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暗黒騎士物語(なろう版)  作者: 根崎タケル
第2章 聖竜王の角
28/195

ロクス王国との別れ

◆暗黒騎士クロキ


 ゾンビが去りあたりは活気を取り戻している。

 自分は1人で大通りを歩いていた。

 通りを歩く人からはレイジを讃える声がちらほらと聞こえる。

 実際にレイジ達はこの国を救うために頑張ったのだから讃えられても良いだろう。

 最後に見せたレイジの魔法はすごかった。

 その時の事を思い出す。

 ザルキシスの魔法陣を壊し自分は地上に戻った。その時、水王寺千雪と轟奈緒美が出口の所にいたのには驚いた。しかし、2人は頭上を見上げて何かに気を取られているみたいなので気付かれずに簡単にすり抜ける事が出来た。

 そして2人から離れてしばらくすると突然空が輝いたのである。見るとレイジが空を飛んでいてそこから光があふれていた。光の奔流は遠くまで空を輝かせていた。あの魔法は並みの魔法では防げないだろう。

 前回戦ったときはレイジはその魔法を使わなかった。もし再び戦う事があるなら要注意だ。

 正直に言うと戦いたくはない。だけど再びレイジ達がナルゴルに攻めて来るなら戦う事になるかもしれなかった。

 問題はレーナだ。彼女がナルゴルを攻めるのを諦めれば丸く収まる。どうすれば諦めてくれるのか?それが問題だ。

 そして、この国で何をしようとしていたのかさっぱりわからない。その後、レーナはこの国からいなくなったようだ。彼女が何を考えているかわからないが、その動きには特に注意しなければならないだろう。

 他にも気になる事がある。それはザルキシスの事だ。

 何者なのだろう?彼の言葉が気になる。彼はモデスを裏切り者と呼んだ。そして自分の事を破壊神ナルゴルの片腕と言った。ナルゴルと言えばモデスの支配する土地の事だ。だけどナルゴルと言う名詞にはもう1つ別の意味があるような気がする。

 ナルゴルに戻ってモデスに聞こうと思う。だけどその前にこの地に来た本当の目的を果たすべきだろう。

 だから、明日の朝にロクス王国を去ろうと思う。

 その前に世話になった人にはできる限り挨拶をしておきたい。

 そう思い歩いていると前方に見たことがある顔が歩いてくる。


「レンバー殿じゃないですか。どうしたのです?」


 前から歩いて来るのはレンバーであった。だがいつもと様子が違う。何か思い悩んでいるようだ。

 それに今王宮は勇者レイジを讃える晩餐会の真っ最中のはずだ。その晩餐会にはガリオス達自由戦士も呼ばれている。ゾンビを押しとどめるのに功績があったから特別に招待されたのだ。

 ゾンビが市街地に入らないように奮戦したのだから当然だ。

 逆に悲惨なのは神殿騎士達だろう。全員命が助かったとはいえ、操られて仕える対象である勇者に剣を向けたのだ。彼らはレイジ達が聖レナリア共和国に戻るまでこの国の衛兵の代わりをするらしく、エリートの彼らには屈辱だろうと晩餐会の招待に来た王宮の使いが笑いながら言っていた。

 晩餐会にはガリオスは行きたがらなかったが、自由戦士達のリーダーであるガリオスが行かない訳にもいかず渋々王宮に行った。

 自分も誘われたがレイジ達と顔を合わせたくないので辞退した。だから今1人で歩いているのだ。

 その晩餐会に騎士であるレンバーが参加しなくて良いのだろうか?それとも何か他に任務があるのだろうか?


