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暗黒騎士物語(なろう版)  作者: 根崎タケル
第2章 聖竜王の角
29/195

聖竜山の死闘

◆暗黒騎士クロキ


 白銀の聖竜王が住むであろう山の中腹の洞窟の入り口へとグロリアスを降ろす。

 洞窟は大きく、身体が巨大なグロリアスでも簡単に中に入れた。

 今自分は暗黒騎士の格好になっている。もしかすると突然戦闘になるかもしれないからだ。

 もっともそうなったらすぐに逃げるつもりである。

 無理やり角を奪う事には抵抗があった。なんとか交渉して角を貰えないだろうかと考える。もちろん可能性は薄いだろうが。

 洞窟の中は広く深く、奥には闇が広がっていた。

 グロリアスと共に洞窟を歩く。

 どれだけの距離を歩いただろうか突然広い空間に出る。その広い空間は太陽の光が届かない場所であるはずなのに明るい。

 洞窟の中には光る水晶が無数にあり、それが明かりのとなって洞窟を照らしていた。

 そしてその空間の中央にその竜が一匹いた。その竜が聖竜王で間違いないだろう。

 その竜はグロリアスよりもはるかに大きく、そしてなによりとても美しかった。

 その竜は一般的な竜と違い鱗が見えず白銀の体毛に覆われており、その一本一本の毛が光輝いている。

 そしてその竜の白銀の体躯が水晶の光に照らされてキラキラと輝く光景はとても幻想的だ。

 自分は思わず見惚れてしまう。

 その竜が自分に気付いたのかこちらに向く。竜の蒼い瞳が自分を捕える。

 敵意は感じなかった。むしろその気配は優しく包み込まれるようだった。


「よく来たね、暗黒騎士。君が来る事はわかっていたよ」


 澄んだ声で語りかけられる。

 来る事がわかっていた?もしかして予知能力があるのだろうか。


「モデスから連絡があったからね」


 しかし、竜から出たのは意外な言葉だった。


「モデスから連絡があった?」


 竜は頷く。


「角が伸びすぎて困ってたんだ。君ならこの角を綺麗に斬ってくれるだろ?」

「はっ、はあ……」


 その竜の言葉に少し脱力する。いきなり襲われる事も覚悟して来たのに拍子抜けだ。だがここは戦わなくて良かった事を喜ぶべきだろう。

 そういえばモデスは角を取って来てとは言ったが、無理やり角を取れとは言わなかった。

 自分が勝手に勘違いをしていただけだった。

 ようするにただの簡単なお使いだ。心の中で疑った事をモデスに謝る。

 竜の頭を見る。周りの水晶よりも輝く透き通った立派な角がついている。

 その角は大きく巨体である竜の体とあわせると天井にぶつかってしまう。確かにこれでは不便だろう。


「中ほどの所からバッサリ斬ってくれないかな。どうせ5000年もすれば同じくらいに伸びるから、その時はまたお願いするよ」


 5000年後も自分がいるかどうかわからないが、自分は頷く。


「わかりました。まかせてください」





◆暗黒騎士クロキ


 角を斬り落とし、グロリアスに縄で結び付けるとグロリアスは少し体を揺らす。


「すまない、グロリアス。少し我慢をしてくれ」


 自分はグロリアスに謝る。

 角は大きく、グロリアスと同じように転移先の魔法陣に収まらない。また自分が飛翔で運ぶ事も大きすぎて出来なかった。そのためグロリアスに結び付けて運ぶ事にした。


「いやあ、助かったよ」


 聖竜王がお礼を言う。


「お礼を言うのはこちらです。ありがとうございます、白銀の聖竜王」


 自分もまた聖竜王に頭を下げる。


「ふむ……」


 自分が頭を下げる様子を聖竜王が見つめている。


「何か……」


 自分は聖竜王に尋ねる。


「やはり君には竜使いの能力があるようだね。君から良い匂いがする」


 聖竜王が鼻を寄せてくる。

 少し戸惑うが鼻をなでると嬉しそうにする。グロリアスがそれを見て自分もと鼻を寄せて来る。

 それを見て聖竜王が笑ったような気がした。


「君の事はこの地に来てからずっと見ていたよ」


