦士に可愛い女の子はあまりいないと思うが、確かに暑苦しい男にガイドはされたくない。少なくともゴーダンよりも見栄えが良いのにして欲しいのは確かだ。

 そうして来たのがシズフェリアである。

 シズフェリアを見る。栗色のロングヘアで、中々綺麗な顔立ちをしている。背はあまり高くなく、体は細くすらっとしている。かなり見栄えの良い女の子だ。

 これなら横のレイジも満足だろう。

 それにしてもシズフェリアの腕は他の女性の自由戦士よりもかなり細い。まともに剣を振れるのだろうか?

 正直に言って、進んで自由戦士をやるような子には見えない。顔つきからして育ちが良さそうである。

 名前も自由戦士っぽくない。

 シズフェリアのシズは穏やかと言う意味であり、フェリアは女神フェリアの事だろう。母親がフェリアの信徒だったに違いない。

 女神フェリアは神王オーディスの妻であり、結婚と家庭の女神だ。女神フェリアは戦神とはかけ離れた存在だ。

 だから親が自由戦士ならシズフェリアなんて名前はつけないだろう。

 まあ察するに、彼女はどこかの滅亡した国の貴族か騎士の家の令嬢と言った所だろう。

 祖国が魔物に滅ぼされて難民としてこのテセシアに来たのだと思う。この世界では珍しくない話しだ。


「よろしくお願いするよ、シズフェリア」


 レイジがシズフェリアの手を取る。

 手を取られたシズフェリアは真っ赤になっている。あまり男性経験はないようだ。

 レイジは外見だけなら王子様であり、そして強くて勉強も出来る。だから大抵の女の子は落ちる。

 だけど、中身は完全なケダモノだ。

 この子もレイジの毒牙にかかるかもしれない。私の目が有る時はさすがに手を出すのは控えてるみたいだけど、目の届かない所では色々な女の子に手を出しているみたいだ。

 わかっていて止めない私もどうかと思うが、そもそも止められるものなら止めている。

 それにレイジはエッチもうまいと思う。

 一緒に旅をしていると夜中にサホコのあられもない声が聞こえてきてちょっと大変だったりする。

 私はよくシロネと同じ部屋になるのだが、あの声を聞いて眠れるシロネが信じられない。シロネはレイジが他の女性と何をしても気にしないみたいである。

 長く一緒にいるが、実はシロネの事は良くわからなかったりする。


「シズフェとお呼び下さいレイジ様。私で良ければなんなりとお申しつけ下さい」


 シズフェは頭を下げる。

 これで道案内は確保した。明日にでも迷宮に行こう。




◆火の勇者ノヴィス


 おとといは酷い目にあった。昨日は1日中寝たきりだ。

 おかげで何もできなかった。

 魔物も光の勇者達の活躍により掃討されつつある。

 火の勇者である俺は全く良い所が無い。

 ゴーダンの奴は俺よりも軽傷だったらしく、昨日の昼にはこのテセシアに戻ってきたらしい。

 テセシアの街の中を歩く。小さい頃から街並みはあまり変わってないように思える。

 シズフェは元気にしているだろうか?