「えっ……ああ……クロ殿ですか」


 自分の顔を見るレンバーの顔が暗い。

 正面にいたのに自分が声を掛けるまで気が付かなかったようだ。


「何かあったのですか? 王宮にいなくても良いのですか?」


 自分が尋ねるとレンバーは首を振る。


「いえ、特に何もありません……。王宮も私がいなくても大丈夫そうなので休ませてもらいました」


 レンバーが目を合わせずに言う。

 なんだかレンバーは元気がないみたいだった。

 この国では彼の世話になった。余計なお世話かもしれないが放っておけなかった。


「レンバー殿。お暇ならそこらで一杯やっていきませんか? 奢りますよ」


 自分はお酒を飲まないが、付き合うぐらいは良いだろう。





◆黒髪の賢者チユキ


「そんな奴がいたのか……」


 私がレイジに地下での仮面の男の事を話すとレイジは悔しそうな顔をする。


「すまない、チユキ。俺がついていれば……」


 レイジが私に謝る。

 あなたはアルミナを助けるためいなくなったでしょうが!!と心の中で思うが口には出さない。

 これがレイジの限界だろう。2人の女の子が同時に危機に瀕した時はどちらか一方しか助けられない。

 私と違って戦う能力がないアルミナを助ける方が正しい。だけど、おかげで私は危険な目にあった。

 レイジも私がどうなっても良いと思ったわけではなく、私なら自分で何とかすると思ったからこそ、アルミナを助けに行ったのだ。

 私は元の世界でも同じ扱いだったので慣れているから怒ったりはしない。私自身も男性に助けを求めたりはしなかった。

 だけど、今回は本当に怖かった。

 あの彼の助けがなければどうなっていたかわからない。男性に助けられたのはレイジの次に2度目だ。

 お礼を言いたかったが、彼は地上に出て来ず、私は地下の部屋へ戻った。

 そこには助けてくれた彼も仮面の男もすでにおらず、2人が戦った後だけがあった。

 部屋の状況を見るに激しい魔法戦が繰り広げられたように思う。

 凍った床に、高熱で溶けたであろう石畳。かなり高度な魔法が使われたみたいだった。

 助けてくれた彼はカヤを投げ飛ばすほど体術に優れて、なおかつ魔法能力も高いようだ。一体何者だろう。


「ねえチユキさん。チユキさんを助けた人ってどんな人?恰好良かった?」


 シロネが目を輝かせながら聞く。シロネはこういうヒーローっぽい出来事が好きだ。


「わからないわ。顔を隠していたもの」


 彼は顔を隠しており容姿などわかりようもない。ただ優しそうな感じがした。


「顔を隠した謎の助っ人。燃える展開っすね!!」


 ナオがシロネに合わせる。


「でしょでしょ!!」


 シロネとナオが笑い合う。

 ナオも私と彼に助けられたがその時は意識を失っていた。だから彼に助けられた実感がわかないのかもしれない。


「ナオさん……。あなた危ない所だったのよ」


 私はナオを窘める。

 今回で一番危険な目にあったのはナオだ。笑い話にしているが実際は笑い事ではない。


「まあ、そうなんですが。自分達を影から助けてくれる人がいるってのは心強いっす。ぜひとも探してお会いしたいっす」


 ナオが楽しそうに言う。


「おいおい、みんな。そいつが変質者である事を忘れてないか。それに姿を見せないのは怪しいぜ」


 レイジが茶化すように言う。

 平然としているが、助けてくれた彼の事が面白くないみたいだ。

 レイジは自分以外の同性を嫌う。

 元の世界でもレイジに同性の友達はいなかった。基本的に女性しかまわりにいない。同性が側にいる事があっても友達とは呼べない子分みたいな取り巻きばかりだ。

 それもレイジに近づく女性を狙って近づいて来る人ばかりだったから、いつの日かレイジが全員追い払った。

 その様子はまるでライオンのオスの様だった。

 私はレイジを動物に例えるならライオンだと思う。

 自分の群れに他のオスが近づくのを許さず。近づいてくるオスがいたら噛み殺す。

 そして可愛いメスは全て自分だけの物にする。同性に嫌われるわけだ。

 例外は同じ男でもオスと認識されない、相手にもならない程、弱い男だった場合だけだろう。

 今回助けてくれた人は間違いなく強い。レイジに近づけば喧嘩になるかもしれない。

 もしかするとそんなレイジの性格を知っていて、近づいてこないのかもしれない。もっともそれはないだろうが。

 では何故顔を隠し姿を見せないのだろう。何かやはり理由があるのだろうか?