 聖竜王の言葉に驚く。こんな巨大な竜が近くで見ていたらさすがに気付くはずだ。


「私には千里眼の能力があるからね。その力で見る事ができる。それに、さすがに君も敵意が無ければ感知する事はできないみたいだね」


 自分が疑問に思ったのを感じたのか聖竜王が答える。


「君以外に勇者達も見ていたよ。さすがに髪の短い子は自分の視線になんとなくだけど気付いていたようだね」


 髪の短い子というのは轟奈緒美の事だろう。彼女の感知力は自分よりもかなり高いみたいだ。


「だからあの国で起こった事も見ていたよ。ザルキシスの糸は神をも縛る。私もあの領域に入ればあの者の餌食になっていた」


 その言葉に衝撃を受ける。


「ザルキシスの事を知っているのですか?」

「ああ、もちろんだよ。もっとも、あの者の事を知りたければモデスに聞いた方が良い。もともと彼らは仲間だったからね」


 初めて聞く事だった。


「だから君にはその事も含めて礼を言わなければならないね。君なのだろう?ザルキシスを止めたのは。さすがに結界が張られていて、その場面を見る事は出来なかったけどね。あの国と私は少しばかり関係があったからね。戦う力がない私に代わって守ってくれて礼を言うよ。ありがとう暗黒騎士ディハルト」


 白銀の聖竜王の見た目は巨大だが、直接戦闘はあまり得意ではないらしい。


「いえ、そんな自分は……大した事は」


 しかし、人から……いや竜から褒められて悪い気はしない。自分の顔が赤くなるのがわかる。


「まさか君と勇者が共闘するとはね、やはり共通の敵には協力するのかい?」

「いえ、共闘したわけでは……」


 自分は否定する。一緒に戦ったつもりはない。ただの偶然だ。


「まあ良いけどね、私はモデスとレーナの争いには基本的には関わらないつもりだ。中立を保たせてもらうよ」


 それはモデスから聞いていた。竜王はこの争いに中立らしい。


「それと、君から竜の魂を感じる。おそらくザルキシスに捕らわれていた竜の魂を解放してくれたようだね」


 この竜には何もかもお見通しみたいだ。


「最初は伸びすぎていたとはいえ、角を渡すかどうか迷っていたんだ。だけど君を見てて、君になら角を渡しても良いと思ったんだ」

「そうだったのですか……」

「その角を使って女神を造ると良いよ。どうやら君もモデスと同じように、女性に恵まれないみたいだからね」


 それはちょっと余計なお世話だと思う。そう言われると泣きたくなる。

 まあでもこの角があれば女神を造る事ができる。そこは感謝すべきだろう。


「我が力は癒し。我が角から生まれる女神は癒しの力を持つに違いない。きっと君の助けになってくれると思うよ」


 聖竜王はグロリアスに結ばれた角を見て言う。

 自分は角をなでる。角はこの場の水晶よりも輝いており綺麗だった。

 きっと綺麗な女神が生まれるだろう。


「ありがとうございます聖竜王。女神が生まれたらまた来たいと思います」


 自分はまた頭を下げると聖竜王が微笑む。


「ああ、またおいでよ、竜を懐かせる者よ」

「はい。さあ行こうか、グロリアス」


 自分は頭を下げてからグロリアスを促し、洞窟の入り口へと戻る。

 ナルゴルに帰ったらやる事が沢山ある。忙しくなるかもしれない。

 その事に思いを馳せながら歩く。

 そして洞窟の入り口へたどり着いた時、敵意と共に強烈な魔力の流れを感じた。


「ちょ……これは!!!」


 自分はグロリアスを止めると魔法を発動させる。


「極大暗黒孔!!!」


 自分の前に巨大な黒い穴が生まれる。その瞬間、光が奔流となって向かってくる。

 間一髪だった。光は暗黒の穴へと吸い込まれ消えていく。

 その光には覚えがあった。昨日の夜にレイジが使った光の魔法だ。あの魔法を通常の防御魔法で受けようとしたらその防御魔法ごと消滅させられていただろう。昨日あの魔法を見ていた事でなんとか対処できた。

 この奥には聖竜王もいるのにこんな強力な魔法を使ってくるとは何を考えているのだろうか?


