因縁の戦い
◆アルゴアの王子オミロス
ゴズの剣を盾で防ぐ。
「くらえ、火弾!!」
剣を防がれたゴズが一歩下がると、手のひらから魔法の火の玉を繰り出してくる。
それもまた盾で受ける。皮や木製の盾だったならば燃えてしまう所を魔法の盾は熱すら伝えず防いでくれる。
「加速!!」
間髪いれずにゴズが魔法を唱える。動きを速めたゴズが横に回り込んでくる。
盾が自動で動くのを感じる。
ガキン!!と言う音を立てて、盾が横から来た剣を防ぐ。
しかし、無理な体勢で受けたため尻餅をつく。
ゴズも立て続けで魔法を使ったため、次の動作に移れずに後ろに下がる。
大急ぎで立ち上がり盾を構える。
「何なんだよ! その盾はよー!!」
ゴズが悔しそうに叫ぶ。
ゴズの言うとおり、本当にすごい盾だと思う。本来なら間に合わない所を自動で動いて防いでくれる。
この盾を与えてくれた吟遊詩人の言葉を思いだす。
「絶対にパルシスに渡してはいけない」
彼は確かにそう言った。
まるでこうなる事があらかじめわかっていたみたいではないか。彼は一体何者なのだ?
もっともそれを考える暇はない。ゴズが再び攻撃してくる。
「くそがっ! その盾さえなけりゃお前なんか直ぐに斬り裂けるのによ―――!!」
確かに、この盾が無ければすでに自分は斬り裂かれたいただろう。
悔しいけど自分はゴズよりも弱い。
ゴズに初めて出会ったあの日、何もできない事が悔しかった。泣き叫ぶリジェナを見る事しかできなかった。
だからあの日から自分を鍛えた。今度こそリジェナを守れるようにと。
だけど、ゴズはその今の自分よりも遥かに強くなっていた。盾が無ければ全く敵わない。
悔しい。そう思った。このままではリジェナを守る事ができない。
それがたまらなく悔しかった。
ゴズが攻撃する。それを何とか盾で防ぐ。
しかし、そろそろ限界だった。
今の所、盾の力で何とか持ちこたえている。だけど、その盾を使っている自分が持たなくなっている。このままでは、いずれゴズに倒されるだろう。
だけどリジェナを渡す訳にはいかない。
「悪いがゴズ! お前にリジェナは渡さない!!」
盾でゴズを押し返しそう宣言する。
リジェナはゴズに出会ったあの日から、外に出る事を恐れるようになった。そんなリジェナを見ている事はとても悲しかった。
いつか、リジェナが安心して外に出られるように強くなりたかった。だけど、自分では駄目だ。自分の力だけではリジェナを守れない。
ゴズに対峙しながらリジェナの側に行く。
「いいかい、リジェナ。僕が何としてもゴズを食い止めるから、その間に助けを呼んで来るんだ」
自分ではゴズを倒せないのなら外から助けを呼ぶしかない。
「うん……わかったわ……オミロス。すぐに助けを呼んで来るから気を付けてね」
「ああ、任せておいてくれ」
ゴズは自分達を逃がすまいと梯子の前で陣取っている。
「俺を押さえるだって? できるのか、お前に?」
自分達の話が聞こえていたのだろうゴズが不敵に笑う。
「ゴス! 確かにお前には敵わない! だけど、足止めぐらいはやってみせる!!
