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暗黒騎士物語(なろう版)  作者: 根崎タケル
第2章 聖竜王の角
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ナルゴルの空の下で

◆暗黒騎士ランフェルド


「最近静かになりましたね、ランフェルド様」


 後続の飛竜ワイバーンに乗る暗黒騎士が気楽な声で言う。


「気を抜くな。聖騎士共が壊滅したと言う情報が間違っている可能性もある、このまま巡回を続けるぞ」


 そう言うと飛竜をナルゴルの境界である山の上で飛ばす。

 後ろを見ると後続の騎士達の中で遅れる者が見える。


「やはり、再建は難しいか……」


 誰に言うわけでもなく呟く。

 この前の勇者達との戦いにより暗黒騎士達の半数が死に、そして生き残った者も何らかの怪我を負っていた。

 そもそも、魔族の中でも暗黒騎士に足る能力を持つ者は少なく、その中でも飛竜に乗る事ができる者は更に少ない。

 熟練の騎士達はほとんど勇者にやられてしまった。今、残っているのは飛竜に乗る事ができるだけましの者達ばかりだ。

 現在、まともに動ける暗黒騎士は20騎に満たない。

 早急に自分に課せられた仕事は暗黒騎士団の再建である。

 最近エリオスの聖騎士達による領空侵犯が頻繁に起こっていた。

 そのことを考えると怒りで頭が割れそうになる。

 もっとも彼らの主張によれば、世界中の全ての空はエリオスの神々の物(でorなので)、ナルゴルとはいえその空を飛ぶ我らが領空侵犯している事になるらしい。

 勿論、そんな主張を認めるつもりはない。

 彼らは勇者が来る前からたびたびナルゴルの領空間近まで接近する事はあったが、侵入してくる事はなかった。

 そして彼らはこちらの戦力が減少すると、毎日のように侵入してきた。

 彼らは馬鹿にするようにナルゴルの空を蹂躙したのである。

 領空外に出るように勧告したりもしたが、彼らが聞く事はなく、戦力に乏しい我々は黙って見ているしかなかった。

 だが、そんな彼らの領空侵犯も2日前を最後に終わった。

 その理由を知るとざまぁ見ろと思う反面、その原因となった者に怖れを抱かずにはいられない。

 そんな理由により巡回は何事もなく終わる。


「よし、砦へ帰還するぞ!!!」


 号令の元、飛竜達が旋回する。

 ナルゴルと人間世界を分けるアケロン山脈の屋根を飛んでいく。

 飛んでいくと峰の中に砦が見えてくる。

 この砦こそエリオスからナルゴルを守るための砦である。

 砦の中央の広場に着地する。


「お帰りなさいませランフェルド様」


 砦の中から出てきた部下に飛竜をまかせ。

 砦の中に設けられた自分の屋敷へと歩いていく。


「父上!」

「父様!」


 砦の中から2人の子どもが飛び出してくる。


「レファルドにレーリ! なぜここに?」


 2人の子供は駆け寄ってくる。

 レファルドは120歳になる男の子でレーリは90歳になる女の子だ。そして2人とも自分の子供だ。

 本来なら魔王城の近くにある。魔族の里にいるはずだ。


「はい、母様が父様のお手伝いをしなさいと」

「はい、将来、騎士なるためにも父上の手伝いをしなさいと母上が」


 レーリとレファルドが答える。


「そうか……」


 砦の人員が足りてないのは事実である。なにしろ先の戦いで本来なら非戦闘員である者も戦いに駆り出された。今は猫の手でも借りたい所だ。

 しかし、まだ2人共子供でありこのまま砦に置いてもいいか迷う。


「父上お願いです。僕を、いえ私をこの砦に置いてください」

「レーリもお願いします」


 2人の言葉に迷う。

 戦闘に出さないまでも砦の雑事は山ほどあった。子供でもできる仕事があるかもしれない。