「グロリアス。ここで待っていて」


 グロリアスを洞窟の入り口から少し入った所で待機させ自分は1人洞窟の外へと出る。

 思ったとおり、そこにはレイジ達がいた。

 その数は7人。レイジの妹であるキョウカという女の子を除く全員だ。当然シロネもいる。

 何故ここにいるのかわからない。完全に不意を突かれた。


「ディハルト!!」


 黒髪の女の子が叫ぶ。水王寺千雪だ。


「あなたは確かに強いわ。私達1人1人が相手では敵わないでしょうね。でも私達全員が相手ならどうかしら?」


 彼女がそう言うとレイジ達が武器を構える。

 ちょっと待て―――!!!自分は心の中で絶叫した。





◆黒髪の賢者チユキ


「風の精霊よ、みんなを助けて」


 リノの言葉と共に私達の体が軽くなる。移動が楽になり、より素早く動ける。


「聖なる力よ、皆に祝福を与えたまえ」


 サホコの言葉と共に私達は白い光に包まれる。この光は少量だが、持続的に私達を回復してくれる。

 2人が魔法を唱え戦闘準備を整える。

 私も魔法を唱える。皆の武器に魔法が付与される。これで攻撃力が上がったはずだ。

 目の前にはディハルトがいる。会うのはこれで3度目だ。

 ここに来て早々、レイジが神威の光砲を放ったのはびっくりした。もしかすると聖竜王が生きているかもしれないのにだ。

 ディハルトが魔法で防がなければ、洞窟の中がどうなっていたかわからない。

 レイジは女の子に被害さえでなければ他はどうでも良いと思っているので、きっとロクス王国を守る竜王がどうなっても構わないのだろう。

 それにしてもレイジのあの魔法を防ぐなんて、なんて奴なのだろう。あの魔法は並みの防御魔法では防げない。改めて相手の強さを実感する。

 ディハルトが聖竜王の洞窟から出てきた所を見ると角は奪われてしまったに違いない。レーナは何をやっているのだろう。

 今回はレーナが作戦を立て、私達はディハルトの足止めをする事しか聞いていない。

 そのレーナはアクシデントがあったのか姿を見せない。

 だから聖竜王の角をむざむざと奪われてしまった。

 最初はディハルトと戦う事をためらっていたが今は違う。彼らはロクス王国の人々を皆殺しにしようとした。とても危険な奴らだ、野放しにはできない。

 今でも慎重に行動すべきだと思うが、もはやためらいはない。全力で倒してやろうと思う。

 陣形はレイジを中心にシロネとカヤが前線に立ち、ナオが脇からサポートする。私とリノが後ろから魔法で攻撃しサホコが前線を回復させる。私達の必勝パターンだ。

 今回は昨日の夜のような黒い霧はないみたいなので本来の力で戦える。

 まず一番手は飛び道具を持つナオからだ。ナオのブーメランがディハルトを襲う。

 ナオのブーメランは投げると分裂し、なおかつ真空の刃を生み出し狙った複数の敵を切り刻む。

 だけどディハルトは剣を引き抜くと一振りで真空の刃を消し、全てのブーメランを叩き落とす。その剣の動きには迷いがなく見事だ。

 ブーメランは簡単に防がれたがそれで良い、剣を振り無防備になった所をレイジが攻撃するからだ。

 シロネやカヤが言うには、レイジの攻撃はすごく読みづらく避けにくいそうだ。態勢を崩したディハルトに避ける事は出来ないだろう。


「えっ……!!」


 一瞬、何が起きたのかわからなかった。レイジの攻撃がディハルトの体をすり抜けたのだ。

 斬ったレイジも茫然としている。

 結局何が起こったのかわからないが、次に翼を生やしたシロネが空から攻撃する。部屋の中等の、閉じられた空間では使えないが、この開けた場所でなら効果は絶大だ。かなり離れた頭上から猛スピードで落下し剣を振るう。だけどその剣はディハルトがわずかに動く事であっさり躱される。