 姿を見せない理由を突き止めれば彼は仲間になってくれるだろうか。彼が仲間になれば私達の助けになるかもしれない。

 だからレイジにも彼を仲間に迎える事を承諾して欲しい。


「レイジ君。彼は私とナオさんを助けてくれた人よ。いつまでも変質者呼ばわりは可哀そうだわ」


 これから仲間になるかもしれない人にいつまでも変質者呼ばわりは可哀そうだ。


「助けてくれたからと言って、気を許さない方がいいと思うぞチユキ。恩にきせてやらしい事を要求してくるかもしれないぜ」


 レイジの言葉に、それは貴方だろと言いたくなる。

 レイジは今までに何人もの女の子を助けた見返りに手を出してきた。こっちが何も知らないとでも思っているのだろうか。

 そもそも恩にきせるなら正体を隠したりしないはずだ。

 だけどレイジの態度から彼を仲間にするのは難しそうだ。彼を探さず、しばらくは様子を見た方が良いかもしれない。


「ねえチユキさん……。その仮面の人はどうなったのかな?」


 サホコが不安そうに言う。

 それも気になる所だ。黒い霧がなくなった事から彼が勝ったようだが、仮面の男がどうなったのかわからない。それらしき死体も発見されなかった。


「仮面の男がどうなったのかわからないわ」


 私は首を振る。


「ねえチユキさん。その仮面の男って魔王の手下なんだよね?」


 リノの問いに私は頷く。


「ナルゴルの手の者かどうか尋ねたら、そうだと言ったから間違いないと思うわ」

「だとしたらディハルトの仲間だよね?」

「そうなるわね。どうしたのリノさんそんな事を聞いて?」


 リノは何が言いたいのだろう?