 特にレファルドにはそろそろ騎士としての修行をさせても良いかもしれない。

 そんな事を考えている時だった。

 竜舎の飛竜達が突然騒ぎ出す。


「何だ! どうした!」


 竜舎にいる部下に問う。


「わかりません! 急に飛竜達が騒ぎ始めまして!!」


 部下達は飛竜を静めるのに必死だ。


「ランフェルド様! 大変です!!」


 物見の塔の上にいる騎士の1人が慌てた声をあげる。


「何事だ!!」

「竜です! 竜がこちらにっ!」


 騎士の指す方角の空を見る。

 空の向こうの方には鳥のようなもの飛んでいる。

 まだ遠くにいるが飛び方が飛竜ではない、間違いなく竜であった。


「ランフェルド様いかがいたしましょう!!」


 見ると砦の部下達が弓や弩を持って竜に対処しようとしている。


「武器を持つんじゃない! 竜に向けるな!」


 自分の命令に部下達は疑問の声を出す。


「何故ですかランフェルド様!」

「いいから何もするな! 全員を集めろ!」


 あの竜が想像通りなら敵対行動をとってはならない。

 砦にいる者達が全員集まってくる。

 竜は猛烈な速さで砦に到達してしまう。

 竜は近くまでくると咆哮する。


「うわあああ!!」

「父様っ!!」

「父上!!」


 部下の数名が恐怖で腰をぬかし、レファルドとレーリが自分の足にしがみつく。

 真なる竜の咆哮は恐怖の魔法を含んでいる。抵抗力がない者は恐怖で体が動かなくなるだろう。

 竜を近くで見るとあらためて大きいと思う。

 自分達の乗る飛竜よりも何倍も大きい体を持つ竜は、降り立つと中央の広場を全て占拠してしまう。

 かつて魔竜と呼ばれたアケロン山脈に住む黒い竜である。この竜の気性が激しくて、うかつに近づこうものならば、その吐く炎の息の餌食になってしまう。

 だが、それは昨日までの話だ。

 竜の背中を見る、そこには1人の暗黒騎士が座っていた。

 暗黒騎士ディハルト。

 先日に聖騎士団を滅ぼしたナルゴルの英雄である。

 ディハルトが砦へと降り立つ。


「総員敬礼!」


 まだ、恐怖で腰を抜かしている者もいるが無視して号令をかける。

 胸に手をあて頭を下げる。


「ランフェルド卿。あまりそういう事は……」


 そう言いながらディハルトは兜を外す。

 黒い髪に色白の肌、細面の顔。

 正直に言って優男である、とても強そうには見えない。どうみても角のないひ弱な人間だった。

 だが、見た目に騙されてはいけない。弱そうな男に見えるがその正体は化け物である。

 あの恐ろしい勇者を倒し、聖騎士団を壊滅させた。

 そして、ディハルトが着ている鎧を見る。ディハルトが着る鎧は黒き魔神の鎧だ。全ての暗黒騎士が着る鎧はこの鎧の低位の模造品である。

 そのあまりの魔力の強さにこの男が現れるまで誰も着る事ができなかった鎧を、この男は平然と着ている。

 魔族ができなかった事を角なしの者ができる。その事を悔しく思う。

 そのディハルトは今では陛下に次ぐ存在だ。

 人間は下等な生き物だ。その人間の下につかねばならない事に魔族の反感がある。

 当然この砦にも反感を持つ者がいる。


「いえ閣下は英雄ですので!!」


 その言葉にディハルトは困った顔をする。

 ディハルトは自身を上位者と扱われる事を良く思っていない。

 しかし、聖騎士団を壊滅させるような化け物相手に無礼な態度が取れるわけがない。


「閣下、今日はどのような御用で?」


 正直に言えば来てほしくないので少し強い言い方になる。


「忙しい所を申し訳ないランフェルド卿、グロリアスに乗る練習中に遠くからランフェルド卿を見つけたので……竜を紹介してくれたお礼と。あと、ついでに境界にある砦がどのような物か興味があったので見てみたいと思ったのでね」


