クロキとコウキ
「マグネット」と「ノベルバ」に移転の予定です。
既に投稿を開始していますので、できればそちらに来ていただけると嬉しいです。
「マグネット」「ノベルバ」で検索をお願いいたします。
◆暗黒騎士クロキ
翌日になり、自分はコウキと共に練習場に入る。
ここはドワーフの戦士達の修練の場だ。
しかし、今は自分達だけが使わせてもらっている。
これから約束通りコウキに剣を教えるのだ。
「よろしくお願いします。クロキ先生」
コウキが頭を下げる。
なかなか礼儀正しくて良い。
コウキの目が輝いている。
その目は剣を教えてもらえる事が嬉しいだけじゃないみたいだ。
「よろしく。コウキ。何だか良い事があったみたいだけど。どうしたの?」
「はい、昨夜母様に会えたのです。母様は自分をいつも見守っているそうなんです」
コウキが嬉しそうに言う。
しかし、コウキの母は死んでいるはずだ。
だから、きっと夢で会えたという事だろう。
その事を考えると少し涙が出てきそうになる。
当然それは夢だよとは伝える事は出来ない。
コウキはまだ幼い。
まだまだ母親が恋しいのだろう。
だからこそ真実を伝える事は出来なかった。
「そうか、それじゃ剣の修行を始めようか。きっと頑張っている所を母親が見ていると思うから」
「はい! 先生! 母様に頑張っている所を見せたいと思います」
そう言うわけで剣の練習をする事にする。
自分はちらりと横を見る。
少し離れた所でこちらをじっと見守っている女性がいる。
光り輝く美貌を持つ女神レーナである。
実はこの練習場には、自分とコウキ以外にも女神レーナとここに来ているエルフ達4名がいる。
なぜ、ここにレーナがいるのかわからない。
アーベロンも驚いていたが、どうもお忍びらしい。
そのため、アーベロンを除きドワーフ達はレーナが来ている事を知らない。
自分はレーナの存在を感じ取れるので、ここに来ている事はわかった。
そのレーナが何故か目をキラキラさせている。
自分とコウキの練習が気になるのだろうか?
しかし、こちらも気になる事がある。
それはレーナの足元で簀巻きにされて涙をながしているエルフの姫の事だ。
その後ろには恐怖の表情を浮かべているテス達3名のエルフ。
何があったのだろう?
すごく気になるが、知りたいような。
聞くのが怖いので、ほっといてコウキと練習する事にする。
レーナ達も見ているだけで、何かするわけではないようだ。放っておこう。
「さて、コウキ。まずは剣を振ってごらん」
「はい!」
コウキは元気よく返事をすると木剣を振るう。
木剣はドワーフが用意してくれたものだ。
普通ドワーフの武器はヘイボス神の象徴であるハンマーと、ドワーフの戦神スプリグの象徴である斧だ。
そのため剣を使うドワーフはほぼいない。
そのドワーフ達はコウキのためにわざわざ木剣を作ってくれた。
ただの木の枝でも良かったのだが、技巧の民であるドワーフが作るだけあって木剣でも丁寧な造りだ。
コウキの身長に合わせて振りやすそうだ。
「やっぱり、力が入りすぎているね、普段は力を抜いて握り、斬るその瞬間だけ力を入れるんだ」
自分は片膝を床に付き、コウキの手に触る。
コウキは剣をガチガチに握りしめている。
それを解きほぐす。
「はい! 先生!」
コウキが教えに従って剣を振るう。
動きがぎこちない。
だけど、後は反復練習して体で覚えるしかない。
他にも体の動きや、相手の動きを良く見る事を教える。
これは自分の師匠と呼べる人から教わった事だ。
それをコウキに教える。もちろん自分の数少ない経験を元にした事も教える。
もちろん、全てをすぐに吸収する事は出来ないだろう。
しかし、コウキは必死に自分の教えた事を吸収しようとしている。
きっと良い剣士になるだろう。
事実コウキの剣の筋は良いと思う。
それに何よりもやる気だ。
継続して練習する根気があるかどうかはわからない。
だけど、そればかりは自分もどうにもならない。
出来る事は誠実に教える事だけだ。
子どもだからと言って、雑な対応はしない。年齢なんか関係ない。
男と男の約束であり、コウキの目は真剣だ。
自分もそれに応える。
「そろそろ休もうか、コウキ」
教えを初めてから1時間。
自分は休憩するように言う。
「いえ! 先生! まだやれます!」
コウキはやる気まんまんだ。
だけど、なれない事をしているのに加えて、コウキは必要以上に頑張っている。
見た目にも疲れているのがわかる。
「駄目だよコウキ。すぐに強くはなるのは難しいんだ。何度も何度も練習しなければならない。だから、適度に休息をしないと駄目だよ」
無理をして体を壊したら意味がない。
そもそも、やる気がある子に厳しくする必要もない。
だから、無理やり休ませる。
自分はコウキと共に休憩用の長椅子に座る。
椅子に座るとコウキの頭が前後に揺らぐ。
予想以上に疲れているみたいだ。
「コウキ。横になりなさい。最初なのだから無理をしたら駄目だ。それよりも、長く続ける事が大事なんだ。休みながらでもね」
「はい、先生」
コウキは椅子に横になると眠り出す。
自分はコウキの寝顔を見る。
年はいくつぐらいだろうか?