「えーっとね……確かここにはディハルトの企みを阻止するために来たのに、そのディハルトが全く姿を見せないから気になって」


 リノが言う。言われてみればそうだ。今回の事件にディハルトは姿を見せていない。


「それもそうね。おかしいわね。一体何を考えているのかしら?」


 私は首を傾げる。


「そんなのどうでも良いよ。チユキさんやナオちゃんを危険な目に会わせるような奴らの考えなんて。姿を現したら今度こそ倒してやる!!」


 シロネが怒ったように言う。帰れなくなった原因を作ったディハルトに何か思う所があるようだ。


「ああ、みんな!!今度こそ倒してやろうぜ!!」


 レイジが言うと私を除くみんなが頷く。野放しにしておけない危険な奴らだけど、慎重に行動した方が良いと私は思う。何しろ命がかかっているのだ。

 だけどレイジは止まらないだろう。言っても仕方がなかった。


「あの、皆さん。晩餐の準備が整いました」


 その後しばらく雑談している時だった。

 扉を開けてアルミナが入って来る。

 私達は一瞬アルミナに見惚れる。

 アルミナのドレス姿はかなり桃色を基調にした気合の入った物でとても綺麗だった。

 アルミナの視線はまっすぐレイジを見つめている。

 王子様みたいに助けた事でレイジに対する好感度は最大値にまで上がっているのだろう。アルミナのレイジを見る目が熱っぽい。

 これで何人目だよと思う。婚約者はどうなるのだろう。


「せっかくのもてなしだ。みんな行こうぜ」


 レイジが言う。

 この国を救った事で王宮がレイジを讃える宴を開いてくれるらしく、その準備が整うまで王宮の別室にいたのだ。

 もともとはストリゲスの塔を調査したお礼に王宮が用意していた物をさらに豪華にした物らしい。たかが塔の調査に宴を用意するあたり王宮の私達への畏れがうかがえる。

 結果的に本当にストリゲスを退治したのだから別に良いだろう。

 また、王宮だけでなく国中の人がこの宴に協力しているとの事だ。おそらくこの国でできる最高のもてなしだろう。

 せっかくだから御馳走になろうと思う。

 私達はアルミナの後に続いた。




◆暗黒騎士クロキ


 白い鱗亭はいつもよりも人が少なく、ほぼ貸切状態だった。

 なんでもいつも客になっている自由戦士が王宮に呼ばれたからだそうだ。いつも給使をしている店の女性も今日は王宮に手伝いに行っていて店の主人が1人だった。

 その店に自分とレンバーはいる。

 目の前にはお酒と簡単な食事。

 それは普段の店の食事に比べてさみしい物に違いない。

 なんでも、王宮に食料を供出したため簡単な物しか作れなかったそうだ。今頃王宮では国を救ったレイジを讃える豪華な晩餐会が開かれているだろう。

 店の主人がすまないと謝っていたが、普段からあまり豪勢な食事をしていない自分には充分だ。


「私は何もできませんでした……」


 正面に座っているレンバーが辛そうに言う。

 正直かける言葉がない。こればかりはどうにもならない。

 自分の恋人を守る事ができず、レイジに取られてしまった。

 そして、レイジがいなければレンバーもアルミナ姫も命がなかったかもしれない。レイジを恨む事もできないだろう。

 今のレンバーはただ自分の無力さを嘆くしかない状態だ。


「それでレンバー殿はどうなさるのです?」


 レンバーはこれからどうするのだろう?何もなかった事にしてアルミナ姫と結婚するのだろうか?もっとも姫の方が結婚を嫌がるかもしれないが。


「騎士を辞そうと思います」

「そうですか……」


 多分、自分もレンバーと同じ立場だったらそうするだろう。

 アルミナ姫の心にはレイジがいる。心に他の男性がいる女性と結婚しても辛いだけだ。

 それが自分よりも優れた男なら潔く去るしかないだろう。

 気にしない男もいるみたいだが、その点はレンバーも自分も同じみたいだった。


「騎士をやめたらクロ殿と同じように旅をするのも良いかもしれませんね……」


 レンバーが自分を見て言う。

 レンバーは優秀な男だ。騎士と言う安定した身分を捨ててもやっていけるだろう。

 今回はさすがに手におえなかったが、それは仕方がない事だろう。

 そして、この国もこれから大変だなと思った。

 レンバーのような男は平時でこそ必要とされると思う。あまり目立つ事は無いが、ロクス王国の日常はレンバーのような人間に守られていると思う。それは退屈で刺激がないかもしれないが、失ってみて初めてその大切さに気付くだろう。

 それはレイジには無い物だと思う。レイジは有事で輝くが平時では腐るような気がする。

 ある意味勇者といえる男だ。魔王という災厄がなければ勇者は輝けないのだから。


「旅ですか……。自分は明日この国を去りますが、お互い旅を続けていればどこかで出会うかもしれませんね」

「その時はまた酒に付き合ってください、クロ殿」


 レンバーは笑う。少しは元気がでたかもしれない。

 力が無い事に嘆き続けるよりも、強くなろうと努力するレンバーはそんな男のような気がする。自分もそうありたいものだ。


「そうですね、その時はぜひ」


 自分はレンバーの言葉に答える。

 レンバーがどの道を行くかはわからない。だけどレンバーに幸運とよき出会いがある事を祈ろう。




◆ロクス王国の自由戦士ガリオス


「まったく何だよあれ……。俺達だって頑張ったのに」


 同じ自由戦士のステロスが文句を言う。

 ステロスが見る先には多くの女性に囲まれる勇者がいた。

 俺達自由戦士も功績があった事から晩餐会に呼ばれた。

 この晩餐会には国中のうら若き女性達が功績があった者を労うために呼ばれている。ステロス等若い自由戦士は鼻の下を伸ばして来たわけだが、勇者が女性陣をほぼ独占しているため、男達だけで飲み食いしている状態だ。


