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暗黒騎士物語(なろう版)  作者: 根崎タケル
第2章 聖竜王の角
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闇を払う者と光を照らす者

◆暗黒騎士クロキ


「何者だ! 貴様!!」


 仮面の男に怒声を浴びせられる。

 それはこちらのセリフだと言いたい。

 この仮面の男は何者なのだろう?


「そして何故、私の領域の中で動ける! ナルゴル様の加護無き者は力を奪われるはずだ!!」


 そんな事を言われてもと思う。何も影響が無いのだから。

 黒い霧を生み出した闇の魔力をたどって来てみると扉があり、中に入ると水王寺千雪と轟奈緒美が捕らわれていた。

 そして2人を捕えたであろう仮面の男が、今にも水王寺千雪に襲いかかろうとしていたので、思わず2人を助けてしまった。。

 その2人はすでにこの部屋から脱出している。

 この仮面の男を見る。

 自分も顔を隠しているので他者が見たら怪しい人間だろうが、目の前の不気味な仮面を被った男もまた怪しい。

 おそらくこの男がこの黒い霧を生み出した張本人だろう。


「勇者の仲間に貴様のような奴はいなかったはずだ! 答えろ! 何者だ貴様!?」


 当り前だがレイジの仲間になった覚えは無いし、なるつもりも無い。

 むしろレイジの仲間扱いをされると気分が悪い。

 まあレイジの仲間を助けたので、そう思われても仕方がないだろう。

 しかし、目の前の男はこの国に災厄をもたらそうとしている。何者かはわからないが止めさせてもらおう。

 自分は武装を魔法で呼び出す。それまで着ていた服が消え暗黒騎士の姿になる。


「暗黒騎士だと!!」


 仮面の男の様子が変わる。


「何故だ! 何故あの裏切り者の手下がここにいる!」


 仮面の男が気になる事を言う。


「裏切り者? 何の事だ?」


 自分は仮面の男に問う。


「ふん、知らぬとは言わせぬ! 最愛の息子でありながら 裏切ったモデスの事に決まっているであろう!!」


 吐き捨てるように言う。

 仮面の男の言葉に衝撃を受ける。

 まったく聞いていない話だ。ナルゴルに帰ったらモデスに聞いてみよう。


「それに何故暗黒騎士が勇者の女を助ける? お前達にとっても敵であるはずだ」


 別に助けようと思ってたわけじゃない。ただの成り行きなのだが。


「助けたわけではない。あなたはモデスの敵なのだろう? それなら自分の敵でもある。敵の邪魔をするのに理由がいるのかな?」


 実際はこの国を助けるためなのだがそういう事にしておこう。


「ふん、そう言う事か。どうやって嗅ぎつけたのかは知らぬが、邪魔をするなら死んでもらおう!!」


 本当は偶然だったりするがここまで重なると必然のような気がしてくる。

 仮面の男から魔力の流れを感じる。


「たかが暗黒騎士風情が破壊神ナルゴル様の片腕である、このザルキシスを止められると思うな!!」


 ザルキシスと名乗った男が気になる事を言う。破壊神ナルゴル。初めて聞くフレーズだ。


「死者の魂を凍らせる深淵の牢獄よ我が呼び声に応えよ!!」


 ザルキシスの言葉に部屋の温度が急激に下がる。

 ザルキシスが使おうとしている魔法は知っていた。

 この世界には神々ですら恐れる深淵があり、行くあてのない死んだ者の魂はその深淵に捕らわれる。いわゆるこの世界における死後の世界だ。

 そしてその深淵の奥底には死者の魂を捕える氷の牢獄があるそうだ。

 ザルキシスはその冥界の氷獄を呼ぼうとしている。それはルーガスから教えてもらった最上級の氷結魔法だ。

 だけどその魔法では自分を倒す事はできない。


「全てを焼き尽くす暗黒の炎よ我が盾となれ!!」


 自分が叫ぶと黒炎が障壁となって現れる。

 ザルキシスが放った冥界の氷獄と黒炎の障壁がぶつかり互いを打ち消し合い消える。


「黒い炎。まさかランフェルド……いや違う。そうか、貴様が噂の暗黒騎士ディハルトだな」


 ザルキシスと名乗った男の言葉に驚く。噂になってたのか。人の噂になるのは好きではないのだが……。


「勇者を倒す程の実力者である貴様がここにいるとはな……オルアも運が無い」


 ザルキシスがため息をつく。

 自分は剣を抜く。


