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暗黒騎士物語(なろう版)  作者: 根崎タケル
第2章 聖竜王の角
25/195

ストリゲスの塔

◆暗黒騎士クロキ


「昨日はお楽しみだったな」


 離れの部屋から出てガリオスの家に行くと開口一番そう言われた。

 正直何も覚えていないので何も言い返せない。

 昨晩は何があったのだろう?

 レーナの狙いがわからない。

 本来なら急いでここから逃げなくてはいけない状況のはずだ。

 ……はずなのだが。

 ……何故か大丈夫そうだった。

 というのもレイジ達の動きが自分に対して無い。全く無い。

 朝起きて自分は長い時間混乱していた。

 すぐに逃げなければいけない状況なのに汚してしまった部屋の掃除をしっかりとしてしまっていた。

 その後、逃げなければまずいと気付いた時にはかなりの時間が経過していたのだ。

 部屋を見るとすごく綺麗になっている。

 綺麗にしようと思い頑張りすぎたようだ。シーツなんか柔軟剤も使ってないのにふっかふかだ。ホント何やってんだろ……。

 これだけ時間が経っても何もしてこない。この部屋を襲撃に来る気配もなかった。

 レーナは自分をどうこうするつもりがないのだろうか?

 それとも、レーナは自分の事をレイジに伝えなかったのだろうか?

 それとも伝えたけどレイジにとって自分の事など取るに足らない存在であるため何もしてこないのだろうか?

 一番最後が特にありえそうだった。

 それはそれで腹が立つが、実際の所はどうなのかわからなかった。


「クロ。彼女は?」


 レーナの事を言っているのだろう。ガリオスがニヤニヤと笑いながら聞く。


「それが起きたらいなくて……」


 自分は正直に答える。レーナの行方は自分が知りたいぐらいだ。

 その言葉にガリオスが驚く。


「おかしいな、誰か通ったら気付くはずなんだがな……」


 おそらく飛翔の魔法でここから離れたのだろう。

 レイジ達の所に行ったのだろうか?

 ガリオスも首を傾げている。だがわからない以上どうしようもない。


「それからクロ。鏡を見た方が良いぜ。すげえ顔になっているから」


 ガリオスが笑いながら言う。


「?」


 ガリオスに言われて鏡のある洗面所に行く。

 この世界の鏡は金属を磨いた物だ。少し映りが悪いが充分に見る事ができた。

 顔に殴られた跡がある。そして他には沢山の紅い何かがあった。


「これって何の跡……?」


 だが、顔を洗った方が良さそうだ。

 水をためているツボから水を汲み顔を洗う。


「なかなか落ちないな……」


 呪いでもかかっているのか紅い物はなかなか落ちない。

 そのうち落ちるとは思うが今日は顔を隠してすごした方が良いのかもしれない。


「ガリオス先輩にクロ殿はいますか!?」


 大声が突然鳴り響く。レンバーの声だ何かあったのだろうか?

 自分は居間の方に向うとレンバーがいた。


「先輩!!クロ殿! 力を貸して下さい」

 レンバーが自分とガリオスに頭を下げたのだった。






◆剣の乙女シロネ


 今日はあいにく曇り空だ。

 城壁の外を歩くのはあまり楽しくなさそうであった。

 でもまあ、今日一日はあの恥ずかしい鎧を着なくて良いので贅沢は言ってられない。

 今日私を除くみんなは変質者探しをしているはずだ。

 帰れる方法が見つかると良いのだけど……。

 正直に行ってチユキさん以外はあまり帰る事に熱心ではない。

 レイジ君やリノちゃんナオちゃんは別に帰らなくても良いと思っていそうだし。

 サホコさんはレイジ君の側にいられれば良さそうであり、キョウカさんとカヤさんは良くわからないが帰る事に熱心とはいえない。

 では私はどうだろう?

