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暗黒騎士物語(なろう版)  作者: 根崎タケル
第2章 聖竜王の角
24/195

夜の宴

◆黒髪の賢者チユキ


「ストリゲスの生き残りねえ……」


 私はできる限り冷たい瞳でレイジを見る。

 だが、そんな私の視線に気付いていないのかレイジは涼しい顔だ。

 それに例え気付いても、他人の悪感情を気にする男ではない。

 わかってはいるが少しは気にして欲しい。


「ああ、昨日の晩にゾンビとなったゴブリンやオークが城壁の外に群れとなって現れたらしい。どうもストリゲスに生き残りがいたのではないだろうかってね?」


 ストリゲスは梟と人間の女性を掛け合わせた姿をした魔物だ。

 私達はその魔物を1ヶ月前に殲滅したはずだった。

 その時にナオが彼女達が根城にしていた塔で感知能力を駆使して生き残りがいないか探したがストリゲスらしき影はなかったはずだ。

 今、あの塔には彼女達が生み出した迎撃用のアンデッド等の魔物が残っているだけだ。

 そのアンデッドが外に出てきたのだろうか?

 だがアンデッドは主人の命令が無ければ動けないはずだ。

 だとすれば考えられるのは、あの時にあの塔にいなかったストリゲスがいたか。もしくはなんらかの方法でナオの探索を避けたかである。

 もっともそれはストリゲスが犯人だった場合だ。

 レイジの話し方から、まだストリゲスが犯人かどうかわかっていないようだった。


「それでどうするの?」


 私は冷たく聞く。


「ああ、この国のためにも、ストリゲスを倒してやろうぜ」


 レイジは笑って言う。


「ふーん、この国のためね……。それをアルミナ姫に頼まれたってわけね」


 レイジは頷く。

 私達が入浴している間、レイジはアルミナと一緒に祭りを見物していたらしい。

 そこで、ゾンビ事件の解決をお願いされたそうだ。

 だが、私はそれは嘘だと思っている。ただ祭りを見物するだけなら行方を眩ませる必要はない。

 もっとやましい事をしている。そしてそれは大体想像がつく。それが私がレイジを冷たい目で見る理由だ。


「あのねえ、そうは言ってもストリゲスはどこにいるの?」

「さあね」


 レイジは両手を上げてわからないというジェスチャーをする。


「あのねえ……」


 私は眉間を一指し指で押さえる。

 前回の事件はストリゲスが犯人である事が間違いなく、ストリゲスの住処もわかっていた。

 でも今回はストリゲスが犯人かどうかもわからない。


「もう……誰が犯人かもわからないのじゃ倒しようがないじゃない」


 この男は姫様の頼みだから安請け合いをしたのだ、呆れる。

 まず、犯人捜しからしなければならないのだろうか?ディハルトの件もある安請け合いはしないで欲しい。


「まあ、なんとかなるさ」


 レイジ能天気に笑う。

 私はジト目でレイジを見る。


「レイジ君。あなたが引き受けたんだから、もう少し真剣になったら」

「俺はいつだって真剣だよ」


 レイジはしれっという。

 正直真剣には見えない。


「それにしては犯人を捜そうって気が感じられないのだけど」


 しかし、レイジは意外そうな顔をした。


「捜す?」


 レイジのその言葉に私が驚く。


「捜さないの?」


 レイジは頷く。


「どうして?」


 私が聞くとレイジが答える。


「そのうち向こうから出て来るさ。ゾンビなんかを作っているみたいだしな。その時に動けば良い」


 レイジの言葉になるほどと思った。


「確かにそれもそうね……」


 確かにそれも1つの手だ。

 ゾンビを生み出した者がストリゲスかどうかはわからないが、何らかの事件を起こしてくるのは間違いないだろう。

 いちいち犯人を捜すより案外手っ取り早いかもしれない。

 ある意味レイジらしい答えだ。

 レイジは捜索とか情報集めとかそういった地味な作業を嫌う。

 レイジには事前に事件を止めるという考えがない、動く時はいつも事件が起こった後だ。

 そのかわり動く時はすごく速い。

 問題は事件が起こった後で動くので被害が出るかもしれない点だろう。

 事件を未然に防がず、起こってから解決する。ある意味勇者らしい行動と言えるかもしれない。何しろその方が人々から賞賛されるのだから。


「そういう事。それまでゆっくりしていようぜ」


 レイジの言葉にそれもそうかと思う。