 そこをカヤが地を這うように近づき拳を振るう。カヤの拳は当たれば、盾や鎧で受けても衝撃が内部に伝わり、ダメージを与え防ぐことができない。

 しかしそのカヤの攻撃もレイジの攻撃と同じようにディハルトを素通りする。


「みんな―――! どいて――――!!」


 リノの声にあわせて4人が離れこちらへと戻ってくる。

 見るとリノの前に背の高い青白ドレスを着た女性が立っている。そして頭上には雷を纏った巨大な鳥が飛んでいた。

 リノが呼び出した上位精霊である雪の女王スノークィーン雷鳥サンダーバードだ。

 精霊魔法に長けたエルフでも上位精霊を呼び出す事ができる者は少ないらしく、ましてやその上位精霊を2体同時に呼び出すことなど、エルフの女王ぐらしかできないとの事だ。

 だけどリノはそれをする事ができる。

 物理的な攻撃は効かなくても2体の上位精霊の同時攻撃はどうだろうか?


「お願い、精霊さん! あいつをやっつけて!!!」


 リノの声に合わせて雪の女王が氷槍の吹雪を雷鳥が雷の嵐を放つ。

 轟音と共に視界が一瞬土煙で覆われる。

 数秒後土煙が晴れる。ディハルトはそこに立っていた。


「何よ、あいつ! これだけの攻撃でも傷がつかないの!!?」


 私は驚愕する。何なのだろうあいつは。


「見切りと受け流しですね。攻撃が全く届きません。宮本武蔵は米粒を額につけた状態で斬撃を受け、相手に米粒だけしか斬らせなかったという逸話がありますが、それと同じ事が出来るのかもしれません」


 戻ってきたカヤが解説してくれる。


「何よ、それ!!」


 そんな冗談みたいな技ができるなんて。どうすれば良いのだろう。


「ですが精霊の攻撃までは防ぎきれなかったようですね」

「えっ……」


 見るとディハルトの体が少し揺らいでいた。


「それに先程から攻撃をしてきません、防御だけで精いっぱいのようです」


 カヤの言葉に私は笑う。少なくともなんらかのダメージを与える事ができるなら勝機はある。


「なら、このまま回復する暇を与えずにじわじわと削ってあげましょうか」


 地下での事は本当に怖かったのだ。ディハルトに直接された訳じゃないがその仮面の男の仲間なのだから同じ事だろう。絶対に仕返ししてやる。

 ディハルトにはロクス王国の人々の分も含めて、その報いを受けてもらおう。





◆暗黒騎士クロキ


「痛い……。痛い……な」


 おそらくは上位の精霊だろう物の魔法攻撃を防ぎきれなかった。体が痛い。

 さすがに7対1はきつい。

 今の所は何とかなっている。

 シロネの攻撃を躱すのは簡単だ、彼女の剣は何回も受けてきた。それは空を飛んでも同じ事だ。むしろ空を飛ぶ攻撃は直線的でより避けやすい。

 拳を振るう女の子の攻撃はするどい。でも師匠程怖くはない。今の所受け流しで回避している。

 レイジの攻撃は怖い。こいつの剣は元の世界でも充分に人が斬れるだろう。一撃一撃が自分の命を獲ろうと迫ってくる。

 だけど、レイジの攻撃パターンはある程度読む事ができる。絶対に自分の正面に立たず、視界の外から攻撃してくる。まるで野生動物のような動きだ。

 普通ならそんな事はできないが、レイジの身体能力はそれを可能にしている。だから、視界をずらし誘導することで攻撃を躱す。

 だけど、精霊の攻撃は防ぎきれない。もっとちゃんとした魔法防御障壁を張れば防げるかもしれないがレイジ達前線がそれをさせてくれない。

 さて、どうすべきか?