ゴズに剣を向ける。リジェナがそっと横に動く。
「くくく……。だけどそれはやめておいた方が良いと思うけどな」
「どう言う意味だ、ゴズ!?」
「誰も助けになんかこれねえよ! よーく耳を澄ませてみな!!」
そう言われて耳を澄ませてみる。
何だか叫び声が聞こえる。
「大変よ、オミロス! 下にゴブリンがいる! ゴブリンがアルゴアに侵入しているわ!!」
リジェナが叫ぶ。ゴズに言われてを下を確認したみたいだ。
時刻はすでに夜だが雲が無く、月が明るい。だから、夜目が効かなくても下を見る事はできるだろう。
「ゴズ!!お前!!」
ゴズを睨む。
「ああ、俺の手引きで配下のゴブリン共をアルゴアに引き入れたのさ! 今頃、暗黒騎士に気を取られていたアルゴアの奴らを殺しまくっているだろうよ!!」
ゴズが高らかに笑いだす。
「今日でアルゴアは終わりだ! 絶望しろよ、王子様よ――――!!!」
◆暗黒騎士クロキ
「百列百歩神拳!!」
カヤという女性が遠くから拳による衝撃波を飛ばして来る。
それを走りながら回し受けで弾く。
急いでクーナの所に行きたいけどそうはさせてくれない。
仕方がない。そう思い立ち止まる。
「ようやく立ち止まってくれましたね。それにしても、おかしいですね……。リジェナさんのいる方向とは逆ですよ」
「悪いけど自分は陽動だよ……。別働隊がリジェナの方に向かっているよ」
さらりと嘘を言う。
別働隊なんかあるわけない。自分はナルゴルでモデスに次ぐ地位らしいけど、部下といえる者はいなかったりする。
「そうですか……。ですが私達がここに来た理由はクロキさん、あなたですよ。リジェナさんが攫われても、あなたを押さえておけば全て解決です」
全く乗ってくれない。
「自分を押さえられると思っているのですか?」
自分の問いにカヤは頷く。
「あなたからは私を攻撃する気が全く感じられません。あなたは私よりも遥かに強いですが、攻撃する気がないならいずれ私が勝ちます」
そう言って拳を繰り出してくる。
この女性の攻撃は自分を殺す気はないようだが、命を取らないというだけで腕の1つや、あばら骨ぐらいなら折る気のようだ。ついでに金的も平気で使ってくるので泣きたくなってくる。
蹴りを避け、拳を避けながら進もうとするが、なかなか進めない。
この相手をなんとかしないと先に進めない。
焦りが出て来る。一刻も早くクーナの所に行きたい。
なんとか隙を見付けられないものか?もうさすがに無視して進む事は難しい。
ならば、覚悟を決めるしかない。
「波動天通掌!!」
自分がわざと隙を作るとカヤという女性が鎧に左の手のひらを置き衝撃波を放ってくる。
自分は防具を貫通する一撃を脱力して受け流すと彼女の手を掴み右に回転させた後、左に回転させ投げ飛ばす。
「なんの!!」
しかし、カヤという女性は投げ飛ばされながらも蹴りを放ってくる。
自分はそれを、上体を反らし躱す。その攻撃に見事だと感心する。
ついでに蹴りを放った時にスカートがめくれ、黒のレースの下着が見える。これもまた見事だ。
カヤという女性は地面に肩から背中、腰と受け身を取りながら一回転して立ち上がる。
立ち上がったカヤと言う女性は左腕を押さえている。
今の技で左腕はしばらく使えないはずだ。
痛い思いをさせてごめんなさいと心で詫びる。
「やりますね……。しかし、今の技は少し甘かった気がします。私の身を案じているのですか?つくづく甘い人ですね」
確かに今の技は甘くなった。左右に回転させて相手を酔わす技なのだが、そこまではできなかった。
だけど甘くなったのは、下着に目が行ってしまったからだ。その事は口が裂けても言えない。
ありがとうございましたと心で礼を言う。
「通常の攻撃ではあなたは止められないようですね……。ならばこれならどうです!!」
そう言って突然拳を繰り出すのをやめると、両手を広げてこちらにダイブしてくる。
「なっ?!!」
思わず声を出す。
あまりにも隙だらけだったからだ。攻撃すれば簡単に殺せるだろう。
しかし、あまりにも無防備すぎたからだろうか、自分は何もできず抱き着かれるのを許してしまう。
兜越しに良い匂いがする。一体何をするつもりだ?