「ねえ、チユキさん。ストリゲスならあの塔にいるんじゃ……」


 私とレイジの話しにシロネが割り込んでくる。

 シロネが言うあの塔とはストリゲスが住んでいた塔の事だろう。


「まあそこにいるかもしれないけど……」

「じゃあそこを調べれば良いのでは」

「一応調べた方が良いのは確かだけどね」


 私はちょっと言葉を濁していう。


「そいつは面倒だな……。あの塔ごとをぶっ壊して良いってんなら話は別だが」


 レイジが過激な事を言う。レイジの力ならあの塔を壊す事など造作もないが、少し大雑把すぎる。


「レイジ君。そんな事したら、その塔にストリゲスがいたかどうかわからなくなるわ。やるならちゃんと調べないと」


 塔ごと破壊したら事件が解決したのかわからなくなってしまう。

 やるならちゃんと調べた方が良いだろう。ただ、あの塔は内部が迷宮になっているみたいだったので調べるのは面倒そうであった。それに、ゾンビ等が徘徊しているため、あまり近づきたい所ではない。

 実はそれが塔を調べるのを躊躇った理由だ。それに調べた結果、事件とは無関係という事もあり得る。正直面倒だ。

 レイジではないが、前回に行った時に壊しておけば良かったかもしれない。


「明日、私が塔に行って来ようか?」


 シロネが提案する。


「シロネさんが? 調べるならナオさんの方が良いと思うわ」


 シロネは探索が得意な方ではない。調べるならナオか私が行った方が良いだろう。

 ナオの方を見るとナオが行きたくないとばかりに首を振る。私もあまり行きたくない。


「ちょっと様子を見に行くだけ。それにちょっと剣を振りたい気分なんだ……」


 どうやらそれが本音のようだ。ディハルトに敗れた上に元の世界に帰れなくなって、シロネは落ち込んでいた。ストレスを発散したいのだろう。


「なるほどね、そういう事なら良いんじゃないかな」


 レイジも頷いている。


「それなら、お願いするねシロネさん。たぶん危険はないと思うけど、危ないと思ったらすぐに逃げるのよ」


 たぶん危険はないと思うが念のためだ。


「そうだぜ、もし危険があったら俺を呼べよシロネ。すぐに助けに行くからな」


 レイジが言う。

 レイジは私が使える普通の転移魔法は使えないが、追跡移動ストーキングムーブの魔法が使える。この魔法は対象となる人物の所に転移する魔法だ。

 普通の転移魔法と違う所は転移できるのは使用者只一人である所と、対象となった者が抵抗したら転移が上手くできなくなる所だ。

 レイジはこの魔法で私達の危機をたびたび救ってきた。

 例外はディハルトがレーナ神殿を襲撃した時ぐらいだ。あの時どうも神殿内に転移系統の魔法を阻害する次元封鎖の魔法が使われていたようで、シロネを助けには行けなかった。

 だが次元封鎖さえされてなければレイジはどんなに距離が離れていてもシロネを助けに行けるだろう。


「うん、わかってる」


 私とレイジの言葉にシロネが笑って答える。


「ねー話しは終わったー」


 見るとリノがふてくされている。


「そうっすよ折角のご飯が冷めてしまうっすよ!!」


 目の前の食卓にはすでに食事が用意されていた。サホコとロクス王国の料理人が用意した物だ。


「そうね、折角サホコさんが作ってくれた料理が冷めてしまうわね。食事にしましょう」


 結局、レイジが何をしていたのか有耶無耶になってしまったが、私達は大体いつもこんな感じだ。

 皆で乾杯をする。

 それは、ちょっとした宴会の始まりだった。





◆ロクス王国の騎士レンバー


「どうしたんですアルミナ?」


 アルミナと通りを歩いていると、さっきから様子がおかしい。


「いえ……。ちょっと疲れてしまって」


 アルミナは勇者様の相手をしていて、つい先程解放された。疲れるのも無理はないだろう。

 その勇者様は自分の妻達と今頃宴会中だろう。

 当然そこにアルミナは参加していない。アルミナが自分で言っている事だが、あんなに綺麗な人達の中に入れる訳がないとの事だ。

 考えてみれば当然だ、あれほど綺麗な人達に囲まれているのにわざわざアルミナに手を出す訳が無い。ガリオスは心配しすぎなのだ。


「おお、レンバーじゃねえか」


 歩いているとガリオス夫妻が歩いている。


「先輩に姉さん。祭りの見物ですか?」

「まあな。ちょっと家にはいられなくてな……」

「ええ、そうね。ちょっとねえ」


 ガリオスと姉のペネロアは笑いながら答える。

 何かあったのだろうか?