 隙をみて逃げるしかないだろう。だけどそれは難しい。転移魔法で逃げようにもグロリアスを置いてはいけない。

 見るとレイジとその仲間の女の子達が再び自分に向かってくる。

 レイジだけならともかく、その周りの女の子が自分の命を獲りに来る状況は精神的にきつかった。

 レイジの女の子達と争う気はない。


「なんでこうなったんだ……」


 笑いたくなる。

 でもよくよく考えてみれば、こうなる事はわかっていた事ではないか。

 レイジを敵に回せばその周りの女の子も敵となる。それはこの世界でも元の世界でも変わらない。レイジと戦った時点でこうなる事は予測すべきだった。

 だからこそ元の世界でレイジを敵に回す事をみんな嫌がったのだ。ある意味レイジは女の子に守られているといえる。

 そのレイジの女の子達がレイジと並んで迫ってくる。なんて嫌な状況なのだろう。

 つまらない対抗心から行った結果が、このざまである。なんと自分は愚かなのだろう。

 レイジを敵にする時は女の子達も敵にする覚悟をしなければならない。

 そんな覚悟もなく剣を取るから窮地に追い込まれるのだ。

 水王寺千雪も助けなけば良かったのかもしれない。現に彼女の魔法は自分の命を削ってくる。彼女だって自分ではなくレイジに助けられたかったに違いない。

 だからこそ防戦だけでなく反撃をするべきなのだ。それはシロネを含む彼女達をも斬る事を意味していた。

 反撃しなければやがて力で押し切られ自分は死ぬだろう。

 レイジ達が自分に到達し攻撃してくる。先程のダメージが抜けきらず、攻撃を防ぐのが難しくなってくる。

 レイジ達が攻撃し、後方から魔法が何度も飛んでくる。

 自分の力が落ちているのに対して、レイジ達は吉野沙穂子がレイジ達の疲労等を回復するので威力が落ちない。

 徐々に自分が追い込まれていくのがわかる。

 だけどそれでも彼女達を攻撃する事はできなかった。なんて自分は馬鹿なのだろうと思う。この後に及んで自分の身よりも彼女達を傷つける事を心配するのだから。


「ぐっ!!」


 何度目かの精霊の攻撃を喰らう。痛みで膝をつきそうになる。

 力が落ちてきているがまだ戦える。そういって何とか自分を鼓舞する。

 だが今度はそれだけではなかった。

 レイジ達の離れ方が尋常ではない、かなり距離をとっている。


「何が……」


 自分は呟く、そして気付いた時には遅かった。

 何時の間に作ったのだろう水王寺千雪が赤く光る巨大な魔法の球をこちらに向けて放つ。

 その魔法球から感じる魔力がとんでもなかった。


「炎の魔法と爆裂魔法を何十にも重ねた極大超重轟炎爆裂魔法よ!!悪行の報いを受けなさいディハルト!!!」


 水王寺千雪が叫ぶ。

 やばい。あの魔法は見ただけでやばい。それがこちらに向かってくる。

 後ろにはグロリアスがいる避ける事はできなかった。

 自分はありったけの魔力を吐き出す。せめてグロリアスは守る。そう決意する。

 魔法球がぶつかる。

 そして巨大なエネルギーの嵐が場を支配した。




◆黒髪の賢者チユキ


「やったかしら……」


 自分の最大の破壊力をもった魔法攻撃だ。さすがに死んだと信じたい。

 問題は聖竜王の洞窟も壊してしまう所だが、そこはディハルトの魔法防御力に賭けたい。

 彼が爆発の衝撃を自分1人で受けてくれれば洞窟を壊さずに済むだろう。

 そしてその思惑は当たったようだ。この魔法はこの山1つ消滅させる威力があるはずなのに、山は特に壊れていないみたいだ。彼が1人で魔法を受けきってくれたみたいだ。そこはディハルトを褒めても良いだろう。