「くらいなさい! トルマリングローブ!!」
その言葉とともに強力な電流が体に流れてくる。
数秒の後、カヤという女性は抱き着くのをやめる。
「このグローブに込められた雷精の力を全て解放させて直接叩き込みました。いくらあなたでもただではすまないはずです」
そう言って手を離す。
「おそらく、全身が痺れて動けないでしょう。あとでサホコ様にお願いして治してもらわなければいけませんね。もう聞こえていないかもしれませんが、攻撃をためらう者は攻撃をためらわない者には勝てないのですよ」
カヤという女性は勝ち誇る。隙が生まれたのを感じた。
一瞬の隙を突き、カヤのという女性の頭を掴む。
「えっ?!」
カヤという女性はいきなり頭を掴まれ驚く。
「眠れ!!」
自分の持てる魔力を叩き込む。
「あっ……」
カヤという女性の体がぐらりと揺れ、膝を付く。
しかし、眠らせる事はできず、こちらを睨んでくる。
魔法に耐えたみたいだけど眠気で体が言う事を効かないようだ。
心の一瞬の隙を突かなければ全く効かなかったに違いない。
「なぜ……」
カヤという女性は頭を押さえて膝を付く。
前に電撃が効いたから、今回も効果があると思ったようだ。
「ごめん……、もう電撃は効かないんだ」
電撃は対策済みである。もし対策をしていなかったらちょっと危なかったかもしれない。
そして、その技を躊躇なく使うカヤという女性に戦慄する。
そのカヤという女性はふらついている。これでしばらく動けないだろう。
先を急がなくてはいけない。自分は走る。
「ま……待ちなさい……」
カヤと言う女性が自分を留めようとするが聞くわけにはいかない。
たのむ、無事でいてくれ。自分はそう祈りながら走るのだった。
◆剣の乙女シロネ
「飛影刃!!」
大鎌から繰り出される複数の魔法の刃が私を追ってくる。
私は剣を振るいその刃を消していく。
「やるな、シロネ!!ならば無空刃!!」
今度は魔法の刃を転移させてくる。しかし、この技は空間に揺らぎが生じる時にタイムラグが生じるため注意すれば躱すのはたやすい。
勝負は一進一退である。
白銀の魔女は防御力は高いが攻撃手段に乏しいようだ。そのため、彼女の攻撃は私を倒すに至っていない。
ただし、私の攻撃も相手に届かないので今の所勝負がつかない。
だけど、追い詰められているのは私だ。おそらく、このままでは負ける。
「フレイムブレード!!火炎飛燕刃!!」
私は剣を振るう。しかし、白銀の魔女の魔法盾の1つに阻まれる。
魔法盾は術者の力量によって強度が変わってくる。レーナ程ではないだろうけど彼女の魔法盾もかなりの強度だ。
「硬いわね……。レイジ君ならたぶん破れると思うけど、私じゃ無理かな」
レイジ君の剣は重くて速い。あのレーナの魔法盾でも1つや2つぐらいなら簡単に破る事ができる。だけど、レイジ君と違って私の攻撃は今の所、全く届いていない。
私の剣は速さではレイジ君と同じくらいだけど、威力はかなり落ちる。そのため、魔法盾を破る事ができない。
「おまえの攻撃なんか効かないぞ、シロネ!!」
白銀の魔女はそう言うと再び鎌を振るい、複数の魔法の刃を飛ばして来る。
魔法の刃は私を影のように自動で追って来る。そのため躱す事ができない。
私は魔法の刃を迎撃する。
白銀の魔女はその迎撃する間に魔法の刃を転移させる。私は急いでその場を離れ、魔法の刃をやり過ごす。
今の所、何とか避ける事ができている。だけど、少しずつだけど躱すのが難しくなっている。
「徐々にだが追い詰めているのがわかるぞ、シロネ。クロキは私の物でなければならない。何となくだがお前の存在は邪魔なように感じる。だから、お前には消えてもらうぞ」
白銀の魔女は鎌を振るいながら言う。
「クロキはあなたの物じゃない!!」
私は鎌を剣で受けながら答える。
人を物として扱って良いはずが無い。魔法の薬とかで人を操ろうなんて最低だ。
「ではクロキはお前の物なのかっ!!」
「私の物でもない!!」
「それならば黙ってクロキの前から消え去れ、目障りだ!!」
