魔物の侵攻
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◆黒髪の賢者チユキ
私達はエルフの都アルセイディアから離れ、カータホフの砦にいる。
ここから出撃して敵を迎え撃つ予定である。
巨大な犬が私の目の前にいる。
妖精犬と呼ばれる獣である。
妖精犬はエルフの飼い犬だ。
ちなみに、この世界での犬も、狼を祖とする獣だ。
つまりはフェリオンの元眷属である。
そして、犬は狼の眷属から外れた獣か、その下位の獣の総称である。
有名なのはジプシールの犬人達だろう。
かつてはフェリオンを崇めていた者達が、その仕える者を変えた姿である。
「どうやら、蛇の者達が進軍を開始したようです、チユキ様」
私達に付けられたエルフが報告する。
彼女はエルフの女王が私達をサポートするために派遣されて来た。
妖精犬はその彼女に飼われていて、斥候に行っていたのだ。
蛇の王子達はアルフォスやニーアが相手をするので、エルフ達はオークやゴブリンを相手にする事になる。
そして、私達はエルフの手伝いをしつつ、ゴブリンの奴隷となった人達の救出をする。
エルフが魔法で妖精犬が見た景色を映し出す。
「あれはオークの猪騎兵隊ね。かなりの数だわ。こちらは大丈夫なのかしら? エルフの騎兵は猪騎兵の突撃に耐えられそうに思えないのだけど……」
エルフの騎兵と言えばオレイアドの一角獣の騎兵隊と妖精騎士のケリュネイア騎兵隊である。
どちらも弓騎兵であり、防御面では弱い。
また、エルフ達には防御に強い重装歩兵がいないはずだ。
「確かにこれほどの大軍とは……。ええと、どうしましょう」
「っておい!」
思わずつっこみを入れてしまう。
どうやら、これほどの大軍で来るとは思っていなかったみたいだ。
一緒にいるシロネにリノにナオもジト目で彼女を見る。
「大丈夫なはずだぞ、チマキ。だからこそ、エリオスの奴らはドワーフと協力するように言ったのだぞ」
白銀の魔女クーナは冷静に説明する。
彼女はエリオスの神々がドワーフと協力するように言った意味を理解しているみたいである。
何だかエリオスの神々の事を良く知っているみたいだ。
それなら、名前も覚えて欲しい。私の名前はチマキではなく、チユキだ!
何度言っても覚える気がないようにも見える。
その彼女の後ろではドワーフの戦士達と猫人の女性が控えている。
どうも、彼女がドワーフ達の代表っぽくなっている。
「まあ、ドワーフさん達のゴーレム部隊なら、止められっそうっすね」
ナオが窓から砦の外で待機しているゴーレムを見る。
ドワーフの重装歩兵もそうだが、彼らが連れて来た鉄ゴーレム部隊は固い。
「確かにね。だけど、問題はどこから侵攻してくるかよね」
鉄ゴーレムの足は遅く、数もそんなに多くはない。
猪騎兵の侵攻ルートに配置しないと意味がなかったりする。
情報だとオークとゴブリンはアルセイディアに来るらしい。
だったらアルセイディアで迎え撃てば良いと思うのだが、そんな事をすれば森が荒らされてしまう。
それにゴブリンとオークは何でも食べ、そして森には食べ物が豊富だ。
持久戦をしたらエルフの方が根をあげるだろう。
だから、最小限の被害で敵を倒したいみたいだ。
しかし、敵の軍勢は判明している数だけでもエルフとドワーフよりも多い。
兵の質ならこちらが上だが、苦戦は免れないだろう。
「ねえ、チユキさん。これなら私達が動いた方が早いんじゃない?」