 アリアディアに行く前に立ち寄ったが、護衛の依頼のため留守だった。だけどもう戻って来ているだろう。


「よう、ノ~ヴィス♪」


 声がして突然後ろから抱き着かれる。


「ケ、ケイナ姉!? 何だよいきなりびっくりするじゃねーか!!」


 幼馴染のケイナ姉だ。会うのは久しぶりである。

 北の国から俺当てに指名依頼があり、他の仲間はテセシアから動けない用事があったので単身北の地に行って来たのである。

 だからケイナ姉の顔を見るのは1ヶ月ぶりである。


「何だとは失礼だな。誰が男にしてあげたと思っているんだ?」


 ケイナ姉はにししと笑う。


「うう……」


 唸る事しかできない。

 正直に言ってケイナ姉は苦手だ。

 俺はケイナ姉と共にフェリア神殿で生まれ育てられた。

 両親の事は知らない。

 そして、ケイナ姉は孤児で赤ん坊の頃にシズフェの父親に拾われ、フェリア神殿に預けられ育てられた。

 俺とシズフェとケイナ姉は姉弟のように育った。

 つまり、ケイナ姉には小さい頃の恥ずかしい事を全て知られてしまっている。


「ケイナ姉……その事はシズフェには言わねえでくれよな……」


 俺は弱弱しく言う。

 どうしても経験したくてケイナ姉に土下座をしたのは苦い思い出だ。

 ケイナ姉は笑いながら色々教えてくれて気持ち良かった。だから後悔はしていない。

 だけど、シズフェが知ったら怒るだろう。だから秘密にしなくてはならない。


「わーってるって! シズフェには言わねえよ、シズフェは固いからな」


 ケイナ姉は俺の背中を叩きながらげらげら笑う。


「そーいや、シズフェはどうしたんだよ。もうテセシアに戻って来てんだろ?」

「ん?シズフェも戻ってるぜ。今は協会に行っているはずだ」

「協会に?」


 テセシアで自由戦士を行うには協会に入らなければならない。そして、3年に1度は登録の更新をする義務がある。だけど、今年は更新の年ではないはずだ。なぜ協会に行ったのだろう?


「ああ、地の勇者のゴーダンが来て協会に行っちまったのよ。何の用事かはわからないけどな」


 ケイナ姉が気になる事を言う。


「ちょっと待て! ゴーダンにだって!? それじゃシズフェが危ない!!」


 ゴーダンは一昨日初めて会ったがどう見ても粗暴な男だ。シズフェの身が危ない。

 俺は急いで協会に行こうとする。


「おいおい、どうしたんだよ、ノヴィス?いくらゴーダンでも協会の人間だ。無茶はしねえよ」


 ケイナ姉が止める。


「いやしかし、だけど……ケイナ姉。もしもの事があったら?」

「あのシズフェが無理やりやられる玉かよ。剣技だけなら俺やノヴィスよりも強いぜ」


 確かにケイナ姉の言う通りシズフェは剣技だけなら俺より上だ。

 問題は腕力が無い事だ。本来のシズフェの力ではゴブリンだって斬れないだろう。しかしそれも魔法の剣を使う事で解決している。

 剣を使えばゴーダンでも簡単には手を出せないだろう。


「もっとも、シズフェが許したなら話は別だけどな。光の勇者ならともかく、ゴーダンじゃシズフェは相手にしないと思うぜ」


 ケイナ姉が笑いながら言う。

 光の勇者の事は知っている。一昨日に光の勇者の仲間である聖女に酷い目に会わされたばかりだ。

 光の勇者は当然聖女よりも強く、美形だと聞く。

 その光の勇者には聖女以外にも聖女と同じ位の美女が仲間にいるそうだ。

 聖女の胸を思い出す。

 あの胸を好きに出来るなんて正直羨ましい。

 シズフェもあれくらい大きかったらなと思う。

 それにしても、なぜケイナ姉が突然光の勇者の事を言い出したのだろう?わからない。

 ゴーダンは岩のような男でブサイクである。シズフェがゴーダンに自分の意志で体を許すとは思えないのも確かだ。


「それもそうだな」


 俺は納得する。もっともまだ少しは心配だったりする。

 それに、勇者と言えども協会に殴り込みに行くのはまずいだろうなと思う。

 だからこそケイナ姉は止めたのだろう。

 シズフェの事も心配だがケイナ姉に心配をかけたくもない。


「良し、ノヴィス。久しぶりに会った事だし、飲みに付き合え」


 ケイナ姉が首に左腕を絡ませ抱き寄せる。意外と柔らかい胸に顔が埋まる。

 こうして俺は引っ張られて行った。

少し更新します。後、章ごとに分けました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