「そうだレンバー、あの件はどうなったんだ?」


 あの件とは神殿騎士に対する傷害事件だ。

 今日の夕方、西通りの路地裏で神殿騎士5名が倒れているのが発見された。

 第一発見者は脛に傷を持つ人間だったらしく、衛兵を避けガリオスに連絡を取った。

 駆けつけたガリオスとその仲間は彼らを近くにある薬師オルアの所に運んだ後、それぞれ、私と勇者の館へと連絡したのだった。

 ガリオスはその後どうなったのかを聞きたいのだろう。


「どうもこうもしませんよ。勇者様の館へ運んでそれで終わりです」

「そうか。しかし、誰がやったのか気になるな」


 ガリオスは手で顎をさすり考え込む。

 それは私も気になる。

 聖レナリア共和国の神殿騎士団は精強だ。

 1人1人が武術のかなりの使い手である事はもちろん魔法をも使える者も少なくないそうだ。それが神殿騎士であり、自分やガリオスが束になっても神殿騎士1人にも敵わないだろう。

 そんな神殿騎士達を倒した者がこの国にいるのだ。気になるのは当然である。


「確かに気になりますね……。でも考えても仕方がないでしょう」

「確かにな」


 ガリオスは笑う。

 神殿騎士さえ敵わないような相手に自分達に何ができるのだろう?