「これで終わりなのかな、ザルキシス? なら黒い霧を消して欲しい、あといろいろと聞きたい事がある。教えてくれるかな?」


 モデスとの関係など聞きたい事がある。もっとも大人しく教えてくれるとは思えないが。


「まだ終わらん! 我が最強のアンデッドよ!!」


 ザルキシスが後ろに下がると。何か巨大な物体が出て来る。


「これは……ドラゴン?」


 出てきたのはドラゴン。大きさならグロリアスに匹敵するだろう。だが普通のドラゴンではない。骨などがむき出しになっている。


「この部屋を守るために配置しておいた火竜の肉体を使ったドラゴンゾンビだ。貴様には敵わないだろうが火炎耐性もあり簡単には倒す事はできまい。その間に勇者もこの国も滅ぼしてやろう」


 ゾンビとなった竜を見る。


「元はグロリアスと同じ竜だったんだよな……」


 その竜が死してなお、安らかに眠ることさえ許される事なく使役される事はあまり良い気分ではない。


「行けドラゴンゾンビ! 暗黒騎士を足止めしろ!!」


 ザルキシスの命令によりドラゴンゾンビが体当たりをしてくる。

 自分はその攻撃を体で受け止める。

 吹き飛ばされこそしないが体に衝撃が走る。


「ぐっ!!」


 衝撃により思わず声が出る。


「良いぞ! そのまま暗黒騎士を抑えておけ!!」


 ザルキシスの笑い声。

 自分はその笑い声に構わず、竜の頭を抱き抑えると目を閉じて意識を集中させる。

 竜の意識の中で何か黒い糸のような物が見えた。その糸を魔力を送り込み断ち切る。


「誇り高き竜よ。死してなお縛る糸は断ち切った。安らかに眠れ……」


 自分がそう言うとゾンビとなった竜が大人しくなる。


「馬鹿な! ドラゴンゾンビを手懐けただと!!」


 竜に自分を押さえ付けそのまま部屋を出ようとしたザルキシスが驚愕の声を出す。

 死んだ竜が咆哮を上げる。

 すると死んだ竜の魂が自分の中に入り込む感覚がした。


「そうか……自分と一緒にいたいのか」


 もちろん自分と一緒にいたいのなら拒む理由はない。

 竜の肉体が消滅していく。


「くっ!なんなのだ貴様は!? このような者はエリオスの神にもいなかったぞ!!」


 ザルキシスの怒声。



「ええい! やめだ! オルアなぞ知るか! 撤退させてもらおう!!」


 ザルキシスの体がぼやける。


「逃がすか!ファイアーバインド!!」


 自分の中に入った火竜の力を使い炎の縄で捕えようとする。

 しかし、一歩遅く届く前に消えてしまう。


「転移封鎖の魔法を使っておけば良かったな……」


 後悔する。色々と聞きたい事があったのだが、こうなればナルゴルに戻ってモデスに聞くしかないだろう。

 今は黒い霧を消す方法を探そう。

 自分はザルキシスが何か残してないか探す。

 するとどこからか強い魔力の流れを感じる。魔力を感じる方へと行って見ると赤く光る巨大な魔法陣を発見する。

 魔法陣は中心から放射状の線とそれを繋ぐ線で描かれており、まるで蜘蛛の巣を連想させた。

 そして、その魔法陣からは黒い霧のような物が吹き出している。


「おそらくこれが黒い霧を呼び出しているんだろうな……」


 魔剣を構え魔法陣を斬り裂く。

 すると紅い光が消えそれまで感じていた魔力が消える。


「これで黒い霧は消えたはずだ」




◆剣の乙女シロネ


「もうだめだ……。あんただけでも逃げるんだ……」


 ガリオスがきつそうな顔をして言う。力があるうちに家を何軒か壊し、バリケード作ってゾンビを防いでいるが、正直もう限界かもしれない。


「そうですよ、シロネ様。私達はもう逃げられそうにありませんがあなたならきっと逃げられます」


 ニムリが言う。


「貴方達……」


 ありがたい申し出だが、逃げる事はできない。先ほどから翼が出ない。

 それになんとなくだが、この国全体に私達を逃がさない結界が張られているようだ。おそらく逃げる事は出来ないだろう。


「ううん、逃げないわ。それに大丈夫よ、みんなレイジ君が何とかしてくれる!!」


 レイジ君を信じるしかない。

「何とかなる。クロキと喧嘩したまま終わるなんて嫌だもの」


 こんな時だというのに、ふと思い浮かんだ幼馴染の事を考える。

 彼は日常だ。レイジ君のように刺激にあふれたものではない。

 言ってしまえば退屈な、でも穏やかで暖かさがあった。

 それが今みたいなピンチの時は私の心を勇気付ける。

 私は剣を取る。こんな所で終わってたまるか!!