剣で鎌を弾き距離を取る。睨み合う私達。
「ふっ」
私は笑う。
「何を笑っている?」
「なるほどね……。ようはあなた。クロキを完全に自分の物にできてないんでしょ?」
私がそう言うと白銀の魔女が可愛らしくふくれっ面になる。
どうやら図星みたいだ。
私は確信する。クロキはまだ完全に操られていない。ならば、まだチャンスはある。
「確かにクロキはたまにリジェナのお尻を見てる時がある……」
白銀の魔女はくやしそうに言う。
そして、その言葉にあきれる。
あのむっつりスケベは何をやっているのだろう。後で矯正してやらねばなるまい。
「だが!!圧倒的に見ているのはクーナの胸とお尻だ!!それは間違いない!!」
そう言って鎌を振るって来る。
さっきよりも速くなっているが攻撃が雑になっている。
少し雑になっている今ならいける。
私は大鎌の一撃を避けると技を発動させる。
「千翼飛燕刃!!!」
「くっ!!」
しかし、白銀の魔女の九つの魔法盾に全て弾かれる。
だけど魔法盾の発動が若干遅れたのか、白銀の魔女の動きが完全に止まる。
今だ!!
私は態勢を無理やり立て直す。体が悲鳴を上げるのがわかるが、この一瞬を逃すわけにはいかない。
私は剣を背中に担ぎ、剣にありったけの魔力を込める。
千翼飛燕刃という大技を使った後に立て続けに技を繰り出す。本来ならかなり無理な動きだ。だけど、無理をしなければ白銀の魔女は倒せない。
「はっ!!」
私は掛け声と共に体を回転させるように剣を上段から振る。
剣は魔法盾に防がれる。だけど私はそれに構わず剣を振りぬく。
「なんだと!?」
霧が晴れるように魔法盾の1つが砕ける。白銀の魔女は何とか鎌の柄で剣を防ぐが受け流す事ができず、私達はそのまま倒れる。
そして、倒れた魔女を私が上から覆いかぶさるような格好になる。
「さすがのあなたもこの体勢なら、魔法盾も魔法の刃も出せないでしょ!!」
私は倒れた魔女に言い放つ。
うまくいった。もし魔法盾を二重にしていたら破れなかったかもしれない。
よし、この技は天翼斬魔剣と名付けよう。我ながらカッコ良いネーミングだ。
「く……」
白銀の魔女はくやしそうな顔をして、受け止めた剣を大鎌で押し返そうとしている。
だけどそうはさせない。私は剣に力を込める。
「ふふ、他では負けても腕力では私の方が上みたいね」
もっとも、それは女の子としてどうなんだと思うが、今は気にしている場合ではない。
剣に力を込める。
「さあ、クロキを解放してもらうわよ!!」
「ぐぐぐ……な、何の事だ……」
「とぼけないで! 貴方がクロキを魔法で洗脳してるんでしょ!!」
そうでなければ、あの優しいクロキが悪逆非道な魔王なんかに従うわけがない。
白を切るなら、このまま斬ってしまおう。
もう、2つの技を連続で使う事だけの力は残っていない。ここで倒さねば私の負けだ。
だけど、私も大技を連続で使った後なので相手を押し切るだけの力が出ない。
私達はそのまま上と下で睨み合う。
「えっ!!」
「あっ!!」
どれくらいの時間がたったのだろうか。突然、私はもの凄い力で後ろから引っ張られると白銀の魔女から引きはがされる。
引きはがされ、投げ飛ばされた私は広い部屋の端まで飛ばされ、入口の扉の所で着地する。私は前を見る。
そこには白銀の魔女を手を取って立ち上がらせている暗黒騎士の姿があった。
「クロキ!!」
その暗黒騎士の姿を見た時、私は動けなくなる。
白銀の魔女が何かを叫び。2人が何かを話している。2人が親しげに会話をしているのを見た時、私は金縛りにあってしまった。
そして、白銀の魔女が一歩下がるとクロキがこちらへと歩いて来る。剣は抜いていない、戦う気はないようだ。
「シロネ! 城の外で話がしたい!!」
◆暗黒騎士クロキ
間に合った、何とか最悪な事態は免れたようだ。クーナを立ち上がらせた後、シロネの方を見る。
やばい……絶対怒っているよね、あれ。
シロネの方を見ると思いっきり自分を睨んでいる。
冷や汗が出て来る。
どうすれば良いのか?