シロネが言うとリノも頷く。
「そうだよ。リノ達が動いた方が早いよ」
「確かにそうね……。それが一番被害が少なくて確実だわ」
実は私もそれを考えていた。
私達なら、どれだけ数が多くてもオークやゴブリン程度は簡単に倒せる。
「確かにそれが確実だな。だが、お前達が動くと、奴らも対応してくるかもしれないぞ。せいぜい気を付けるんだな」
「あれ? 手伝ってくれるんじゃないの?」
「何を言っているシロネ。どうしょうもなくなったら手伝ってやるが、積極的に動くつもりはないぞ」
クーナが冷めた表情で言う。
シロネの名前は間違えないみたいだ。
そして、どこか面倒くさそうでもある。
美少年達を侍らせて座っている姿は、まるで女王である。
この美少年達は昨晩私達を接待してくれた子達だ。
その可愛らしいものは、しっかりと覚えている。
「あの、お飲み物はいかがですか?」
私の視線に気付いたのか、飲み物を勧めてくれる。
子ウサギみたいで可愛らしい。
何かに目覚めそうになる。
「ありがとう。でも、今はいいわ」
出来る限り優しく微笑むとお付きのエルフの方を見る。
ナオがジト目でこちらを見ているような気がする。
私の少年を見る気配を察したのかもしれない。
だけど、気にしない。
「ところで、敵の戦力は未だに判明していないみたいだけど、オークやゴブリン以外には何かいなかったの?」
「はい、ラミア等の蛇人に狼達を除けば他には少数のコボルト等がいるぐらいみたいです。ただ、チユキ様達の脅威になるとは思えません」
「なるほど……」
彼女の言うコボルトは山の中等の坑道に住む魔物だ。
顔は犬に似ているが、犬人とは関係がない。むしろ、蜥蜴に近い。
体格はゴブリンよりも小さく、弱く臆病である。
しかし、土に潜る能力ではドワーフよりも優れている上に物を変質させる能力を持つ。
そして、コボルトはドワーフ達の天敵だ。
彼らが住む場所に発生するコバルト鉱はドワーフ達でも冶金が難しく、ドワーフ達の活動を妨げるのである。
それに弱いと言っても数を揃えれば脅威である。
穴掘りが得意な彼らは工作兵として雇われたのかもしれない。
再びエルフが映し出した映像を見る。
そこにはコボルトがいるのがわかる。
その後、映像が乱れる。
どうやら妖精犬が気付かれて襲われたみたいだ。
その敵の姿が見える。
黒い毛並みの狼人だ。
狼人は手裏剣を投げて、妖精犬を追い払う。
それが、妖精犬が敵を見た最後の光景だ。
「どうやら影走りに見つかったようです。良く無事に戻ってくれました」
エルフが妖精犬を褒める。
影走りは狼人の中でも隠密に優れている。
敵の様子を見に行った妖精犬はその影走りから逃げて来たようだ。
そもそも、妖精犬は探索は得意でも隠密に優れていない。
良く逃げる事が出来たと感心する。
もしくは知られても良い情報だったのかもしれない。
「確かに良く戻ってくれたわ」
私も妖精犬を褒める。
だけど、疑問は解消されない。
「肝心な事がわかっていないぞ。奴らが何を企んでいるのかだ。そもそも、敵のわかっている戦力ではエルフはともかくエリオスの奴らを倒す事はできないはずだぞ。何かがあるに決まっているぞ」
クーナが憮然とした表情で言う。
それは私も疑問に思っていた。
オークやゴブリンの数は多いが、天上のエリオスの軍勢には勝てない。
エルフ達には勝っても、最後は天使達によって殲滅させられるだろう。
何を企んでいるのだろう?