 正直良くわからない。

 みんなと一緒にいるのは楽しい。だから帰れなくなってほっとした所もある。

 まだみんなと一緒にいられると思うと嬉しく思う。

 だけど、帰りたくない訳では無い。

 チユキさんの言うように帰る事が正しいのだろうし、元の世界には会いたい人もいる。

 だから帰れなくなった原因であるディハルトは許せない奴だ。

 そんな奴に負けた事がとても悔しい。

 そして、そのディハルトと再戦するのかもしれない。

 再戦の前に少し体を動かしたい。

 そんな、もやもやした気持ちを吹き飛ばしたくて塔に行くのだ。

 私は背伸びをして、息を整える。

 誰かが私の側にくる。この国の騎士であるレンバーだ。今日は私のお供をしてくれる。


「シロネ様。揃ったようです」


 レンバーが報告すると私は振り返る。

 城壁の外の門の近くには様々な武装をした集団がいる。

 彼らは塔の調査のためにロクス王国から手伝いに来てくれた人達だ。

 私には探知スキルが無いので、チユキさんがロクス王国から人員を派遣するよう要請したのである。

 もちろん王国は人員派遣を承諾した。

 まあ、実際ストリゲスの被害に会うのは彼らなのだから当然だろう。

 派遣された人数は12名。ナオちゃんが来れない分、調査は数でカバーしなければならない。

 問題は塔の魔物に対処できるかわからない点だろう。

 一応塔には魔物がいるはずだから、私は大丈夫でも彼らには危険かもしれない。

 レイジ君ほど強くとは言わないが、せめて自分の身ぐらいは守る力があって欲しい。

 カッコ良くて強いレイジ君と比べるのは可哀想なのはわかってはいるのだが、つい比べてしまう。

 これは、悪い癖だ。治さないといけないと思う。

 チユキさんが言うとおり、レイジ君を基準に男性を見るべきではないのだから。

 メンバーの方を向くと少し頭を下げる。


「皆さん今日はよろしくお願いします」


 私が挨拶するとメンバー達はそれぞれ頭を下げる。

 メンバーを見る。

 まずはこの一団のリーダーであるレンバー。彼はロクス王国で代々続く騎士の家系出身で彼自身も騎士だ。お姫様と婚約しているとおり王国でもかなりの地位にいる。

 次に実質的なリーダーであるガリオス。元騎士らしいが今は自由戦士をやっている。急な事だったのにこれだけの人数を集められたのは彼の手腕による所が大きいらしい。

 そしてレンジャーであるストル。この国一番のレンジャーらしく、ガリオスとコンビを組んで森の魔物退治をしているそうだ。

 魔術師ニムリ。ロクス王国の魔術師でこの一団の参謀を務める人だ。容姿といい一般的な普通の魔術師である。

 後、自由戦士が8名いるがさすがに覚えきれない。取りあえず主要な人物の4人だけ覚えておこう。

 この12名と私を合わせた計13名が塔の調査メンバーだ。


「それでは行きましょうか皆さん」


 私が言うと少しざわめきが起こる。


「あのシロネ様……よろしいでしょうか?」


 1人の人物が出て来る。レンジャーのストルだ。


「なんですか?」

「ここから塔まで半日以上かかるのですが、塔の近くで野営でもするのでしょうか?何も用意していないのですが……」


 ストルが心配そうに言う。


「ああ、それなら大丈夫です。移動用の魔法を使いますから」


 私が言うとメンバーが顔を見合わせる。

 リノちゃん程ではないが私は風の精霊魔法が少し使える。

 その風の精霊を使った魔法に先頭を行く人の速さと同じ速さで後続の人が移動できるようになる魔法がある。

 私が先頭を走れば30分以内には全員塔に着くはずだ。

 説明すると皆が顔を見合わせる。

 だけど、これ以上説明するのは面倒だった。


「それじゃあ、行くよ!!」




◆剣の乙女シロネ


 ストリゲスの塔に着く。


「あれ、数が少なくなってない?」


 後ろを見ると城壁の門で来た時よりも数が少ない。


「……ど、どうやらここに来るまでに……だ……脱落したようです」


 レンバーが粗い息を吐きながら言う。


「あ……あまりの……は……速さ……についてこれなかった……ようです」


 その言葉に落胆する。

 なるだけ、ゆっくり来たつもりだったのだけど予想以上に弱い。

 脱落したのは4名。

 レンバーを含む私が憶えた4名に自由戦士が4人、それに私を加えた9名で塔を探索しなければならなそうなのだが、残っている人達を見ると1人を除いて全員が四つん這いになり粗い息を吐いている。正直使えなさそうであった。