「みんな、もう少しだけ耐えて!!」


 声を出す。

 その声に何人かが這ってでも動こうとする。

 私も体がだるい。先程から剣を振るうのがやっとだ。

 自由戦士の中には完全に動けなくなっている者もいる。

 だけど動くしかなかった。他のみんなもきっと頑張っている。私だけが倒れるわけにはいかない。

 剣を構える。


「光だ!!」


 突然誰かの声がする。

 頭上に暖かい何かを感じる。


「黒い霧が消えていくぞ」


 周りを見ると黒い霧が消えていくのがわかる。

 そして頭上にはレイジ君の太陽があった。

 その光を浴びると力が湧いてくるのがわかる。

 黒い霧が晴れた今その光は国中を照らしているだろう。

 その光を浴び、倒れていた人達も起き上がる。

 そして、この光でゾンビ達も消滅していく。

 どうやら助かったみたいだ。


「やっぱり、レイジ君に助けられちゃった」




◆黒髪の賢者チユキ


「ごめんなさい力が使えないの……」


 サホコが私に謝る。


「精霊さんが呼んでも来ないの……」


 リノが悲しそうに言う。


「そう……」


 私は呟く。

 横には意識を失ったナオが寝かされている。

 地上に戻り、サホコ達と合流した。

 ナオの回復を頼んだが、サホコは力が使えなくなっていた。

 おそらく、この黒い霧の影響だろう。

 この黒い霧をなんとかしないとどうにもならないようだ。

 今までこれほどの窮地に陥ったのはディハルトに会った1回だけだ。

 考えてみると今までが運が良かっただけなのかもしれない。


「2人ともナオさんをお願いね」


 私は立ち上がる。


「どこに行くのチユキさん?」

「地下通路に戻るわ。そこにこの黒い霧を生み出している何かがあると思う」


 2人と違いまだ私は魔法が使える。だからここは私が何とかしなければならない。


「1人じゃ危ないよチユキさん! ナオちゃんをこんな目に会わせた人がいるんでしょ!!」


 サホコが言う。


「地下には1人で戦っている人がいるの。彼を助けてあげないと」

「「えっ?」」


 サホコとリノが驚いた声を出す。


「戦っている人がいる……? みんな力が出なくなっているのに……」

「リノ達でもきついのに」


 サホコとリノが信じられないという顔をする。


「おそらく……探していた変質者じゃないかな、彼は……」


 私は推測する。今この国には私達以外に異世界の人間がいる。

 地下で見せたあの力。彼がその変質者なら納得だ。

 なぜ姿を隠すのかわからない。何か事情があるのだろうか?

 その彼が地下で1人戦っている。あの仮面の男は危険だ、加勢がいるだろう。

 だから私は来た道を戻る。


「あっ、光が……」


 背中からリノの声がする。

 その声で私は空を見上げる。黒い霧でぼんやりとしか見えなかったレイジの太陽が完全に姿を現し私達を照らす。

 周りを見ると黒い霧が消えていくのがわかる。

 彼が地下で何かをしたのだろうか?

 そうとしか考えられない。


「やるじゃん、変質者……」






◆ロクス王国の騎士レンバー


「レイジ様……」


 私と同じように横になっているアルミナが勇者とオルアの戦いを見ている。

 アルミナの顔がきつそうだ。

 おそらく私も死にそうな顔をしているだろう。

 勇者もまた動きが鈍い。

 オルアやルクルスの攻撃をやっとのことで、躱している。


「ふん!!流石は勇者。こいつらに狂戦士の魔法をかけても、まだ互角以上に戦えるとはね」


 最初に戦った時とは違い、ルクルスの様子が変だ。まるで野獣のような顔をしている。


「そりゃどうも。お前も後ろでちょこまかと鬱陶しい奴だな。表に出て戦ったらどうだ」


 勇者が笑って言う。表面上は余裕があるように見えるが明らかに押されている。

 オルアはルクルス達を盾にして後ろから魔法を使い、勇者を苦しめている。


「誰がまともに戦うもんか。お前の事はちゃーんと調べているのさ。お前は強いが、攻撃魔法は光属性しか使えない。その対策さえ練っておけば、力を失ったお前の魔法なら防ぐ事が出来るのさ。それでもその戦闘力は想定外だけどね」


