ボティスの毒
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この章まではなろうで書きますが、次章からは移転先で書きます。
良かったら、そちらに来て下さると嬉しいです。
◆剣の乙女シロネ
「馬鹿な! 動きが良くなっているだと!?」
空中で鮮血の姫ザファラーダが叫ぶ。
最初はザファラーダが優勢だったが、私と白銀の髪のクーナの連携が上手くなると形勢は逆転した。
私達は空を飛び、森の上で戦っている最中だ。
「おのれ!」
ザファラーダから放たれた、紅い光が私に向かって飛んでくる。
しかし、その紅閃はクーナが作った魔法の盾によって防がれる。
その間に距離を詰めた私はザファラーダに斬りかかる。
当然爪で受け止められる。
ザファラーダの力は私よりも強く、動きは私よりも速い。
だから、正面から戦い続ければ、やがて負けるだろう。
しかし、そうはならない。
光る蝶で転移した白銀の髪の子クーナがザファラーダの背後を奇襲する。
もちろん、それで倒せる相手ではない。
ザファラーダの紅い蝙蝠の羽がクーナの鎌を防ぐ、だけどそこで隙が生まれる。
「シロネ!」
「わかってる! 天翼斬魔剣!」
クーナの呼び声に応えると、私は剣を肩に担ぐように持ち、体を回転させて必殺の一撃を放つ。
もちろん、爪で防がれるがそのまま振りぬく!
剣は爪を斬り裂き、ザファラーダの体を斬る。
「ぐっううう!」
たまらずザファラーダは私達から離れる。
倒す事は出来なかったが、それでもかなりのダメージを与えられた。
彼女は紅い霧を体から噴き出し、私達が近寄れないようにする。
あの霧はやっかいだ。
周囲の生物の命を吸い取り、ザファラーダを回復させる効果があるのだ。
だから、私とクーナは紅い霧を魔法で吹き飛ばしながら攻撃する。
しかし、吹き飛ばしながらなので攻撃が遅れる。
その間にザファラーダは回復する。
戦いはこんな感じだ。
私達の方が優勢だけど、ザファラーダを倒す事ができない。
その間に森はめちゃくちゃになっている。
早く追い出したいけど、どうすれば良いのだろうか?
「シロネ。どうやらこちらの勝ちのようだぞ」
私が悩んでいるとクーナがそんな事を言う。
クーナはある方向を見ている。
その視線の先には巨大な何かがいる。
それは黄金の角を持つ、巨大な鹿だ。
「あれは森の鹿神! 出て来たのか!?」
ザファラーダが叫ぶ。
森の鹿神ケリュヌンノスはケリュネイアの鹿の神だ。
大人しく、普段は出てくる事はないらしい。
季節を司り、その角が落ちると冬が始まり、角が再び生え始めると春になると言われている。
その大人しい鹿神が表に出てくるという事はよほどザファラーダに怒っているらしい。
それに良く見ると森の中で木が動いている。
どうやら緑人達も加勢に来てくれたようだ。
ケリュヌンノスの角から沢山の光の矢が飛び、ザファラーダを襲う。
ザファラーダはそれを防ぐ事が出来ず、ダメージを受ける。
どうやら鹿神はかなり強いみたいだ。
緑人達が緑色に輝くと風が吹き、紅い霧を吹き飛ばす。
これで、ザファラーダは回復が難しくなった。
「お前の負けだザファラーダ。本来中立だった者達が出て来たぞ」
クーナが叫ぶ。
戦場を見渡すとオーク達は倒れ、ゴブリン達も逃げている。
天上でも蛇の王子達も撤退を始めているようだ。
これではザファラーダも戦い続けるのは無理だろう。
「ふふん、まだよ。ボティスの毒は残っている! お前達は凶獣の復活を指を咥えてみていなさい!」
そう言うとザファラーダは凄い速さで私達から離れていく。
逃げたようだ。
「ボティスの毒って何の事だろう?」
私は首を傾げる。
「それは、おそらくあれの事だぞ、シロネ」
クーナが鎌を向けた方を見る。
森のある部分が光るドームみたいなので覆われている。
あの部分はドワーフの里があったはずだ。
「何よあれ!?」
「わからん。しかし、奴らの狙いは終わっていないようだぞ」
クーナの言葉に頷く。
とりあえず、チユキさん達と合流しよう。
◆黒髪の賢者チユキ
ボティスが去り。
私達はカータホフの砦で合流する。
地上のオークもゴブリンも逃げてしまった。
天上では蛇の王子も撤退している。
つまり、私達の勝ちだ。
そのはずなのだが……。
「天使さん達でも、あの結界は破れないみたいだねチユキさん」
私はリノに頷く。
魔法の映像で天使達あ結界を破ろうしているが、上手くいっていない姿が映っている。