 例外は名前を憶えなかった自由戦士の1人だ。その人物は顔を布で隠しているが平気そうであり、横にいるニムリを介抱している。

 この中では使える人かもしれない。後でもう一度名前を聞いてあげようかと思った。

 介抱をその1人にまかせて私は塔の門に近づく。


「あれ?」


 私は異変に気付く。


「もしかして結界……」


 以前とは違う何かしらの魔力を感じる。

 探知を阻害する結界が張られているようだった。

 チユキさんならもっと詳しくわかるかもしれないが、自分にははっきりとした事がわからない。

 しかも結界を張った者はかなり強力な闇の力を持っているように感じる。


「まさか本当にここにいるの?」


 だとしたらわかりやすすぎる。だが以前に会ったストリゲスにはこれほど強力な魔力を感じなかった。


「シロネ様、どういたします?」


 ふらふらになりながらレンバーがやってくる。


「もちろん行くわよ。前回は空から入ったけど、今日はあなた達がいるから正面から入りましょう」


 実は前回は塔の最上階にあるストリゲスの居住区にしか入っていない。

 ナオちゃんの探知でもアンデッドの気配しかなく、生命反応がなかった事からストリゲスを全て倒したと思って、そのまま帰ったのだ。

 そのため中にはまだアンデッドや侵入者撃退用の罠が残っているはずだ。

 しかし、探索に来た以上、まだ見ていない居住区から下の部分を探索すべきだろう。またメンバーに空を飛べる者がいないので正面の門から入ろうと思う。

 何がいるのかもわからない。

 だけど、入ってみればわかることだ。


「私は1人で大丈夫だから自分達の身は自分で守ってね。後、危険だと思ったらすぐに逃げて」


 チユキさんが自分に言った事と同じ事を言う。正直死なれても困るので無理はしないで欲しい。

 そして、私達は塔に侵入した。




◆暗黒騎士クロキ


 大変にまずい状況だった。

 そんな事を考えるのは何回目だろう。

 あの塔にはグロリアスがいる。

 レンバーが慌ててガリオスの家に来たとき。

 自分の事がばれたのではないかと思った。

 しかし、どうも違うようである。

 レンバーの要請で行ってみるとシロネがいた。

 シロネがいるとは思わなかったが、顔の紅い跡を隠すために顔を隠しておいてよかった。

 そして、シロネの態度からレーナがレイジ達に何も伝えていない事がわかった。

 しかし、別の問題が発生した。

 このままではシロネとグロリアスが鉢合わせてしまう。どうにかしなければグロリアスがシロネに倒されてしまう。

 しかし、良い考えが浮かばないまま塔まで来てしまった。


「クロ殿……すみません……」


 ニムリが自分に謝る。

 この塔に来る時に脱落しそうになっていたニムリを自分は引っ張ってきたのだ。

 ニムリは脱落を免れたが、何人かは森の中に置いて行かれた。脱落した者達が無事に戻れる事を祈る。

 森には討伐されたとはいえ魔物がまったくいないわけではない。危険はあるだろう。

 自分達に比べてこの世界の人間は弱い、大丈夫だろうか?

 そして、ここまで辿りついた者も粗い息を吐いて動けないようだ。

 だけどシロネは動けない者達を置いてさっさと塔の方に向かった。

 もう少し労ってやって欲しいと思うがシロネの性格では無理だなと思った。

 シロネは男に厳しい。

 正確には自分より弱い男になのだが。その理由を自分は何となくだが察していた。

 シロネの家、赤峰家には男の子が生まれなかった。

 赤峰のおじさんは言葉にこそ出さないが道場を継ぐ男の子が欲しかったのだろう。

 態度にそれが出ていたように思う。

 シロネも男の子が望まれていた事を子供心に察していたのだろう。男に負けないように頑張っていたように思う。

 そのためシロネはそこら辺の男達よりも遥かに強くなった。そして、シロネは自分より弱い男を嫌うようになった。

 女の子は弱くていいらしく、シロネはそんな女の子達を暴力的な男から守ったりしていた。そのためシロネは同性からすごく好かれていた。

 シロネが好きなマンガや小説も女の子が悪人の男を退治して活躍する物ばかりだった気がする。

 シロネとの遊びでよく悪役をやらされていたのを思いだす。

 自分はシロネが喜ぶから進んで悪役をやって、主人公のシロネにやられていた。

 でも、そんな悪役ばかりやっていたからこそシロネに好きになってもらえなかったのだろう。

 もっともその事に気付いたのはつい最近だったりする。

 そして、シロネが好きな物語には悪人と戦う少女を助ける男の子が必ずいた。その男の子はどれもレイジに似ていたような気がする。

 シロネにとってレイジはそういう存在なのかもしれない。

 それに対して自分は悪役なのだろう。今だってシロネに隠れてこそこそと行動している。

 だけど今回はシロネに活躍させるわけにはいかなかった。シロネを竜退治の英雄にさせてはならない。

 見るとレンバーやガリオスもようやく動けるまでに回復したようで回復した者から順次シロネの後を追う。

 自分も付いて行く。

 さてどうしようか、何とかしなければ。自分は懐の首飾りをにぎり考えを巡らせた。




◆暗黒騎士クロキ


 ストリゲスは翼を持つ種族であるため1階に入口は必要ではない。

 しかし、それがあるのはストリゲス達が人間を捕食するためにわざと作っているからだそうだ。

 レンバーの話ではロクス王国を含む塔の周辺諸国が討伐隊を編成して塔に挑んだそうだが、塔に入って帰って来た者は誰もいないそうだ。おそらくストリゲスに血を吸われて死ぬかアンデッドにされてしまったのだろう。