「さしずめ悪人の最後の善行って所かしら」


 私は笑う。


「さっすがッス。チユキさん」

 ナオが私に寄ってくる。


「みんなの連携のおかげよ、私1人の力ではないわ」


 先程の魔法は発動に時間がかかるため、その間に対抗策を取られやすい。

 レイジ達がその隙をあたえなかったからこそ、この魔法を当てる事ができたのだ。


「ありがとう、精霊さん」


 リノがもはや勝ったとばかりに精霊を帰還させる。雪の女王と雷の鳥の姿が薄くなり消える。


「これであいつも終わりか。私の手で止めを刺したかったな」


 残念そうにシロネが言う。


「それは俺も同じだぜ、シロネ。何しろ瀕死の重傷を負わされたんだからな」


 レイジはディハルトがいた洞窟の入り口を見ながら言う。

 爆発の煙で見えないがさすがに死んだだろう。

 煙がしだいに晴れていく。


「そんなの嘘っす!!!」


 最初に気付いたナオが叫ぶ。

 そこにはまだディハルトが立っていた。


「そんな!? ありえない!!!」


 私は叫ぶ。ありったけの魔力を込めたのだ、あれを喰らって無事でいられるはずがない。


「あの爆発で生きていられるなんて……」


 サホコも信じられないという顔をする。


「いえ、もう終わりのようです。良く見てください」


 カヤがディハルトを指して言う。

 魔法を使いディハルトを良く見る。鎧が割れて兜にひびが入っている。そして剣を杖にして立っているのも辛そうだった。


「ふっ! さすがに無事とはいかなかったようだな! だがこれで終わりだ!!」


 レイジが剣をディハルトに向ける。


「ディハルト! お前は強かった! 俺なんかよりも遥かにな! だがお前には足りない物がある! それは俺には勝利の女神がついているがお前にはいない事だ!!!」


 そう言うとレイジは私達を見渡す。


「レイ君……」

「レイジさん……」


 サホコとリノが感動で目を潤ませている。

 ナオとシロネは照れて笑っている。

 カヤは無表情だ。

 ちなみに私はいきなり演説を始めて、何を言っているんだお前はと白けた目でレイジを見ている。これがお約束というやつなのだろうか?でもまあ私達の勝ちみたいだし最後まで聞いてやろう。