「まあ、そういうな。勇者様は特別なんだよ」


 ステロスを慰める。


「ガリオスさん……。でもなあ……」


 ステロスが俺に不満そうに言う。

 当然だが不満は消えないようだ。

 そう言ってると1人の女性が近づいて来る。

「シロネ様!!」


 さっきまで不満顔だったステロスの顔が明るくなる。

 近づいて来た女性は勇者の女性の1人シロネだった。


「今日はみんなご苦労様」

 そう言ってにっこり笑うと若い自由戦士達の不満が消える。

 男臭い場所に花が添えられて自由戦士達に歓声が上がり近づいて行く。


「いいのですか? 勇者様の側にいなくても」


 俺は近づいてそっと言う。

 勇者の側には女性ばかりが多くいる。今更だが、浮気の心配をしなくて良いのだろうか?


「いいの、いいの、レイジ君は特別だから」


 何も気にしていないようだった。


「そうですか……」


 あてが外れた。勇者の周りの女性を散らせば、ステロス達にも女性が来るかもしれない事を狙っていたのだが。

 この目の前の女性もまた特別だ。ステロス達がどんなに願っても手に入れる事はできないだろう。だからこそ彼らの手に収まる女性がいた方が良いのだが、これでは無理だ。

 この少女は勇者が他の女性を何人侍らしても別に良いみたいだ。勇者の妻になる女性は度量が広くないと務まらないのだろう。もし俺が勇者と同じ事をすればペネロアは刃物を投げてくるに違いない。