 今でも塔の中には侵入者を捕えるための魔物や罠が多数あり危険であるそうだ。

 もっともシロネと自分がいるから大丈夫だと思うが。


「そういえばクロ殿、何故顔を隠しているのですか?」


 レンバーが痛い所を聞いてくる。

 いろいろ理由があるが、今一番の理由はシロネに正体がバレたくないからだ。しかし、正直に言う訳にはいかない。どうやって、誤魔化そう。


「まあまあレンバー」


 ガリオスが笑いながら近づくとレンバーに耳打ちする。


「なるほどそういう理由ですか。クロ殿も意外とやりますね」


 レンバーが少し笑いながら言う。


「ちょ?! 何を言ってるんですか?!!」


 自分はガリオスに抗議する。

 顔を隠したい理由は誤魔化せたようだが納得がいかない。何しろ昨晩何があったのかわからないのだから。


「悪い悪い。さっさと行こうぜ」

「そうですよ、クロ殿。シロネ様に遅れますよ」


 2人は笑いながら進む。

 納得いかないが言い訳する事もできず自分は塔の中に入る。

 塔の中は広く暗く自分は大丈夫だが灯りがなければガリオス達は何も見えないだろう。

 魔術師のニムリが魔法で照明を作っているが広い塔の中全てを照らすには至っていないようだ。

 そんな暗い塔の中をシロネは仲間のペースなどを考えず。1人すたすたと進んでいく。


「レンバー。ストリゲスはいなくてもこの塔はやばい気がするぜ。あの嬢ちゃん先に行かせて大丈夫か?」


 ガリオスが先頭を歩くシロネを見て言う。


「その心配はないと思います。シロネ様は我々よりも遥かに強いらしいので」


 シロネの外見は可憐な少女だ。ガリオスから見ればとても強そうに見えないだろう。


「シロネ様は剣の腕前もさることながら、低位ながらも精霊魔法や治癒の魔法や陽光の魔法が使える

魔法戦士だそうです。おそらくここにいる全員が束になっても敵わないでしょう。ですからシロネ様の手を煩わせないよう、自分達の身は自分で守らなければいけません」


 レンバーはそう言って自分達に指示を出す。


「魔術師であるニムリ先生は魔法で照明を、レンジャーであるストルは怪しい物がないか周囲を見てください。後の者達は2人の護衛をしながら先に進みましょう」


 先頭は一昨日の晩でも一緒だったステロスで、最後が自分だ。

 ステロスが先頭になったのは本人の希望したからだそうだ。

 どうもシロネに不純な考えを持っているらしく、シロネの背が見える先頭を希望したようだ。

 今日は普通の装備だが昨日の格好を見たらそういう気持ちもわからないでもない。

 もちろん何かしようとするなら全力で止める。

 歩いているとシロネが急に立ち止まる。


「何かいるぜ」


 2番目を歩くストルが何かに気付いたようで前を指して言う。

 ガリオス達には見えないかもしれないが、自分の目には何かが近づいて来ているのが見える。

 ゾンビであった。しかも元は人間のようであり、武装もしていた。

 かつての討伐隊のメンバーかもしれない。ゾンビ達は5体ほどいてゆっくりとだが近づいて来ている。


「陽光よ!!」


 シロネが叫ぶと彼の手からまばゆい光があふれ出てゾンビ達を照らしだす。

 高位の神官のみが使えると言われる陽光の魔法だ。

 ゾンビ達は光があたった所から煙を上げて溶けていく。数分後には服と武装のみを残して消えてしまった。


「すごい、一瞬だ」


 ニムリが驚嘆する。

 アンデッドは倒すのが面倒な相手だ。何しろ普通の攻撃が効かないのだから。

 また、ゾンビの中には生前の能力を残している者もいる。先ほどのゾンビも剣を使ったり、盾を使ってくる気配があった。

 シロネがおらずガリオス達だけなら苦戦していたかもしれない。

 これがアンデッドに対処できる魔法を持っているか、いないかの違いなのだろう。


「魔法で倒すとあんまり面白くないわね」


 しかし、シロネは不満そうだった。


「まだ来るぞ!!」


 ストルが叫ぶ。

 何十体ものゾンビがこちらに近づいて来ている。

 塔に入ってそうそうゾンビの集団のお出迎えだった。

 だが、陽光の魔法があれば一瞬で殲滅できるだろう。

 しかし、シロネは剣を引き抜きゾンビ軍団に向かっていく。


「えっ、陽光の魔法は!!」


 自分は戸惑う声を出す。


「フレイムブレード!!」


 シロネが叫ぶとシロネの剣に炎が纏わりつく。


「火炎斬!!」


 そのままゾンビ達の中に斬りこんで行く。


「す……すげえ……」


 ガリオスが驚く声を出す。


「アンデッドには陽光以外はあまり効かないはずなんですが……」


 ニムリもあきれたように言う。

 ゾンビを燃やしてもスケルトンになり、骨を砕いても形のない幽体であるゴーストに変化するなどアンデッドは倒しにくい相手だ。

 特に形の無い幽体は通常の武器では倒す事ができず、魔法の剣等を使わなければダメージを与えられない。

 シロネの持つ青く輝く剣は魔法の剣なのだろう。そのままでもダメージを与えらる上に炎の属性を剣に宿しゾンビの肉と骨を幽体ごと斬り裂いている。

 シロネの動きはすさまじく、瞬く間にゾンビ軍団は滅ぼされる。

 皆がその動きに驚愕している。

 その中で自分だけはわざわざ剣で倒すのですかい。と突っ込みをいれたくなる。


「さあ、どんどん先に行こう」


 シロネ様はすっきりした表情で振り返った。

 その様を自分達は何とも言えない気持ちで見ていた。





◆暗黒騎士クロキ


「こりゃすげえなレンバー……。勇者の妻ってのはこんなに強いのかよ」


 ガリオスが呟く。

 シロネのおかげで塔の中腹まで簡単に来る事ができた。

 アンデッドはもちろん吸血蝙蝠や巨大蜘蛛もシロネの敵ではなかった。

 ここに来るまでの魔物はほぼシロネが倒している。

 もちろん罠などもあったが、シロネはそれを力技で何とかしている。

 矢が飛んで来ても当たる前に落し、落し穴が有っても穴に落ちる前に空中で移動して逃れ、天井が落ちて来ても片手で跳ね返して元に戻してしまった。

 正直自分達は必要なのだろうか?


「私もすごいと思います。勇者様の力は以前に見ましたが、その奥方様もこれほどとは思いませんでした」


 ニムリもガリオスと同じように賞賛する。

 これぐらいなら自分でもできるだろう。しかし2人にとってはすごい事のようだ。

 それにしても2人がシロネの事をレイジの奥方様呼ばわりがあまり面白くない。

 元の世界でもレイジの女として扱われていた。この世界でも扱いがあまり変わらないようだ。

 それを考えると彼らを守るのがバカバカしくなってくる。

 やはり、竜の角を取り行くべきか?

 そしてレーナのような綺麗な女の子をゲットするのも良いかもしれない。

 レーナの顔を思い浮かべると何故か心が騒ぐ。

 レーナの事が気になる。

 レーナはいったい何を考えているのだろう?