クーナが殺されそうになっていたから、思わずシロネを引き離したけど。この後どうするか考えていない。
「シロネ、これで2体1だぞ!!」
クーナは遠くにいるシロネに大声でそう言うと鎌を構える。鎌だけに……、って何あほな事を考えているのだろう。もう考えがまとまらない。
とにかく2人を戦わせては駄目だ。
「クーナ、自分が彼女の相手をする。その間にこの城をアルゴアから撤退させるんだ」
「むー。なぜだクロキ? 2人でかかれば確実に殺せるぞ!!」
自分はその言葉に首を振る。いや……、それをさせたくないから自分だけで相手をするのですよ……。
「大丈夫だよ、彼女よりも自分の方が強い。だからクーナはナルゴルで待っていて」
「いやだ!!」
自分は驚いてクーナを見る。
今までクーナが自分の言う事を聞か無かった事が無かったからだ。
「クーナ……」
「その女とクロキを一緒にするわけにはいかない。その女は危険だ……。クロキを遠くへ連れ去る気がする……」
クーナが敵意を込めた目でシロネを見ている。
「自分はどこにも行かないよ……クーナ。行くとしてもクーナと一緒だ。約束する」
その言葉が何を意味するのか自分でもわかっている。だけどそう言わずにはいられなかった。
クーナが自分を見る。そのクーナの視線を受け止める。
「わかった……ナルゴルで待ってる」
自分の言葉から何かを感じ取ったのかクーナはそう言って大鎌を降ろす。
それを確認するとシロネの方へと歩いて行く。シロネは剣を構えたまま動いていない。
「シロネ! 城の外で話がしたい!!」
自分がそう言うとシロネが剣を収める。
「その前に顔を見せなさい、クロキ!!」
自分は暗黒騎士の兜を取る。
自分の素顔を見ると。シロネが自分の顔をじっと見つめる。
「いいわ……。わかったわよ。逃げないでね、クロキ」
そう言うとシロネは翼を出すと壁をぶち破って城の外へと出る。
自分は飛翔の魔法を使い、シロネの後へと続く。
自分達が城の外へと出ると御菓子の城が動き始める。クーナがミュルミドンに命じて移動させているようだ。良い子だぞ、クーナ。
そして、空中でシロネと対峙する。
「この馬鹿たれー!!」
突然、シロネが自分に殴りかかってくる。
「ぶべっ!?」
なぜかその拳を避ける事ができず、正面から受けてしまう。
「ひゃ……ひゃにをするんだよ……」
自分は鼻を押さえる。
「バカバカバカ! クロキのバカ―――!!」
しかし、シロネは攻撃をやめない。
「シロネ……。ちょ……やめ」
自分が抗議するとシロネは手を止める。
「どんだけ私が心配したと思っているのよ!!!」
シロネは怒った顔で自分を見る。
「え……。心配してくれてたの?」
「当り前じゃない! 何でそう思うのよ!!」
「だって、いつも心配するのは自分の方だと思ってたから……」
そう、いつも心配するのは自分の方だった。シロネが自分の事を心配したりする事はない。
シロネはなまじ腕が立ち、正義感が強い上に怖れを知らない。自分よりも体の大きい相手にも普通に立ち向かっていく。
いつか危ない目に会うのではないかと気が気でなかった。
「なんで、クロキが私の心配するのよ!!」
シロネはなおも怒る。
「だって……。シロネはいつも危ない事に首を突っ込んで行くから……。誰かを助けるためかもしれないけど、シロネが危ない目に会うんじゃないかっていつも心配してたんだ……」
その言葉を聞くとシロネはきょとんとする。
「えっ? そうだったの?私の事を心配してたの?」
自分は頷く。