 オルアが勇者を嘲る。


「わざわざ調べたのか、そいつはご苦労な事だな」

「余裕があるじゃないかい。でも今更お前に何が出来る!!」

「俺が出来なくても、俺の女が何とかするさ!!」


 勇者は笑いながら言う。何か確信をしているみたいだ。


「ふん、馬鹿馬鹿しい……。行けお前達!!」


 オルアが命じるとルクルス達が勇者に挑みかかる。

 勇者とルクルス達の戦いが始まる。ルクルス達の影でオルアが魔法で勇者を攻撃する。両者の戦いが再び始まる。

 私はそれを見ているしかできない。

 時間と共に勇者は押されているように見える。

 しかし、それでも勇者は何とか戦っていた。

 均衡が崩れたのは何分後の事だろう。

 ルクルスと共に戦っていた神殿騎士数名が突然吹き飛ばされる。

 そして次の一撃により勇者の攻撃によりルクルス達全員が倒される。


「なんだと! 馬鹿な!!」


 オルアの驚愕する声。

 当然だろう。押していたはずが押し返されたのだ。


「一体何が……?」


 オルアの茫然とした声。


「黒い霧が……」


 アルミナが呟く。

 きつそうだったアルミナの表情が戻っている。

 見ると部屋に充満していた黒い霧が消えていく。


「そんな馬鹿な! 何がおこった!!」


 オルアの怒声。


「決まってるだろう! チユキ達が何かしたのさ! 俺の女達は全員優秀なんだよ!!」


 勇者は笑う。

 オルアは信じられないように周りを見る。


「そんな馬鹿な……。ザル……キ……様が……嘘だ……」


 オルアが信じられないとばかりに首を振る。


「レイジ先輩!!」

「レイ君!!」


 遠くから勇者の名を呼ぶ声がする。

 この声は勇者の仲間の女性の声だ。


「形勢逆転だな」


 勇者が笑って言う。


「くっ……!!」


 オルアが悔しそうに呻く。


「まだだ……。まだ終わりじゃないよ……」


 オルアは後ずさりながら懐から瓶を取り出す。


「これだけは使いたくなかった。これを使えば私は元に戻れないからね……」

「力は取り戻した。何をしようとしているか知らないが、お前の負けだぜ!!」


 勇者が剣を向ける。


「そうは行くか!フェザーアロー!!」


 オルアからいくつもの羽矢が飛ばされる。だが標的は勇者ではなかった。

 羽矢はアルミナに向かって来る。


「おっと!!」


 しかし勇者の素早い動きにより羽矢は全て落される。

 その間にオルアは薬を飲む。

 薬を飲むとオルアの首から下が鳥の姿になりストリゲスの本性を現す。そしてオルアの体が急速に膨らみ始める。


「ぐああああああああ!!」


 オルアは叫ぶと天井を突き破り空へと消える。


「大丈夫か、アルミナ」


 勇者はオルアに構わず、アルミナに微笑む。

 既にアルミナは回復しており、立ち上がる事が出来るようになっていた。


「レイジ様!!」


 アルミナが勇者に抱き着く。


「レイジ様……魔物が……」

「大丈夫だ、アルミナ。何をしようとしているかわからないが、もはや俺の敵ではない」


 勇者の手がアルミナの背に回される。

「レイ君!!!」

「レイジ先輩!!」


 勇者の背後から声がする。

 いつの間にか勇者の仲間がたどりついていた。2人は抱き合っている勇者とアルミナを見て不機嫌そうだ。


「サホコ、リノ。魔物を追う。アルミナを頼むぜ!!」


 そう言うと勇者はアルミナから離れオルアが突き破った天井から空へと飛びだす。


「ちょっとレイジ先輩!!」

「もうレイ君ったら……」


 2人は空を見上げ文句を言う。


「ううっ……」


 私は呻き声を上げる。

 2人はその声に気付きこちらを見る。


「あれっ。サホコさんこの人怪我してるよ?」

「この人……確かレンバー卿って人じゃないかしら?大丈夫ですか?」


 ようやく気付いてもらえた。はっきり言って大丈夫ではない。

 先程も勇者やアルミナから忘れられていたように思う。正直死にそうだ。