「そうね、リノさん。蛇の王子達の狙いはドワーフ里。エルフの都を襲ったのも、全てあの結界を張るための布石だったのね」
「確かにそうっすけど、あれ意味なくないっすか? 確かに救援は難しいっすけど、敵さんだって攻め込むだけの兵を送る事は出来ないっすよ」
ナオの言葉にその場にいる者全員が顔を見合わせる。
確かにナオの言う通りだ。
蛇の王子がドワーフの里を落とせる程の兵を向かわせた様子はない。
狼達がいるだけだ。
ドワーフ達は多くの兵力をエルフの都に救援として送ったが、それでもまだかなりの数の戦力を残していると聞いている。
狼だけなら、守りきれるはずだ。
そんな時だった。
突然森が揺らいだような気がする。
「何? 今の?」
戻って来たシロネが驚いて立ち上がる。
「強力な波動!? 凶獣が目覚めようとしているのか!?」
側にいたニーアも驚いた顔をしている。
波動と共に、狼の咆哮が聞こえたような気がした。
結界で遮られているにもかかわらずだ。
「こ、これは不味いんじゃないっすか?」
映像を見ていたナオが声を出す。
「うろたえるな、お前達。心配する事はないぞ。確かに蛇共は何かをしていたのだろう。しかし、奴らも誤算だったはずだ。あの中には最強の壁がある事をな」
白銀の髪の子クーナが結界を見て笑う。
彼女は心配をしていないみたいだ。
どういう事だろう?
私は結界を見るのだった。
◆暗黒騎士クロキ
突然結界が出来て、自分達は閉じ込められてしまった。
そして、狼人の群れがドワーフの里へと向かって来ているようだ。
自分とドワーフ達は会議室に集まって相談する事にする。
ちなみにレーナとエルフはいない。
特に話し合うつもりはないようだ。今頃、コウキの剣の自主練習に付き合っているのだろう。
「大親父様。奴らは何を考えているのでしょう? あの程度の数でここを落とすつもりなのでしょうか?」
ドワーフ王アーベロンが首を傾げてヘイボスに聞く。
戦いが始まりドワーフの神ヘイボスはこの地へと降りて来た。
かつてない敵の攻勢に心配になったのだろう。
「わからぬ。暗黒騎士クロキよ。お主はどう思う」
ヘイボスに問われ自分は首を傾げる。
アーベロンの言う通り、狼の数は多いがここを落とせる程ではない。
ゴーレムの防衛部隊はかなりの数が残っている。
簡単に守れるだろう。
しかし、何かが引っかかる。
これだけ、大掛かりな結界を張っておきながら、ただ救援させないようにしているだけとは思えない。
「わかりません。何かを仕掛けてくるのでしょうが……」
自分がそう言うとドワーフ達が考え込む。
何かしてくるのは間違いない。
何時でも暗黒騎士の姿になる用意は出来ている。
しかし、何をしてくるかわからないのは不気味であった。
「まあ、とりあえず。狼達を撃退しなければなりませんな。ん? どうした?」
アーベロンが撃退の指示を出そうとした時だった。
部屋の外が騒がしくなる。
「どうした!? 何があった!?」
ヘイボスが叫ぶと、一名のドワーフが入って来る。
「大変だ! ゴーレム達が突然いう事を聞かなくなった! 暴走している!」
「何だと!?」
その場にいた者達が立ち上がると様子を見るために部屋を出て行く。
魔法の映像で、ゴーレム達が暴れまくっている様子が映し出される。
「いかん! これでは狼達を抑えられん! 急いでゴーレム達を元に戻すんだ! それから、地下のゴーレム達を調べるんだ!」
アーベロンが部屋を出て行く。
その顔色が悪い。
狼を迎え撃つゴーレムが使えなくなり、むしろ敵になったのだ。
慌てるのも無理はない。
「何が起こっているのだ!? まさか、奴らの中にゴーレムを操れる者がいるのか?」
多くのドワーフが去り、ヘイボスは首を傾げる。
するとまた誰かが入って来る。
「ゴーレムを暴走させていた者を捕えたぞ!」
入って来た複数のドワーフ達の中に縛られた者がいる。
奇妙なドワーフだった。
ハサミになった義手をつけて、痩せている。
鼻は大きく、眼が血走っている。
「お久しぶりでございます。大親父様」
縛られたドワーフがヘイボスに頭を下げる。
「お主はリベザル!? なぜ、お主が!?」
「申し訳ございません……。ですが、このリベザルはもうどうしようもないのですよ。この腕になり、何も作れなくなりました。大好きだった物づくり、それが出来ないのなら全て壊れてしまえとね……」
そう言ってリベザルは笑う。