 それに、神殿騎士を襲った者はあまり危険ではないようだ。

 なぜなら、倒された神殿騎士は皆軽傷であり、命に別状はなく。物も盗まれていなかった。

 ただ、痛めつけられただけだ。

 まだ、命を狙ってくるそこらのゴブリンの方が危険な存在である。

 気にはなるが私で対処できる事をやろうと思う。

 自分とガリオス達はそこで別れる。


「行きましょうアルミナ」

「はい、レンバー」


 私達は歩き出す。

 それにしても犯人は誰だろう。彼らを勇者の館に連れて行った時に対応したメイドの反応が気にかかった。

 確かカヤ様と呼ばれていたメイドだ。綺麗な顔だがまったく表情を変えない女性で、仮面でも被っているのではないかと疑った事がある。

 そのカヤと呼ばれたメイドは神殿騎士の傷を見た時に表情を少しだが変えたのだ。

 もしかすると犯人に心当たりがあるのかもしれないなと思った。

 自分とアルミナは祭りの夜を歩く。

 だけど、考えても仕方のない事だ。今はアルミナとの時間を楽しもう。




◆黒髪の賢者チユキ


「レイジ君。またお酒を飲んで!!」


 自分は何度目になるだろうか同じ注意を繰り返す。

 レイジはお酒を飲み始めている。しかも度数が高そうな蒸留酒だ。


「良いじゃないかチユキ。おっ!!これうまいな新作か?」

「うん、レイ君好みの味にしてみたんだ」


 レイジとサホコが楽しそうに会話している。

 私の言う事など聞く耳もたないようだ。

 サホコの料理は確かに美味しい。

 この世界にあるイワシに似た魚から作る魚醤を使えば和風の料理を作る事も可能だ。

 サホコはその魚醤を使ってレイジの好物を作ったようだ。


「まあまあチユキさん。レイジ君ならいくら飲んでも大丈夫だよ」


 シロネが私を慰めてくれる。

 しかし、シロネの息からちょっとだけアルコールの香りがする。

 あなたも飲んでるのかい。と突っ込みをいれたくなる。

 だが、シロネの言うとおりレイジはいくら飲んでも潰れる事がない。それは元の世界でも同じ事だ。はっきり言ってレイジの身体能力は異常だ。

 だけど、この世界に来てからさらに異常になったと思う。うわばみというレベルではない。

 実は、この世界に来てから私達の体はおかしくなっている。

 お酒をいくら飲んでも急性アルコール中毒になる事はないようだ。今のレイジの飲み方を元の世界で行えばレイジでもただではすまないと思う。

 お酒の事だけではなく食べ物の事でもそうだ。私達はこの世界ではいくら食べても太らなくなった。

 傷を負ってもすぐに治ってしまう。肌のつやも良く、その他の体の調子も良い。

 この世界に来てから私達はより綺麗になった。

 そういった事情も考えると少し私は気にしすぎなのかもしれない。

 未成年がお酒を飲んではいけないのは、体が発育しきっていないのにお酒を飲む事が害になるからだ。逆に言えば体に何も影響がないなら飲んでも良いかもしれない。

 それに日本以外の国によっては私達の年齢でも飲酒が可能な国もある。

 もちろん例外もあるだろう。例えばキョウカだが元の世界と同じようにアルコールは駄目らしい。同じ兄妹でも真逆である。ようするに体の変化に個人差があるみたいなのだ。

 それぞれの能力が違うように私達も体の変化もまた微妙に違うようだ。

 そのキョウカだが何かを気にしてるようだ。

 そこで私は違和感に気付く。良く見るとカヤがいない。

 カヤは絶対に私達と食事をしない。主人と使用人の関係だからだろうか?皆が食べ終わった後1人で食事を取っているようだ。

 食事をしないだけで基本的にキョウカの側にいる。だけど今は席を外している。どこにいるのだろうか?


「ねえキョウカさん。カヤさんは?」


 私はキョウカに尋ねてみる。


「カヤは今、運び込まれた神殿騎士の所にいますわ」

「ああ、あれね」


 ルクルスが気にしていた神殿騎士が今日の夕方に倒れている所を発見された。

 どうやら何者かにやられたらしい。倒された神殿騎士は口も体も動かせない状態でつい先ほどこの館に運び込まれたばかりだ。

 カヤはその神殿騎士達から何者にやられたのかを聞きに行ったみたいだ。

 話をしてるとカヤが戻ってくる。


「カヤさん、どうだった?何かわかった?」


 私が聞くとカヤがこちらを見る。

 カヤは相変わらず能面のように表情がなく感情が読みにくい。


「はい、どうやら件の人物がこの国いるようです」


 その言葉に皆がカヤを見る。


「どういう事なの、カヤ?」


 私はカヤに詳細を求める。


「傷の具合から神殿騎士達を倒した人物は相当の使い手のようです。私でも敵わないかもしれません」


 私達はカヤの話を聞く。

 神殿騎士達は死なない程度に体をひねられており、その絶妙な力加減はカヤでも難しいらしい。体は痛めつけられているが大した傷はなく、神殿騎士の1人が回復魔法をかけてすぐに動けるようになったらしい。

 そして、カヤはそれだけの事をできる人物なら件の人物ではないかと判断したようだ。


「えーっとカヤさんその件の人物ってのは、キョウカさんのおっぱいを触った人だよね……」


 リノが聞くとカヤは頷く。


「おそらくそうではないかと」


 皆が驚き顔を見合わせる。


「普通に考えて私達に付いて来たんだよね……」


 シロネが頭を抱える。私も頭が痛い。


「どうやらコスプレ作戦は有効だったみたいっすね……」

「ええそうね……。まさか本当にあの作戦に効果があるなんて……」


 私も驚きだった。

 どうやらこの世界に変態が召喚されていたみたいだ。しかも、カヤに匹敵するほどの腕前の人物がだ。


「いかがなさいますか?」


 カヤが尋ねる。


「もちろん……、明日は捜索よ……」


 私が言うと皆が不満そうな声を出す。私だってそんな変態に会いたくない。

 でも元の世界に帰る手段を見つけておく必要はあるはずだ。


「あの……私は明日塔に行くから探さなくても良いんだよね」


 シロネが恐る恐る言う。

 正直逃げてるようにしか見えないが、変質者の捜索は重要度は高いが緊急度は低い。

 それに探索に優れていないシロネが抜けても結果は変わらないように思う。


「まあ仕方ないわね……」


 私は了承する。


「あっズルい!!」

「シロネさんズルいっす! それなら自分も塔に行くっす!!」


 リノとナオが不満の声を出す。


「もう逃げないの。明日で見つかるとは限らないわ。明後日からはシロネも探索に加わってもらうのだからそんなに変わらないでしょ」


 聖レナリア共和国であれだけ探しても見つからなかったのだ。長期戦を覚悟した方が良いだろう。

 それに今回は件の変質者が私達の近くにいる事が確認されたのだ。かなりの収穫である。


「安心しなリノにナオ。そいつが現れたら俺が倒してやるからよ」


 レイジが不敵に笑う。


「レイジさん……」

「レイジ先輩……」


 その言葉にリノとナオが感激する。

 正直変質者を倒すのが目的ではないのだが、わかっているのだろうか?