 そんな事を考えているとシロネが突然歩みをとめる。


「シロネ様、どうかなさいましたか?」


 シロネが突然止まったのレンバーが聞く。

 シロネの前にある扉を見る。部屋の扉が今までと違う。


「こりゃ何かあるぜ」


 ストルの言うとおりこの扉の向こうから気配を感じる。


「行きますよ」


 シロネが扉を開け中に入る。


「灯りがある?」


 誰ともなく驚く声が上がる。

 この広い部屋は他の部屋と違って灯りがあり。ニムリの魔法の照明で照らすまでもないだろう。

 だが違うのはそれだけではなかった。

 その部屋の中心に誰か人が立っている。明らかにゾンビではない生きている人間の男に見える。

 金色の髪に青白い顔、黒い服に黒いマントを着ている。その服はゴブリンやゾンビが着るようなぼろぼろの服ではなくかなり立派な物だ。


「おや、主が帰って来たと思えば人間ですか。こんな所まで来るとはね」


 男はこちらを見ると笑う。


「あいつの目を見ろ! ありゃ人間じゃないぜ!!」

 ストルが叫ぶ。

 その男の目は赤く光っている。そして口には牙が生えている。


吸血鬼ヴァンパイア!!」


 ニムリが叫ぶ。

 ヴァンパイアは今まで塔に出てきたゾンビと違い上級アンデッドだ知恵もあり魔法も使ってくる。


「まさかストリゲスが吸血鬼までも使役していたとは……」


 レンバーが茫然として言う。


「陽光よ!」

「夜の衣よ!」


 シロネの魔法と吸血鬼の魔法が発動する。

 シロネの手から放たれた眩い光が吸血鬼を覆う黒い靄に阻まれる。


「本物の太陽ならいざ知らず。その程度では私は倒せませんよ」


 吸血鬼が笑う。


「へえ、なかなかやるじゃない」


 シロネは楽しそうだ。


「ふふ、それはお互い様でしょう。見た目はどこぞ姫君のようですが、高位の神官だったようですね。このエルキトス感服いたしました。どうです私の花嫁になりませんか?」


 エルキトスと名乗った吸血鬼が舌なめずりしながら言う。その口から覗く牙が光っている。

 この場合花嫁とは血を吸って眷属にすると言う意味だろう。

 もちろんそんな事はさせないが。


「悪いけど、私は自分より弱い男は興味ないの」


 シロネはエルキトスに剣を向ける。


「そうですか。ではあなたより強い事を証明して花嫁になっていただきましょう」


 エルキトスの背中から蝙蝠の翼が生える。

 今すぐにでも戦闘が始まりそうだ。


「シ、シロネ様お待ちを!!!」


 ニムリが突然声を上げる。


「ん? どうしたの?」


 戦いを邪魔されたからだろうかシロネが不満そうにニムリを見る。


「確認したい事があるのですが……」


 ニムリがおどおどしてエルキトスを見て言う。


「無粋な男ですね。私と彼女の時間を邪魔するとは」


 吸血鬼も不満そうだ。


「最近この辺りで死んだ魔物をゾンビにしているのはあなたなのでしょうか?」


 ニムリが聞く。

 この塔へ来た目的はそもそもゾンビ事件の原因であるストリゲスを探す目的もある。

 ストリゲスでなくても吸血鬼なら死霊魔術を使う事ができる。この吸血鬼が事件の犯人であってもおかしくない。

 ニムリはその点を確認しようとしているのだ。


「あっそうか! それ調べなきゃいけなかった! さっすが!!」


 シロネが賞賛をニムリに送る。正直何しに来たのだろう。

 まさか純粋に魔物退治に来たのだろうか?今までの行動からそれもありえる。まあそれはそれで魔物が減って良いのかもしれないが。


「い……いえそれほどでも」


 ニムリが困ったように言う。

 シロネだけで良かったのではないかと思っていたが、レンバー達が来て正解だったかもしれない。

 シロネだけだったらただ暴れ回って終わったかもしれない。このまま倒してしまったらこいつが犯人かどうかもわからないではないか。


「ふん、何の話しかわかりませんが、私は3日前に目覚めてからゾンビを作った事はありませんよ」


 エルキトスが不機嫌そうに言う。

 嘘を付いているようにには思えない。こいつが犯人とは思えなかった。

 しかし、3日前と言えば自分がこの塔に来た日ではないか。


「3日前に目覚めた? そういえばあなた前にこの塔に来たときにはいなかったわね。もしかしてこの塔で眠っていたの?」

「ふふっ、封じられていたのですよ。彼女達では私を使役する力がなかったのでね」


 エルキトスが楽しげに答える。

 ニムリとシロネとでかなり態度が違う。少しイラッとする。


「それがなんで目覚めたの?」

「3日前の事です。どこのお方かわかりませんが。この塔で闇の魔法を使ったお方がいましてね。そのお方の力の波動により、私は封印より解放されたのですよ。ふふ、あれ程の素晴らしい力きっと名の有るお方なのでしょう」


 エルキトスのうっとりとした物言い。

 おかしな話だった。3日前に来たときそんなすごい奴の気配は感じなかった。

 しかも、自分はその時に魔法で結界を張った。塔全体を覆う強力な魔法だ。一定の力を持つ奴なら自分も何か感じられるはずだ。

 それともそのお方にはそんな力が無かったのだろうか。


「そのお方か……。ねえそのお方って今この塔にいるの?」


 シロネが嬉々として聞く。多分そのお方と戦ってみたいのだろう。

 だが、エルキトスは首を振る。


「いえそのお方は御使いを残して、どこかに行かれました」

「ふーんそうなんだ。残念。でもその御使いはいるんだ。どんな奴なの?」

「ドラゴンですよ。どこから来たのかわかりませんが」

「「「なっ!!!」」」


 全員の声が重なる。


「ドラゴンだって……。そんな……」

「しかもそれを使役してるだと」

「ドラゴンなんかに勝てるわけねえよ……?」


 皆ドラゴンがこの塔にいる事がショックのようだ。

 だが自分は別の理由で驚いている。

 もしかして、この吸血鬼を目覚めさせたのは自分なのだろうか?