 ディハルトは少しおどおどして言うと竜を見る。

 グロリアスと言う名はディハルトがいた世界で栄光を意味するらしい。いかにもディハルトに相応しい名だ。

 そしてその名を名付けられた竜はつい昨日まで魔竜と恐れられた竜だ。ディハルトはその竜を昨日自らの乗騎にしてしまった。

 昨日の事を思い出す。

 自分用の飛竜を欲しがるディハルトに自分はアケロン山脈に住む魔竜を紹介した。

 それは、意地の悪い思惑があっての事だ。

 魔族でも飛竜に乗るのは難しい、ましてや真なる竜に乗る事はより難しい。

 当然、ディハルトも乗る事など出来ないと思っていた。

 その時「閣下ならば竜でも乗りこなせるでしょう」と皮肉を言ったのである。

 結果、ディハルトはあっさりと竜を自分の物にしてしまった。

 今ではそんな皮肉を言ったのを、情けなく思う。

 そして、皮肉を言った自分に礼を言いに来たのである。情けなさで涙が出そうになる。


「礼などととんでもない……」


 そう言ってディハルトの顔を見る。

 何故かディハルトの目が下を向いている。

 その視点の先を見ると自分の足元にいるレファルドとレーリにつながる。


「子供?」


 ディハルトの疑問の声


「はい、この子供達は砦の手伝いをしてもらっているので……」


 しかし、その言葉は最後まで言う事ができなかった。

 なぜならディハルトから強烈な圧迫するような気が向けられたからである。


「子供を戦いの場に置くのか?」

 その声は先ほどのおどおどした声とはまったく違っていた。その声はとても冷たかった。その声を聞くと背筋が冷たくなった。


「申し訳ございません閣下。勇者達との戦いにより、この砦の兵は不足しておりまして……。申し訳ございません!!」


 2度も謝ってしまう。

 だが、そう言うとディハルトの気が穏やかになる。


「いや、申し訳ない、そちらの事情もわからず余計な事を……」

 ディハルトは申し訳なさそうに言う。

 ディハルトの気が穏やかになってほっとする。

 後ろの魔竜よりもこの男が恐ろしい。


「この2名は私の子供です、レファルドにレーリ。閣下に挨拶をしなさい」

「レ、レファルドと申します閣下!!」

「レ、レーリです、ディハルト様!!」


 レファルドとレーリは少し噛みながら挨拶をする。


「良いお子さんだね……」


 ディハルトは子供に礼をする。


「あと皆、忙しいだろうから持ち場に戻っても構わない」


 ディハルトは砦の中を歩きだす。


「閣下、砦を案内いたします」

「いや結構。少し見学したら帰ろうと思う……」


 そう言ってディハルトは1人で砦を見て歩いた。







◆暗黒騎士クロキ


 砦を一通り見学し、グロリアスで砦を後にする。


「迷惑だったみたいだな……」


 思わず呟く。


「そんな事ありやせんでヤンス。ディハルト様のおかげであいつらは助かっているんでヤンスよ!!」


 ナットが鎧の内側のポケットで憤慨の声を出す。

 砦の魔族は明らかに自分に対して迷惑そうであった。その事をナットは怒っているのである。

 ナットの言うとおり、自分は彼らを助けるために召喚されたはずだ。実際に勇者を倒し助かっているはずだ。

 勝手に呼んでおきながら、邪険にされるのは正直気分がいい物ではない。

 案外レイジのように勝手気ままにこの世界を楽しむ方が正解かもしれないなとも思う。

 聖レナリア共和国に行くまでの間に彼を悪く言う言葉は多かった。なんでも力にまかせて、かなり勝手な事をしてるようだった。

 だが自分はあんな風に生きられないなと思う。

 やはり他人の目を気にしてしまう。他人から敵意を向けられても平然とは生きられない。

 だから、先程の魔族に対しても礼儀を尽くしたつもりだった。

 しかし、歓迎される事はなく迷惑がられるだけだった。

 正直な所、この世界で自分を歓迎しているのはモデスとナットぐらいである。もっとも呼び出した張本人に邪険にされたら、さすがの自分も怒る。

 他にも歓迎してくれる者もいるかもしれないが、知らないので考えようがない。

 だが、迷惑がられるだけならともかく明らかに自分に殺気を向けている者もいた。

 正直やってられないなと思う。


「いいんだ、ありがとうナット」


 自分の為に怒ってくれた事に礼を言う。


「それよりも、どこを飛ぼうか」


 グロリアスの首をなでる。

 嫌な事があった時は別の何かをするに限る。前の世界では剣を振る事であり、今は竜で飛ぶ事だ。

 この名を付けたのは自分だ。自分には程遠い言葉だが、名前ぐらい良いだろうとも思う。

 竜を従えるのは難しいらしいが、意外と簡単に従ってくれた。

 アケロン山脈の屋根を飛ぶ。