私達は顔を見合わせ考えるのだった。
◆知恵と勝利の女神レーナ
再び練習場でクロキとコウキが剣の修行をしている。
私はそれを少し離れた所で見守る。
特に私が何かしたわけではないのにクロキとコウキは出会ってしまった。
これが血の絆なのだろう。
「うふふふ」
思わず笑いが漏れてしまう。
コウキはクロキのような最強の剣士になるだろう。
それが嬉しくてたまらない。
クロキはコウキと木剣を合わせ、手解きをする。
コウキは父親の教えを学び取ろうと必死だ。
クロキを父親だと知らないが、そんな事はどうでも良い。
例え実の親だと知らなくても、その血が応えるだろうから。
少し不安なのはコウキが父親を慕ってナルゴルに行ってしまわないかという事だ。
その時は全力で阻止する。
「あの~、レーナ様。何だかすごい顔になってますけど……」
クロキとコウキの様子を眺めていると、後ろのドライアドが震えながら私を見て言う。
確かテスとかいう名だったはずだ。
どうも過去にクロキと関係があるみたいだが、女神である私がドライアドごときに嫉妬しているみたいなので詳しくは聞いていない。
まあ、本当に気に入らなければ消せばよい。
それよりも、彼女達に言っておく事がある。
「こほん! 良いですかルウシエン。貴方達は秘密を知ってしまったわけですが、もちろんわかっていますね」
咳をして、エルフ達の代表であるルウシエンを見る。
ルウシエンには念のために制約の魔法をかけてある。
これで、秘密を外に漏らせないはずだ。
そして、これからは私の手足となって働いてもらう。
「はい! わかっておりおます! お義母様!」
「誰が! お義母様よ!」
私はルウシエンの頭をむんずと掴むと持ち上げる。
こいつ、何もわかってねーな!
このまま潰すぞ!
「痛い! 痛いです!」
ルウシエンがもがくが気にしない。
後ろのエルフ三匹がドン引きしている様子だ。
そろそろ離そう。
手が汚れるのも嫌だ。
「よ! い! で! す! かっ! ルウシエン! 貴方達はこれからコウキを補助するために人間の国で生活してもらいます! もちろんコウキに変な事をしたら許しません! わ! か! り! ま! し! た! かっ!」
私は頭を痛そうに押さえているルウシエンに強く言う。
「ふあい。わかりましたあ~」
ルウシエンが涙目になって言う。
さて、これで良いだろう。
私は再びクロキとコウキを見るのだった。
◆暗黒騎士クロキ
「何しているんだろう?」
自分はレーナの方を見る。
練習場の端でレーナがエルフ達に何かしているみたいだ。
この気配は怒りの気配だ。
知りたいような、知りたくないような。
「どうかしたのですか、クロキ先生?」
コウキが自分を見上げて言う。
その目はキラキラしている。
一刻も早く剣を習いたいみたいだ。
だけど、無理をしてはダメだ。
一朝一夕では強くなれない。
継続して練習する必要がある。
だから、自分が教えるのは基礎と心構えだ。
教えられる事は限られている。
後は場数とコウキ自身の力でやるしかない。
コウキと木剣を合わせる。
コウキは自分の子。
そうレーナに告げられた時は驚いた。
まだ、実感はわかない。それでもコウキと真摯に接していくつもりだ。
教えられる事は全て教えようと思っている。
問題は父親だと伝えて良いかどうかだ。
レーナと教育方針で違いが出る。何だか元の世界でもありそうな問題だなと思う。
「クロキ殿!」
コウキに剣を教えているとドワーフ王のアーベロンが突然練習場に入って来る。
練習をやめてアーベロンを見る。
「どうかしたのですか、アーベロン殿?」
「はい、蛇の者達が進軍を開始して来たようです」
その言葉を聞いてコウキと顔を見合わせる。
どうやら、練習を中断しないといけないようだ。
自分はここに来た目的を思い出すのだった。
メリークリスマス。イブですが、いかがお過ごしでしょうか?
自分は小説を書いていました(´;ω;`)ウゥゥ
相変わらずギリギリです。何とか今日の投稿に間に合いました。
一日で書けるのが4000字に落ちています。以前は5000字は書けていたような……。
そして、次の投稿ですが来年になります。
つまり、年末年始は休みます。
でもマグネットとノベルバへの移転作業は続けます。
進捗は来て下さると嬉しいです。