「ふーんドラゴンね……ドラゴンでもいろいろいるからどうだろう。でも少しは楽しめそうね」

 シロネが楽しそうに言う。

「申し訳ありませんが、あの方の御使いの元に行くなら私を倒してからにしてもらいましょう」


 エルキトスが構える。

 シロネも剣を抜き構えるとガリオス達も武器を取る。


「後ろが邪魔ですね。退場していただきましょうか。幻魔眼!!」


 エルキトスの眼が紅く光る。


「ぐわっ!!」

「げっ!!」

「うっぐ!!!」


 その光を浴びた自分とシロネ以外を除く全員が声を出して倒れていく。

 魔法の抵抗に失敗したようだ。


「体の自由を奪いました。ふふ、殺しはしませんよ。生きたままの方が美味しいですからね。貴方達はそこで私と彼女が結ばれる様を見ていなさい」


 エルキトスがいやらしく笑う

 ガリオス達は床に倒れて呻き声を上げている。

 自分には他者を回復する魔法がないのでどうする事もできない。

 シロネはある程度回復魔法を使えるみたいだがガリオス達を助ける気はなさそうだ。


「ふふ、これでこの場に立っているのは私と貴方だ……えっもう1人」


 エルキトスがこちら見る。1人倒れていない自分に気付いたみたいだ。


「ぐわっ!!」


 まずいと思い自分はやられた振りをして倒れる。


「気のせいだったようですね。さて私達の2人の時間を楽しみましょうか」


 明らかにわざとらしい倒れ方だったのにもかかわらず騙されてくれたみたいだ。

 単純に自分に興味がないだけかもしれないが。


「そうね、いい加減待ちくたびれちゃったわ」


 シロネもまったく気づいていない。

 後ろの人にも少しは気を配って欲しい。

 2人は向き合う。

 自分達以外の事はもはや見えていないようだ。

 チャンスだった。この間にグロリアスの所に行こう。

 一番後ろにいたおかげでガリオス達が倒れた位置から自分は見えないはずだ。

 それに、あの程度ならシロネが負ける事はなさそうに思えるから加勢は必要ないだろう。

 自分は気付かれないように匍匐前進でこの場を離れた。

 その動く様子はゴキブリみたいだろうなと思った。




◆剣の乙女シロネ


 目の前の吸血鬼を見る。

 この塔を支配していたストリゲス達よりも強いだろう。

 でも負ける気がしない。

 勿論、油断は禁物だが。

 本当はレイジ君を呼んだ方が良いかもしれない。この吸血鬼はものすごく強いかもしれないのだから。

 だけど呼ばない。もちろんチユキさんは怒るかもしれない。

 でもディハルトに負けた嫌な思いをここで吹き飛ばす。

 私は剣を向ける。

 蒼く透き通った剣身が淡く光っている。

 蒼天翼剣。

 柄の部分に翼の装飾を施された私の愛用の剣だ。


「それでは行きますよ。超級音撃波ウルトラソニックウェーブ!!」


 エルキトスが魔法を唱える。


風壁ウィンドウォール!!!」


 私はすかさず防御の魔法を唱える。

 エルキトスから放たれた衝撃波が床を削り迫ってくるが風の壁に阻まれる。


「ほう。やりますね」


 エルキトスは余裕の表情を崩さない。

 だけどその余裕も今だけだ。


「フレイムブレード!!!」


 剣身に炎が宿すと私はエルキトスに斬りかかる。


「翼刃!!」


 エルキトスが叫ぶと背から巨大な翼がでると私の剣を受け止める。


「中々速いですね。ですが私には……何っ!!」


 エルキトスの余裕の表情が崩れる。

 私は受け止められた剣に力を込めてそのまま翼を斬り裂いていく。

 この程度で止められると思ったのだろうか?