しかし、まだ幼いのはわかる。1時間でも飽きずに練習をしている事はすごい事だ。
よく頑張ったとコウキの頭を撫でる。
「中々、良い先生ね、クロキ」
休憩に入ったのを見たレーナがこちらに来る。
「レーナ? どうしてここに?」
「あら、私がここにいるのは当然よ」
「?」
訳のわからない事を言う。
レーナはコウキを真っすぐ見ている。
そして、自分の隣に座るとコウキの頭を太ももに乗せる。
その行為を見ておやっと、と思う。
レーナは子どもに優しくするタイプとは思えなかったからだ。
どういう事だろう?
しかし、レーナには頼みたい事がある。
「レーナ。この子の事なのですが、エルフ達に攫われてここまで来たようなのです。元の国に戻してくれませんか?」
コウキは母親との約束のために、元の国に戻りたがっている。
エルフ達の上位者であるレーナなら元に戻すのも簡単だろう。
「もちろん、そのつもりよ。そもそもエルドにコウキを送ったのは私だもの」
「?」
また、訳のわからない事を言う。
何だかレーナはコウキの事を昔から知っているみたいだ。
「それにしても、血の絆って強いわね。本当はコウキにシロネの剣を学ばせるつもりだったのよ、それがまさか貴方から直接教わるなんて……。ルウシエンにもっときついお仕置きをしようと思ったけど、軽くで済ませてあげたわ」
レーナはコウキを愛おしそうに抱きしめながら、エルフ達を見る。
最初にレーナがいた場所からこちらを見ている。
その顔は先程と同じように恐怖で引きつっている。
正直レーナに何をされたのだろうか?
「母様……」
夢の中で母親に抱きしめられているのだろうか?
コウキが寝言を言う。
「本当に可愛い子。きっと、立派な騎士になってくれるわ」
「?」
何だろう?
さっきから、すごい違和感。
レーナはコウキの事を知っているみたいだ。
ただの人の子ではないのかもしれない。
そういえば、狼人を突き飛ばしていた。
良く考えたら、いくら不意をついたとはいえ、普通の人間なら難しいのではないだろうか?
「あの~、レーナ。コウキの事ですが……」
自分は前から知っているのか聞こうする。
聞こうとするとレーナはこちらを見てニコリと笑う。
すごく嬉しそうな笑みだ。
「もちろん、コウキは私と貴方の子よ」
その言葉を聞いた時だった。思考が一瞬だけ停止する。
「えっ?」
間抜けな声を出して、レーナを見るしかなかった。
前回よりも、1000字も短い。一話5000字前後を基準にしたいのに良くない傾向です。
本当はもう1エピソードを入れる予定でした。しかし、無理に入れても、ただでさえ怪しい文章がさらに駄目になるのは目に見えていますので、投稿です。
もう少し加筆した方がよいかも……。
短すぎて、ごめんなさいm(_ _;)m
移転作業が思った以上に時間を取られていたりします。