「いつも、危ない事はやめるべきだって言ってたんだけど……」
もっとも、シロネが自分の言う事を聞いてくれたりはしないのだが……。
「そういえばそんな事を言ってたっけ。ふーん、でも大丈夫よ。危ない目に会ってもきっとレイジ君が助けてくれるもの。クロキが私の心配する必要なんて何もないわよ」
シロネは腰に手をあててさも当然のように答える。
その言葉に何だよそれ、と思う。
確かにレイジは強い。そして、なぜか可愛い女の子のピンチには駆けつける。シロネは幼馴染の自分が見ても美人だ。シロネが危ない目に会ったら確実に助けるだろう。
もしかすると、聖レナリアのでの一件も自分が何かしなくてもレイジが何とかしていたのかもしれない。
だから自分がシロネの心配をする必要は全くないのかもしれない。
だけど……。
「だったら自分の心配もしなくても良いよ……。安心して良いよ」
そもそも何を心配される事があるのだろう?モデスは良い奴みたいだし、クーナと言う仲間ができた。レーナの側にいるシロネ達よりもよっぽど心配される言われはない。
「何よ、それ! 魔王の側にいて安心なんかできるわけがないでしょーが!!!」
シロネは怒る。
確かに普通に考えたらそうなんだけど……。どう説明したものか。
「さあ、レイジ君の所に行くわよ、クロキ! ナルゴルなんかにいたら駄目よ!!」
シロネは自分に手を差し出すが自分は首を振る。
「それは行けない……。自分はナルゴルに戻る」
クーナに約束したのだ、必ず戻ると。だから戻らなければならない。
そもそもレイジが自分を受け入れてくれるとは思えない。見る限り、レイジは女の子は受け入れるが男は受け入れたりしない。シロネは女の子だからそれに気付かないみたいだ。
それに自分もあまり一緒にいたい相手ではない。だからレイジの所には行かない。
「何よ! あのクーナって子が理由なの!!」
「そうだけど……」
自分がそう言うとシロネはわなわなと震えだす。
「やっぱりそうなのね! チユキさんが推理した通りだわ! クロキはちょっぴりエッチだけど、いくら可愛い子の頼みでも酷い事なんかしない! それが人々を苦しめる魔王とその白銀の魔女に味方をしようとするなんて!!」
シロネが叫ぶ。
「モデスはそこまで悪い奴じゃないよ……」
シロネは誤解をしている。だからその誤解を解かなくてはいけない。
「そんなわけないでしょ! やっぱりクロキはおかしくなってる!!」
だけど直ぐに否定されてしまう。
その言葉を聞いてまたかと思う。
シロネは自分の言う事を聞いてはくれない。なぜかはわからないけどいつも信用してもらえない。
きっと、自分に人徳というものがないのだろう。
誰かが言ってたけど、信用されない人にはそれなりの理由があるそうだ。だから、自分に悪い所があるのだろう。
悪い所は直さなければならないけど、それが何かわからない。だから、状況が悪い方に行ってしまう。
「剣を抜きなさい、クロキ! その目を覚まさせてあげる!!」
そう言って剣を抜く。
やっぱりそうなったか、とため息をつく。
「悪いけど……。もうシロネには負けないよ」
自分は兜を被ると剣を抜く。自分にはこれで語る事しかできないみたいだ。
「行くわよ、クロキ! 空中戦なら私の方に分があるんだから! 腕の一本ぐらいは覚悟しなさい!!」
シロネは上空に上がると高速で飛び始める。そして自分の周りを円を描くように動く。
自分は空中で剣を構える。
高速で自分の後ろに回ったシロネが剣を振るう。それを回転して弾く。