「何いいい!!」


 私は翼ごとエルキトスの胴体を斬る。


「ぐうう!!」


 呻き声を出すとエルキトスは後ろに逃れる。

 斬った所が再生していく。翼も体も元通りになっていく。

 人間だったら即死の傷も吸血鬼を倒す事はできない。

 ダメージを与えてはいるみたいだが、やっぱり陽光以外では倒しにくい。


「貴様あ――――!!!人間の分際で!!よくもーー」


 エルキトスは顔に憤怒の表情を浮かべる。


「ふーん、傷を負わされて余裕がなくなったみたいね」


 先程までの紳士的な態度が消えた。


「遊びはやめだ。殺してやろう!!」


 エルキトスが腰のレイピアのような剣を抜く。

 そのレイピアの剣身は紅く禍々しく光っている。


「本気で相手をしてやる、覚悟しろよ薄汚い人間がーーー!!!」


 エルキトスが剣を構えて向かってくる。


音速移動ソニックムーブ!!」


 エルキトスの動きが加速し近づいてくる。


「ふん!!」


 高速で近づいたエルキトスはレイピアを何度も突き出してくる。


「えい!!」


 掛け声と共に私は剣を回転させその全ての攻撃をはじきかえす。


「くそう!!」


 エルキトスは身を屈め足を狙ってくる。

 私は飛んで躱すと空中移動してエルキトスの後ろに移動する。


「何!!!」


 エルキトスが振りむく。

 急いで振り向いたみたいだけど、私には遅く感じられた。


「そこっ!!」


 振り向いたエルキトスに私は剣を振り剣を持ったエルキトスの右手を斬り落とす。


「馬鹿な!!人間がこの私よりも速く動けるだと!!!」


 斬られた腕を抑えながらエルキトスが叫ぶ。

 怒ってるみたいだけどそんな事は知らない。


「剣を拾って。続きをしましょ」


 私は少し下がって剣を拾うように促す。

 エルキトスはゆっくりと近づき剣を拾う。


「どうやら……ただの人間ではないようですね」


 エルキトスはそう言うとちらりとレンバー達の方を見る。


「爆裂(エクスプロ―ジョン)!!」


 エルキトスは突然レンバー達に向かって魔法を放つ。


「縮地!!」


 まずいと思った私は瞬時に移動し魔法を放つ。


水壁ウォーターウォール!!!」


 レンバー達を水の壁で覆うと魔法が炸裂し爆発が起こる。

 水の壁が巨大な爆発により蒸発する。その蒸気で周りが白く染まる。


「ちょっと!!殺さないんじゃなかったの!!」


 私はエルキトスに抗議する。

 しかし、何も返事がない。

 蒸気がなくなるとエルキトスがいない。

 そして巨大な穴が壁に開いている。

 穴は塔の外まで続いており曇り空が見える。


「あーーー!!逃げたなーーー!!!」


 私は叫ぶ。


「逃がすもんですか!!」


 私は背中に意識を集中させる。


「熾天使の翼よ!!!」


 そう叫ぶと私の背中から翼が生える。

 私はレイジ君やチユキさんのように飛翔の魔法は使えないがその代り背中に天使の翼を持つ事ができる。

 実は私の鎧は普段は腰までしかない短いマントで隠しているが背中の部分がなく肌がむき出しだったりする。それはいつでも翼を出せるようにするためだ。

 この翼は私だけが生やせる事ができる自慢の翼だ。この翼を出した時はチユキさんやリノちゃんから羨ましがられた。

 私は翼を羽ばたかせると穴から塔の外にでる。

 この翼のお蔭で直線距離ならナオちゃんよりも速く移動できる。


「逃げられると思わないでよね!!!」


 私は全速力で飛ぶ。

 すぐに蝙蝠の翼を持つエルキトスに追いつく。

 エルキトスの前に立ちはだかると驚いた顔をする。


「その翼は!? そうか天使族だったのか!! だからあれ程の強さを!!」

「まあ天使じゃないんだけどね……」


 否定するのも面倒くさい。

 天使族じゃないのに翼を持つ私は何族なのだろう?その事で過去にニーアさんに戦いを挑まれた事があったりする。