 以前もあの砦から人の土地の近くまで飛竜に乗せてもらった時にこの山の上を飛んだ。誰かの背に乗るよりも、自分で飛ばす方が気持ちがよかった。

 ナルゴルの空は魔力を含んだ雲で覆われてあまり綺麗ではないが、それはそれで良い感覚だった。

 だが、今日はちょっと違う空を飛んでみたい。

 アケロン山脈の高い所を越えて人の住む土地の近くまで飛ばす。

 ナットによると今飛んでいるアケロン山脈はナルゴルと人間の世界を分ける境界線のようなものらしい。

 ただ、そのアケロン山脈のどこからどこまでが境界かは微妙のようだ。

 そのため、境界を巡ってエリオスの聖騎士達と紛争になるらしかった。

 そんなアケロン山脈はこの世界で最大のゴブリンの生息地であり、沢山のゴブリンの諸王国があるそうだ。

 そのため飛んでいるとゴブリンの姿を多数見かける。

 このゴブリンの諸王国だがナルゴル側の王国はだいたいモデスに従っているらしいが、人間側の王国はモデスに従っていないらしく、敵対行動を取られる可能性もあった。

 さすがに竜に攻撃する事はないらしいが、念のため少し高めに飛んだ方がよいだろう。

 そう思っている時だった。

 山の中腹にありえない物が見えたのは。


「ナット! あれは人じゃないか?」


 アケロン山脈の中腹を人間らしき物がいた。

 そして、その人間らしき物達はゴブリン達に襲撃されていた。


「グロリアス!!」


 思わずグロリアスをその場に降ろす。

 ゴブリン達は竜の姿が見えると、叫び声を上げながら一目散に逃げていく。

 人間達を見る。そこには、20名程の男女がいた。ほとんどが女か子供で成人の男はいないようだった。

 人間達の顔は竜の咆哮のためか皆恐怖を浮かべていた。


「お前たちは何者だ!!?」


 グロリアスの背から自分は人間達に呼びかける。

 しかし、人間達は急に現れた竜に怯えるばかりで答えようとはしない。

 ほんの少しイライラする。

 何なんだろうこの人達は。ゴブリンの住処に入れば襲われるのはわかっている事だろうに。

 思わず助けてしまったが余計な事だったのかもしれない。先ほどの砦での出来事のように。

 しかし、助けてしまった以上は事情ぐらいは聞いておこうと思う。

 グロリアスの背中から降りると兜を脱ぐ。

 人間達からどよめく声がする。


「人間……?」

「暗黒騎士が……人間?」


 自分の顔を見て人間達の顔が少し和らいだようだった。


「我が名は暗黒騎士ディハルト! 誰か事情が話せる者はいないのか!!」


 ディハルトの名を聞き人間達がざわめく。

 しばらくたって、1人の女性が出てくる

 まだ、若い20歳前半くらいだろうか。よく見るとこの集団の中で一番身なりが良い。


「あの……わ、私は……アルゴア王国の王女リジェナである。ここにいる者は我が血族である……」


 女性はたどたどしく答える。


「……王女? なぜその王女がここに?」


 訳がわからなかった。王女とか王族は国の城にいるものではないのだろうか。

 なぜこんな所にいるのだろう?

 ナットに聞いてもアルゴア王国の事は知らないらしい。ナットが知っているのは人間の王国でも大きな国だけだ、だとすればアルゴア王国はそんなに大きな国ではないようだ。


「……我らは追放され、この地に来た」


 リジェナはおずおずだが、事情を話し出す。

 アルゴア王国はナルゴルに近い場所にある国らしい。

 そのアルゴア王国ではそこに住む有力ないくつかの氏族から王を選出するらしい。

 ここ何十年間はリジェナの氏族が王位を独占していた。しかしそれを、心良く思わない他の氏族が反乱を起こした。そしてリジェナの氏族は敗れ国を追放されたらしい。


「追放か……」


 追放というより処刑だなと思う。

 反乱を起こした人達はリジェナの氏族が他の土地で勢力を回復して復讐に来るのを恐れた。そのためリジェナ達をナルゴルの方へと追いやったらしい。当然、ゴブリンの餌になる事を見越しての事だ。かなり残酷な処刑方法だなと思う。

 リジェナは泣きながら言う、最初は100人程いた一族もゴブリンに襲われ残っているのはこれだけらしい。大人の男達はゴブリンから女子供を守るため最初に犠牲になったらしく、その中には彼女の父である王や王子であった兄もいたとの事だ。だから女子供しかここにいないのだ。


「お願いだ。助けて欲しい……」


 リジェナが自分に懇願する。リジェナの話ではアルゴア王国は近隣諸国と仲が悪く、その国の王族だったリジェナを迎えてくれる国はないとの事だ。そのためリジェナ達には行く所がない。リジェナ達は流民であった。

 空を見てため息をつく。

 簡単に済む話なら助けようと思ったがそうではない。ゴブリンの生息地から人間のいる方へ案内しても、流民ならどの国にも入れない。城壁の中に入れなければ他の魔物の餌食になるだけだろう。