「ここにいる女神達が俺を助けてくれる! だからどんなに強い奴が相手でも俺は怖れない! 最後には俺が勝つことがわかっているからだ!!」


 そう言うとレイジの剣が光輝く。


「さあ、もう終わりだぜディハルト! 俺の光の剣で消えるがいい!!」


 そう言ってレイジはディハルトに向かおうとする。


「待って、レイジ君!!!」


 私はあわてて呼び止める。


「なんだよ、チユキ」


 不満そうな顔してレイジが振り向く。格好をつけて行こうとした所を止められたのだから当然だ。


「どうしたのチユキさん。こいつを助けるの?」


 リノが私に聞く。


「そうだよ! こいつは危ない奴だよ! 今ここで倒すべき! 助けるなんて可笑しいよ!!」


 シロネが言う。


「助ける? まさか。ただ、ちょっとこいつに聞きたい事があるの」

「聞きたい事?」


 私は頷く。


「最後に聞いておきたいの。あの仮面の男の事をね」


 あの仮面の男には借りがある。その情報を引き出したい。


「だから、もうちょっとだけ殺すのを待って欲しいの」


 もはや勝負はついた。


「そう言う事なら仕方がないか……」


 シロネとリノが納得する。


「それならこの際だから色々と聞いておくか。嫌でも力づくでな」


 レイジが笑う。拷問にでもかけるつもりなのだろう。


「女の子の前なんだからほどほどにしてよね……」


 この世界に来てだいぶ慣れたが、魔物とはいえ無駄に痛めつけるのはどうかと思う。

 もっとも、大人しく口を割らないなら別だが。

 私達は笑いながらディハルトの元へ向かう。





◆暗黒騎士クロキ


 レイジが叫んでいる。

 意識が朦朧としながらも、その言葉を聞いていた。

 レイジの言う通りだ。自分には助けてくれる女神はいない。

 これがレイジと自分の差なのだろう。絶対に勝てない壁を感じた。

 そもそもこっちは1人で向こうは7人。正直不公平だと思う。

 だけど今更そんな事を気にしても仕方がなかった。

 さっきの魔法はきつかった。生きているのが不思議なぐらいだ。

 自分の胸に手を置く。火竜の息吹を感じる。


「助かった……。ありがとう……。でも……もう駄目みたいだ」


 自分は呟く。

 火竜の魂がくれた火に対する耐性のお陰で爆発に含まれる炎は防ぐ事ができた。だからこそ生きていられる。

 だけど爆発の衝撃波は完全には防ぐ事ができなかった。お陰で身に纏った鎧がぼろぼろだ。立っているのもきつい。

 彼らが近づいてくるのが見える。皆楽しそうに笑っている。

 きっと自分に勝った事が嬉しいのだろう。

 このままだとまずいのはわかるけど体が動かなかった。

 どうすれば良いのだろう。正体を明かして素直にあやまれば命だけは助けてくれるかもしれない。

 だけど、それをする事はできなかった。命が危ないのに馬鹿だと自分でも思う。

 背中に感じる気配からグロリアスが今にも飛び出そうとしているのがわかる。


「だめだグロリアス……。そのまま隠れているんだ」


 このまま隠れていれば見つからないはずだ。そうすれば少なくともグロリアスは助かるはずだ。

 彼らが近付いてくる。

 体がふらつき頭がゆらぐ。


「あっ……」


 気付いた時には遅かった。

 頭を揺らしたせいだろうか。ヒビが入っていた兜がずれて地面に落ちてしまった。




◆黒髪の賢者チユキ


 ディハルトの体が揺らぎディハルトの兜が地面に落ちる。

 その瞬間よりディハルトの素顔が露わになる。


「えっ、人間なの……」


 意外だった。てっきりその素顔は化け物だと思っていた。

 その顔は魔族でもなく化け物でもない普通の人間ように見えた。黒い髪にほっそりとした顔立ち。その白い顔が少し赤く染まっている。


「あ―――――っ!!!」


 突然リノがディハルトを指して叫ぶ。


「どうしたの!? リノさんっ!!」


 私はリノの方を見る。


「あっ!!あの人見たことがあるよ!!!」


 リノがディハルトを見て叫ぶ。


「ク……クロキ……!?」


 シロネが呟く。

 その言葉に皆がシロネを見る。


「なっ、なんでクロキがここにいるのよ―――!!!」


 シロネが絶叫する。


「そっ!! そうだよあれシロネさんの幼馴染だよ!!」

「「エ――――――――ッ!!」」


 私とナオが驚きの声をあげリノを見る。

 そういえばリノはシロネの幼馴染を見た事があったはずだ。そしてシロネもディハルトの正体が彼だと言っている。

 あれがその彼なのだろうか?

 なんで、シロネの幼馴染がここにいるのだろうか?

 私は混乱してしまう


「なんでシロネの幼馴染がここにいるんだ?」


 レイジが疑問を口にする。それは私が知りたい。

 私は幼馴染の彼を見る。

 いかにも死にそうな顔をして倒れそうだ。


「あっ、倒れる!!!」


 リノが叫ぶ。

 彼の体が揺らぎ後ろへと倒れそうになる。


「ちょっ、クロキ!!」


 シロネが駆け寄ろうとする。

 しかし一瞬早く洞窟より巨大な影が飛び出す。


「えっ、ドラゴン!!」


 飛び出してきたのは漆黒の竜だった。

 竜は彼を背中に掬い上げ背中に乗せると猛烈なスピードで飛んでいく。

 私達は突然の事に動く事ができなかった。


「えっ、何……。何があったの――――!!」


 シロネが絶叫する。何が起こったのかわからず混乱しているみたいだ。

 彼を乗せた竜が小さくなっていく。

 私は竜が飛んでいくのを見守るしかなかった。




◆暗黒騎士クロキ


 グロリアスの背に乗り空を飛ぶ。


「助かったよ、グロリアス」


 自分が倒れそうになった事で思わず飛び出してしまったみたいだ。

 結果的に助かった。

 勝利の女神はいないけど、助けてくれる竜はいるみたいだ。だから勝つ事はできなくても生きていられる。

 レイジ達は何故か追撃をしてこなかった。理由はわからない。

 顔に手をやる。そこに兜はない。自分の素顔だ。


「正体バレちゃったな……」


 これでディハルトではなく、クロキと言う人物は完全に嫌われてしまっただろう。何しろ自分の好きな人を斬ったのだ。もう元の関係には戻れまい。


「やっぱり勝てないか……」


 我ながらくだらない対抗心だと思う、何と戦っているのやら。


「本当に馬鹿だよな……」


 少し笑う。

 グロリアスの背に結び付けられた聖竜王の角をさわる。


「これで自分にも女神が来てくれるかな……」


 そうすれば次は勝てるかもしれない。

 意識が朦朧としてくる。さすがに疲れた。


「ごめん、グロリアス……。少し眠るよ」


 グロリアスの背の上で意識が薄れていく。

 青空の中をグロリアスが飛んでいく。雲の上は晴れ渡り陽光が自分達を照らす。

 その中で自分は眠りに落ちた。


次回第2部エピローグ、第2部も次で終わりです。なんとか年内に終わらせたいです。

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