「あの、シロネ様……。ちょっとよろしいでしょうか?」


 自分が話していると誰かが会話に混ざってくる。


「えーっと……。確かニムリさんで良かったかな?」


 ニムリは頷く。


「先程の黒髪の賢者様の言葉で気になる事が……」

「ああ、あの事か……」


 ニムリの言葉に自分も頷く。


「チユキさんの言葉で? うん。何かな」

「この晩餐会が始まる前に黒髪の賢者様を助けた人物と言うのはクロ殿の事ではないかと思いまして」


 この晩餐会が始まる前に黒髪の賢者はこの事件の最大の功績があった者の話をした。

 その顔を隠した者はクロの事に違いない。あの時クロはこの黒い霧を止めると言って自分達とは別行動を取った。

 この黒い霧を止めたのはクロの可能性が高い。

 その話をしたとき俺達は遠くにいたから言えなかったが今この場で言った方が良いだろう。一番の功績者なのに讃えられないのはおかしい。


「クロ?」


 シロネが首を傾げる。

 塔に一緒に行ったのに全く覚えていないみたいだ。

 俺とニムリはクロの話をする。


「うーん。私は実際に助けた人に会った訳じゃないからわからないわ。後でチユキさんに確認を取って見るね」

「お願いしますぜ、シロネ様」


 俺は頭を下げる。

 クロはあまり目立つ事は好きではないみたいだが、彼のような者こそ日のあたる場所に出るべきだと思う。

 俺が言っても誰も信じないが、勇者の仲間が言えば彼を英雄だと認めるだろう。

 しかし、シロネの態度から信じてないみたいだった。これでは期待できない。

 それでも頭を下げるのだった。




◆黒髪の賢者チユキ


 正直、うざかった。

 この国の重役や顔役達が次々と私の所に挨拶に来る。

 おかげで気が休まらない。

 いつも私はこんな役回りだ。本来ならレイジがやるべきだろう。

 レイジを見ると多くの女性に囲まれている。正直、イラっとする。

 その横ではサホコやアルミナが不満そうな顔をしている。これでアルミナも気付くだろう。レイジと付き合う事がどういう事かを。

 リノとナオは2人で料理をつついている。キョウカは相変わらずダウンしてカヤと一緒に会場から出ていった。シロネは共に戦った自由戦士の所に行った。

 目の前にいるオジサン達の話が長い。正直抜け出したい。


「あの、チユキさんちょっと良いかな……」


 自由戦士の所に行ってたはずのシロネが、こちらに来て声をかけてくる。

 ナイスシロネ!!私はシロネに喝采を送る。


「すみません。ちょっと席を外しますね……」


 私はそう言ってオジサン達から離れる。


「助かったわ、シロネさん。ところでどうしたの?」


 シロネに感謝して要件を聞く。


「ちょっと気になる事を聞いてね……」


 私はシロネから話を聞く。


「私は違うと思うんだけどね……」


 シロネが言うガリオスという男の話しでは、地下で私を助けた男はクロという自由戦士ではないかとの事だ。

 だがシロネは違うと思っているらしい。なぜなら彼はシロネと共に塔に行ったらしいが吸血鬼の魔法に耐えられなかったからだ。

 仮面の男は吸血鬼よりも強そうだ。その仮面の男に勝った彼がそのクロと言うのはおかしい。


「いいわ、そのクロってのはガリオスって人の所にいるのでしょう。明日にでも会いに行ってみましょう」


 そのクロという人物がその彼かどうかわからない。しかし、会ってみればわかる事だ。

 彼がいなければ、私達もこの国もどうなっていたのかわからない。

 多くの女性に絡まれているレイジを思い浮かべる。

 今回一番讃えられる人は彼であってレイジではないのだ。そのクロが彼ならば、改めてこの国をあげてお礼をすべきだろう。当然私達もだ。

 その彼は今何をしているのだろうか?




◆暗黒騎士クロキ


「の~んでましゅか~クロどの~」


 酒に酔ったレンバーが絡んでくる。

 正直どうしてこうなったと言いたい。


「レンバー殿……その辺でお酒は控えた方が……」

「いやっ! まだ飲みがたりないっっ! クロ殿も飲んでってウ」


 最後の方は何を言っているのかわからないが、レンバーが執拗に酒を進めてくる。

 そう言われても自分は酒を飲まない、そして飲めない。以前に道場の先輩達が飲んでいるのを見て飲んでみたが、いくら飲んでも酔わずに気分が悪くなっただけだった。

 それ以来、酒は飲まないと決めた。

 酔ったレンバーが絡んでくる。すごく酒癖が悪い。


「どうしてこうなった……」


 ちょっとだけ泣きたくなった。

 こうして夜は更けていくのだった。




◆暗黒騎士クロキ


 朝になり自分は身支度を整えガリオス夫妻に旅立つ事を告げる。


「そうか、行くのか……」


 ガリオスが名残惜しそうに言う。

 昨晩は自分もガリオスも遅くに戻ってきた。

 そのため伝えるのが朝になってしまった。

 ガリオス夫妻は引き留め明日にしたらと言ったが、気になる事があるので今日行くことにした。


「自分にはやる事がありますから……」


 この国から見える聖竜の住む山の方をちらりと見る。


「昨晩のレンバーの事はありがとうね……」


 ペネロアさんが礼を言う。レンバーは昨晩飲み潰れてしまい、住んでいる所を知らないからガリオスの家に連れて帰った。今はガリオスの家の客間で寝ている。

 レンバーが良い人に会えればと思う。


「また来いよ、クロ!!」


 その言葉に自分は頷く。

 また来ようと思う。

 名残惜しいが、自分はロクス王国を後にした。






◆黒髪の賢者チユキ


「朝一番に出て行ったですって!?」


 ガリオスの家に行くとそう告げられた。

 一足遅かったようだ。

 特に引き留めろとか言わなかったし、会いに行くとも伝えなかったので、ガリオス達を攻める訳にはいかない。そのクロという人物は行き先も伝えていないらしい。


「どういたしますか? チユキ様」


 同行してくれたカヤが尋ねる。彼に会った事があるカヤにも確認をお願いしたのだ。


「仕方がないわ、戻りましょう」


 それに私達の側にいるならまた会う事になるだろう。今はあきらめよう。

 そう言って戻ろうとしたときだった。

 私の腰の袋が鳴り始める。

 袋を開けると鳴っているのはレーナから預かった鈴だった。


「まさかディハルトが……」


 私は聖竜の住む山を見る。その鈴はディハルトの到来を知らせていた。


次回、レイジ達と再戦。

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