シロネはそのまま高速で離脱して、再び襲って来る。それを今度は横に跳びぎりぎりで躱す。
そしてシロネは連続で高速で攻撃と離脱を繰り返して来る。それを、自分は何とか躱す。
シロネの攻撃は何もない広い空間ではなかなか対処が難しい。確かにシロネは空中戦が得意みたいだ。だけど多分自分が勝つ。
「暗黒孔!!」
自分は魔法を発動させ、2つの暗黒孔を発生させる。
「なっ!!」
暗黒孔に掴まるまいとシロネの動きが変わる。
暗黒孔で飛べる範囲を狭くする事で攻撃を誘導する。どこから来るのかわかれば迎撃するのはたやすい。
シロネがこちらに向かってくるのを迎え撃つ。
自分は体を回転させて剣を振るう。
がきん!!そんな音を立てて自分の剣とシロネの剣が合わさる。
「きゃああああああ!!」
シロネは自分の剣に耐えられず吹き飛ばされる。
「グロリアス!!」
声を出しグロリアスを呼ぶ。
すると森から巨大な竜が飛び出し、落ちていくシロネを受け止める。
グロリアスはシロネを受け止めると地面へと降り立つ。
グロリアスが降りた所に降りる。
「大丈夫?シロネ?」
グロリアスの背からシロネを降ろす。
シロネは自分の剣の衝撃の影響のせいか頭を押さえながら降りる。
「何で私を助けるの?」
「別にシロネと敵対したいわけじゃない」
「なら、なんでナルゴルにいるの?」
「シロネ達がナルゴルに来なければ戦うつもりはないよ」
「魔王を守るの?」
自分はその言葉に頷く。
「ああ、もし勇者が魔王を倒すためにナルゴルに来るなら、自分は暗黒騎士となってその行く手を阻ませてもらう」
シロネを真正面から見据えて言い放つ。
「なんで……。訳わかんないよ……」
シロネは涙目だ。だけどこればかりはシロネの言う事を聞けない。
「行かせてもらうよ……。リジェナに会わなくちゃいけないんだ」
グロリアスに乗って行こうとするとマントが引っ張られる。
振り返ると怒った顔でシロネが睨んでいる。
「なによ! 前は私が泣くと何でも言う事聞いてくれたでしょ!!」
「ちょっ! 嘘泣き!!」
そういえば小さい頃から、シロネは自分が持っている物で欲しいのがあるとすぐに泣き落としにかかる事を思い出す。
シロネの涙に弱い自分は嘘泣きとわかっていても言う事を聞いてしまい。おかげで自分のおやつはほとんどシロネに取られてしまった。
「さすがにこればかりは聞けないよ」
「駄目よ、ナルゴルなんかに返さない! クロキは私とレイジ君の所に行くべきよ!!」
シロネはマントの端を離さない。
「駄目だよ、行けないよ」
自分はマントをひっぱりシロネの手から離そうとする。しかし、シロネはしっかりとマントを握り離そうとしない。
「ぶー! クロキのケチー!!」
シロネはふくれっ面になる。
自分達はマントを引っ張り合う。そんなやり取りをしている時だった。
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
突然、天に届くほどの大きな叫び声が聞こえる。
自分とシロネは叫び声がしたアルゴアの方を見る。
「何、あれ……?」
シロネが驚きの声を出す。
それは巨大な手の塊だった。
巨大な手の塊はアルゴアの城壁よりも高く、自分達から距離がかなり離れているにも関わらず、はっきりと見る事が出来る。
その巨大な手の集合体がアルゴアを襲っているようだった。
予定では6月中に第3部が終わる予定でしたがかなり遅れてしまいました。後2話で3部も終わりです。