 白の聖女が治癒魔法を唱える。

 体から痛みが消えていく。

 何とか命だけは助かりそうだった。





◆黒髪の賢者チユキ


「ナオさん、大丈夫?」


 私が聞くとナオは頷く。

 黒い霧が晴れ、ナオは目を覚ました。

 サホコの魔法である程度は回復したが、まだきつそうだった。

 サホコとリノはまだ戦いが続いているようである王宮に行ってもらった。

 そして、私とナオは地下通路の入口いる。

 それは彼を出迎えるためだ。おそらく彼はあの仮面の男を撃退したのだろう。

 私とナオは彼に礼を言おうと思い、待ち構えているのだった。

 本当は地下に入ろうかと思ったが、回復していないナオを連れていけないし、1人にもできなかった。

 もちろんあまり時間がかかるようなら地下に入ろうと思う。


「チユキさん……」


 ナオが私を呼ぶ。

 横を見るとナオが空を見上げている。

 ナオが見上げた先に一羽の鳥が飛んでいるのがわかる。


「あれは鳥? いえあれはストリゲス……?」


 確信を持てなかったのは、ストリゲスにしては体が大きい気がするからだ。

 そしてストリゲスらしき鳥は体がどんどん大きくなっているように見える。


「何あれ……」


 ナオが呟く。

 私とナオは空に目が釘付けとなる。

 空に舞い上がったストリゲスらしき物の体が大きくなり、ついにはこの国と同じくらい大きくなる。

 そしてその姿はストリゲスとはまったく違う。獅子のような獣の顔に鳥の体をしていた。


「あれは西方の砂漠に住む魔鳥じゃない……」


 この国の空を飛ぶ魔鳥の姿は本で見た事がある。西方の砂漠に住む魔鳥の起こす風は災厄をもたらす。

 魔鳥の巨体はレイジの太陽を隠しこの国に影を差す。


「グエエエー!!!!!」


 魔鳥の咆哮と共に翼が羽ばたき風が起こる。その風で周りの建物がきしむ。


「このままじゃ危ないわね……」


 私は飛翔の魔法で飛ぼうとする。


「あっ、レイジ先輩!!」


 ナオが指差す。

 魔鳥が出てきた所から光を纏った1人の人物が出て来る。今度は間違いようがない。出てきたのはレイジであった。

 魔鳥と対峙するレイジ。


「キサマヲコノクニヲホロボシテヤル―!!!!」


 魔鳥は叫ぶ。その声は大きく響き渡る。

 その声に含まれる暗い感情はこの国の人々を恐怖させるだろう。


「この俺がいるかぎり! そんな事をさせるか―――!!!」


 今度はレイジが叫ぶ。レイジの声はとても良く響く。以前歌を聞かせてもらったが本当にうまかった。


「コレデモ喰ラエ――――!!!」


 魔鳥が羽ばたくと羽が巨大な矢となってレイジに襲い掛かる。


「そんな物が効くかよ―――!!!」


 レイジの周りに沢山の光の球が浮かぶ。

 その光の球が飛び巨大な羽矢を撃ち落とす。レイジの魔法である千列の光弾だ。


「今度はこっちの番だ!!!」


 レイジが叫ぶとレイジの前に巨大な魔法陣が浮かび上がる。


「あれは……」


 私は思わず呟く。レイジが使おうとしている魔法はエリオスの神々でも神王オーディスしか使う事ができない魔法である神威の光砲だ。レイジが初めてその魔法を使ったときレーナが驚き説明してくれた。


「いくぜ――――!!」


 レイジの魔法陣から光があふれ出て魔鳥を飲み込んでいく。


「グエエエ―――――――――――!!!」


 魔鳥の断末魔の咆哮。魔鳥の体が光の中で消えていくのがわかる。

 魔鳥を消し飛ばした光はそのまま暗い夜空を遠くまで輝かせる。

 魔鳥の消えた後の空には、レイジとレイジの太陽だけが残った。

 辺りを静寂が包む。そしてしばらくして大きな歓声が上がる。

 私やナオの周りには誰もいないが、その喜びの声はここまで聞こえてくる。

 その歓声にはレイジを讃える声もあり、その声は国中に鳴り響いているみたいだった。



次はかなり短くなるかもしれないです。

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