「ところでカヤさん。その神殿騎士達は変質者の顔を見てないの?」


 私はカヤに尋ねる。

 いつも変わらないカヤの顔が少し曇ったような気がした。


「それがどうも精神を操作する魔法を受けているようなのです」


 カヤの言葉に少し驚く。

 精神操作の魔法と言えばや忘却の魔法や記憶を操作する魔法や支配の魔法等がある。

 難易度は忘却の魔法が一番簡単で支配の魔法が一番難しい。


「記憶を消されているって事?」


 カヤが頷く。

 変質者は神殿騎士を倒した後で、自分の記憶を消したのだろうか?


「どうやらそのようなのです。倒された神殿騎士達は動けるようになったのですが、どうやら今日の1日何をしていたのか覚えていないようなのです」


 カヤが困ったように言う。


「うーん、多分忘却の魔法だと思うけど……」


 記憶を操作する魔法や支配の魔法でも同じ症状になる事があるのでなんとも言えない。

 記憶を操作する魔法や支配の魔法は比較的簡単な忘却の魔法に比べて非常に難しく。相手よりも自分の魔力がかなり高くないとうまくかからず相手の記憶が混乱する事がある。

 そのため記憶がないだけだとどの魔法かわからない。

 だけど忘却の魔法なら神殿騎士は相手の顔を見ている可能性が高い。

 その情報を何とか引き出せないだろうか。


「リノさんに頼らないといけないかも……」


 私はリノを見る。

 リノは精神潜入マインドダイブの魔法が使え、相手の精神に侵入することができる。

 そして、精神の奥深くに侵入すれば当の本人が忘れている事も知る事ができる。


「えーやだあ……」


 しかし、リノは嫌そうな顔をする。

 倒された神殿騎士達があまり好みでなかったようだ。これではあまり意味がない。

 精神潜入の魔法はそれを使う術者の精神に強く左右される。気に入らない人物の精神だとあまり奥深くに入れないらしく、特にリノはその傾向が強い。

 なんでも精神潜入は精神的ではあるが……まあ性的な事に近いらしく。好みの相手じゃない限りしたくないそうだ。

 これでは変質者の記憶を覗き見る事はできないだろう。


「リノさんが嫌がるなら仕方がないか。それじゃあ地道に足を使いましょう」


 一番効果的な方法だが、本人が嫌がるなら仕方がない。

 それにしても変質者は一体何者なのだろう?どうして隠れているのだろうか?

 そして、今どこで何をしているのだろう。

 わからないまま夜は更けていった。




◆暗黒騎士クロキ


 夜が終わり朝が来る。

 目を覚ますと体が動かない。

 それは何者かが上に乗っているからだ。

 上に乗っているのは美しく輝く髪を持った女神だ。

 そして昨晩の事を思い出し赤くなる。

 その女神が目を覚ます。


「ふえクロキ……えっなんで」


 正直顔をまともに見れない。

 昨晩の自分もレーナも普通ではなかったように思う。


「えーっと……ああーっ!!!!」


 朝になりレーナは正気に戻ったようだ。顔を赤くし頭を抱えて呻いている。


「あのレーナ……。ぶぎゃ!?」


 話しかけようとすると殴られる。

 突然の事に対処できない。

 殴られた顔さすりながらレーナを見ると荒い息を吐きながら。こちらを睨みつけている。

 レーナが自分の顔を突然引き寄せる。


「わっ、私の目を見なさいクロキっ!!」

「あっはいいっ!!!!」


 頭が混乱している自分は言われるがままにレーナの目を見る。

 輝く美しい瞳がそこにあった。

 その瞳が光る。その光は自分の目から体に入り全身を駆け巡っていくようだった。

 何らかの魔法をかけようとしているのがわかったが抵抗できなかった。


「ぜぜぜぜーーーんぶーーーわーすーれーなーさーいっ!!!!!」


 レーナが絶叫する。

 忘却の魔法……?