 まあ今はそんな事はどうでも良いだろう。


「エルキトス、覚悟しなさい!!サンライトブレード!!」


 陽光の魔法を付与した事で剣身が光輝く。

 実は最初からこの技を使っていれば簡単に倒す事ができたが使わずにいた。


「夜の衣で陽光が届かないなら、直接体に叩き込んであげるわ!!!」


 私は剣を振り上げる。


「まっ待ってくれ!!」


 エルキトスが慌てる声を出す。

 勿論聞く耳は持たない。


「一刀両断!!」

「ぎゃああああああ!!」


 剣を振り下しエルキトスの体を斬り裂くと、斬った所から煙を上げてエルキトスが消滅していく。


「何なのだ……あな……」


 エル何とかの最後の言葉は途中で切れてわからなかった。


「あんまり強くなかったな……。御使いはこれより強いのかな?」


 正直見かけ倒しだった。レイジ君と比べるまでもない。

 塔に戻ろうと思い翼を羽ばたかせる。

 塔に戻るとエルキトスが倒されたためか全員回復しているみたいだった。


「翼がある……」

「て……天使だ」

「なんて美しいんだ」


 レンバーの後ろにいる自由戦士達が私の翼を見て驚いている。

 翼に見惚れている人もいるみたいだ。翼を褒められるのは悪い気がしない。

 もっと見せてあげようかとも思うが翼を背中から消す。

 熾天使の翼は部屋の中などの閉じられた空間では使い勝手悪く邪魔になってしまう。ディハルトとの戦いの時にこの翼を使わなかったのはそのためだ。


「みんな無事みたいね。さあ行くわよ」


 私達はいくつかの階段を上り以前に来たストリゲスの居住区域までくる。

 この部分は円形に空洞になっており見上げると空が見える。


「何もいないみたいだぜ……」


 レンジャーのストルがこのあたりを調べ報告する。

 私も調べてみるが何かがいる気配を感じない。


「シロネ様。あの吸血鬼が嘘を言ったのではないでしょうか?」


 レンバーが言う。


「うーん嘘を言っているようには見えなかったんだけどな……」


 あのエルなんとかが嘘を言っているようには思えなかった。

 しかし、この居住区域より上の区画はなく。調べようがない。


「何かがいたような跡があるが、少なくとも今はいないと思うぜ」


 ストルの言葉に何人かが頷く。

 もしかして、隠れているのだろうか。


「こんな時にナオちゃんがいてくれたならもっと詳しく情報を得られたのに……」


 しかし、これ以上はどうにもならない。


「シロネ様、これ以上ここにいても仕方ありません。ロクスに戻りましょう」


 レンバーの言うとおり、確かにこれ以上はどうしようもない。


「しかたがないか……」


 私は呟いた。私達は戻る事にした。




◆暗黒騎士クロキ


「すまないグロリアス」


 塔の近くの森の中にグロリアスはいた。

 近づくとグロリアスが鼻をよせてくる。


「ごめんな、不自由な思いをさせて……」


 鼻を撫でるとグロリアスは嬉しそうに鳴く。


「それにしてもすごいな」


 グロリアスの右の角につけた首飾りを見る。

 森の木々は太く大きいがグロリアスの巨体を隠すには不十分だった。

 それでも気付かれなかったのはグロリアスの角につけている首飾りの御蔭だろう。

 レーナが置いて行った首飾りを魔法で調べると一定範囲の探知力を阻害する能力がある事がわかった。

 その力は強力で普通なら気付くであろうグロリアスに誰も気付かなかった。


「使いどころを間違えなければすごい武器になるな」


 この首飾りの欠点は使用者の探知力をも阻害する点にある。

 下手に使えば自分自身が致命的なミスをする可能性があった。

 なぜレーナはこの首飾りを置いていったのだろうか?

 調べる必要があるかもしれない。


ちょっと長くなり過ぎたかも……。とりあえずダンジョン回です。

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