 外街ができるような大きな国まで連れて行けば何とかなるかもしれないが、自分ひとりならともかくリジェナ達全員をそこまで連れて行く事はできない。


「お願いします……。なんでもしますから……!!」


 リジェナは懇願する。ここに来るまでよほど酷い目にあったのだろう。その声はかすれていた。

 他の者達も自分に頭を下げてくる。

 面倒な事になったと思った。

 どうしようか……。このまま見捨てて逃げてしまえば楽なはずだ。

 このままここに置いておけば、ゴブリン達が彼女達を始末してくれるだろう。

 そうなれば後腐れがないはずだ。

 ふと、そこでレイジならどうするだろうかと考える。

 リジェナを見る。充分に美人の部類に入るだろう。

 レイジなら絶対に助けるだろう。そして、どこかの誰かに彼女達の世話を押し付けるのだ。勇者の特権を使えば誰も逆らえないだろう、そうして自分はおいしい所だけ取っていくのだ。万が一、後に何かあったとしても、責任はもたないだろう。

 リジェナを見る。

 少し悩んでしまう。レイジなら悩まないだろうと思い、そして決める。








◆暗黒騎士クロキ


「閣下!!これはどういう事でしょうか!!」


 砦の中、ランフェルドが抗議の声を上げる。


「砦の構成員が不足しているらしいのでね、私の奴隷を連れてきたのだよ、ランフェルド卿」


 自分はリジェナ達を指して言う。

 結局リジェナ達を近くの防衛拠点まで連れて行き魔法で砦まで移動させた。

 もちろん、この砦で働かせるためである。

 奴隷と言ったのは自分の所有物なら彼らもリジェナ達を粗末には扱わないだろうという、淡い期待があっての事だ。


「子供もいるじゃないですか!!!」


 ランフェルドは暗に役に立たないだろうと言いたいようだ。


「おや、この砦は子供の手を借りなければならないほど人員が不足しているようだが?」


 お返しに、暗にランフェルドの子供達の事を言う。

 砦の魔族から不満の声がする。

 魔族は人間を下等な生き物だと見下している。その人間を砦で働かせろと言ってきたのだ、不満に思うのも当然だろう。

 だが自分はその声を無視する。


「礼には及ばないよランフェルド卿。私の奴隷達を好きに使ってくれ。皿洗いやら掃除からなんなりとね。ただ、せめて寝床と食事ぐらいは与えて欲しい」


 しれっと言う。

 さも砦の事を考えて言っているようだが、本当は彼女達の世話をランフェルド達に押し付けたのである。

 魔族達から勝手な事をするなと呟きが聞こえる。

 自分に聞こえないように言っているみたいだが、超人化している自分には聞くことができた。

 後で問題が起こるだろうなと思う。

 リジェナ達を見る。一応説明はしているが不安そうであった。

 もしかすると、自分の知らない所で魔族達に殺される可能性もあった。しかし、これ以上自分に何ができるかわからなかった。

 最後まで面倒を見る事は出来ない。ゴブリンの餌にならないだけましと思ってもらいたい。


「閣下!!」


 ランフェルドがなおも抗議の声を上げる。


「ランフェルド卿。悪いがそろそろ魔王城に戻らなければならない、話があるなら後日伺おう。それまで奴隷達を預けるランフェルド卿!!」


 これ以上、抗議の言葉を言わせないよう少しだけ強く言う。

 自分の態度にランフェルドは何も言えなくなったようだ。

「それでは魔王城に戻る」


 自分はそう言うと、不満気なランフェルドを無視してグロリアスに乗る。

 グロリアスが咆え、空へと舞いあがる。

 砦の者達が恐怖で悲鳴を上げる。

 グロリアスが飛ぶと、すぐに砦が小さくなる。

 空の上、グロリアスの背の上で考える。

 結局自分もレイジと同じだ、好き勝手に行動している。そして、無責任だ。

 魔族達からの敵意がより増えるだろう。

 この後、リジェナ達がどうなるかはよくわからない。

 だが助けなければ後悔していただろう。やってしまった事をこんな風にレイジは悩まないはずだ。

 だから、もうこの事は考えない。

 それよりも、明日から行う女神の創造の事を考えよう。その方が楽しいはずだ。

 グロリアスを飛ばす、しかし自分の心もナルゴルの空のように暗いような感じがした。



ちょっとだけ短編を書いていきたいと思います。割り込み投稿する予定です。

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