 何の魔法を使おうとしているのかに気付いたが受け入れてしまう。

 意識が遠くなる。


「ふええええええええええん!!!!」


 レーナが泣きながら何かをしているのが聞こえていたが、もはやどうする事もできなかった。




◆黒髪の賢者チユキ


 朝一番珍客を迎える。

 目の前には翼の生えた人がいる。

 いわゆる天使という奴だ。

 天使族が地上に降りてくるのは珍しいらしく。正に珍客だ。

 まだ眠っている所をこの天使に起こされたのだ。


「朝早くすまないなチユキ」


 その天使の口振りはあまりすまなそうに感じない。

 天使族は美しい翼を持つ綺麗な種族だが、高慢な所があり人間を見下す所があるため、あまり好きになれなかったりする。


「まあ別に良いわ……。どうしたのニーア?」


 本当はまだ眠いが緊急の用なので仕方なく相手をする。

 ニーアはレーナに仕える戦乙女隊の隊長を務める女性の天使だ。過去に一度会った事がある。

 ニーアに会うのはその時以来だ。

 そのニーアにまだ寝ている所を突然に起こされたのだ。一体何なのだろう?

 この館の周りで人が騒ぐ声が聞こえる。天使が降りて来た事で騒ぎになっているようだ。

 少しで良いから隠れて行動する能力を持って欲しい。騒がしくてたまらない。


「こちらにはレーナ様が来ていないようだな?」


 ニーアが詰問するように聞いてくる。


「えっレーナがなんで?」


 レーナにはこの国に来てからまだ一度も会っていない。


「実は昨晩からレーナ様と連絡が取れないのだ。こちらに来ているはずなのだが……」


 ニーアが困ったように言う。


「レーナが?こちらには来てないわよ」


 私が答えるとニーアの顔が青くなる。


「まさかレーナ様の身に何かが……」


 ニーアは震えている。かなりひどい事を想像しているようだ。

 子供じゃないんだから一晩ぐらいで考え過ぎなのでは。


「早急に捜さなくては!!!」

「あの……ニーア……」


 私は慌てているニーアを落ち着かせようとする。

 その時、外から強い魔力を感じた。

 窓の外から見ると曇っている空に光る物体があった。


「あれはレーナ様!!」


 ニーアが叫ぶ。

 そのまま光る物体はエリオスの方へと飛んでいく。


「わっ!!我々はレーナ様を追う!!チユキっ!!後の事は頼んだぞっ!!!」


 そう言い残してニーアは窓から外に出ると光る物体を追いかけていく。

 部屋に残されたのは私1人。


「何なの一体?」




◆暗黒騎士クロキ


 夜が終わり朝が来る。

 目を覚ますと顔が痛い。

 それに、なんでこんな所で寝てるんだ。

 自分は床の上で寝ていた。

 昨晩何をしていたのか思い出そうとする。


「あれ!!昨晩何してたっけ?」


 昨晩何をしたのか思い出せない。


「そうだ。レーナに突然キスされて……。えーっと、そこから先……何も覚えていない……」


 レーナの綺麗な顔が迫ってくるのを思い出す。

 それを思い出し、身悶える。

 キスする時に眠り薬でも飲まされたのだろうか?

 そして、自分が眠っている間に何かをしようとしたのだろうか?

 そのレーナがいなくなっている。

 レーナの顔が見えない事にすごい消失感がある。

 なんか良くわからないけどレーナの顔が頭から消えない。

 本当に何があったんだろう?


「わからーーーーーん!!!なにがあったーーん!!!」


 頭を抱えて床の上を転げまわる。

 転げ回っていると体に何か当たる。


「うん?」


 良く見ると床に小瓶が転がっている。


「なんだこれ?」


 小瓶は空であり中には何も入っていない。床の上に全て零れたようだ。

 レーナが落した物だろう。

 中に入っていたのは魔法の薬みたいだが、全て零れてしまって何の薬かわからない。

 レーナが何をしようとしていたのか手がかりになるかもしれない。

 他に何か無いか探してみる。

 部屋を見る。ちょっと、いやかなり汚れている。


「やばい……。何があったのかわからないけど……掃除しないと……」


 ベッドのシーツを魔法で掃除しようとシーツを触ると2つの何かが落ちる。

 1つは何かの布きれだ。

 布きれをみる。面積が少ない。

 それはある物を連想させた。


「これは持っておこう……。うんそうしよう」


 なぜか自分の本能がそういっている。

 もう1つは何かの金属だ。

 拾ってみる。

 中心に黒い宝石がついた装飾品だ。


「これは首飾り?」


15禁設定にした方が良いのか迷います。

実は後の展開にちょっと絡ませるつもりなのですよ。


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