その目は狂気に染まっている。
「そのような理由で、ゴーレムを暴走させたのか?」
「はい。それ以外にも、このリベザルが過去に作ったゴーレムを地下へと潜り込ませました。凶獣を解き放つために。キシャシャシャシャシャ」
リベザルは気持ち悪い笑い声を出す。
「お主は腕の良いゴーレム職人だった。優秀なノーム使いであった……」
ヘイボスが悲しそうな顔をする。
「ああ大親父様。このリベザルは貴方が眩しかった。貴方を超える職人になりたかった……」
リベザルは自身の義手を見る。
どうにもならない気持ちを持て余しているようであった。
「連れていけ、牢獄に入れるのだ」
ヘイボスが言うとドワーフ達がリベザルを連れて行く。
「ヘイボス殿。あの者は蛇に騙されているのです。そうでなければ、蛇達と一緒にいる理由がわかりません」
リベザルの事はアーベロンから聞いている。
腕の良い職人であったが、その腕を無くして気が変になってしまった。
そこを蛇の者達に目を付けられた。
「慰めてくれるのか暗黒騎士。すまんな。しかし、今はそれどころではないぞ。この状況を何とかせねばなるまい」
ヘイボスが溜息を吐く。
狼達が攻めてきて、防御の要のゴーレムが暴走してしまった。
そして、凶獣の封印が解かれようとしている。
「ゴーレム達が暴走しています! どうなっているの!?」
また、誰かが入って来る。
今度はレーナだ。
足元にはコウキがいて、後ろにはエルフ達もいる。
「レーナか? まずい事になっている。凶獣の封印が解けそうなのだよ」
「なっ!?」
ヘイボスが言うとレーナが驚いた顔をする。
「おそらく全ての封印を解くには時間がかかるはずだ。これから、地下に入り、再び新たな封印の鎖で繋がなければいかん。このヘイボスが行かねばなるまい」
「大親父様! 危険です! あそこは危険な場所です!」
ヘイボスがそう言うとドワーフ達が止める。
ヘイボスが入ろうとする場所は破壊の女神ナルゴルの地下宮殿だ。
そこには弱い者が入る事が出来ない。
だから、ドワーフ達は直接入る事はせず、命なきゴーレムに地下の管理をさせているのだ。
それに、生きる者を見ると襲う魔物も残っていると聞く。
かなり、危険な場所である。
止めるのも無理はなかった。
「だが、今ここで凶獣を止めねばならぬ」
ヘイボスはリザベルがした事に責任を感じているのかもしれない。
それに、凶獣が噂通り危険な相手なら、ここで止めねばならないだろう。
「ヘイボス殿。自分も行きます。このために自分はいるのですから」
自分はヘイボスを見る。
「すまんな……。本来ならお主はこの争いには無縁のはずなのに……」
「いえ、無縁ではありません。自分もこの世界を壊したくないのです」
自分は首を振って答える。
すでに自分もこの世界の住人のつもりだ。
無縁だとは思っていない。
この世界を壊そうとする者達とは戦うつもりである。
「わかった共に行こう。お主がいてくれて良かった」
そう言った後、ヘイボスはレーナを見る。
「わかっているわ、ヘイボス。貴方達がいない間、ゴーレムと狼は私が押えます。行ってきなさい」
視線に気付いたレーナが頷く。
結界のために救援は来ない。
強力なゴーレムを押えるにはレーナの力が必要だ。
自分とヘイボスは会議室を出て地下へと向かう事にする。
そして、コウキの横を通り過ぎようとしたときだった。
「クロキ先生。また剣を教えて下さいますか?」
コウキが自分を見上げて言う。
「ああ、また機会があったらね。その間、自分が教えた事を反復して練習するんだよ」
床に膝を付き、コウキの頭を撫でる。
コウキが強い剣士になれるのかどうかはわからない。
だけど、強くなろうとするコウキに全力で応えたつもりだ。
次に会う時はもっと強くなっていて欲しいと思う。
自分はコウキに笑うと立ち上がり、凶獣が待つ地下へと向かうのだった。
更新です。
天翼斬魔剣は3章でシロネが使った技。覚えている方はいるだろうか?
また、いよいよクロキが動きます。そして、ザファラーダとボティスは退場。
ケルヌンノスは生と死を司る鹿の角を持った神。
角の生え代わりを見た人々がそこに神秘性を感じたようです。
それにしてもケルヌンノスは〇の〇け姫のシ〇ガミ様みたいですよね……。
だから、巨大化するのです。特に意味はないけど、似た神様を登場させました。
再登場はしないと思う。
最後に来週休みます。ごめんなさい。
移転作業があまりにも進まないのです……。